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作品名:Dragon Sword Saga 第3巻『砂漠の謎』 作者:かがみ透

第2回   T.『ライバル!?』〜 2 〜
「あんたが女剣士だなんて、わらっちゃうわね。そんなフザケた格好で剣士が勤まって? 剣の腕よりも、せいぜいその下品なお色気を磨くくらいしかしなんでしょうけど。ほーっほほほ! 」
 マリスは、スーと同じポーズで高笑いを返していた。
(売られたケンカを、しっかり買ってる! )
 ケイン、クレアは、ますます固まった。
「バカにして! 私はね、剣の腕だって、結構立つんだからね! それに、色気だって、私ならではの立派な武器じゃないの! 磨いてどこが悪いのよ? あんたみたいな小娘には、逆立ちしたって無理でしょうけどね!」
 多少の色仕掛け技を使えるマリスを知るケインとしては、その挑発に簡単にマリスが乗るとは思わなかったのだが――
「ムネがデカすぎる女は、頭が悪いって相場なのよ! 」
「なんですって!? この男女(おとこおんな)! 」
「露出狂! 」
 二人の女戦士たちは、妙なことでケンカになっていた。
 それを、傍観していたケインたちの間に、いつの間にか、マリリンが割り込んできていた。
「このおにいさんも、このおにいさんも、ス・テ・キ♥」
 マリリンは、身体をくねらせながら、ケインとカイルに、ぽ〜っとした視線を送ってくる。彼ら二人は、二、三歩後退る。
「ねえねえ、スーちゃん、この人とこの人と、どっちがいいと思う? 」
 マリリンは、ケインとカイルの腕の間に、勝手にぶら下がっている。
「うるさいわね! 今取り込み中――! 」
 振り向きざまに、スーは、はっとしたように口を噤(つぐ)んだ。
 彼女の視線は、ケインたちを通り越し、その後ろにいたヴァルドリューズに、釘付けになっていた。
 スーは、うっとりした目でヴァルドリューズを見つめ、思わず溜め息と言葉を漏らした。
「……ス・テ・キ♥」
(ひえっ! )
 マリスたち一行は、ヴァルドリューズ以外、皆、固まってしまっていた。
 その場では、マリリンのきゃっきゃ笑う、楽しそうな声だけが聞こえる。
「なんて知的で美しい男……! 見たところ、どうやら魔道士のようね」
 スーが、ケインたちを押しのけてヴァルドリューズに近付き、片手を腰に当て、その豊満な胸を突き出すようにしながら、流し目を送る。
 ところが、ヴァルドリューズの方は、眉一つ動かさず、いつもの冷たい視線を注いでいるのみであった。
「だめーっ! ヴァルのおにいちゃんは、ミュミュのなんだからーっ! 」
 ミュミュが、ヴァルドリューズとスーの間に、パッと現れた。
 ピンク色の髪に、ピンク色の瞳をつり上げている。
「ひゃっ! 何よ、これ!? よ、妖精!? 」スーが、驚いて、後退った。
「きゃあっ! コワイー! 」マリリンも、ケインとカイルの腕に夢中でしがみつく。
「コワイだとー!? 何で妖精をこわがるのさーっ!? かわいがれー! 」
 ミュミュが両手をぶんぶん振り回し、二人の間を飛び回る。
「いやあ〜! 来ないでぇー! 」
「シッシッ! あっちへお行き! 」
「なんだとー! 」
 マリリンは泣き叫び、スーはミュミュを追い払おうとするので、ミュミュは一層怒って飛び回った。
「ちょっと、あなたたち! 」
 それまで圧倒されていたクレアが我に返る。
「出会い頭に人は殴るわ、ケンカはするわ、馴れ馴れしく甘えるわ――非常識も甚だしいわ! まずは、助けてもらったお礼を言うのが、人としての礼儀ではなくて!? 」
「そうだ、そうだ! クレア、もっと言ってやれーっ! 」
 ミュミュがヴァルドリューズの盾になっているつもりなのか、彼の前からは離れずに、クレアにエールを送る。
「『親しき仲にも礼儀あり』と言うでしょう? ましてや、初対面なら当然のことです! いいですか? そもそも、挨拶というものは、昔々――」
 クレアが語り始めたばかりであったが、
「ふぇ〜ん、おにいさん、助けて〜」
 ケインに、マリリンが泣きながら抱きつく。ケインがよく見ると、嘘泣きのようであったが……。
「ちょっと、あんた、いちいち泣かないっ! 」
 マリスが、マリリンの首根っこを引っ掴んだ。
「うきゃーっ! スーちゃん、助けてー! 」
 マリリンが手足をバタバタさせて、余計に泣き声を立てた。
「乱暴はよしなさいよ! 男女っ!」
「露出狂! 」
 事態は、また振り出しに戻っていた。
 わけのわからない女どものケンカに、ケイン、クレアがうんざりしてきた時、
「あのさあ、お取り込み中、悪いんだけど……」
 カイルが初めて口を開いた。
「きみたち、誰? 」

「私は見ての通り、美人女剣士のスー」
 長身の彼女は、手を腰に当て、長い黒髪を、色っぽい仕草でかきあげて言った。
「はぁ〜い、美少女魔道士のマリリンでぇ〜す」
 金髪巻き毛少女は、手をグーにして、ブリブリ腰を振りながら、にっこり笑う。
「実はぁ、マリリンたちぃ、町の人に頼まれてぇ、魔物退治してるんですぅ。
 だけどぉ、道に迷っちゃってぇ、しょうがないから眠ってたんですぅ」
 マリリンは、両手を組み合わせる。
 道に迷うというと、ケインは、ある人物を思い出さずにはいられないのだが。
「ね、眠ってた!? どう見ても、あれは、行き倒れだったぞ!? 」
 驚いているケインに向かって、マリリンはきゃっと笑った。
「よく言うわよ。あんたたち、寝ている間に、私に変なことしようとしたくせに! 」
 スーが、じろっとケインを睨む。
(だから、ぶたれたのか。ひどい誤解だ……)
 ケインの左頬には、スーの手の跡が、まだうっすらと残っていた。
「よく寝たからぁ、何だかぁ、体力も復活しちゃったみたいですぅ。うふっ、ラッキー♥」
 マリリンが、小さい手でピースをしてみせる。
「どうでもいいけどね、あんた、そのたるい喋り方、なんとかなんないの? 」
 マリスに睨まれて、マリリンは、「きゃっ! 」と、しゃがみこんで大袈裟に耳を塞いだ。それには余計にマリスが何か言いた気であったが。
「その、魔物退治を頼んだ人たちの町っていうのは? 」
「トアフ・シティーよ」
 ケインの質問には、スーが威圧的態度で答えた。
「結構大きい都市だよな。だけど、ここまで遠いんじゃないか? ウマでも数日かかるだろ? なんで、こんなところまで? 」
「トアフ・シティーでは、魔物を倒した者には、その魔物の死体と交換に賞金が配られるのよ。もうあの周辺には魔物がいなくなったから、賞金稼ぎたちは、皆遠出をするようになったの」
「早い話がぁ、マリリンたちも賞金稼ぎなのでぇ、魔物の出る噂のところを捜しているうちにぃ、こんな辺鄙(へんぴ)なところにまで来ちゃったんですぅ」
 ケインたちは、顔を見合わせた。
「おい、どう思う? あいつら、魔物を倒せるほどの腕があるってことか? 」
 ケインは、隣にいたカイルに、小声で言った。
「さあな、魔物を斬るには、それ専用の剣がいるだろ? っていうと、あのおねえちゃんの持ってるロング・サーベルは、対魔物用ってことか」
「あっちのマリリンって子の方も、魔道士だって言ってたけど、あんなんで本当に魔法が使えるのかな? 」
「魔法に関しては、俺も全然わかんねえからな。ただ、俺が思うに、あんな風にひけらかしているのよりは、ほのかに漂う色気の方に、ずっと魅力を感じるってことだな」
 ケインは、カイルを不審な目で見つめる。
「……おい、何の話だ? 」
「だから、あの色っぽいけど高飛車なおねーちゃんよりは、もうちょっと露出は抑えててもいいから、やさしくて、しとやかなオトナの女の方がいいってことだよ。あの『コドモ』は問題外だな」
「誰が、お前の好みの話なんかしてるんだ? 」
 カイルは、目をパチクリさせた。
「俺は、自分のわかることだけ答えたんだよ」
(……こいつに聞いた俺がいけなかったらしい)
 カイルとケインのやり取りには気付かないクレアは、笑顔になっていた。
「あなたたちの目的が、魔物退治ということなら、私たちと一緒だわ! お互いに情報交換したり、協力して、頑張りましょうよ! 」
「なんですって? あなたたちも魔物退治をしてるっていうの? 」
 スーは、嫌そうな顔で、じろじろと一行を見回した。
「人数が多かったら、それだけ賞金の分け前が減るじゃないの。冗談じゃないわ! 」
 ぷいっと、スーは横を向いた。
「それなら安心して。私たちは、賞金のためにやってるのではないんだから」
 クレアは、にこやかに答えた。
「じゃあ、何のためにやってるっていうのよ? 」
 訝(いぶか)しそうに、スーがクレアを見る。
「もちろん、正義のためです! 」
 クレアは、きっぱりと言い切っていた。クレアのきらめく瞳を、スーとマリリンは、怪訝そうな顔で見る。
「世の中、金を越えるものがあると思って? 正義なんて金にもならなきゃ食えもしないじゃない。そんなもののために魔物退治をしてるなんて、おかしいんじゃないの? 」
 スーの言葉に、クレアはショックを受け、その場に硬直して動かなくなった。
「そうだよ、世の中、お金よぉ! お金を貯めて、素敵なドレスやアクセサリーをいっぱい買うの! そうして、お金持ちの王子様に見初められて、マリリン、結婚してお姫様になるのぉ〜! 」
 マリリンは、きゃっきゃはしゃいでいた。
 ケインもカイルも、青ざめた顔で、引いていた。
「……てことで、私たちは、あんたたちとは手を組まないわ。今回は見逃してあげるけど、今度会った時は、商売敵として容赦しないから、覚悟なさいよ」
 スーは、威圧的に、一行を見下した。
「そぉ〜よぉ〜、マリリンたちぃ、すっごく強いんだからぁ、あんまりナメないことね〜」
 マリリンもブリブリしながら続く。
「覚悟するのは、そっちだわ」
 腕組みをしたマリスは、いつもの不適な笑いを浮かべる。
「そうよ、正義をバカにするなんて、人として許せないわ! 」
 クレアも、キッと二人を睨む。
 四人の女たちの間では、今や火花が飛び散っていた。
 ミュミュも、ヴァルドリューズに、ぴとっと、くっつきながら、例の二人を睨んでいるが、男達にとっては、実に、どうでもよかった。
「マリリンちゃん、引き上げるわよ」
「うん、スーちゃん」
 マントを翻(ひるがえ)し、ぷいっと、彼らとは反対方向に歩き出した二人であったが、すぐに戻ってくる。
「ウマ一頭くらい、譲ってくれてもいいんじゃなくて? 」
 スーは、両手を腰に当て、威張って言った。
 この荒れ地を歩いて行こうなどとは、自殺行為に等しいと言えた。自分たちの命にかかわることでもあるというそんな時でも、やはりスーは高飛車なのだった。
 またケンカにならないうちに、ケインは乗っていたウマを下りて、譲った。
「お礼は言わないわよ」
 スーとマリリンは、さっさとウマに跨がると、土煙を上げて、ものすごい勢いで行ってしまった。
「まったく、なんて人たちなの? あれが人にものを頼む時の態度かしら? お礼も言わないし」
「そうだよ、ケインも、なんであんなヤツらに、すんなりウマを引き渡しちゃったのさ!? あんなの、ほっとけばいいのにさー! 」
 クレアとミュミュは、目を吊り上げて、ぷりぷり怒る。
 ケインは、カイルのウマに乗せてもらおうと向かうと、マリスが言った。
「あたしがそっちに移るわ。男二人の体重は、ウマにはキツいわ。ケインは、あたしのウマにクレアと乗ってあげて」
 あれほどのケンカ(?)の後ではあったが、彼女は、もういつもの表情に戻っていた。
 ウマの綱をケインに預け、カイルのウマに乗る。
 ケインも、クレアの後ろに乗り、偵察の時に見つけた、草の生えた場所目指して進んだ。
 口にこそ出さなかったが、出来れば、この先、あの妙な二人組とは、会わずに済ませたいものだと、誰もが思っていた。

「……なんでいるのよ」
 カイルと同じウマの上で、マリスが呆れた声を出した。
「だぁって、マリリンの水晶(クリスタル)も、こっちだって言ってるんだも〜ん」
 例の女剣士と少女魔道士が、一行とウマを並べていた。
 ケインの譲った一頭に、マリリンと、その後ろにはスーが乗っている。
 マリリンは、首から下げた、てのひらサイズの水晶球のネックレスを、自慢気に揺らせてみせた。
「そっちがマネしてるんじゃないの? 」
 長身の美人剣士が言う。
「じょーだんじゃないわよ! あんたたち、淋しいんなら、素直にそう言ったら? 」
「淋しいだなんて、見損なわないでちょうだい! 私たちは、そんなことで、会いたくもないあんたたちに、我慢してまでも、こうして追いかけてきたわけじゃないんだからね! 」
 スーが、つんけんしながら、マリスに言い返す。
「まっ、やっぱり、私たちの後をつけて来たんだわ! 」
 馬上で、ケインの前に乗っているクレアが、嫌そうな顔を向け、小声でケインに言った。
「あんたたち、不思議な飴を持ってるでしょう? ちょっとくらい、くれたっていいんじゃなくて? 」
 馬上で、スーが手に腰を当てた。
(ああ、おなか空いてたんだな……)
 ケインは、目を丸くしていた。
「マリリンのクリスタルが言ってたよお。体力回復出来る飴なんだってねぇ? どんな味なのぉ〜? 」
 マリリンが人差し指を、物欲しそうにくわえている。
「……腹が減ったんなら、そう言いなさいよ……」
 呆れて怒る気力もおこらなかったマリスが、いくらかうなだれて言った。
「それよりも、きみたち、この先には、何があるか知らないか? 砂漠で魔物が出たとか、そういう噂とか聞かないか? 」
 ケインが尋ねると、スーが手を腰に当て直し、踏ん反り返った。
「ほーっほほほ! そんなこと、この私が知るわけないでしょう! 」
「えへっ、マリリン、知ってるよぉ。だけど、賞金取られちゃうから、教えてあげなぁ〜い! 」
 マリリンは、にっこり笑った。
 賞金目当てでないことは知らせてあるにもかかわらず、同業者でライバルだと思っている一行に対して、すんなり情報を提供する彼女たちではなかった。
「ほら」
 諦めたように、飴玉を別の小袋にいくつか移し、マリスがそれを渡そうと手を伸ばす。
「ほーっほほほ! 礼は言わないわよ! 」
 スーは、ひったくるようにして小袋を奪うと、二人の乗ったウマは、土煙を上げて、素早く遠ざかっていった。
「あぁ〜ん、スーちゃぁ〜ん、マリリンにも早くちょうだぁ〜い! 」
「うるさいわね! 今開けてるんでしょ! 」
 二人の会話は、微かに、それだけ、一行に聞き取れた。


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