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作品名:Dragon Sword Saga 第3巻『砂漠の謎』 作者:かがみ透

第1回   T.『ライバル!?』〜 1 〜
 嘆き、悲しみ、空しさ、絶望――
 旅人よ、気を付けなさい
 迷えば、永遠に彷徨(さまよ)うであろう
 百年、五百年、千年と――

 人だけでなく、
 すべての生き物だけでなく、
 時には、大国さえも、抜け出せず
 もがき、苦しみ、埋もれていく――! 

 魔神の痕跡
 忘れ去られ

 愚かな過ち、繰り返すは、
 悲劇を、またも繰り返す

 眠られよ
 今は、ただ、静かに――


――『砂漠地方言い伝え』より 吟遊詩人の唄


プロローグ

「うう、疲れたよ〜」
「もう少し行けばなんとかなるわよ」
「だけど、もうずっと歩いてるのに見付からないなんて、やっぱ、道間違えたんじゃないかなぁ? 」
「……かしらね」
「え〜っ! もう、魔力も大分減っちゃったし、疲れたし、眠いし、町まで戻る気力もないよ〜! 」
「あ〜、もう、うるさいわね! だったら、その辺で寝るわよっ! 」
「は〜い、おやすみなさ〜い」

   T.『ライバル!?』〜 1 〜 

 『白い騎士団』を名乗る一行は、中原のアストーレ王国の首都であるアトレ・シティーでウマを購入し、地図にもない未開の地を進む。
 確かな情報もなく、魔道士ヴァルドリューズの言う大魔道士ゴールダヌスの予言を、頼りにするほかない。
『未開の地には、次元の穴が出現している可能性が最も高い』という、ただそれだけを――。
「アストーレで集められた情報だと、『向こう岸』から来た人達は、みんな南下して、遠回りしてアストーレに入ったって聞くぜ」
 傭兵のカイルが、長くストレートな金髪を、かき上げながら、そう言った。
「でも、それだと日数はかかるし、みんな魔物を避けて通りたかったからでしょう? それじゃあ、意味が無いじゃない」
 白い甲冑に身を包んだ、少女戦士マリスが答える。
「だけどさあ、どこまで続いてるかわかんない荒れ地を、ただひたすら突き進んでいくなんて、無謀過ぎないか? ヴァルが、魔法で魔物の居場所を突き止めればいいじゃないか」
 カイルが再びそう言うと、
「まあ、なんてこと言うの!? 広範囲に渡る『透視』は、魔力の消耗がずっと激しいのよ」
 すぐさま、巫女であり、魔道士見習いでもあるクレアが、目を吊り上げた。
「じゃあ、ちょっと行ってみて、迷ったらヴァルに『視(み)て』もらおうかしら」
 マリスの発言に、それこそ無謀だと皆で言いかけた時、
「私は、それでも構わない」
 というヴァルドリューズの一言で、決まってしまった。返す者はいなかった。

 そこは、アストーレから西へ向かった未開の地だった。
 周りには何も無く、ごつごつした岩ばかりの荒れた土地だ。
 アストーレの魔道士参謀ダミアスの言った通り、町らしいものは、どこにも見当たらない。
 一行は、岩に腰掛け、赤い飴玉をマリスから受け取り、なめていた。
 知り合いになったフェルディナンド皇国に住む、木の魔道士バヤジッドが作った、一日に必要な栄養分の詰まった飴玉で、なんとか飢えを凌いできているが、ほのかに果実のような味がするだけで、美味いと感じたり、満腹感が得られたり、ということもなく、どこか満たされない。
「ちょっと偵察に行ってくるわ」
 マリスはウマに飛び乗った。
「俺も行く」
 もう一人の傭兵であるケインが、ウマに跨がろうとすると、カイルが冷やかすような声を上げた。
「おいおい、ケインは、もうマリスに雇われてるわけじゃないんだろう? マリスは、俺たちよりも強いんだから、何も、そう護衛して回らなくてもいいんじゃね? 」
 マリスは、ちらっとケインを見て、ウマを走らせた。カイルの言うことには、少々引っかかったが、ケインは後を追った。
「ほんとに、どこもかしこも荒れ地だなあ」
 馬上で、きょろきょろしながら、ケインが呟く。
「ケイン」
 皆のところからかなり離れたところで、マリスがウマを寄せる。
 マリスは、年齢よりも幼く見えるケインの顔立ちの、さらに、青い、ネコのように目尻の上がった大きな瞳を、睨むとまではいかないまでも、見つめて続けた。
「あなたねえ、あたしが王女だからって、何も、特別扱いすることないのよ」
 アストーレを出る頃、マリスが西洋の大国ベアトリクスの王女であり、現在の女王、王太子に次ぐ第二王位継承権者であることを知ったケインは、亡命したベアトリクスからの追手や、彼女の高い魔力に目を付けた大魔道士から守ろうとするあまり、彼女の後をくっついて回っていた。
「……さすがに、鬱陶(うっとう)しかったか? 」
 ケインが苦笑いする。
 マリスは、その紫水晶のような瞳を、じっと彼に向けていた。
「そんなことしてると、そのうち、みんなに、あたしに気があるんじゃないかって、思われちゃうわよ」
 ドキン! と、ケインは心臓が大きく音を立てた気がした。
 図星を突かれた思いだった。
 確かに、マリスには興味を持ち、惹かれていく自分もいるのは否定できなかった。
 だが、その反面、彼女の予想外の行動には常に圧倒され、そのペースに付いていくのは楽なことではないとも思う。
 ましてや、亡命中とはいえ、王女の身。ベアトリクス王太子の許嫁(いいなずけ)、すなわち婚約者でもあるのだ。
 どう考えても、普通の恋愛に発展しようのない相手だった。
(そんなヤツにホレでもしたら、きっと心労で身も心もズタズタになり、人生を棒に振るのは間違いない! )
 そう懸命に、ケインが自分に言い聞かせている間も、そんなこととは知る由もないマリスは、構わず続ける。
「だから、王女だなんて知られたくなかったのよ。あたしはね、王位継承権なんて放棄してるのよ。それを、公の場で示すヒマがなかっただけでね。二度とあの国には、戻る気はないんだから」
 うつむき加減に少し唇を尖らせる。
 その様子は、どこか可愛らしさがあり、やはりセルフィス王子に未練があるのだと、彼は確信した。
「だからね、王女だってことは、意識しなくていいの。あたしはね、みんなとは普通に仲間でいたいの」
 怒っているような目をケインに向けるが、セルフィスのことを知ったケインには弱みを握られてしまったように思っている彼女が、取り繕っているのだろうと、ケインは解釈し、あえてそれにのって、たじろいだ様子を装った。
「俺は、ただ……、どこで、あの蒼い大魔道士が、お前を狙っているかわからないんだし……」
「ふ〜ん、そう」
 マリスは、面白くなさそうに、打ち切った。
「つまり、あたしのことを、守ってやろうってわけ? 少なくとも、あたしは、その辺の王女殿下よりも頑丈なつもりだけど? 」
「確かに、それもそうだな」
 ケインは、わざと考えているポーズを作る。
 マリスは、面白くなさそうに、それを横目で見ている。
「わかったよ、マリス。だったら、俺は、今まで通りに、お前と接するようにするよ」
 何か言いた気な目を向けていたマリスは、「よろしくね」と、横目でいうと、無言のまま、ウマを元の方向に戻し、進ませた。

「しばらくは、このまま荒れ地が続いているわ。遠くで砂埃(すなぼこり)が見えたから、もしかしたら、その辺りから砂漠に入るのかも知れないわ」
 マリスが説明する。
「いよいよ砂漠か……。ああ、マジに通らなきゃいけないのかよぉ〜!? 」
 カイルが、思いっ切り嫌そうな顔をした。
「何よ、砂漠くらいで、そんな声出すなんて」
 クレアは、情けないと言わんばかりに、呆れた表情でカイルを見る。
「クレアは、モルデラから出たことなかったんだろ? だから、砂漠の辛さを知らないんだよ」
 普段はヘラヘラしているカイルだったが、こればかりは、ぶーぶー言い返す。
「砂漠なんてさ、水がなくなったら終わりなんだぜ? 日差しは容赦なく、ガンガン照りつけてくるしさー、食料になりそうな実のなった木なんか、どっこにも生えてないしさー。
 それに、何よりも、目印になるモンが何もないんだぜ? 砂丘は風向きでどんどん形を変えてくし、砂に足を取られて、前に進むのさえままならないってのに。ぐるぐると同じところを永遠にさまよいつづけるか、そのうち砂地獄にはまっちまうかがいいところだぜ」
 あえて悲惨なことばかり言って、クレアを怖がらせて楽しんでいるのは、ケインにはわかっていた。
 案の定、クレアは真に受けて聞いていて、顔から血の気が引きかけていた。
「で、でも、砂漠には、奇麗な水の湧き出るオアシスがあるっていうし、バヤジッドさんからもらった飴もあるから、食べ物の心配もないし……」
「いやあ、わかんねえぞ。オアシスに辿り着く前に、逝っちまう人はいっぱいいるぜ。そのせいか、夜になると、砂漠には死霊が出るっていうし、そんなヤツら相手にして
たら、夜が明けちまって寝不足にはなるわ、そのうち、バヤジッドのアメもなくなっちまうかも知れないしな」
 カイルのいうことをますます真に受けたクレアは、今にも悲鳴を上げそうだ。
「さ、じゃあ、そろそろ出発しましょうか」
 何事もなかったかのように、マリスがウマに跨がる。
 不安気な面持ちで、マリスに手を引っ張り上げられ、前にクレアが乗る。ウマに乗ったことのないクレアと、マリスが一緒に乗り、後は、一人ずつウマに跨がっている。
「ふえーっ、あれでも女とはねぇ。あいつ、怖いモンねえのかな? 」
 カイルが、ケインにだけ聞こえるように言った。
「だけど、俺、実は強い女も好きなんだ」
 カイルは、そう続け、にやっと笑ってみせた。
 ケインにとっては、人生を棒に振っても痛くも痒く感じない男の、勇気ある発言であった。

「ねえ、この『正義の白い騎士団』って、誰がリーダーなの? 」
 辺りは相変わらず荒れ地にごつごつした岩が転がっているだけである。
 小さなニンフのミュミュが、バタバタ飛びながら、代わり映えのない景色に飽きてきたのか、誰にともなく聞いていた。
 その前に、『騎士団』とありながらも、そこに『騎士』はいなかった。
 唯一、騎士の経験のあるマリスが、アストーレでは、流浪の騎士マリユス・ミラーを名乗っていた時に適当につけた一行の名称であったが、誰も気に留めず、そのままにしてあるのだった。
「そんなの決まってんじゃん」と、カイルが言った。
「マリスだろ? 」と、横からケイン。
「俺だよ」カイルは、けろっと答えていた。
 ケイン、クレア、マリスは、ウマから落ちそうになった。
「カイルだったの? 」
「当ったり前だろ? 騎士団一セクシーなイケメン男子であるこの俺の魅力で、このチームはもってるようなもんなんだぜ」
「へー、そうなんだー……?? 」
 意味のわからないことを得意そうな顔で言うカイルに、ミュミュは目を白黒させていた。
「なーに言ってんだか。マリスと一、二を争うトラブルメーカーのくせして」
 ケインの呆れたセリフに、カイルは、ぽんと手を打ち鳴らし、きらきら瞳を輝かせた。
「おお、それ、いいな! もらったぜ! 俺にはリーダーなんてのより、ふさわしい呼び方があったじゃないか! 騎士団一のムードメーカー、カイル様かぁ! 」
「そうは言ってないっつうのに、相変わらず人の話聞かないんだから」
 呆れているケインを始め、クレア、ミュミュ、そして、マリスまでが口をぽかんと開けていた。

 次の偵察は、ケインとカイルで行う。
 夜になろうという頃だが、岩場が続いているので、どこかせめて草の生えている場所を探しに出かけたのだった。
 随分先に行ったところに、木や草のあるところが見られる。
 そこでなら、野宿が出来そうだと、二人が引き上げようとすると、カイルがウマを止めた。
「どうした、カイル。何かあるのか? 」
 ケインがウマを寄せる。
「人が倒れてる。二人。……あれは、女だ」
 そう言い終わるか終わらないうちに、カイルはウマを走らせる。ケインも後を追った。
 カイルの言った通り、そこには、二人の女が倒れていた。
 彼が抱き起こしたのは、黒髪で二〇歳くらい、女にしては、かなりの長身で、底の厚いロングブーツを履いているため、立てば、ケインたちに追いつきそうなほどである。
 部分的に甲冑を着けていて、腰に剣を差していることから、一見して剣士であることがわかった。ただし、剣士にしては、かなり露出度の高い黒い衣装に、押し付けがましいほどの色気をまとっている。
 もうひとりは、小柄で、セミロングの金髪がふんわりしたカーリーヘアの、十四、五歳の少女だった。
 こちらは剣士ではなく、ひらひらしたピンクの服の上にマントをはおり、更に、いろいろなアクセサリーを身に着けているところを見ると、どうも魔道士らしかった。
「息はあるぜ」
 カイルが言う。そのままにしておくわけにもいかず、ケインたちは、彼女たちを運ぶことにした。
 カイルは、小柄な少女の方を抱いて、ウマの鞍に乗せた。
 彼の好みからすれば、当然色っぽい方なのだろうが、重さで選んだのだろうと、ケインは踏んだ。
 『色男、金も力もなかりけり』――アトレ・シティーでそう言った彼の笑顔を思い出す。

「どうしたの? その人たち」
 マリスが、偵察から戻った二人に近寄る。
 ケインは目のやり場に困りながらも、黒髪の女剣士をウマから抱きかかえて、降ろした。
「お二人とも、気を失っているだけだわ。こういう時は、水を飲ませてあげた方がいいわね」
 クレアが、二人の額に手を当てたりなど、軽く診察して言った。
「この先、砂漠に入ろうっていうんだから、水がもったいないわ」
 ごきっ! 
 クレアが水筒を取りに行きかけたが、マリスが、ケインの抱えている女剣士の背に活を入れた。
 クレアもケインもびっくりして、目を見開く。
 女剣士も、跳ね起きた。
「大丈夫? しっかりして! 」
 次にマリスは、カイルがウマから降ろしたばかりの少女の頬に、しれっとした顔で、往復ビンタをくらわせていた。
(なんてひどいことを……! )
(こ、この乱暴者……)
 クレアとケインは、なす術(すべ)無く、目を見開いてそれを見ているだけだった。
「いったぁ〜い……」
 ふわふわした金髪の少女が、赤紫色(マゼンダ)の目尻に涙を浮かべながら、ゆっくり起き上がると同時に、ケインの抱いている女剣士も完全に目を開いていた。
「大丈夫か? 」
 女剣士の目と、ケインの目が合った。
 切れ長の綺麗な青い瞳の、かなりの美人だったのだが――! 
 びたん! 
 いきなり左頬を平手で叩かれたケインは固まっていた。クレア、カイルも、停止している。
「この私に許可無く触わるなんて、いい度胸してるじゃないの! 」
 美しいアルトで、彼女は言い放った。
「いやぁ〜ん、イケメンさんだ〜! マリリン、ラッキー♥」
 巻き毛の少女は、少し鼻にかかった甘えた声を出し、ぴとっとマリスにくっついた。
 すると、突然、マリスが立ち上がったので、少女は地面に尻餅をついてしまう。
「いったぁ〜い! ああ〜ん、スーちゃ〜ん! このお兄さんたら、ひどいのよぉ〜! 」
 少女は、両手で目をこするようにして、わあわあ泣き出した。
 スーちゃんと呼ばれた女剣士は、すっくと立ち上がると、威圧的にマリスを見下した。
 予想通り、一八〇セナ以上あるケインやカイルに追いつくほどの、かなりの長身で、迫力もあり、並ぶと、マリスが小柄な女の子に見えてしまうほどである。
「ちょっと、ぼうや、マリリンちゃんに、何するのよ! 」
 腕を組み、見下したまま、スーは言った。
「そっちこそ、それが助けてもらった人に対する態度かしら? しかも、ひっぱたくなんて、あんまりなんじゃないの? 」
 マリスも負けてはいなかった。ふんと小馬鹿にしたような笑いを浮かべている。
 それを受けて、スーは、驚いて一歩下がり、再びマリスを見る。
「あんた……女だったの!? 」
 女剣士スーは、マリリンと名乗る少女を振り返る。
「ちょっと、マリリンちゃん、この人、女だわ! 」
「ええ〜っ!? うっそぉ〜! マジで〜〜!? 」
 マリリンは、両手をグーにし、顔の側にもっていき、思いっきりブリッコポーズでリアクションしていた。
 マリスは、不気味なものでも見るように、マリリンを見る。
「へー、あんたも、女剣士だったの。ふうん」
 スーは、落ち着きを取り戻し、マリスを上から下までじろじろと眺めてから、ふふんと笑った。
「この私の他に、女の身で剣士だなんてものには初めて出会ったけど、……な〜んだ、まだガキじゃないの」

(ひっ!! )

 固まっているケインたちをよそに、スーの口攻撃は続く。
「ほんとにそれでも女なの? かわいげもなければ、色気もない。ま、女剣士なんて、所詮はそんなものなのかも知れないけどね、私以外は。ほーっほほほ! 」
 片方の手は腰に、もう片方の手は口元に添え、スーは、耳につく高笑いをしてみせた。
 ケインたちは、ヒヤヒヤしながら、マリスを見る。
 マリスは目を見開き、呆気に取られていたが、ふっと冷静な笑いを漏らす。


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