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作品名:Dragon Sword Saga 作者:かがみ透

第9回   第1巻 V 話『黒い竜――ダーク・ドラゴンの力』〜3〜
「……どう? 」
 湖の底を静かに見据えていたヴァルドリューズに、隣に立つマリスは、慎重な様子で尋ねる。
「これまでのいきさつから、この湖の底に異次元への出入り口が出来ていたようだが、今はもう、何も感じない。おそらく、マスター・ソードの力で、消し去られてしまったのだろう」
「それなら、良かったわ。それにしても、あれは、ミドル・モンスターだったわ。魔界の入り口まで開いていたなんて……何者かが呼び出し……!? 」
 突然、マリスの言葉が途切れた。
「……ヴァル、……それ、なに? 」
 かなり間の抜けたマリスの声で、ケインたちもヴァルドリューズを振り返ると――
 彼の周りを、何かが、ちらちらと飛び回っていたのだった! 
 ちょこんとヴァルドリューズの肩に腰掛けると、こちらを、じっと見る。 
 ピンク色の肩につかないくらいの巻き毛に、薄いピンク色の衣をまとい、身長より少し大きい、ムシや、蝶に近い形の、透けた羽を生やした、それは、まさしく、手のひらに乗るくらいのサイズの、妖精の女の子であった! 
「ミュミュ……! 」
 ケインが、大きく目を見開いた。
 妖精は、みるみる膨れっ面になって、ケインを睨んだ。
「ひどいよー、ケイン! ミュミュのこと、かんっっっぜんに、忘れてたでしょー!! 」
 一同は、驚いて、ケインと小さな妖精ミュミュとを見比べた。
「ごっ、ごめん! だけど、今までだって、急にいなくなったり、しばらく出てこなかったこともあったじゃないか。またかと思ってさ。それに、いろいろあって、それどころじゃなくて……」
「それどころじゃないって、どーゆー意味さー!? しつれいな! ミュミュはねっ、知らない時空で迷っちゃって、一人でとっても淋しくて、泣いてたんだよ! そしたら、ヴァルのおにいちゃんに助けてもらったんだからー! 」
「ヴァ、ヴァルのおにいちゃん……? 」
 ケインも皆も、今度は、ヴァルドリューズの方を見る。
 彼は、いつもの、無表情で、淡々とした口調で語る。
「瞑想から戻ろうとした時、異次元の空間で彷徨(さまよ)っていたのを、たまたま見付けたのだ」
「……お前なぁ、妖精が、時空で迷うなんてこと、あるのか? 」
 ケインが、ほっとしたような、呆れたような顔になった。
「ケインが助けてくれないからだよー! バカー! 」
 ミュミュは、ケインの頭を、か弱い拳でぽかぽかと殴った。
「ごめん、ごめん! ホント、すっかり忘れてて……」
「なにぃー!? もーっ! ミュミュ、ケインなんか、知らないもん! ホントに、おこったんだからね! 
 これからは、ヴァルのおにいちゃんに『付く』もん! 」
 そう言うと、ミュミュは、ヴァルドリューズの肩に、ちょこんと止まり、ケインからは、ぷいっと顔を背けてしまった。
「まいったなぁ、今度こそ、本気で怒らせちゃったかな? 」
 ケインは、苦笑いしながら、頭をかいた。
 妖精は、頬を膨らませたまま、ヴァルドリューズの頬に、くっついた。
「あ、あのー、お取り込み中、悪いんだけど……」
 マリスが、まだびっくり目のまま、切り出した。
「ケインと、そこの妖精って、……知り合いだったの? 」
「知り合いなんてもんじゃないよー。ミュミュ、ケインがマスター・ソードを持つようになってからだから、二年くらい、一緒にいるんだもん。
 ミュミュたち妖精――ニンフの子供たちは、『でんせつのせんし』になる人間に、付くことになってるんだもん! 
 ミュミュ、ケインのこと、『でんせつのせんし』だと思って、くっついてたのに、全然、『でんせつらしいこと』はしないし、ミュミュのことは、ほうっとくし……! 
 もう、『でんせつは、ヴァルのおにいちゃんにする』から、いいんだもん!! 」
「ありゃりゃ、『伝説の戦士』ってのは、妖精の気分次第で決まるのかよ? 」
 カイルが、素っ頓狂(すっとんきょう)な声を出した。ケインも、肩をすくめてみせた。
「あれっ? あんたの剣……」
 突然、ミュミュが、カイルの剣に、目を留め、ふーっと側に飛んで行った。
「『ここ』には、精霊がいるよ! 何の精霊かは、わかんないけど……」
 ミュミュは、カイルと、ケインとに振り向いて、言った。
「精霊だって? 」
 カイルが、首を傾げた。
「ああ、でも、言われてみれば、そうかも知れねぇ。この剣は、俺を護ってくれてるような気がしてたんだ。
 よくないことや、危険を察知して、なんとなく教えてくれる――そんな場面が、いくつかあったんだ。
 それは、この剣に宿る魔力が、そうしてるのかと思ったが……精霊が棲んでたってワケだったのか」
「そーだよ。この剣の『せいれいさん』は、剣の持ち主を、まもってくれるんだよ。
 だから、この剣の魔法は、持ち主しか使えないの。他のヒトが、やろうと思っても、ダメなんだよ」
「確かに……、俺以外のヤツには、『浄化』の魔法は使えなかった」
 カイルが、感心して、ミュミュを見た。
「お嬢ちゃん、教えてくれて、ありがとよ」
 ミュミュは、満足そうに笑った。
「ついでに教えてあげようか? 妖精は、『いろんなもの』が見えるんだよ。『ヒトの守護神』とかも」
 すっかり得意気になったミュミュは、マリスの目の前に飛んでいく。
「あんたの名前はねぇ、マリス・アル・ティアナ……えーと、あれ? なんだったっけ?」
 みるみるマリスの顔色が変わっていく。
「な、なんで、あたしのことを……」
 妖精は、ますます調子に乗って、続けた。
「守護神は、『雷獣神サンダガー』……でしょ? 」
 一同、驚きのあまり、絶句していた。
「ケインは、ジャスティ……いたっ! 舌かんじゃった! ええと、何だっけ? もう、いいや。で、ちなみに、この金色の髪のお兄ちゃんは……」
「ミュミュ」
 ミュミュがカイルに何か言う前に、普段、寡黙な魔道士が、珍しくその場を遮(さえぎ)った。
「人には、余計なことは、わざわざ知らせない方がいい。知ったことによって、不幸になることもあるのだ。私や、マリスのように……」
 甘えた返事をすると、妖精は、ヴァルドリューズの頬に、再びすり寄った。
 彼の言葉には、妙に重みを感じ、一同は、マリスとヴァルドリューズをみつめる。
 もっとも、ミュミュの言うことは、正確ではなかったので、皆にもわけがわからず、知らされたうちにも入らなかったのだが。
(もしかして、ヴァルもマリスも、特殊な能力を身に着けたため、或は、目覚めたために国を追われたり、魔物と戦わなくてはならない宿命になってしまったとか……? それとも、何か、他にも……? )
 ケイン、カイル、クレアが、そのように考えている間、マリスは、うつむいて、唇を噛み締めていたが、キッと顔を上げた。
「あたしは不幸なんかじゃないわ。運命なんて、自分のこの手で変えてみせるわ! 」
 静かだが、そう言い切った彼女の横顔を見つめながら、ケインは、なんとなく、自分は、それを見届けるんじゃないか、という気がしたのだった。
(それは、単なる俺の希望なのかも知れないけど……)

「おお、お待ちしておりましたよ。ご希望の品は、こちらでよろしいですかな? 」
 夜になっても、湖は静まり返り、その周辺でも、低級な魔物ですら出現しなかった。
 異次元への出入り口は、マスター・ソードの力によって、完全に閉ざされたと思われる。
 一行は、鍛冶屋を訪れていた。
 異様な煙が立ち込め、いつ見ても、不気味なところである。
「さすが、噂通りの良い腕だな。これは、報酬だ」
 マリス扮するマリユスは、男言葉に切り替え、大金を支払った。
「こ、こんなに……ですかい!? 」
 鍛冶屋は、驚いていた。
 見開かれた目は、より一層大きく、相変わらず、充血していた。
「それから、このことは、黙っていて欲しいんだ。万が一、鎧の持ち主に伝わってはマズいからな」
 そう言って、マリユスは、口止め料代わりに、更に金額を追加したのだった。

「ふっふっふっ、これで、思う存分、暴れられるわ」
「えっ? 今までのは、違ったのか!? 」
 不適な笑みを浮かべているマリスに、ケインは思わず言っていた。
 アトレ・シティーに戻るこの道中、マリスは、新品の剣を取り出し、クレアに渡した。
「これは? 」
「クレアは、剣持ってなかったもんね。これ、護身用に使って。メタル・オリハルコンで出来た、あたしの鎧の一部を使って、軽めに作ってもらったから、大丈夫。
 ヴァルに魔力を吹き込んでもらえば、魔法剣にもなるわ。それとも、魔法上達したら、自分でやってみる?」
 マリスが、ウィンクした。
「マリス、ありがとう! 大事にするわ! 」
 クレアの瞳は、潤んで、美しく輝いていた。それを認めたマリスも、嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、そうだわ、そこの妖精サン、あたしは、ここでは『マリユス・ミラー』って名乗ってるんだから、人前では、違う名前で呼ばないでね」
 ミュミュが、パッと現れた。
「偽名使ったって、わかるヒトには、わかっちゃうのに」
 妖精は、ブツクサ言っていた。
「あの、ケイン」
 クレアが、小声で話しかける。
「私に、剣を教えてくれるの、今夜からでもいい? 」
「わかった。でも、さっき、回復魔法をかけ続けてたから、大分疲れてるんじゃないのか? 今日はもう遅いし、明日にしよう。疲れを取ることも大事なんだぜ」
「でも、今は、そんなこと言ってられないわ。やっぱり、私が一番足手まといだもの。剣ももらったことだし、もう、誰の足も引っ張りたくないの。寝る前に、ちょっとだけでいいから、お願い」
 ケインは、クレアの瞳に、強い意志の光を見た。
 彼女も、マリス同様、自分で運命を変えようとしている人に、違いなかったのだった。
「わかったよ、クレア」
 ケインは、やさしく微笑んだ。

 先に、宿を取っておいて正解だったと、一行は思った。辿り着いたときは、夜中であった。 
 結局、クレアには剣の握り方と、構え方くらいしか、教えられなかったと、ケインは、振り返っていた。
(今日はいっぱい歩いたし、釣りもしたし、モンスターも倒して、次元の穴を塞いだし、カイルは死にかけるし、ミュミュは見つかったし……いろんなことがあったなぁ。
 ロクに観光出来なかった城下町も、明日は、少しは見て回れるかも……)
 宿屋のベッドの上で、そんなことを考えながら、ケインの意識は、眠りの中へと、引き込まれていった。


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