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作品名:Dragon Sword Saga 作者:かがみ透

第5回   第1巻  U 話『野盗と剣と武遊浮術』〜2〜
 ケインの構える、その異様な剣の大きさに、賊も一瞬ひるむが、この人数でならと思い返し、じわじわと間合いを詰めてきた。
 皆、口々に、卑猥な言葉を吐いたり、下品な笑いを浮かべたりしている。
「へっへっ、どうした、お嬢さん? 怖いか? 俺たちが。そっちの坊やを片付けたら、すぐにでも可愛がってやるからな」
 ケインとマリスの周りは囲まれていて、逃げ場はない。
「言いたいことは、それだけみたいね」
 マリスが低い声で静かに言った。

 ――その瞬間――!! 

 ケインの腰に下げていたドラゴン・マスター・ソードを、素早く引き抜き、目の前の賊の腹を、一気にかっ捌(さば)いていたのだった! 

 腹から、夥(おびただ)しい血の量を吹き出して倒れるその男を血祭りに、立て続けに二人、三人と切り伏せていく。
 山賊たちは、驚いて、後退(あとずさ)った。
 マリスがピタッと足を止め、振り向き様に、ビシッと剣を賊たちに向ける。
 その顔には、余裕の笑みが浮かんでいた。
「どうしたの? あたしを犯すんじゃなかったの? このあたしが、あんたたちみたいな汚い不細工・イノシシブタに、そう簡単にやられるはずないでしょ? せめて、イン◯ン直して出直してこい! 」
 ケインの顔からは、血の気が引いた。
「な、なんて、口汚く罵るんだ! こら、マリス! 女の子のすることじゃないぞー!」
 気が付くと、山賊どもは、赤くなったり、青くなったりして、皆、完全に頭に血が上っていた。
 ケインの目の前にいる者などは、顔面蒼白であった。
(さては、こいつ、マリスの言ったように◯△X□か!? なんだか、他にも、ちらほら、同じような反応してるヤツらがいる。
 まったく、不衛生な生活してるから……じゃなーい! 何で俺が、こいつらのことを気に掛けてやらなきゃいけないんだ! 今は、こんなこと、どーでもいい! )
 マリスに一番近くにいた男が、怒りで肩をぶるぶる震わせた。
「こ、このアマ、ふざけた口きいてくれるじゃねーか! 見もしないで何がわかる! 」
「……だから、あんたらも、そーゆー問題じゃなくて……」と、ケインが仲裁? しようとするが、
「◯△X□野郎! 」
 マリスが、また口汚く挑発する。
「てめえ、もう、許せねぇ! 」
 山賊が束になってマリスにかかっていった! 
 と、同時に、ケインも、襲いかかってきた賊に対抗することになった! 
 賊の振り翳(かざ)した斧を、マリスは、ひらりと避けると、木の枝に飛び乗った。
「高いところに逃げても無駄だぞ! こっちには、ボウガンだってあるんだからな! 」
 ボウガンや弓矢を持った男たちが、マリス目がけて一斉に矢を放ったが、矢はむなしく空を切っただけだった。
 瞬間、マリスは、ボウガンの一人の顔を蹴り倒していた。
 そこへ、二〇人あまりの男たちが、一気に押し寄せ、彼女の姿は埋もれてしまった。

 一方、ケインは一五人ほどを相手にしていたが、そのうち五人は、既に倒していた。
 彼の主義としては、殺しはしない。手足、腹などを攻撃し、戦闘不能にする。
 むやみに人命を断つことはない。出来れば、反省して真っ当な道を進んで欲しい、とすら思っていた。
 が、そのような輩は、まず、いるはずもなかった。
「その大剣は、俺たちがもらってやるぜ! 」
「それさえなければ、貴様なんぞ、簡単に……! 」
 十人が、じりじりと歩幅を詰めてくる。
「そっか。じゃあ、持ってみるか? 」
 ケインが、バスター・ブレードを、賊たちに放るが、受け取った男は、その重さに耐えられず、大剣を抱えたまま、地面に尻餅をついた。
「おい、何やってる! 」
 他の男も、大剣の柄を掴むが、両手で引きずるのがやっとであった。
「な? おっさんたちには、無理だって、わかっただろ? 」
「ならば、これでどうだ! 」
 賊は、四、五人がかりで剣を抱えて、やっと腰まで持ち上げた。
 そこへ、ケインが、バスター・ブレードへ蹴りをくらわせる。
 賊たちは、弾き飛ばされた! 
 素早く、ケインはバスター・ブレードを取り返すと、左手で柄を掴み、慣れた様子で、軽々肩に乗せ、右拳は瞬時に戦えるよう、構えを取った。
 その様子からは、剣術と武術を自在に使いこなしているのが、見て取れる。
 実力の差は歴然であったが、それでも、賊たちは、まだ彼を若年の戦士と高をくくり、向かって行く! 
 彼も、今までの旅の道中、賊に出くわすこともあったが、賊に限らず、戦で出会う傭兵の中にも、きちんと武術を学んできたわけではなく、ただがむしゃらに武器を振り回しているだけの者が多々いた。
 それでは、モンスターとたいして変わらないと思っていた。
 人間相手だから、手加減しているつもりだが、こうもケンカ下手だと、間違って死に追いやってしまうことも――などと、思っていると、予感が的中する。
「しまった! 避(よ)けろ! 」
 思わず、行動とは反対のことを、賊に叫ぶ。
 左から来た奴を剣で振り払った時、その影に隠れていた者に気付くのが遅く、盾代わりにしていた大剣で、つい勢い余って切り飛ばしてしまったのだった。
 男は、勢い良く、ぶっ飛んでいった。
「だから、ケンカ慣れしてない奴らは、やりにくいんだ! 」
 不必要に傷付けたことで、彼の中でも心が傷付く。
 いつもそんな気がしていた。
 いかに相手を最小限の被害で抑え、戦闘不能にするかが、彼の信念なのであった。
「こいつ、小僧のくせに、結構やるぞ! 」
 賊の間で、そのような声があちこちで起こる。
 ケインは、大剣の峰を、肩に担ぎ、立ち塞がった。
 賊たちと違い、息切れなどはしてもいなかった。
「やっとわかったか。こっちは、お前たちのように、自分より弱い奴しか襲わないような、おキラクな稼業じゃないんでね。常に、自分より強い敵とばかり戦ってきたんだ。若くても、お前らとはキャリアが違うんだよ!」
「なんだと!? 生意気な!! 」
 ケインが、にやっと笑って挑発すると、賊たちは、カッと頭に血が上り、ますますなりふり構わず、剣や斧を振り回すのだった。
「まったく、大人気ないな」
 ケインのスタイルは変わらず、大剣は、あくまでも防御で、それを軸に、拳と足蹴りのみで攻撃していた。
 彼の方の敵は、大分手薄になってきたので、少しずつ、マリスのいた辺りに詰め寄って行く。
(マリスは大丈夫だろうか。さっき、二〇人くらいに襲いかかられていたけど……)
 その時、賊の中に、マリスらしい人影を見付けて、ケインは唖然とした! 
 ケインの相手であった賊たちも、ピタリと手を止めて、声を上げる。
「なっ、なんだ、ありゃあ!? 」
 マリスが囲まれていた周辺には、十人の賊が、放射状に倒れていた! 
 全員、戦闘不能になって蹲(うずくま)っている。
 そして、その中心には、次々とマリスにやられた者たちが、今もなお、積み重なっていくのだった! 
 ある者は剣で切りつけられ、ある者は、ちょっと殴られただけで吹っ飛び、その山に築かれていく。
 ケインは、はっとして叫んだ。
「危ない、マリス! 後ろだ! 」
 彼の警告もむなしく、男の一人が、マリスを背後から、羽交(はが)い締めにした! 
「へっへっへっ、もうこっちのモンだぜ! よくも、散々俺たちをコケにしてくれたな!! 見てろよ、嬲(なぶ)り殺してくれるわ!! 」
 ケインは目の前の賊たちを振り切り、マリスへと走った! 
 羽交い締めにされたマリスには、尚も五人の男たちが、じりじりと迫って行く。
「へっ! 所詮は女だぜ。力では、男にかないっこないか」
「ただでは殺さねぇ。じっくりいたぶってからだ」
 マリスに迫る賊たちが、取り囲む。
「マリス! 」
「こら、小僧! 待ちやがれ! 」
 ケインと、彼を追う賊が走り寄ると、マリスが、不適な笑みを浮かべるのがわかった。
「やれやれ、あんたたち、相手の実力が、まーだわかってないようね? このあたしが、あんたたち如きに、簡単に捕まると思って? わざと捕まってあげたに決まってるじゃない」
 そう言い終えると同時に、彼女は、身体を前に折り曲げる。

 ――と、羽交い締めしていた男の身体が浮いた! 

「な、何ぃ!? 」
 皆、唖然として、その場に立ち止まった! 
「力ってのはね、あればいいってもんじゃないのよ。使い方よ」
 マリスは、背中の男を、背負い投げると、すぐに男の足を両手で掴み、周囲の賊目がけて、まるで大剣のように、男を振り回した! 
「うわあっ! 何すんじゃあ! 」
 男たちは、次々と叩き飛ばされていく。それは、とても信じ難い光景であった。
「な、なんだ、あの女!? バケモンか!? 」
 山賊たちから、声が上がる。
 だが、ケインには、彼女の力――いや、それが、実は、ある体術であることに、見当が付いた。
 マリスの周りにいた賊たちが、殆ど飛ばされてしまったあと、大剣にされた男は放り出され、木にブチ当たって落ちる。
(なんつう、むごいことを……)
 悪党も人間であるからには情けをかける彼とは、全く逆に、彼女は、完璧に彼らを物のように扱っていたのだった。
 もはや、無傷の山賊は、ケインを追って来た五人のみである。
「じょ、冗談じゃねぇぜ! あんな怪力女に潰されてたまっかよ!! 」
 賊たちは、命あってのモノダネとばかりに、次々と敗走し始めた。

 ひゅーん

 何かが、賊の頭上を通っていく。
 先頭を切って逃げていた賊の男が、腰を抜かし、後に続いていた男たちも、立ち止まった。
 彼らの目の前に、いきなり現れたそれは、賊の一人であった!
 彼らは、一瞬、何が起こったのか、理解できなかった――理解したくなかったのかも知れなかった。
「このあたしから、逃げられるとでも思って? 」
 彼らの後ろから、マリスの声がする。
 彼女は、放射状に倒れている男たちの中心に積み上げられた、呻き声を上げている負傷者の上に立ち、腕を組んでいた。
 その中の一人を掴み取り、逃げようとする賊を足止めするために、ぶん投げたのだった! 
「ケイン、そいつらを逃がしちゃだめよ! 」
 マリスの声が、悪党たちに、残酷に響く。
「ひーっ!! 」
 山賊たちは、その場に、へたり込んでしまった。
「あんたたち全員には、これから、『最大の屈辱』を味わってもらうわ」
 マリスが妖しく微笑んだかと思うと、ひらりと飛び降りた。着地点には、やはり戦闘不能の賊が転がっている。
 踏みつけられた賊が叫び声を上げるが、マリスはおかまいなしだった。
「あ……、あんた、一体……何者なんだ……? 」
 一人が、勇気を持って――というより、その言葉が思わず口を突いて出ていた。
「あたしの名前は、ルシール。ただの町娘よ」
「う、うそだっ! そんなはずはねぇ!! 」
 マリスは、どこまでも、賊たちに不親切であった。

「マリス、お前って、超ドSだったんだな」
 山道を、町に向かって下っている途中、ケインが、苦笑しながら言った。
「そお? 小さな悪を退治しただけよ」
 マリスは、にこっと無邪気に笑った。
「あいつらは、金品を強奪したあげくには、平気で人を嬲(なぶ)りものにして、女は犯してきた連中なのよ。殺さないでやったんだから、それだけでも有り難く思ってもらわなくちゃ」
「でも、あいつら、あんな屈辱を受けるくらいなら、死んだ方がマシだと思ったんじゃないかなぁ」
「だからこそ、『最大の屈辱』なのよ」
 ケインとマリスは、顔を見合わせて、笑った。

「ど、どうか、命だけは、お助けを……!! 」
 五人の賊は、口々に、祈るように訴えていた。
「あんたたちは、そうやって命乞いをしている無抵抗の人間を、何十人、何百人、その手で殺(あや)めてきたのよ? 自分だけは許してもらおうなんて、ムシが良すぎるんじゃないの? 」
 マリスは腰に手を当て、彼らを軽蔑の眼差しで、思い切り見下していた。
「反省してるんでしょーね? 」
「も、もちろんです! もう、いたしません! 」
(調子のいいこと言ってるけど、こーゆー時って必ず、『ははは! バカめ! 』とか言いながら、躍りかかってくるヤツが、大抵一人はいるもんだが――どうやら、そんな殊勝気なヤツは、この中にはいないらしいな。かと言って、全員が、本当に反省してるとも思えないが)
 ケインは、彼らとマリスとのやり取りを、静観していた。
「よろしい! では、あんたたちは助けてあげる! 」
「えっ? そんな簡単に許しちゃうの? 」
 拍子抜けしたのはケインだけではなく、賊たちも呆気に取られ、口を半開きにして彼女を見上げていた。
「ただし、その証拠を見せてもらってからよ」
 そう言ってから、彼女のさせたことは――
 転がっている山賊全員を、素っ裸にし、一人ずつをロープで縛り、木の上から吊るすという作業だった! 
「冗談じゃねぇ! 何で、俺たちがそんなことを……! 」
 五人のうちの一人が、反抗的な目でマリスを睨んだ。
(あ、やっぱし、反省してない。まあ、確かに、反省してたとしても、そんなことするの、嫌だよな……)
 と、ケインも納得した時、

 しゅっ! 

 風を切る音がしたと同時に、マリスがマスター・ソードを横振りしていた。
 触れてはいないはずのその男の頬からは、赤い一本の線が横に走り、血が滲み出た。
「あんたも吊るされたいの? いいのよ、あたしが吊るしてあげても」
 冷ややかな目で、マリスが言い放った。
「その代わり、ただ吊るされてるだけじゃ済まなくなるのよ。わかる? あんたのケツの穴に、こいつをぶち込んでやるんだから! 」
「わーっ! まだそんなことを言うか!? 俺のマスター・ソードを、そんなふうに使うなー!! 」
 賊より早かったケインの反応に、マリスは、けろっとした顔で応える。
「あら、大丈夫よー。後で、こいつらに、綺麗に拭かせるから。
 これが、ホントの尻拭いってヤツよ。ほーほほほ! 」

 笑う者は、誰もいなかった。

 ――ということで、五人の賊たちは、自分の仲間を木に吊るし上げることに、専念しなければならなくなったのだった。
「ちょっとー、夕方から人と待ち合わせてんだからねー。早くしてくんない? 」
 マリスが、マスター・ソードを、ぶんぶん振り回して、催促する。
「は、はい、ただ今! 」
「てめえら! 裏切るのか!? 」
「やめねぇか、バカ野郎! 」
 五人は、苦し気な声を上げる仲間を、彼らに罵倒されながらも、急いで吊るし上げにかかっていた。まだ転がっている賊も、彼らとマリスを恨めし気に見つめている。
 それは、彼らにとって、確かに屈辱であった。
 全員を吊るし終えた後、マリスが更なる指令を与える。
 それは、『用意しておいた太い木の枝で、吊るした者の尻を、思い切り叩いて回れ』ということだった! 
「何てこと思いつくんだ!! このアマ!! 」
「この野郎! ふざけやがって!! 」
 吊るされた賊たちは、口々にマリスに罵詈雑言を浴びせていたが、マリスは、両手を腰に当てたまま、彼らを振り返りもしなかった。
「……も、もういいじゃないっすか、そんなバカなこと、わざわざさせなくたって……」
「そうだぜ。あんたには、情けってもんがないのか!? 」
 五人が、それぞれに、怯える目で、訴える。
(これって、やる方も、やられる方も、確かにバカだよな。思いつくヤツが、一番とんでもないが……)
 ケインも見守る中、
「情け? な・さ・け〜?? ――なによ、それ? 」
 無慈悲な言葉が返され、五人は一気にうなだれた。
「こいつらは、悪者よ! 尻くらい叩かれて、とーぜんじゃないの! あんたたち、反省したんなら出来るはずよ! 
 さあ! 今こそ正義のために、こいつらの尻を、思いっきりひっぱたくのよ! 」
 彼女の言うことは、皆には常に不可解であった。

 務めを果たしたその五人を、マリスは約束通り、逃がしてやった。
 吊るされた中には、なんとか脱出する者もいるかも知れない。
 逃げた五人は、常に生き残った元仲間に、追われる宿命となるのだった。


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