20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:Dragon Sword Saga 作者:かがみ透

第18回   第1巻 Z 話『因縁の対決』〜1〜
 空には、半透明の、若い男の顔が浮かんでいる。
 もちろん、本物ではない。どこからか、映し出されているのだと、ケインたちには解っていた。
 少しそばかすのある色白の、神経質そうな顔立ち、栗色の巻き毛――それは、間違いなく、クリミアム王国王子、クリストフのものだった! 
「まったく、チンケな計画を立ててくれたもんだよ。真相が解った時は、思わず呆れてしまったぜ」
 物怖じした様子もなく、ケインが肩をすくめてみせた。
「ほう……、では、どこまで当たってるか、君の推理を聞かせてもらおうじゃないか。それが、遺言にならなきゃいいけどね」
 王子の笑い声が、辺りに響き渡る。
 ケインは、淡々と、語り始めた。
「今回、魔道士を伴って入国してきたのは、マスカーナ王国とデロス王国の二国だが、実は、あなたも魔道士を連れてきていたんだ! それも、同国の特使には内密に。
 あなたは、ヤミの魔道士を雇っていた。クリミアムには、魔道士は、あまりいないらしいからな。
 そのヤミ魔道士は、どこからか、よからぬ連中をかき集め、アトレ・シティーで剣を集めさせた。
 クリミアムよりも、アストーレの方が、物資は豊かだし、腕のいい鍛冶屋もいることで、武器が充実しているからだ。
 だが、アストーレの騎士たちだって、同じ物を使っている。腕だって、訓練を積んでいる騎士の方が、断然いいはずだ。
 それに勝つには、剣に魔力を注いで強化し、同行した魔道士連中の攻撃も、簡単に防げるようにしておく必要があったんだ」
 空に映し出された王子は、ふふんと鼻で笑った。
「その時、偶然手にしたのがカイルの魔法剣だが、この計画では使えないことがわかり、持ち主のカイルが城にいることを知ると、さりげなく参謀の部屋に置いて、ダミアスさんがうさん臭くなるようもっていった。
 幸い、彼を良く思っていない人物が、何も言わなくても後押ししてくれたもんなー。カイルまで、すっかりダミアスさんを疑ってたし。
 最初から計画のうちだったかどうかはわからないが、あなたたちは、参謀のダミアスに皆の注意がいくように仕向けた。
 魔道に疎いアストーレのことだ。魔道といえば、すぐにダミアスを結びつけると踏んだんだろう」
「へえ、よくわかったじゃないか。いやあ、立派立派! 」
 王子は、感心して、手を叩いてみせた。
「確かに、始めは盗賊団の仕業にだけしておこう、という計画だったが、それじゃあ、いろいろとまどろっこしかったからね。ちょうど、アストーレの公爵たちが、参謀のことをよく思っていないみたいだったし、そっちに罪をなすりつけた方が、こちらのヤミ魔道士も動き易くなるだろうと思って、計画を少し変更したのさ」
 王子の顔は、くすくす笑っている。
「だけど、僕の目的は、アストーレの内紛なんかじゃないよ。君の推理は、まさか、そこで終わりだなんて、言うんじゃないだろうね? 」
「もちろんだ」
 ケインは、再び、話し始めた。
「俺は、王女誘拐未遂事件は、外国人の仕業だと、ずっと疑いをかけていた。
 参謀のことも、疑わなかったわけじゃなかったが、極めつけになったのは、犯行の日にちだった。
 誘拐未遂のあった翌日に脅迫状――こんなに立て続けに誘拐しようとするなんて、よっぽど自分たちが捕まらない自信があるとも考えられるけど、ひとつは、滞在時間にあったんだ。
 あなたたちは、アストーレにいる五日間で、勝負を決めなければならなかった。
 そう考えれば、参謀よりも、外国人の方が、しっくりくる」
 ケインの隣ではマリスが、後ろでは、クレアが、ずっと黙っている。
「いずれかの国が、姫を誘拐して莫大な身代金を請求するか、アストーレに自国の傘下に入れと要求するものと、始めは考えた。
 だが、今日、神殿からの帰り道で、どこの国のヤツが、どんな目的で、というのが、俺には一遍にわかったんだ……! 」
 そこで、ケインは、一旦、言葉を区切った。
 空の王子は、目を細めた。
「どうしたんだい? 続けないのかい? 」
「あなたの名誉のために、言わないでやることもできるが、ここには俺たちしかいないから、構わないか……」
 ケインは、再び空を見上げて、はっきりと言った。
「賊たちを捕まえている時、奴等の一人が『話が違う』とこぼしていたのを聞き、ほとんど無意識だったそいつの視線を辿ってみると、その先にあったものは、物凄い殺気を漂わせて、俺を睨む、あなたのその顔だった! 
 賊も、あなたには簡単にやられるよう、事前に申し合わせておき、王女誘拐を勇ましく阻止するという筋書きだった。
 すなわち、あなたは、どいつも歯が立たない、豪腕なデロス王子でさえかなわなかった賊に、ひとりで立ち向かい、脅迫状によって怯えきった王女の前で、……いいカッコしようとしたんだろう! 」
 王子の顔は、もう薄笑いを浮かべてはいない。
「盗賊たちの手から姫を救い、そのことでアストーレ王に恩を売り、姫との婚約を決定的にする――つまり、この事件は、お前の仕組んだ『狂言』ということだ! 」
 ケインは、空の王子の顔に、人差し指を突きつけた。
 王子の恨めしそうな顔が、見下ろしている。
「……あの、ケイン、あたしは、その事件とやらのいきさつが、よくわかんないから聞くけど……真相って、それだけなの? 」
 遠慮がちに、マリスがケインに尋ねる。
「……俺だって、何度も違うと思いたかったが、どうしても、それが一番つじつまが合うんだ」
 ケインが、空を睨む。
「……よく、そこまでわかったじゃないか。……褒めてやるぞ、ケイン・ランドール」
 王子の顔は、いくらか青ざめていた。
「えっ……」
 マリスとクレアが、げんなりした顔を、王子に向けた。
 青ざめた王子の顔は、意気消沈している。
「僕は、ずっと前に、アイリス王女の肖像画をもらった時から、僕の妃に迎えたいと思っていたんだ。
 そうしたら、今回の訪問では、あちこちの国からも、王子たちが来ることも知った。
 ライミアは、どこの国から見ても有益だ。王子は頭脳明晰と言われている。
 ガストー公子は非常な美男子で、ダンスも上手いと聞くし、マスカーナ王子は気持ちも優しく、詩を歌う才能に秀でていて、デロスの王子は武道に長けている。
 ……でも、僕には何もない。
 このままでは、残りの四カ国と、差がついてしまう。
 そう思って、この計画を立てたのさ」
 王子の声は、呟くようだった。
「やはりな。最初の事件の時、姫を攫った賊が、ウマで逃走したが、あいつは、自分たちのアジトへ行くでもなく、原っぱへ逃げていった。
 後になって、冷静に考えてみると、それはおかしな行動だったし、そもそも、あそこでウマが二頭用意されていたのは不自然だったんだ。
 ……あれは、あなたが乗るためのウマだったんだな? 」
 その時の様子を知らないマリスとクレアは、お互い顔を見合わせていた。
 王子は、低いトーンの声で、再び語り始めた。
「いかにも、お前の言う通り、一頭は姫を攫った犯人用で、もう一頭は、追いかけるように僕が乗る予定だったのだ。それなのに、お前が乗っていってしまった。
 二回目の誘拐は、警備の者の中に、お前の姿がないのを確認しておいたにもかかわらず、小姓なんかに化けていたとは……。
 またしても、王女を助けるという重要な僕の役どころを奪ってしまった! 
 ……あの後、夕食会でも、姫は、お前の話ばかりしていた。
 二度も助けてくれただの、小姓が実はお前だと知って感動しただの、戦う姿に思わず見蕩(みと)れただの……」
「いやいや、それほどでも」ケインは、えへへ、と頭を掻きながら笑った。
「照れるんじゃない! 」
 王子が、イライラして喚く。
「本当は、そうなるのは僕のはずだったのに! お前が僕の計画を潰したんだ! 」
 空に映った大きな顔は、地団駄でも踏んでいるのか、小刻みに上下している。
 天を見上げて、それまで黙っていたマリスが口を開いた。
「王子たちの中で、自分が一番見劣りするからって、イジケてないで、堂々としてればいいじゃないの。中身さえ良ければ、下手に小細工しなくたって、女心はゲット出来るものよ」
 それで慰めているつもりなのか、王子に向かって彼女はつけつけと言っていた。
「それが出来ないから、小細工してるんじゃないか? 」
「あ、そっか」
 ケインとマリスのやりとりを見て、王子は余計に地団駄を踏んだ。
「うるさい! 黙れ黙れ! 僕は、貴様らの三バカトリオを見に来たんじゃないやい! 」
「三バカって……! 私は、何も言ってないじゃないの! 」
 クレアが、それに向かって怒り出した。
「うるさい! そいつの仲間は、みんなバカだ! 」
「なんですって!? 」
「おいおい、変なことでケンカすんなよー」
 ケインがクレアを宥める。
「……まあ、幸い、誰にも怪我はなく、賊も捕えたことだし、そいつらのせいにして、事件の真相は黙っててやってもいい。
 だから、これからは、正当な方法で、姫の心をつかんでみな。じゃあ」
 ケインは、空に向かって手を振って、歩き出した。
 だが、王子は、それだけでは、気が済むはずもなかった。
「誰が貴様をこのまま返すと思うか? そこは、既に、僕の魔道士の結界の中だ! 貴様らの処分は、彼に任せてある。
 ……ケイン、貴様さえいなければ、姫は僕のものだからな! 」
「……どんな根拠があって、そんなことを言ってるんだか……。それなら、最初から堂々とすればいいだろ?」
 ケインが呆れ果てるが、王子はもう落ち着きを取り戻し、「それじゃあ、僕はもう眠るとするよ」と言うと、空に浮かんでいた彼の顔が消えていき、入れ替わりに、黒いフードを被った魔道士の姿が現れた。
 フードの中は影になっていて、皆からはよく見えないが、王子の時とは違い、黒い全身が映し出されている。
 かなり長身の男らしいが、横幅は、あまりない。
 干涸びた手のような、茶色の木の杖を持ち、その手には、緑色の大きな宝石の指輪と、銀色のヘビの形をした指輪とが嵌められていた! 
「ケイン、この人だわ! あの時、空間の中にいたのは! 」
 クレアが叫ぶ。
「やっぱり、そうか! クリストフ王子の雇ったヤミ魔道士……! 」
 魔道士は、頭上から、彼等をゆっくりと見回しているようだったが、ピタッと動きが止まる。
「ほほう、これはこれは、珍しいところで、お会いしましたな、ベアトリクス王国近衛兵及び、流星軍騎士、その後は辺境警備隊長マリス殿。あの辺境では、何かとお騒がせいたしましたな」
 魔道士の低い歓喜の声が響く。
「た、隊長って……お前、ほんとに……」
 マリスは、そういうケインをちらっと見ると、微かに笑っただけで、すぐにキッと空を見上げた。
「残念ながら、今はもう近衛兵でもなければ、警備隊長でもないわ。亡命したのは、あなたも知ってるんでしょ? 」
「それはそれは、存じ上げませんで、失礼致しました。……にしても、よく御化けになられましたね。そのようなお姿とは。てっきり、商売女かと思いましたよ」
 魔道士は、クックッと笑い声を漏らす。
「あんたこそ、出世したじゃないの。王子サマなんかに雇われてさ。『ヤミ魔道士グスタフ』! 」
 それこそが、先ほどマリスが参謀と思い込んでいた魔道士に、他ならなかった。
 ケインも、クレアも、気を引き締めて、空を見直す。
「覚えて頂いて光栄です。時に、御連れの魔道士の方は、いかがされたんです? 」
「あんたなんかを欺くために、今回は別行動を取ったのよ。
 思惑通り、まんまと出てきてくれちゃったわね」
 マリスが勝ち誇ったように言った。
 魔道士は、ほほほと笑った。
「さすがに、勘の鋭い御方だ。この国に、私がいるかも知れないと、最初から踏んでいたというわけですか」
「あんたとは、辺境警備隊時代からのよしみ。何者かが呼び出した中級モンスターたちが、このエリアで最近増えたって聞くし、行くとこ行くとこに次元の穴が開いてて、モンスターばっかり吹き出してたら、あんたの仕業かも知れないって見当が付いて当然でしょ? 
 あたしがヴァルと離れたら、案の定、こうして姿を現したことだしね! 」
 マリスが言い放つが、魔道士は一向に動じた様子はない。
「あなたがた二人を同時に御相手するのは、いくら私でも難しいでしょう。
 しかし、ここは既に私の結界の中。
 例え、彼のような一流魔道士でも、私に気付かれずに、ここに入ってくるのは難しいでしょうな。となると、私は、魔法を使えないあなたを御相手するだけでいのです。なかなか楽しませて御覧にいれますよ」
 魔道士グスタフは、ケインとクレアなど、まったく眼中にないような口ぶりだった。
「それは、どうも。でもね、あたしも、あんたを少しは楽しませてあげられるかも知れなくってよ」
「ほほう、それは、楽しみですな」
 彼は、面白そうな声を上げた。
「そうそう、実は、このような拾い物をしたのですが、見覚えはありませんかな? 」
 彼が手のひらを、上に返し、そこに浮かび上がったのは、木でできた小さな檻の籠だった。
 籠の中では、ピンク色の小さな妖精が、檻につかまり「出してー! 出してー! 」と、叫んでいた! 
(ミュミュ……!! )
 三人は、声には出さなかった。
 マリスは、顔色も変えない。
「別に、ただのニンフじゃない。珍しくも何ともないわ。あんたも趣味が悪いわねぇ。早く逃がしてあげなさいよ」
 それを聞いたミュミュが、魔道士に向かって叫ぶ。
「だから、ミュミュは知らないって言ったでしょ! あのおねえちゃんとは関係ないんだから、早く出してよおー! 」
「……そうか、知り合いではなかったか」
 魔道士が、ミュミュとマリスを見比べて言う。
「そうだよー! そうだよー! だから、出してー! 」
 マリスも、素知らぬ顔をしている。
「では、お前には可哀相だが、私の魔獣どもの餌になってもらおう」
「なっ……!! 」三人の顔色が変わった。ミュミュも泣き止む。
 魔道士の足元に、ぽっかりと黒い穴が開き、そこには、魚を原形としているらしいが、更に様々な動物をかたどり、合成された黒いモンスターたちが、何十匹と口をパクパクさせて、餌を待っていたのだった! 
 魔道士は、そこへ、ミュミュを捕えた籠を、徐々に近付けていく――!
「いやーっ! 助けてー!! 」
 ミュミュが、わーっと泣き出すと同時に、ケインが一歩出る。
 マリスがケインを手で制してから、諦めたように言った。
「待って、グスタフ! ……確かに、その子は、あたしの知っているニンフだわ。だから、こっちへ返して」
「やはり、お知り合いでしたか。いいでしょう。返してあげますよ」
 魔道士は、『そこ』から、籠を放った。
「うわ〜ん! 何すんのさ、バカー!! 」
 ミュミュが泣き叫びながら籠ごと回転して、落ちていく! 
 そのままでは、地面に叩き付けられる! 
 ケインは、夢中でミュミュを受け止めようと飛び上がった!
 ……と、後ろから、何かが飛んで来て、そのまま空に浮かぶ魔道士に突き刺さった――!
 ――に見えたが、それは、彼の半透明の身体を突き抜けて、そのまま飛んでいき、落ちた。
 マリスが短剣を放ったのだ。
「ほっほっほっ、何もしやしませんよ」ヤミ魔道士が笑う。
 ケインが籠を無事取り返し、着地する。
「危ないじゃないの、マリス! ケインやミュミュに当たったりしたら……! 」
「ケインの援護をしただけよ」
 それだけマリスはクレアに言い、すぐに空を睨みつける。
「本体は別のところにいるみたいね。そろそろ出てきたら? あたしと勝負するんじゃなかったの? 」
 彼は、またクックッと笑った。
「まあまあ、そうお急ぎにならずとも。とりあえず、『彼等』の餌になって頂いてからにしましょう。お預けを喰らってしまって、『彼等』も引っ込みがつかなくなってしまったようなんでね」
 途端に、魔道士の姿は消え、その足元でパクパクしていた黒いモンスターたちの影は、徐々に本体を表し、そのまま口をパクパクさせながら、天からゆっくりとなだれ込んできたのだった! 
 その口の中には、無数の牙が詰まっていた! 
「うわ〜ん! 早く出してー! 」
 ミュミュが泣き叫ぶが、剣で斬りつけても、籠は壊れない! 中にいるミュミュの身を考えると、ケインも思い切り斬りつけることは出来なかった。
「無駄ですよ。その籠は、そんなことでは壊せません。籠の中にいる間は、ニンフの特殊能力は使えませんよ。空間移動や回復の技などを使われては厄介ですからねえ」
 グスタフの声だけが、どこかから聞こえてきていた。
「しかたないわ。クレア、ミュミュをお願い! 」
 マリスが、天を見据えたままで言う。
 クレアは、ミュミュの籠を自分の足元に置くと、両手を合わせて精神を集中させる。
 ケインは、マスター・ソードを構え、マリスを後ろへ庇った。
「大丈夫よ。あたしも戦うわ」
 マリスが、ずいっと横に出る。
「何言ってるんだ! あんな大量のモンスターたち相手に、素手で向かおうってのか? むちゃ言うなよ! 」
 マリスは、ケインの方に顔を向け、にこっと笑った。
「あら、剣ならあるわ。ここにね! 」
 そう言うと、マリスは、いきなり自分のドレスをふわっと捲(まく)り上げた! 
「えっ!! な、何する……!? 」
 露(あらわ)になったマリスの太腿に、思わずケインの目は釘付けになっていた。
 そこには、細い革のバンドで括(くく)りつけられた彼女のロング・ブレードが存在していたのだった!
 ずびっ! 
 ずばっ! 
 ずしゃあっ! 
 どばっ! 
 彼女は、とうにモンスターたちに応戦していた。
 かっ捌かれた黒い肉片が、飛び散る。
 驚いたせいで一足遅れながらも、ケインも魔物たちを捌きにかかった! 


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 42