20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:Dragon Sword Saga 作者:かがみ透

第17回   第1巻 Y 話『アストーレ城の陰謀2』〜3〜
「……マリス……? ホントに、マリスなのか……!? 」
 目の前に現れた女は、貴族の姫君たちの着る、ふくらんだドレスとは違い、身体のラインがくっきりと現れ、裾が床まで広がった、白い質素な、サンドレスのような、肩を露出した姿であった。
 会いたいと思っていた彼女だったが、意外な登場の仕方に、ケインもクレアも、すっかり再会を喜ぶタイミングを外してしまった。
「他に、誰に見えるってのよ。……あ、そっか、あなたたちには、まだ見せたことなかったんだったわね。こういうのを着れば、あたしもまんざらでもないでしょ〜? 」
 マリスは、得意になって、片腕を上げ、ポーズを取って、ウィンクしてみせた。
 暗がりも手伝って、それは、とても一六歳の娘には見えず、大人っぽく、色っぽくも映る。
 ケインとクレアの目は、見開かれていた。
 中でも、ケインは、自分の頬に赤みが差しているのを、暗がりのおかげで、二人に悟られずに済んだことに、安堵していた。
「マリスったら、そんな下着のような服なんか着て、男の人がいっぱいいるところをうろついてたの!? 
 ……いいえ、それよりも、一体、今まで何やってたのか説明してよ! みんな心配してたのよ! 」
 クレアは、泣きそうな、心配した声であった。
「そお? 心配なんてしてくれてたの、クレアだけでしょ? 」
 マリスは、けろっとしている。
 冷静に戻ったケインが、尋ねた。
「今までどうしていたかは後で聞くとして、マリス、お前、こんなところで何やってたんだ? 牢番のオヤジたちを眠らせたのは、お前なのか? 」
「そうよ」
 あっさりと、彼女は答えた。
 ゴロゴロと転がった『マグロ』の牢の番人たち――あの奇妙さは、彼女の仕業だと言われれば、なんだかケインには納得出来てしまった。
「『いつもご苦労サマ♥』って、にっこり笑って、牢番たちにお酒注いで回ったの。
 眠り薬が入ってるとも知らずに、みんな喜んで飲んでくれたわ」
 マリスがころころと笑う。
「あなたたちこそ、こんなところで何してるのよ」
「私たちは、捕われた参謀の牢を探しているの」
 クレアは、王女誘拐未遂事件、脅迫状にインカの香の残り香、寄せ集めの盗賊団が武器ばかりを集め、カイルの魔法剣も盗られたが取り返せた、そして、今日起きた二度目の王女誘拐未遂事件……という、今までのあらましを、ざっと、マリスに伝えた。
「ふ〜ん、変な事件ね。実は、あたしも、その参謀さんにご用があったりするのよね」
 三人は、監房を一部屋一部屋通り過ぎながら、話を続けていた。
「あたしは、ちょっと遊んでから、アストーレの北側の森に行っていたの」
「あの例の、モンスターの噂のある? 」ケインたちも調べた森である。
「そう。『あんたたちのご主人は、どこ? 』って、獣人タイプのミドルモンスター締め上げたら、城だっていうから、城でちょうど女官を募集してたことだし、今日から女官になったとこなの。その格好だと、クレアも女官のバイトなのね? 城の中は広いから、管轄違うとなかなか会わないものね〜」
 などと気楽に笑うマリスに、クレアが驚いた。
「ちょ、ちょっと待って。マリス、あなた、……モンスターの言葉がわかるの!? 」
 マリスが笑い出す。
「まっさかぁ! ミュミュよ。あの子が通訳してくれたの」
 クレアが、今度はケインを見る。
「ああ、ミュミュたち妖精も、俺たちヒトからすれば妖怪変化の一種みたいなもんだからな。で、そのミュミュは、今は一緒じゃないのか? 」
「あら、そっちと一緒なんじゃなかったの? 」
 三人は立ち止まって、顔を見合わせた。
「……ま、いいわ。いずれ、見付かるでしょう。……多分ね……」
 マリスが、何か考えながら呟いた。
「それで、さっきの話だけど、マリス、なんで俺たちと別行動なんか取ったんだよ? 途中で連絡くらいくれても」
 マリスは、少し困ったように笑った。
「ごめんなさい。例の参謀って、もしかしたら、あたしの知ってるヤツかも知れないのよ。この町では、なるべく目立たないでいたかったの。でないと、そいつに逃げられちゃう可能性があったからね」
 マリスは、そこで、足を止めた。
「あの奥の部屋に、参謀が閉じ込められているわ。あたしは、ここで待ってるから、ケイン、先に話を済ませてきて。何か聞きたいことがあるんでしょう? 」
「それはそうと、よく参謀の独房知ってたな」
 マリスは、笑った。
「かーんたんよ。色仕掛けで口割らせたのよ」
「また『武遊浮術』の『愛技』か」
 顔をしかめているケインに、マリスはウィンクして笑ってみせた。
「そ。それも、『中級編』ね」
 以前、ケインが仕掛けられたのよりもランクが上らしい。
(『初級編』は、可愛らしさを強調する技だったような……? 『中級編』っていうと、……それよりも、もっと……? )
 牢番たちに、ベタベタしながら、酒を注ぐ姿を想像したケインは、ムスッとした。
 クレアは、何のことかわからず、二人を見ていた。

 独房には、ケインがひとりで向かう。
 マリスから預かった鍵を、鍵穴に差し込み、ゆっくりと回す。
「ダミアス殿、失礼致します」
 扉を押し開けると、鉄格子の向こうは、まるで貴族の書斎を思わせるような、絨毯が敷き詰められていて、書き物机もあり、豪華なソファまであった。
 牢獄とはいえ、参謀という位の高い人間は、丁重に扱われているのが伺える。
 ソファで、じっと座っている魔道士の姿が見えた。
 彼は、ゆっくり目を開けた。
「傭兵のケイン・ランドールです。少し、お話がしたくて参りました。アストーレ王からの、牢の中を行き来できる委任状も持っています。よろしいでしょうか? 」
「……なぜ、ここへ……? 」
 表情のない顔のまま、ダミアスは、重い声を発した。
 委任状を見せてから、ケインは語り始めた。
「今日、脅迫状の予告通り、王女殿下の誘拐事件が起きましたが、またしても、未遂に防ぐことが出来ました。
 二〇人ほどの賊を現行犯で捕え、尋問しましたところ、奴等は首謀者の名前を吐きました。
 ……あなたの名前です」
 じっと見据えている、ケインの深い青い瞳を見つめてから、ダミアスは、静かに口を開いた。
「これで、私が犯人という、決定的な証拠が出来た、というわけか」
 声には表情は現れていなかったが、ほんの少しだけ、笑っているようであった。
 何かを諦めたような笑いである。
 ケインは、微笑んでみせた。
「でも、なぜか、俺には、あなたは事件とは関係ない気がしてしょうがなかったのです」
 ダミアスは、僅かに不思議そうな目になった。
「私の犯行を裏付ける証拠ばかりが揃っているというのに、……なぜまた……? 」
「そこなんです。『あなたに不利な証拠ばかりが揃っている』ことに、俺は、逆に、『不自然さ』を感じたのです。
 それなのに、あなたは、何の弁解もなさらずに、ここにこうしている。
 ……もしかして、誰かを庇っているのでは、ありませんか? 」
 魔道士の参謀は、じっとケインの目を見据えたままだった。
「俺にとって、二つ、引っかかることがあった。そのうちのひとつは、魔法剣のことです。クレア、入ってきてくれ」
 呼びかけに答えて、クレアがおそるおそる、ケインの後ろから現れる。
「この方を、『見て』くれ」
 彼女はダミアスの前で、静かに目を閉じ、彼の波動を感じようと精神を集中させた。
 ケインは、それを静かに見つめる。
 見終わると、クレアが振り返った。
「あの時の魔道士は、この人じゃない気がするわ。それに、私の見た『手』とも違うみたい」
「よっしゃあ! やっぱり、そうか! 」
 ケインは、軽くガッツポーズを決めると、ダミアスに振り返った。
「やっぱり、あなたは、魔法剣を奪ってはいない上に、奴等の主人ではなかったのですね? 
 真犯人の目星は、俺にはもうついています。あなたの無実を、俺が証明してみせます! 
 それまで、もう少し辛抱していてください」
 ケインとクレアが牢を去ろうとした時、参謀の声が後ろから追いかけた。
「公爵殿方は関係ない。あの方々は、ただ、私を面白く思っていないだけだ」
 二人は、足を止めて、ダミアスを振り返った。
「……やはり、あなたは、あの方々を庇っていたのですね。なぜです? 」
「……あの方々は、陛下のお従兄弟。私を追い出すために、今回のことを思い付いたのであれば、そのことを陛下にお伝えするわけにはいかないのだ。
 陛下は、気持ちの優しいお方。もし、御自分の身内が企んだことと知れば、心を痛めてしまうに違いない……」
 それを聞いたクレアが、はっとなった。
「もしかして、その計画にあえて乗って、……まさか、この国を出る決心までしていたのでは……? 」
「……なるほど、そうだったのか。
 だけど、残念ながら、というか幸いというか、俺が真犯人だと目を付けているヤツは、公爵たちではないんだ。だから、安心してくれ」
 参謀は、少し見開かれた目で、ケインを見た。
 ケインは微笑むと、クレアと独房を出て行った。

「話は済んだ? 」部屋を出ると、離れて待っていたマリスが言った。
「ああ。次は、マリスの番だよ」
 彼女は、レザー・ナックルを取り出し、手に装着し始めた。白いサンドレス姿には、似つかわしくない。
「……何してるんだ? そんなものはめて」
 彼女は、深呼吸してから、言った。
「今から、あいつをブチのめす! 」
 ケインとクレアは、慌てて彼女を取り押さえた! 
「何でそんなことするんだよー! 」
「そうよ、マリス! いきなり、そんな野蛮なことやめて、せめて話し合って! 」
 マリスは二人を引きずりながら、独房へと一歩ずつ近付いていく。
 武遊浮術を極めた彼女を、力で止めることは、誰にも出来ない。
「あいつとは、ちょっとした因縁があってね。モンスターも呼び出してることだし、ここで、一気にカタをつけてやるわ! 」
「だったら、それは、もうちょっと待ってくれないか? あと、二日……いや、一日でもいいから! 彼は、逃げたりしない。保証するよ! 」
 マリスの足が、ピタッと止まる。
「……絶対? 」
 ケインもクレアも、こくこく頷いた。
 マリスは、腕を組んで、しばらく考えていたが、「いいわ。今は、ヴァルもいないことだし、ま、いざとなれば、あいつは『サンダガー』にやらせるか。
 サンダガー飼い馴らすには、時々エサをあげないとね」
「お前は、『神』を餌付けしてんのか!? 」
 にこにこしながら、とんでもないことを言うムスメであった。

 そして、ケインたちが、もう一カ所、寄りたかったところに着いた。先程捕えた盗賊団のいる牢屋である。
 賊たちは、大きめの檻の部屋に二、三人ずつ入れられていた。
 牢にブチ込まれているというのに、すーすーと気持ち良さそうに眠っている。
「おい、起きろ」
 ケインは、檻の外から、彼等を見下ろした。
 目を開けた賊たちが、檻の向こう側を見る。
「ああっ、てめえはっ……! 」
「あの時の、強え小姓!! 」
「……小姓? 」
 賊たちの言うことを聞いて、ケインの後ろにいたマリスが、隣のクレアを見る。
「それは、お前ら一味を欺くための仮の姿。しかして、その実態は――
 旅の傭兵『よろずやケイン』だったのさ!! 」
「……」
「……」
「……」
 辺りは、静まり返っていた。
「ねえ、なんだか、あんまり強そうなネーミングじゃないわね? 
 単に、働き者だってことが言いたいのかしら? 」
 そうマリスがクレアに耳打ちしているのが、ケインにも聞こえる。
 気を取り直して、ケインは続けた。
「さあ、オッサンたち、ホントのことを吐いてもらおうか。お前たちと手を組んだ魔道士は、一体誰なんだ?」
「だから、さっき言ったじゃねーか! 」
「ダミアスだよ! 何度聞けば気が済むんだよ! 」賊達が喚く。
「そんなこといって、実は、他のヤツなんだろ? 」
 それでも、賊たちは、同じことを繰り返し言うだけだった。
 それを、ある意味、満足したように見渡してから、ケインは言った。
「そうか。それにしては、お前たち、随分あっさり答えてくれたじゃないか。黒幕を、そんなに簡単にバラしちゃって、怒られないもんなのかね? 普通、『死んでも言うもんか! 』とか言うもんだぜ? 」
 賊たちは、ぴたりと押し黙った。
「それに、『様』が抜けてるんじゃないか? 相手は、王国の参謀殿なんだろ? 
しかも、雇い主なのに、呼び捨てなんていけないなぁ」
 にやにやして余裕のケインに対して、賊たちは、お互い顔を見合わせ、動揺が見えた。
「ケインが気になったことの二つ目って……」
「そう、こいつらの態度さ」
 クレアに、ケインが肩をすくめてみせた。
「簡単に黒幕白状するわ、捕まっても、安心したようにぐーぐー寝てるわ。雇い主が参謀だとしたら、こんなに安心してられない。他の誰かに身の保証されてるの、バレバレだぜ」
 クレアも納得した。
「あんたたち、早く吐いた方が、身のためよ」
 いつの間にか、マリスが檻の鍵を開けて、中に入っていた。
「おい、マリス、……そんなとこで、いったい……? 」
 ケインが、そう言い終わらないうちに、彼女は、いきなり、中の一人を捕まえ、ねじ伏せた!
 賊は、叫び声を上げた。
「さあ、あんたたちを雇った魔道士の名前を吐きなさい! 『ダミアス』なんて名前じゃないはずよ! 」
 マリスが、のしかかりながら、そいつの腕を抱え込む。
「い、いてえ! 何すんだ、このアマ! 」
「早く言わないと、この腕へし折るわよ」
 彼女に腕を反対側に曲げられ、男は苦しそうに、呻き声を上げる。
「だから、参謀のダミアスだって……! いててて!! 」
 檻の中の残りの二人が、マリスに襲いかかるが、あっさりと、殴り飛ばされ、壁に打ち付けられる。
 ごきゅ!
 鈍い音と同時に、絶叫が、牢屋中に響いた。
 クレアが、思わず顔を伏せる。
「こ、こいつ……! 俺の腕を折りやがった!! 」
 ケインが、慌てた。「お、おい、何もそこまで……! 」
「なによ、腕の一本や二本。大の男が、それくらいで泣き声出すなんて、情けないわよ! 」
 マリスは、そいつを放り出すと、今度は、よろよろ立ち上がっていたモヒカン頭の足を、蹴って転ばせ、背に馬乗りになった。
 男が叫ぶ。
 白いドレス姿の女が、野盗にのしかかっている図などは、ナンセンスである。
 残った一人は、恐怖のため、身動きも取れず、これ以上開かないほど目を見開いて、『それ』を見ているしかなかった。
「さあ、これが脅しじゃないって、わかったでしょ? さっさと吐きなさい。
 参謀殿は、ダミアスなんて、ふざけた名前じゃないはずよ! 『グスタフ』でしょ!? 」
「……えっ!? 今、なんて……?? 」と、クレア。
「おい、マリス、……城の参謀の名前なら、ダミアスだぜ。『グスタフ』って誰だ? 」
 驚いたマリスが、二人を見る。
「『ダミアス』……!? 『グスタフ』じゃないの!? 」
 ケインとクレアは、首を横に振った。
「なあ〜んだ、ヒト違いか」
 マリスは、あっさり、賊を放して立ち上がった。
「クレア、こいつら、治してやって。大丈夫よ、あたしが一緒についててあげるから」
 クレアが、怯えながら檻の中に入っていき、負傷した賊たちを、白魔法で治療してやる。
「もともと、白状させた後は、こうしてあげるつもりだったのよ。ね? やさしいでしょ? 」
 マリスは、ケインとクレアに微笑みかけた。クレアの顔は、引き攣っている。
「お前なあ、あんまりむちゃくちゃするなよ。それに、参謀が、お前の探してるヤツかどうかくらい、ちゃんと確かめてから行動しろよ。
 危うく、関係のない人間を、やっつけようとしたところだったんだぞ」
 と、呆れているケインに向かって、
「あら、大丈夫よ。あたし、グスタフの顔なら知ってるもの。やっつける前に、気付くわよ」
 マリスは、にっこり微笑んだのだった。

 牢の塔を出て、ケインたちは、もと来た道を戻っていた。
「ケイン、調べものは、まだあるの? 」マリスが尋ねる。
「まあな。今度は、真犯人のところへお邪魔するんだ」
「それは、誰なの? 盗賊たちからは、そこまで聞き出さなかったじゃない? 」
「ああ。俺には、もうわかってるから」
 ケインが、再び答えた時、
「……ねえ、何か変だわ……! 」
 クレアが、辺りを伺いながら、慎重な声を出した。
 その途端、嘲るような笑い声が、辺りに響くと同時に、周りの景色が、『ぐらり』と揺れた!
「よくも、邪魔してくれたな、ケイン・ランドール! 」
 空から、若い男の声が、降り注ぐ。
 クレアが怯えた表情で、ケインを見る。ケインは目で合図して、彼女を自分の後ろに下がらせた。
 マリスは、腕を組み、目だけで辺りを油断なく伺っていた。
「今度こそ、真犯人のご登場のようだな! 
 クリミアム第一王子、クリストフ殿下! 」
 ケインは、空に向かって叫んだ。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 42