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作品名:Dragon Sword Saga 作者:かがみ透

第11回   第1巻 W 話『誘拐事件』〜2〜
 清々しく、晴れ渡る空であった。
 ミュミュの言った通り、大通りの両側には露店がずらっと並んでいる。
 図書館に行く前に、ちょっとだけ見物しようと、ケインがクレアを誘った。
 そうでもしなければ、真面目なクレアは、気を抜かないと思ったからだ。
 おもちゃの短剣や、防具、マント、国旗、冠などを売っている子供向けの店や、動物を形どった置き物、いろいろな色や形をした石やアクセサリー、宝石などの店もある。
 クレアが、アクセサリーのひとつを手に取って、眺めていた。
「それ、気に入ったの? 」
「え、ええ。でも、巫女は、お守りやまじないのアクセサリーしか、身に着けられないから」
「魔道士になるんだったら、多少はおしゃれしても構わないんじゃないの? 」
「そうだけど……」
 クレアは、どうしたものか、迷っていた。
「おじさん、これ、ひとつくれる? 」
 クレアが慌てた。
「いいわよ、ケイン、わざわざ買ってくれなくても」
「いいじゃないか。こんな時くらいしか、プレゼントなんて出来ないんだから」
 何の気なしに購入すると、ケインは、シルバーのシンプルなデザインのネックレスを、クレアの首に着けてみせた。
「ほら、似合うよ」
 クレアは、頬を赤らめた。
「ありがとう。アクセサリーをプレゼントされたのなんて、初めてだわ。……嬉しい」
 ケインは、驚いて、クレアを見つめ直した。
 町娘でさえ、アクセサリーくらいは、身に着けているものだ。
 見守り石の意味合いもあるが、たいてい、ネックレス、髪飾り、イヤリング、ブレスレット、指輪……などが多く、色や形、磨き方や石のカットの仕方など、好みの物を着けていた。
 良く磨かれていたり、カットが凝っているほど値段も高いので、町民の手を出せる範囲では、丸い形で、色も不透明に近く、濁っていたりするものが多い。
 石の透明度が高く、凝ったカットと、他の金属や鉱石を組み合わせた装飾が施されるほど高級品で、貴族階級でないと、なかなか手に入れられないものだ。
 特に、珍しい鉱石が発掘されたアストーレでは、装飾品の需要は高く、貴族でも市民でも、誰しもが、ブレスレットとネックレスを着けるのは当たり前になっていた。
「そうか……。巫女って、随分慎ましやかにしてなきゃいけないんだな……」
 カイルがもったいながるのが、ケインにはわかる気がした。
 目鼻立ちも整っている上に、クレアは、控えめで、人々に好印象を与える美少女であった。
 着飾れば、一国の王女にだって、見られないこともないだろうに、質素な装いしか許されなかったとは。
 ケインは、気の毒に思った。
「ミュミュにも、何か買ってーっ!! 」
 いきなりミュミュがケインの耳元に現れた。
「うわっ、びっくりしたー! お前、どっから……? それよりも、カイル見なかったか? 」
「知らない。さっきまで一緒だったけど、街娘たちに囲まれて、どっか行っちゃったよー。ミュミュ、ひとりでつまんないから、こっちに来たの」
 ケインは、またしても、彼に呆れた。
「まったく、あいつは! クレアに、『俺たちの側を離れるな』とか言っといて、なんていい加減な! 」
 クレアも、彼の隣で、呆れた顔になる。
「それでさー、クレアに買ってあげたんなら、ミュミュにもアクセサリー買って!! 」
「ええっ? だって、ここには、ミュミュに合うような小さいものは……」
 ふと、小指用の指輪を見付けた。
「これなら、足にはめられるかな? 」
 ケインは、銀色の輪っか(リング)を、つまみ上げ、ミュミュがそこへ足を通す。
「わーい、わーい! はけた、はけたー! 」
 その後、三人は、他の露店を見たり、ミュミュの希望で芝居を見たりした。
 見物客でいっぱいだったので、大通りには向かわず、少し離れた道を行くことにしたのだが、そこで、ミュミュは、どうしてもパレードが見たいと言って、消えてしまった。
「私、今まで、こんなに規模の大きいお祭りなんて見たことなかったわ。
 もちろん、街の大きさ自体が違うんだけど、モルデラでは、収穫祭くらいしかやらなかったの。
 それも、毎回準備に追われているばかりで、全然見れなかったし……今日が初めてよ、見る側に回れたのは」
 クレアが、晴れ晴れとした笑顔を見せている。
 苦労が多かっただろうと、彼女の今までを想像していたケインは、良かったなぁと、微笑ましく、彼女の笑顔を見ていた。

 その時、近くで悲鳴が聞こえた!
「助けてくれー! マリスー!! 」
 聞き覚えのある声に、ケインとクレアは顔を見合わせると、声のした方に向かって、走り出した。

 狭い道を抜けると、空き家のような古い家が見え、裏は原っぱになっていた。
 そこで、カイルが数人の柄の悪い男たちに追いつめられ、殴られて吹っ飛んだのか、壁を背に、寄りかかっていたのだった。
 彼の魔法剣は、そのうちの一番大柄な男が持っている。
「ああ、ケイン! ちょうどよかった! 助けてくれ! 」
 駆けつけたケインを見付けると、尻餅をついているカイルが、情けない声を出した。
(それにしても、こいつ、オンナに助けを求めるとは……)
 ケインは呆れながらも、カイルと男達の間に入った。その後ろで、クレアがカイルを抱え起こす。
「ほう、知り合いがいたとはな」
 男たちは、町人のなりをしているが、この街の、出会って来た人々とは雰囲気が違う。
 といって、山賊や盗賊とも違っていた。
「五人がかりで一人を襲うとは、賊まがいのことをして、何のつもりだ」
 ケインが凛として男達を見据えるが、彼らは答える気はないようだ。
 にやにやして、彼を見回しているだけである。
「ケイン、こいつら、やっちゃってくれよ! ちくしょー、俺の剣を返せ! 」
 カイルは、そう喚(わめ)いているが、ケインは、やたらに戦うことはない、話し合いで解決するならば、と思っていた。
 もっとも、このパターンで、今まで解決してきたことなどなかったが。
「この剣は頂いていく。ついでに、貴様の剣も、置いていってもらおうか」
 魔法剣を持っている男を除いた四人が、それぞれ剣を構え、じりじりと間合いを詰めてきた。
「取れるもんなら、取ってみな! 」
 言うと同時に、ケインはマスターソードを抜いて、手前の者に向かっていった。
 ただし、剣は、あくまでも防御のためだけであって、相手の剣の攻撃をマスターソードで躱(かわ)しながら、右手で続けざまに二人、腹と鳩尾(みぞおち)に重い一撃を喰らわす。
 下手に、顔などを殴るよりも、この方が、しばらくは苦しくて身動きが取れないからであった。
 彼らは、ケインが剣を使うものとばかり思っていたのか、少々面食らっている。
 すかさず、ケインは、ひらりと飛ぶと、『頭(かしら)』と思われる、魔法剣を手にした男の前に降り立ち、そいつの喉笛に、ピタリと剣を当てた。
 飛び越された男たちが追いかけようと体の向きを変えたところで、足が止まる。
「さあ、その剣を、こっちに返してもらおうか」
 静かなケインの声に、頭目の額から、一筋の汗が、つつーと流れた。

 と、その時!
 何もない空間に、突如『割れ目』が出来た!

 ちらっと見えた縦に割れた空間の中は、空とは全然違っている。
 いろいろな色が混ざり合ったような、見たことのない景色であった!
 賊の頭目が悲鳴を上げ、暴れながら空中に浮かぶと、その中に吸い込まれていく!
 残りの賊たちも、それぞれ宙に浮かび上がり、困惑しているうちに、空中にあちこち出来た同じような他の割れ目へと、それぞれ消えていってしまった。
 恐ろしい恐怖の叫び声さえもが割れ目に吸い込まれ、割れ目とともに消えていった。
 そこには、元通り、何事もなかったかのように、空があるだけであった。
「……そ、そんな……! 何だったんだ、今のは……!? 」
 ケインは、目の前で起きた光景に驚きを隠せなかった。クレアも、声も上げられないほどだ。
「俺の剣ーっ!! 」
 後ろから、カイルの叫ぶ声がする。
「ごめん、カイル。魔法剣、持って行かれちゃった」
 ケインは、振り向いて、「えへっ」と、笑ってみせた。
「笑ってごまかすなーっ!! そんなこと、男がやってもかわいくないぞーっ!! 」
「あ、やっぱり? 」
 ガミガミとケインを罵(ののし)っているカイルには構わず、背を向け、ケインは腕を組む。
「それにしても、空間に消えるなんて、あんなこと、奴等(やつら)に出来るはずがない。あれは、魔法なのか?」
「私、さっき見たの。最初に、魔法剣を持った人が割れ目の中に吸い込まれた時、中から引っ張っている手が見えたの」
 ケインもカイルも、クレアに注目する。
「あんなことが出来るのは、人間では、魔道士しか考えられないわ」
 がくっと、カイルが跪(ひざまづ)いて、頭を抱える。
「ああ、なんてこったぁ! 俺の剣が、よりによって魔道士の手に渡ってしまうとは……!! 」
 魔法剣は、人の持つ精神力や、魔力に反応する。
 魔道士ならば、剣の威力を最も引き出せてしまうところだ。
「でも、カイルの魔法剣は、ミュミュによると、精霊の意志が関係してるんだろ? だったら、たとえ魔道士が持っていたとしても、悪いことには使えないんじゃないか? ましてや、それを使って俺たちがやられることもないし」
 カイルが、がっくり肩を落として溜め息をつく。
「ケイン、お前って、つくづくおめでたいヤツだな。あんな、空間を行き来するなんて、相手は上級の魔道士だぞ? そんなヤツなら、他の魔法攻撃も出来るように、剣をちょっと改造しちゃうかも知れないし、だいたい、俺の身を守るものがないじゃないか! 
 普通の剣じゃ、中級モンスターを倒すことすらできないんだし、お前のバスター・ブレードみたいに、対魔物用に出来てる剣なんて、そこら辺には……」
 カイルは、はっとなって、ケインの手にしている剣を見つめた。
「ケイン、その、そのマスターソードってヤツを、俺に貸してくれ! 」
 カイルは、すばらしい思いつきに、瞳を輝かせていたのだが……。
「………………………………………………………………………………………………………………………………」
「そんな、不審な者でもみるような目つきで、俺を見るなよ。なっ? なくさないようにするからさー、貸してくれよー」
 無言で疑いの目を向けているケインに対して、カイルはヘラヘラと愛想笑いを浮かべた。
「カイル、ひとつ聞いていいか? お前ほどの腕なら、さっきの奴等なんか簡単に追っ払えたんじゃないのか? それが、どうして? 」
 カイルは、クレアの方をちらっと見たが、すぐに目を反らした。
「……一緒にいた女を助けたかったら、武器を捨てろって言われたんだ。彼女が逃げてから殴られた。幸い、顔じゃなかったから、良かったけどな」
 クレアもケインも、呆れた視線をカイルに送った。
 二人と別れてから、それほど時間も経っていないというのに、もう女と知り合ったというのか。
(女の子を守ろうという心掛けは立派だが、ことの始まりが始まりだから、同情出来ない。こんなヤツにマスターソードを貸したりしたら、女の身の保証と引き換えに、悪党どもに、簡単に売り渡さないとも限らない……)
 しばらく考えてから、ケインは、にこっと笑いかけた。
「カイル、武器屋に行って、お前の剣を見てみよう」
「わーっ! やっぱり、お前、俺を信用してないな!? 」
「当たり前だ! 」
 二人のやり取りを、クレアは、しょうもなさそうに見ていた。

 クレアが、このことをヴァルドリューズに報告するついでに、勉強もするというので、二人は、図書館まで送っていった。
 クレアの初めての祭り見物は、ほとんどくだらないことに時間を費やしてしまい、呆気なく終了してしまったのが、ケインには可哀相に思えてならなかったのだが。
 それから、二人は、武器屋に向かった。
 すれ違う町娘たちが、振り返る。
「傭兵の人たちだわ。外国人みたいね」
「格好良いわね」
 などという声がちらほらする。
(ふ〜ん、カイルって、女から見ると、そんなにカッコいいのか。まあ、イケメンではあるけどな)
 と思いながら、ケインが彼を見ると、カイルは、すれ違い様に女たちに、ふっと微笑み、流し目を送っていたのだった。
「お前ー、そーゆーことして、女を誘(おび)き寄せてたのか!? 」
 そこへ、二、三人の町娘たちが集まってきた。
「ねえねえ、傭兵さんたち、どこからいらしたの? 」
「あそこの焼き菓子、とっても美味しいのよ」
「一緒に食べない? 」
「じゃあ、お言葉に甘えて、お茶にでもしようかなー」
 はしゃいでいる娘たちに、カイルも、にっこりと、さわやかな笑みを送る。
(ホント、懲(こ)りないヤツ)
 呆れているケインに、町娘の一人が話しかけてきた。
「そっちの傭兵さんも、いかが? 」
 気が付くと、娘はケインに、誘うような、媚(こ)びた目を向けていた。
「いらない。食べたくない」
 ケインは、無愛想に、つっぱねた。
 その反応にしらけた町娘たちは、次々去っていく。
「お前さあ、彼女たちに失礼だろ? せっかくの好意をそんな簡単に無にするもんじゃないぞ」
「武器屋に急ぐぞ」
 ケインは、ぶーぶー言うカイルには取り合わずに、先を急いだ。
 祭りのせいで、町全体が開放的になっているようだった。
 先ほどとは違う娘たちが、こちらを見て、黄色い声を上げていたかと思うと、またしても彼らは囲まれていた。
「あのう、どちらから、いらしたんですか? 」
「話すほどのところでもない」
 やはり、無愛想に振る舞うケイン。
「旅の傭兵さんなんでしょう? いろいろお話聞きたいわ」
 カイルが何か答えかけていたが、ケインは、彼の首根っこを抱え込んだ。
「俺たちは、恋人同士だから、放っておいてくれ」
 町娘たちは、さーっと、いなくなってしまった。
「あーっ! お前、何てこと言うんだよー! みんないなくなっちゃったじゃないかあ! 」
 カイルが、ギャーギャー言っても、ケインは無視した。
「あのなあ、町娘の中にはな、同じ町の男なんかよりも、外の国で戦ってきた強い男との恋を夢見てる娘だっているんだぞ。
 平凡な生活の中にいるからこそ、よその国から来た、栄誉ある伝説的な男と、燃えるようなひとときを過ごしたい――そういう女心が、お前には、わからんのか!? 
 それを、お前は、むざむざと、よりによって、俺たちが恋人同士だなんて、ふざけた言い訳しやがって、あの娘たちの純粋な気持ちを踏みにじったんだぞ! 」
(よくもまあ、そこまで自分に都合よく考えられるもんだ。早い話が、それにあやかって、自分がオイシイ思いをしたいだけだろ? )
 ケインが取り合うのもバカバカしく、黙っているのをいいことに、彼は喋り続けた。
「お前さあ、女嫌いなの? それとも、女が怖いとか? もしかして、ホントに男が好きとか? 」
 ケインは無視して、勝手に言わせておいた。
「あ、わかった! 実は、好きなヤツがいるんだろー? 誰だよ、白状しちゃえよ、黙っててやるからさ。
 郷里(くに)に置いてきてるとか? 仲間内か? クレアか? マリスか? それとも……
 ヴァルドリューズか!? 」
 ばたっ!!
 コケたケインは、ゆっくりと立ち上がった。
「俺はなあ、進んで恋人作るようなマネはしないんだよ。旅は続けるし、戦いの中でいつ命を落とすかわからない身だろ? 残された女の方はどうなる? ずっと俺を引きずって生きていけってのか? そういう思いはさせたくないし、別れが辛くなるようなことは、わざわざしたくないんだよ」
 言っていて、自分の中のどこかが疼(うず)いたような気がした。以前ほどではないにしても。
「俺だって、そんな殺生なことはしたくねーよ。だからさあ、一瞬だけでいいっていう娘を見付けるんだよ。お互いがそういう気持ちなら、後腐れだってないんだからさあ」
 キッと、ケインがカイルを睨む。
「俺は、そういう考えは持ち合わせてない」
「ふ〜ん、あっそ」
 カイルは、面白くなさそうな声を出した。

「生憎(あいにく)、さっきちょっとパレードを見に行ってる間に、いい武器は盗まれちまったみたいでね。今は、これくらいしか残ってないんだよ」
 武器屋の主人の話に、二人は唖然となった。
「おい、頼むよ、おっさん。パレードが見たかったら、ちゃんと店番置いとけよ」
 カイルが文句を言った。
「いやあ、町の警備隊も、パレードの方の護衛で手一杯でさ、頼めるのがカミさんくらいしかいなくてさ。
 そしたら、いきなり五人くらいの男が押し入っていて、いい剣をみんな持っていっちまったんだそうなんだよ」
 ケインとカイルは、顔を見合わせた。さっきの五人組だろうか? 
「その五人て、賊か? 」
「いいや、盗賊とは違うらしい。ちゃんとした、そこら辺の町人の服を着ていたようだし、カミさんのことを脅して、武器を盗っていっただけだったしなあ」
「パレードの時間ていったら、お前が襲われてた頃だぞ」
「奴等の一味かな」
 ケインとカイルが、ひそひそ言い合う。
「おじさん、宿屋の近くに鍛冶屋があるだろ? あそこで剣を作ってもらったら、どのくらいでできるかな?」
 ケインが尋ねる。
「そうだねえ、今日は祝日で、皆浮かれてるからねえ、まあ、一週間あれば、作ってくれるだろうよ」
「冗談じゃねーや。剣が出来上がるまで、ケインかヴァルが護衛でずっと一緒だってのか!? 
 それじゃあ、女の子たちと茶も飲めやしねぇ」
 カイルの呟(つぶや)きが、ケインにも聞こえる。
「しょうがないなー。じゃあ、ここにある剣の中から、カイル、好きなの選べよ」
 剣が出来るまで、彼のお喋りに付き合える自信は、ケインにはなかった。
 今思うと、湖の鍛冶屋は、甲冑と剣を半日で作れたというのは、腕が良かった、または、不思議な力でも使えたのかも知れないな、などと、ケインはうっすら思った。
 その間に、カイルは、柄のところに、ちょっとした細工のある普通のロング・ソードを選んだ。
「ありがとさん。じゃあ、ちょっとおまけして、二〇リブルでいいよ」
 店の主人がにこにこ顔で言う。
「――だってさ、ケイン」と、カイルは、ケインの肩に、ぽんと手を乗せる。
「は? カイル、お前、マリスからもらった金は? 」
「どっかで落としてきたらしい。えへっ♥」
 彼は、頭を掻きながら、笑っている。
(ホントだ。男がやっても、かわいくないっ! )
 恨めし気に見るケインに、カイルは、一層ヘラヘラしてみせた。
「『色男、金も力もなかりけり』って、言うじゃないか。はははは」
「……そんなこと、言わないぞー」
 ケインは、仕方なく、カイルにまでプレゼントをあげる羽目になってしまった。
「さんきゅー、ケイン! だか、これは、これとしてだな、俺の魔法剣は、お前がちゃんと取り戻すんだぞ。
 お前は、俺の剣を目の前にしていながら、みすみす奴等に引き渡してしまったんだからな。その責任は大きいぞ! 」
 仁王立ちになっているカイルに、ケインは絶句していた。

 武器屋では、ついでに、警備の仕事のことも聞いてみるが、もう募集は終わったということであった。
 今日のところは、よろず屋としての仕事も見付かりそうもない。
 武器屋を出ると、もうパレードは終わっていて、大通りは閑散としていた。
「何してたのー? パレード終わっちゃったよー」
 ミュミュが、二人の目の前に現れた。
「面白かったか? 」
「うん!! 」
 ふと、カイルが、ミュミュの足元に目をやる。
「あれ? ミュミュ、どうしたんだ? 足枷(あしかせ)なんかはめて」
 ミュミュが、みるみる膨れっ面になる。
「違うもん! あしかせなんかじゃないもん! これは、アンクレットだよー! オトナの女の必需品だよー! ケインがミュミュにプレゼントしてくれたんだ〜」
「ほー、ケインがねぇ……」
 カイルが、ケインを横目で見る。
「……お前、不毛だなー」
「なっ、何を言い出すんだ、何を……! 」
「どうりで、普通の女に興味が持てないわけだ」
 カイルは、うんうん頷いて、一人で納得していた。
 それには構わず、ミュミュが切り出す。
「今晩、アストーレ城では、姫様の誕生パーティーが開かれるんだって。
 各国の特使やら、王子様やらが来て、一緒にお祝いするんだよ〜。ステキだね〜! 」
 ミュミュは、浮かれまくっていた。
「ねーねー、ちょっとだけ、覗いてみない? 」
「無理だよ。お城じゃあ、警備も充実してるし、ミュミュだけで見に行ってきなよ」と、ケイン。
「ふ〜ん、わかった」
 ミュミュは、つまらなそうに、ぱたぱた飛んでいった。
「腹減ったなー。酒場にでも行って、何か食うか? 」
「そうだな」
 ケインとカイルは、早めの夕飯を食べに、酒場へ行くことにした。
 一行は、いつも酒場で落ち合っていた。もしかしたら、マリスに会えるかも知れないと、ケインは思った。

「カーッ! うめえ! 一汗かいた後は、やっぱり木の実酒に限るぜー! 」
 カイルが、酒の入ったツボを、どんとテーブルに置いた。
(こ、こいつ……! 何もしてないくせに)
 ケインは、トリの竃(かまど)焼きに手を伸ばしながら、カイルをたしなめる。
「おい、あんまり飲むなよ。カネがないんだから。まったく、どっちが年上なんだか……。
 だいたい、お前の長剣が、無駄な上に一番高かったんだぞ」
「わかった、わかったっつーの」
 そのうち、クレアとヴァルドリューズも現れ、同じテーブルを囲んだ。
 ケインは、クレアからヴァルドリューズも聞いているであろう、北の森の話をし、後で見に行こうと持ちかけた。
「で、そっちは何か収穫はあったか? 」
 カイルが、むしゃむしゃミシアの実をかじりながら、ヴァルドリューズを見る。
「先ほどから、たまにだが、魔力の波動を感じる」
 ヴァルドリューズが、無表情に語る。
「それは、やっぱり、アストーレ城の宮廷魔道士のものなんだろうか? 」
 ケインの質問に、彼は首を横に振った。
「ひとつだけではない。違う波動がいくつかあるのだ」
「いくつか……? 」
 皆、顔を見合わせた。
「もしかして、ミュミュの言う、王女の誕生パーティーに出席するために来た、外国特使たちの中に、魔道士がいるんじゃ? 」
 ケインに向かって、ヴァルドリューズは、ゆっくりと頷いた。
「この国には、あまり魔道が伝わってきたという記録はなかった。だからこそ、参謀になったという宮廷魔道士が現れた時は、相当珍しかったに違いない」
「今のところ、この国の魔道士は、彼だけみたいよ」
 ヴァルドリューズに次いで、クレアが静かに言った。
「てことは、俺の魔法剣を持ってった奴等は、外国の奴かもしれないってことか」
 カイルが、面白くもなさそうに、木の実酒をがぶっと飲んだ。
「武器屋から、良い剣だけを盗っていったのも、その仲間だとすると、奴等、武器ばかり集めて、何を始める気なんだろう? 」
 ケインが、皆の顔を見回し、問いかける。
「ま、外国の奴等の仕業(しわざ)だとすると、王女のパーティーとやらで、しばらくはこの国に滞在するんだろうな。その間に、俺の剣を取り返せばいいってことか。けっ、長期のご滞在を祈るぜ」
 カイルが投げやりに、酒のツボを置いた。
「だから、パーティー見に行こうってばーっ! 」
 またしても、突然ミュミュが出現した。
「カイルの剣も、きっとあるよ」ミュミュは、にっこり笑った。
「適当言うなー! 」カイルが泣き叫んだ。
「何にしろ、一見の価値はあるかも知れんな」
 ヴァルドリューズが、静かに言った。
「北の森を調べるのは、魔法剣を取り戻してからでも、遅くはないだろう」


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