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作品名:バジリスクの宝物 作者:ユウ

第9回   第六章 ヘンルーダ 後編
やっぱり、理沙に嘘はつけなかった。

僕は全てを話した。

自分に起きたこと。

理沙に嘘をついていたこと。

魔眼のことを。

見たものを全て殺す、この眼のことを。

話している最中、理沙は黙って聞いていた。

これで終わった。大学生活も、理沙のことも。

僕が話し終わって、少し間をおいてから理沙が言った。

「そう。そういうことだったの」

「え・・・? 信じてくれるの?」

「嘘なの?」

「本当だけど・・・」

「信じるよ」

「何で・・・」

「あなたが私に嘘をついたことがあったっけ?」

「無い」

眼のことを除けば、だけど。

「直の言うことだもん、全部信じる」

「・・・」

「・・・どうかした?」

「ごめん」

「なんでごめんなの」

僕は決心した。こんな僕を信じてくれる人を危険な目に遭わせたくない。

さみしいけれど―お別れだ。

「僕のことを信じてくれるなら尚更だ。理沙を殺したくない」

「うん」

「だから」

「だから?」

「もう、僕に近付かないで」

ビンタが飛んできた。

「ふざけんな!」

驚くほど痛くて、理沙が本気でぶったことはすぐに分かった。

「私が何であなたの言うことを信じたと思ってるの!? あなたと一緒に居たいからでしょう!? あなたは私を殺そうとしたの? そんなことないでしょう? 私が死ななくてあなたはいいでしょうけど、私の気持ちは何処に行くの!? 勝手な事言わないで!」

理沙の声は震えている。

泣いているのか?

「私はもう直のそばに居ちゃいけないの・・・?」

「ごめん」

理沙の小さな嗚咽が部屋に響く。

「泣かないで」

「直だって、泣いてるじゃない・・・」

最後に泣いたのも、ぶたれたときだっけ。

僕の眼はその時以上の涙を流していた。

大量の涙は、目隠しからも零れ出て頬を伝う。

悲しいんじゃない。

辛いんじゃない。

苦しいんじゃない。

痛いんじゃない。

嬉しかった。

僕の眼が呪われていると知ってなお、僕と一緒に居てくれると言う。

どうしようもない嘘をついていた僕の、そばに居たいと言う。

涙が止まらなかった。

僕たちは互いの体をしっかりと抱き寄せた。



お互い泣き止んで、僕は理沙に話しかける。

「僕、もう君に嘘をつかない。何があっても」

「当たり前よ」

「ホントに一緒に居てくれる?」

「私があなたに嘘をついたことがあったっけ?」

「無い」

僕たちは笑う。

「わかったら、ほら、晩御飯食べに行くわよ」

理沙は立ち上がり、玄関へ向かおうとする。

「ありがとう」

どれだけ言葉を並べても足りないほどの感謝を、この陳腐な言葉に乗せて放った。

「はいはい」

子供を遇うような返事。

彼女なりの照れ隠しだと、僕は知っている。

「ねぇ、理沙」

どうしても、言っておきたいことがあった。

「今度は何よ?」

「僕、君のことが好きだ」

「・・・。知ってるわ」



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