やっぱり、理沙に嘘はつけなかった。
僕は全てを話した。
自分に起きたこと。
理沙に嘘をついていたこと。
魔眼のことを。
見たものを全て殺す、この眼のことを。
話している最中、理沙は黙って聞いていた。
これで終わった。大学生活も、理沙のことも。
僕が話し終わって、少し間をおいてから理沙が言った。
「そう。そういうことだったの」
「え・・・? 信じてくれるの?」
「嘘なの?」
「本当だけど・・・」
「信じるよ」
「何で・・・」
「あなたが私に嘘をついたことがあったっけ?」
「無い」
眼のことを除けば、だけど。
「直の言うことだもん、全部信じる」
「・・・」
「・・・どうかした?」
「ごめん」
「なんでごめんなの」
僕は決心した。こんな僕を信じてくれる人を危険な目に遭わせたくない。
さみしいけれど―お別れだ。
「僕のことを信じてくれるなら尚更だ。理沙を殺したくない」
「うん」
「だから」
「だから?」
「もう、僕に近付かないで」
ビンタが飛んできた。
「ふざけんな!」
驚くほど痛くて、理沙が本気でぶったことはすぐに分かった。
「私が何であなたの言うことを信じたと思ってるの!? あなたと一緒に居たいからでしょう!? あなたは私を殺そうとしたの? そんなことないでしょう? 私が死ななくてあなたはいいでしょうけど、私の気持ちは何処に行くの!? 勝手な事言わないで!」
理沙の声は震えている。
泣いているのか?
「私はもう直のそばに居ちゃいけないの・・・?」
「ごめん」
理沙の小さな嗚咽が部屋に響く。
「泣かないで」
「直だって、泣いてるじゃない・・・」
最後に泣いたのも、ぶたれたときだっけ。
僕の眼はその時以上の涙を流していた。
大量の涙は、目隠しからも零れ出て頬を伝う。
悲しいんじゃない。
辛いんじゃない。
苦しいんじゃない。
痛いんじゃない。
嬉しかった。
僕の眼が呪われていると知ってなお、僕と一緒に居てくれると言う。
どうしようもない嘘をついていた僕の、そばに居たいと言う。
涙が止まらなかった。
僕たちは互いの体をしっかりと抱き寄せた。
お互い泣き止んで、僕は理沙に話しかける。
「僕、もう君に嘘をつかない。何があっても」
「当たり前よ」
「ホントに一緒に居てくれる?」
「私があなたに嘘をついたことがあったっけ?」
「無い」
僕たちは笑う。
「わかったら、ほら、晩御飯食べに行くわよ」
理沙は立ち上がり、玄関へ向かおうとする。
「ありがとう」
どれだけ言葉を並べても足りないほどの感謝を、この陳腐な言葉に乗せて放った。
「はいはい」
子供を遇うような返事。
彼女なりの照れ隠しだと、僕は知っている。
「ねぇ、理沙」
どうしても、言っておきたいことがあった。
「今度は何よ?」
「僕、君のことが好きだ」
「・・・。知ってるわ」
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