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作品名:バジリスクの宝物 作者:ユウ

第7回   第五章 イクネウモーン 後編

一人暮らしを始めてからわかったことがいくつかある。

まず、魔眼は直接でなくても効果を発揮してしまう。

一番の大問題だ。

一人暮らしを始めたころ、僕は一本の映画を見た。

深夜に放映していた、いかにもB級といった感じの映画だ。

ピラミッドに眠る宝を盗賊達が盗もうとするが、呪いで一人残らず死んでしまう、という如何にもな内容だった。

翌日、ニュースでこの映画の出演者全員が死んだと知った。ニュースキャスターは画面に映っていなかったので多分死んでいない。

この映画は本当に呪われているということになって、二度と放映されることはなかった。所謂お蔵入りだ。

この事実が示しているのはつまり、映像だろうが写真だろうが、僕が見てしまうとその対象者は死ぬということだ。

以来、映画は古い作品しか見ていない。対象者が既に死んでいるなら問題はないのだ。

僕が大学に来てから若干アニメオタクになりつつあるのも、この辺に問題があると睨んでいる。

次に全身を隠しているなら効果はないということ。

生身の部分を一部分でも見ると殺してしまうのだが、着ぐるみや箱に入っている人は大丈夫(透明はダメ)。

この仮説には自信があったので、遊園地に行った時こっそり試したのだ。要は僕の視線が相手の生身に届かなければいいらしい。

ということは、マジックミラー越しなら魔眼と見つめあっても問題はないことになる。しかし、わかったところで誰がそんなことをするのか。

そして、はっきり確認できる距離に居ないと魔眼の効果はない。遠くに見える人影程度では死なないのだ。

この辺りは結構いいかけんで、僕にも基準が分からない。

「色がはっきりと識別できる範囲」が基準だと思っているが、こればっかりは検証する気にもなれない。

眼隠しをしていない時に人影が向かってきたら、僕が目をつぶってやり過ごすか、まわれ右して遠ざかるしかない。

わかったことがあればわからないままのこともある。

魔眼は自分自身に効くのかどうか。

自分の手足を見ても死んでいないから、おそらくは大丈夫なのだろう。

しかし、鏡で自分と向き合う勇気はない。もし効くのなら、僕はそこで死ぬことになる。

それに魔眼をもつ魔物と対峙する時はいつだって鏡がつきものだ。用心するに越したことはない。



あれこれ考えているうちに頂上近くまで登ってきていたようだ。

風がよく通っている。近くに展望台でもあるのだろう。

体に感じる太陽の光は既に夕方だ。

周りに人の気配は感じなかった。

「誰かいますかー!?」

大声で叫ぶ。返事はない。

「よし」

僕は目隠しを取り、ゆっくりと目を開く。

「すっげぇ・・・」

目を開けると幻想的な景色が広がっていた。

太陽は西の空。街は黄昏に染まっている。

遠くに見える海がキラキラと眩しい。

車、電車、船。遠くから見るとこんなにも美しいのか。

景色が動いている。その全てに人が乗っているのだと思うと、なんだか少し胸が苦しくなった。

なんて命にあふれた風景だろう。視界全体から生命力を感じる。

ここ数年、僕の視界に生きている物はいなかった。でもここからなら生きている街を見ることができる。

ふと、理沙のことを思い出した。

「この景色、理沙にも見せたいな」

そのまま、景色に見惚れてぼーっとしていた。

「そろそろ帰るか・・・」

いつか理沙と一緒に来よう。誘う理由は風が気持ちいいとかでいいだろう。

僕は目隠しを付け直そうと頭に手をやった。

その時。

「直・・・?」

理沙の声。なんでこんな所にいるんだ?



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