「やっぱり何かおかしいよ」
夕食を食べている最中、突如理沙はそう切り出した。
「何がだよ・・・」
僕はもう嫌な予感しかしない。
「変死した三人」
やっぱりな・・・
「突然三人同時にアル中なんてありえない」
「ありえないけど、実際にあったことだ」
「あの時、何があったかしら。直の眼隠しを取って、それから私を突き飛ばして・・・」
まずい。
「わかった。直、あんた・・・」
ごくり。
「眼隠しに毒をぬってたのね!」
「それだと俺も死ぬだろ」
「そっか」
一瞬焦ったが、普通に考えるとこの辺りが限界だろう。
「そもそも、なんで眼隠しなの?」
「は?」
心臓が止まるかと思った。まさか僕の眼の方向で話を広げてくるとは。
どうにか話をずらさないと。
「普通眼が悪い人ってサングラスとかじゃない? 眼帯とか」
「眼球じゃなくて眼のあたり全体が悪いんだよ。あまり外気に晒すなって言われてる」
「そんな病気なんだ」
かなり苦しい言い訳だったが、彼女はそれで納得したらしい。
その日はそれ以上何も聞いてこなかった。
二日後。今日は講義が休みだったので、町はずれを散歩していた。
さすがに街で眼隠しを取るわけにもいかないので、杖を使っている。
あとはひたすら感覚器官に意識を集中させれば、意外と大抵のことは出来る。
人の気配を感じる。歩く音を聞く。風を受ければ、その方向に何もないことが分かる。
歩きなれた街なら十分散歩も楽しめる。
理沙はいない。僕とは違う講義を取っていることもあるので当然と言えば当然だが、少し寂しい。
僕としてはずっと一緒に居たいくらいだが、理沙には理沙の生活があるのだ。四六時中一緒というわけにもいかない。
今日のところは一人で楽しむことにする。
一時間ほど歩いた頃、ふと涼しい空気を感じた。
この辺りは確か、山があったハズ。
「久しぶりに山登りしてみるか」
僕はよく部屋で地図を見ている。部屋を出てしまうと眼が使えないので、頭の中に地図をたたき込んでおくのだ。
自分の歩いた距離と方向は何となく感覚でわかるので、今自分が何処に居るのか大体の見当はつく。
「この辺りの山はそんなに険しくはなかったな。高くもないし、ハイキングにはもってこいだ」
そうと決めたら即実行だ。一人の時は一人で出来ることを楽しもう。
山道に足を踏み入れる。
足に意識を集中させると、土の反発がよくわかる。田舎育ちだからだろうか。
人が歩いた轍をたどり登っていく。
平日の昼間からこんな山に人はいないだろう。
時折眼隠しをずらして足元を確認する。
そのたびに蟻や団子虫を殺してしまうのは忍びないが。
山道を登りながら、僕は自分の眼について考えていた。
今更、何故こんな眼になったかを考えているのではない。
これからどうするかということだ。
どうしようもないのだが。
婆ちゃんからいろんな伝承を聞いたが、ただの人間に魔眼が宿ったという話はなかった。
多くは魔眼を持つ魔物を退治する話だ。魔眼に対抗する手段はあれど治す手段は無し。
魔眼が伝説中の代物なら治療法もあったとして伝説級だろう。
実際、僕が魔眼を持っているのだから、伝説級でも出来る気がしなくもないのだが。
まぁ、難しいところである。
結局今のライフスタイルで落ち着くことになりそうだ。
今の生活も気に入っている。余り不自由は感じない。
理沙が居れば。理沙さえ居てくれるなら、僕は他に求めるものなど何もない。
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