20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:バジリスクの宝物 作者:ユウ

第4回   第三章 カエル

日曜日。僕は理沙と遊園地に来ていた。

眼が見えなくてもジェットコースターには乗れるでしょ、と誘われたのだ。

彼女は僕の眼のことを気にかけてはいるが、それ以外のことは全て普通に接してくれる。

移動する時は理沙の右肩に僕の右手を乗せ、後ろをついていくように歩く。

これなら誰にもぶつからない。



楽しい時間は速く感じるもので、とっくに日は暮れ、辺りは薄暗くなっている(らしい)。

帰り道。

人通りもあまりなかったので、僕の場所は理沙の後ろから横になっていた。

眼は開けない。手をつないでいた。

うん。すごくドキドキする。

これって恋人同士に見えるよね?

ぶっちゃけた話、僕は理沙が好きだ。

振られるのが怖くて告白をしていない腰ぬけ野郎ということ。

顔は見たことないけどきっと可愛いんだろうな、とか声は好きだな、なんて妄想をしている間に―

何かにぶつかった。

「痛ぇなオイ! 何処見て歩いてんだクソガキ!!」

人にぶつかってしまったらしい。

「すみませんでした」

理沙が謝る声が聞こえる。

僕も頭を下げる。

「すみませんじゃすまねぇんだよ!」

「オイオイ、骨折れちゃってんじゃねーのコレ」

「どうしてくれんだよ!」

声から判断するに三人。酒臭い。酔っ払いかよ面倒くせぇ。

そして一人が気付いてしまった。

「こいつ、眼隠しなんかしてるよ」

後の二人も便乗する。

「そんなもん付けてっからぶつかんだよ」

「取っちゃえ、取っちゃえ」

やめろ。それだけはやっちゃいけない。

僕から眼隠しが離れる。

僕はギュッと眼を瞑る。

「おい、目ぇ開けろよ」

嫌だ。

「やめて!」

理沙が叫ぶ。

「うるせぇ! 引っこんでろ!」

「きゃっ・・・」

ドサッと倒れる音がした。

「理沙!?」

―その拍子に。僕は眼を開けてしまった。

絡んできた三人をしっかりと見てしまった―

三人は倒れ、動かない。

突き飛ばされていた理沙が視界に入ることはなかった。

僕は眼隠しを奪い返すと素早く付け直す。

「理沙! 何処だ! 逃げよう!」

「ここだよ!」

理沙の手が僕の手を握る。

僕たち急いでその場を後にした。



[男性三人、路上で変死]

次の日の新聞の見出しはこうだった。

「あの三人、何で死んだんだろう・・・」

理沙が憂鬱そうな声で僕に尋ねた。

「さぁ? 急性アル中じゃないの?」

「そう・・・だよね。私たちのせいじゃないよね?」

「もしそうだったとしても、気にしなくていいよ。絡んできたのは向こうだし、理沙だって突き飛ばされたじゃないか」

「うん・・・」

「悩んだって仕方がないよ。じゃあ、また明日」



一人になると考え込んでしまう。

いくら相手が悪いと言っても。

あれは―あの三人が死んだのは―

僕が彼らを見てしまった所為だ。




← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1689