僕は山中直。現在大学で近現代文学を専攻している。
六年ほど前に故郷を離れ、今は悠々自適な一人暮らしだ。
しかし、僕は眼が見えない、ということになっているので、大学では苦労が絶えない。
講義中に出される課題には、常に友達の協力がいる。
問題文を読み上げてもらわないとわからないのだ。
点字は多少読めるようになったが、点字付きのテキストなど無いのであまり意味はない。
そのあたり、僕はものすごく理沙の世話になっている。
彼女は可能な限り僕の隣に座り、ぼそぼそと耳打ちをしてくれる。
その上頭もいいので、わからないことは教授より理沙に聞くことの方が多い。
彼女の協力なしでは卒業も危ういだろう。
昼休み。
僕はいつものように理沙と昼食をとる。
「レポートめんどくさいなー」
「あんまり時間かからなかったよ、アレ」
「もう終わったの? 眼が見えないのにがんばるなぁ」
「あとでチェックお願いできる? 打ち間違いがあるかも」
「いいよー。ついでだからちょこっと写さしてね」
こんなやり取りもいつものこと。
「次の講義は・・・3号館だったね。そろそろ移動しないと間に合わないか」
「そうだね、行こう―っつ」
眼の奥に痛みが走った。
「どうしたの?」
理沙は僕に聞く。
「何でもない。気にしないで」
「ふーん。ならいいけど・・・」
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