僕が十歳になる誕生日の日のこと。
僕は頭が痛くて学校を早退した。
家に帰ると、母が夕食を作っていた。
誕生日だからと、早いうちから支度をしていたのだ。
僕は頭が痛いから少し寝ると、自分の部屋へ向かった。
ベッドにしばらく転がっていたが、痛みは治まるどころか、徐々に激しくなっていった。
時折、母が様子を見に来たり、薬を置いて行ったりしていたが、よく覚えていない。
頭が痛い。こめかみ。眉間。眼の奥の方。
燃える様に熱かった。
苦しみ疲れて、僕はいつしか眠りに落ちていた。
起きた時、頭に痛みはなくすっきりしていた。
台所の方からは、まだ料理の音が続いていた。
記念すべき、僕の十回目の誕生日。
今日のご飯は何だろう。
僕は台所へ向かった。
先程までの激痛のことなどすっかり忘れ去っていた。
台所へ行くと、リズムよくフライパンを揺する母を見つけた。
「お母さん、今日は何作るの?」
次の瞬間、母は小刻みに震え出し、そして倒れた。
「どうしたの!?」
僕が駆け寄った時には既に母は息絶えていた。
とにかく、誰かを呼ばなくちゃ。幼い僕はそう思い、隣の家まで走った。
僕が住んでいたところはかなりの田舎で、隣の家といってもそこそこ距離があった。
近所付き合いも昔からよくあり、その家のおじさんには良くしてもらっていた。
家族に相談出来ないことは、よくおじさんに話していた。
おじさんの家に着いた。
家の扉を乱暴に叩く。
「おじさん! おじさん! たすけて!!」
家の中からおじさんの声と走ってくる音が聞こえた。
「直か!? すぐ行くぞ!!」
本当にすぐに扉は空いた。
しかし、おじさんの顔を見て安心したのも束の間だった。
「どうしたんだ! なにがあっ・・・」
おじさんはそこまで言うと倒れてしまった。
いよいよ僕は訳が分からなくなって、とにかくそこらじゅうの知り合いの家を訪ねて回った。
訪ねて回った全ての家で、反応は同じだった。
みんな倒れた。途中ですれ違った人も死んだ。
犬も猫も鳥も、みんなバタバタと斃れた。
僕の慟哭だけが静まり返った村に大きく響いていた。
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