数日して、僕は神様に呼び出された。
「入りますよ」
神様の部屋のドアを大雑把にノックし、中に入る。
「お、来たか」
大きなソファーに座っていた男が話しかけてきた。
「呼ばれましたからね。用が無いならすぐに帰りますが」
男は立ち上がった。
「お前さぁ、そういう口のきき方はないんじゃないの? これでもオレ神だぜ?」
その通り、ジーパンにTシャツ、ボサボサ頭でヒョロっと背の高い、このオッサンが神様だ。
あぁ、めんどくせぇ。先日お前に捧げた祈りを返せ。
「さっさと用件を話せ」
「だからぁ」
「申し訳ありませんが、早急に用件を話していただけませんでしょうか」
「お前、もてねぇぞ」
神様は煙草に火をつけた。
「この前、投身自殺した女の子連れてきただろ? そのことさ」
神様はふぅーっと煙を吐いた。
「あの娘がどうした。ちゃんと書類出してただろ?」
「いやね、事務の娘に聞いたんだけど、お前悲しげな顔で戻ってきたらしいじゃん」
「どんだけ暇してんだよ」
「教えてやるよ」
神様はニヤリと不快な笑みを浮かべた。
「あの娘、生まれ変わったぜ」
「へぇ。出来るんだ、生まれ変わるとか」
そこは素直に驚いた。
「まぁな。オレ神だぜ?」
うざい。なぜこいつが神様なのかつくづく疑問だ。
「で? あの娘は今どうなってんだ? まさか虫とかにしてねぇだろうな」
「ちゃんと人間だよ。寿命も102年あげた」
「たまには良いことするな」
「当たり前じゃん。オレ神だぜ?」
殺意が芽生える話し方をする神様だ。
ともかく、あの少女がどんな人生を送っているのか気になる。
「また良い母親に出会えてるといいが。まだ生まれたばっかりだろ?」
「もう死んだよ」
「は?」
何を言っているんだ、この男。
「寿命は102年だと言ってたじゃないか」
「そうだ」
「なのに、もう死んでるだと?」
「そうだ」
「どういうことだ?」
神様は面倒くさそうに煙を吐いた。
「説明してやるよ」
そう言ってソファーにどかっと腰をおろし、お前も座れと手で合図する。
僕が向かい側の椅子に座ると、神様は煙草の火を揉み消し、説明を始めた。
「冥界に『時間』という概念はない」
「そうなのか。だがそれは関係あるのか?」
「だから、死んだ魂が何処に生まれ変わってもおかしくない」
「意味がわからん」
「つまりだ。死んだ魂が未来に生まれ変わることがあるなら、未来で死んだ魂が過去に生まれ変わることもあり得る」
「結局どういうことだ?」
「あの娘はお前が連れてきた後、過去の世界で生まれ変わって102年の人生を全うした」
神様はまた、ニヤリと不快な笑みを浮かべた。
「20年前にお前が連れてきたあの婆さんだよ」
-終-
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