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作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第7回   7

「ガイ隊長、先日のUFO写真の信憑性について、画像の分析結果では二枚の合成によるものという結果が出ました。これがその切り離した画像です」
写真を手にしたガイはすぐに付き返した。
「下らん騒ぎばかりやる連中に翻弄されてばかりだ。われわれをからかって喜んでるのだろう。ジョン副隊長、こんなのは君の手で処理してくれたまえ」
「まったくどいつもこいつも……」

地球に現れる未知の物体、あるいは生物に調査、対応を専門とする国連の特別組織。この『宇宙局特捜隊』に私は自分の人生を賭けている。
だが持ち込まれる情報のほとんどはいい加減なものだ。今調査している中で、手ごたえを感じているのはほんの数件。あの南太平洋の異常気象も暗礁に乗り上げたままだ。マタイの洞窟こそ何か手掛かりがあると踏んだのに占い玉には何の影響もなく、洞窟の絵も意味不明なままに至っている。引っかかる……何かあるという勘がぬぐえない。

地球上の鉱物にはないと分析された占い玉はどこから持ち込まれた物なのか、あの異常電磁波が発生した夜、占い婆は玉が光ったと言い張っている。もしそうならあの玉は重要な鍵を握る物体だ。玉は官舎の自分の部屋に隠してある。帰宅すると取り出しては眺めるのが日課となった。異常なしだ。ただその未知の玉を眺めていると遠い昔のある情景が思い起こされるのが不思議だった。思い出したくもないのについ浸ってしまう。

──母さん……

心に母が浮かんだ。
だがハッと映像を打ち消した。特捜隊の部屋だ。近くの書類に手を伸ばし隊長の顔に戻した。
その時、ドアをノックしたかと思うと一人の部下が慌てて入ってきた。

「隊長! ちょっとこの録画を見て下さい」
「またか」
こんなのばかりだとうんざりした顔のガイを見てもひるまず
「これは違います。例のドゥルパの洞窟に関することです。日本のテレビ局の番組なのですが磁場に関して興味深い結果が映っているのです」
「磁場だと? 」
「そうです。とにかくご覧になって下さい」

テレビ局の番組と聞いてケーシー博士の言っていたことを思い出した。たしか洞窟の魔物の正体を発見するという作り番組のことだな。バカらしいことだと取りあわなかったが。
隊員がビデオにセットし、部屋の部下達も集まって映像を見つめた。
ドゥルパの洞窟の入口が大写しされ、その前にうろうろする村人やテレビ局の人間が写し出されている。
「ここです! 」
磁石盤が大写しされた画像のところで隊員が叫んだ。
停止された画像に方位を示す磁針があきらかに狂っている。みんなくぎ付けになった。
「まさか! 」思わずガイは唸った。
「そんなはずがない……」
「われわれの時は正常だったのに」
副隊長の訝しげな言葉に隊員も大きくうなずいた。
画像に写し出されているテレビ局の人間も一様に驚いている。演技とは思えない表情だ。

バラムの村人がこの辺は磁鉄鉱が多いからと説明されてなるほどと納得し、それ以上は磁場について問題もせず洞窟の中へと画面は変わって行った。もっと詳しく追及しろと怒鳴りたくなる。われわれの時となぜ違ったのかと。だがテレビ局の人間はそんなことは知る由もないだろう。仕方がないことではある。
ドゥルパの洞窟の内部が明るく照らされていく。
ガイ達はそのままビデオを見続けた。また磁場のことで報道があるかもしれないと見ていたのだが、洞窟の内部の様相にまたまた驚きが走った。われわれの時はライトに照らされた部分しか目にしなかったが、テレビで明るく写し出されている洞窟の造りは自然とはあまりにかけ離れている。整然と並ぶ岩石に被われた部屋のような空間、狭い通路……
カメラはその通路をさらに奥まで明るみにして行く。
途中、何本か分かれている通路は行き止まりが多い。そのうちの一つは副隊長にも覚えがある。
「あっ、あの通路は、たしかまるでふたで塞がれたようになっていた通路に違いありません」
テレビ局の人間も磨かれたようにつるっとした岩石を見て感嘆している。
「あの岩石をサンプルとして削り取ってくれば良かったな」
うかつだったとガイは腹の中で舌打ちした。あの時は磁場のことばかりに気を取られ過ぎた。
マタイの洞窟と造りが全く異なっている。大昔の原始人がこんな整然とした洞窟を作れたのか。疑問だ。なにかわれわれは大きなことを見過ごしていないだろうか……

テレビ画面の方は唸り声に向かって進んでいる。魔物の正体は! などと煽りたてる解説者の声はいかにももったいぶってわざとらしい。
ガイは画面をもう見ていなかった。
なぜ磁針はあの時と違ったのか? あれから大きな異常値は観測されてもいないというのに。
「副隊長、日本のこの番組制作者に問い合わせをしてくれたまえ。この磁針盤の件はほんとうのことかと」
「はい、分かりました」
もし事実だとしたら……あれから何が変わったのか確認しなければ。
もう一度、ドゥルパの洞窟を徹底的に調べ直す必要がありそうだな。
自分の官舎で密かに隠し持つ占い玉の謎に続く、この磁針の違い……
何かがある。はっきりとした確証はない。直観だ。だが私は自分の直感を信じている。ようやく何かがつながりかけている気がしてならないのだ。


体育祭まであと3週間と迫ってきた。部活が活気を帯びてきて授業どころではない。クラス対抗もある。そんな時にケーシー博士からようやく手紙が来たのだ。だがその内容に困惑した。

「アマト、元気かい。きっと待ち焦がれていただろうがようやく糸口が掴めた。ガイの出生に関してだが、彼の出身大学まで行って彼の生まれ故郷が分かったんだよ。今度そこまで行く。君もそして友人も一緒に行った方がよさそうだ。ガイの知人だった人に会えてね、耳寄りなことを聞いたのだ。詳しくは会ったときに話そう。私の都合で来週にしたい。マライの港からオ―ストラりア行きの船が出ているから乗って来て欲しい。学校の方は休むことになってしまうが四、五日で済むだろう。そうそうその大学は私と君のお父さんが学んでいた大学でもあるんだよ。ついでに寄っても行こう。では待っている」

待ち望んでいた手紙だったが、うーっ……来週とは! なんてことだ。
出来れば体育祭後の長期休みに入ってからにして欲しかった……博士の都合だから仕方がないだろうけど。困ったな。
〈なにも困らないだろう。体育祭には間に合うではないか〉
やっぱり言ってきたか。宇宙人からしたらガイに関することだから最優先すべきと考えるのが当然だからな。
「ふうー、そうだよな。分かってるんだ。でも今はクラスの仲間と一日一日を大事にして練習している最中なんだ、気持が割り切れないよ」
〈それは分かる。君の興奮している気持ちは毎日伝わって来てるからね。でも、もう一度はっきりしておこう。ガイの持つ占い玉を一時も早く取り返さなくてはならないことを。それは君と博士にしかできないことなんだよ。変わってやってくれる人はいないということを〉
「言いたいことは分かるさ。体育祭に出る試合には必ずしも僕がいなくったってこまらないということくらいはね。僕が出たいからだ。みんなと頑張りたいからだ」
それが本音だ。

美しい空を守ることと試合に出ることは比較にならないことぐらい承知してる。僕の立場はもう一学生では済まないことも。だから前の自分に後戻りできないことにやりきれなさも覚えるのは仕方がないじゃないか。知らなかったらどんなに気楽だろう。自分の思い通りにならないことが起るといつもこの考えがもたげて来るのだ。自由にならないことに苛立ってしまう。しかも誰かに言うことさえ許されないのだ。ケーシー博士以外の人には僕のおかれた困難なんて分かってもらえないし話すこともだめだ。
「心配しなくてもいい。僕はケーシー博士と行くよ」
大きな溜息とともに手紙をカバンにぶち込んだ。

ジョセの呆れた顔がマライの港を出てからも、マライ島が海の向こうへと遠ざかっていく間も焼き付いていた。
「そんなの体育祭が終わってからに出来ないのか」
僕がオーストラリアへ行かなくてはならなくなったと言ったとたんジョセが怒ったように言ってきた。ジョセにしてみれば観光旅行としか考えられないだろう。この時期に行くと決めた僕の態度が信じられないという顔つきだった。
「ごめん」としか言えなかった。弁解も出来ず結局ジョセとはその後、口を聞くこともなく、負い目を感じながら朝一番の船に乗った。環礁の外の大海原には外洋に出る大きな船が待機していて、マタイとマライからの客はそれに乗り換えるのだ。

二つの島が遠くになっていく。観光ではないにしても生れてはじめての大旅だ。もっと興奮できそうなのにジョセに済まないという気持ちが勝っていて陽気になれない。甲板の後ろで船にぶつかり白波立てながら去っていく海の流れを見つめては溜息が何度も出た。
だが、船旅の長さに溜息も限度が来てさすがにうんざりしてきた。何組かの大人達が甲板に出てテーブルを囲み楽しそうにワインを飲んでいる。一人で本を読んでいる人もいる。時間を特に気にすることもなく、のんびりしたものだ。僕は何もすることが無い。話す相手もいない。まったく退屈で、早く着かないかなと時間をもてあました。
さいわい、この退屈な長い時間のお陰で負い目の気持が薄らいできた。


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