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作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第6回   マタイの洞窟

森林を抜けた眼前に断崖がそそり立っていた。
その中腹当たりに小さな穴が開いていてガイ隊長を先頭に特捜隊員も続いた。
ケーシー博士の話しを鵜呑みにしたわけではない。マタイに問い合わせたところ、確かにそういう洞窟があると分かり、調査に乗り出したのだ。
あの強烈な異常磁気の探索が暗礁に乗り上げた今、これは貴重な情報だった。手がかりが得られるか……。

「隊長、リュックを部下に持たせてはいかがですか」
「いや、構わん」

それ以上は言わせない雰囲気がガイ隊長の顔に現れていて副隊長のジョンは黙った。
通常は部下に持たせていた。どうしてか。

この洞窟はマライのドゥルパの洞窟と違って、山奥の岸壁にあるため人が訪れることはめったにない。近くの村で、この洞窟に入ったことがあるという村人がガイドとして先頭にいた。
ガイは懐中電灯で洞窟内を照らしながら奥へと進んだ。ドゥルパの洞窟と違って通路は広く、組み合っている岩石も自然な感じだ。ところどころにくぼ地がある。マタイの資料にもこの洞窟は大昔、人間の住居だったと載っている。

「ここです」
ガイドの村人が足を止めた。
今までに比べ広い空間が現れた。
「こちらが言われる壁画です」ガイドはそういうと少し高い岩壁にライトを当てた。
それはよく見ないと分からないほど薄い線描きであった。

「ケーシー博士はこのことを言っていたのだな」そう呟き、ガイは「もっと明りをあてろ」と命じた。
用意したサーチライトが暗い岩壁を一挙に浮だたせた。
「あれは人のようですね」ジョン副隊長が言った。人らしき人物が何体か描かれている。
よく見るとその人物達は上を向いて手で何かを指差しているみたいだ。
「もっと上を照らしてみろ」
ライトがゆっくり上に向かう。
「点々みたいな線が広がって見えるが……」
「これがケーシー博士の言われた星でしょうか」
副隊長の言葉にもガイは黙ったまま見入っていた。

星空を仰ぐ原始人が刻まれていると言っていた……ケーシー博士の言葉に突き動かされた何かはこんなものではない。原始人は星をわざわざ壁画にまでするのか……

「もっとライトの範囲を広くしろ」
ガイは点々の後をたどる。もしこれが星でなく線だとしたら……
よく見ると途中の途切れはあるものの原始人の頭上近くには点がたくさんあり上に向かっていくにつれ点が少なくなっていく。星だったら反対ではないか。しかも人物の中心あたりは点が上まであるではないか。これを線として上まで引いて行くと……線は放射を描き一点に集まっているように見える。

「ライトを中心上に向けろ」
全員がライトを追う。
「亀裂が走ってるな……ゆっくり上に移動させろ……」
亀裂の上をライトが動く。
「あれは」ガイが指差した。
「半円じゃないか」
「そうですね……」
「亀裂下をゆっくり移動してくれ」
「そこだ! 止まれ」
「副隊長、分かるか。上の半円とずれてはいるがあれも半円だ。きっと地殻変動で元は一つの円だったのがずれたに違いない」
「すると、原始人は上の丸い物を指差しているということですか」
「そう言うことだ」
「あれは太陽か月か、なにか天体に関するものかもしれないですね。それを騒いでいる図と見てとれますが」
太陽か、月……違う。あれは……ガイの脳裏に突然、占い玉が浮かんだ。未知の物体として、密かにすり替えて今、私の手元、まさにこのリュックに忍ばせてある物体、突飛な考えかもしれないがひょっとして……あれはこの玉ではないか。もちろん憶測だ。
「副隊長、ここの磁場を計測したまえ」
「はい」
ジョン副隊長が計測器を持った隊員に向かうのを見て、ガイはリュックをさっと降ろし、中に手を入れ、袋に包まれた玉に触れた。なにも感じない。
「隊長、正常です」
「そうか……」
この玉は関係ないのか。

ガイは再びリュックを背負った。隊員の誰も、まさかガイが占い玉を持っているとは知らない。ガイの独断でにせものを占い婆に返したのだ。

壁画の原始人たちは何を見てここに記したのか。他に発見された太古の洞窟の壁画のほとんどは身近な動植物だ。満足な言葉もなく、絵によって表現するしかなかった彼らは、絵を伝達に使っている。ところがこの洞窟の絵は天を仰ぎみて円を描いている。いったい何を見て驚いているのだ。


テレビ局の取材が済んだバラムの村はようやく平常の生活に戻った。

「ねえ、録画されたのいつ届くの? 」パシカが寝坊して遅い朝食を摂りながらまた聞いてきた。目の見えないパシカがどうして興味あるのか不思議だ。
「一ヶ月先だって前にも言っただろう。気になるのか」
「だって、ミオンがその時来るから会おうねって約束したのよ」
「えっ、そんな約束したのか」
「その時、ついでに家にも遊びに来てって私が誘ったら喜んでたわよ。ねえ、ねえ、ミオンってもしかしたらアマトのこと好きじゃないの? 」

「パシカ、もうやめろよ。すぐ勝手なこと考えては楽しむのは。僕はミオンなどなんとも思ってやしないからな。だいたいすごいおしゃべりなんだから……」
パシカと同じで、とついでに言いそうになった。
こっちはもうバスの時間だ。パシカに付き合ってなどいられない。半袖の服に腕を通しながらカバンをつかみ
「おばさん、行ってきまーす」
と声をかけて出ようとしたらおばさんが、ちょっとこっち向いてと言った。
「やっぱり─、ちょっともう小さいわね」
「えっ、小さいって? 」
「服よ。ほら袖がパンパンでしょ」
そういえばきつくなったなとこのごろ感じていた。
「アマトはこのごろどんどん大きくなってるわね。もう買い変えなきゃ。また町で見つけてらっしゃい」
「そうだね、ありがとう」
タネは出ていくアマトの後ろ姿に微笑んだ。
「母さん、アマトは大きくなってるの? 」
「学校に入ってからぐんぐん背が伸び出したみたい。身体つきも男の子らしくなってきたしね」
「ふーん。わたしにはよく分からないな」
「今度、腕を触ってごらん。筋肉が付いて硬くなってるわよ。漁に出たりヤシの木に登ったりしてたくましくなってくるんだよ」
「アマトはね、このごろよく浜でラグビーの練習を一人でやってるわよ。わたしとクロも一緒に行く時もあるわ。学校で体育祭があるんだって。自分は補欠だから出ないけど、怪我とか何かで出されるといけないからと言ってたわ。よく運動するから身体もたくましくなっていくのね」
「えっ、そうだったのかい……知らなかったわ」
「あっ、いけない! 内緒だったのよ。アマトから母さんには知らせるなって言われてたの。母さん黙っててね、わたしがしゃべってしまったこと。パシカのおしゃべりってまた言われちゃうから」
「ああ、言わないよ」
やっぱりアマトはラグビーがやりたいのね。私に遠慮して我慢してるのかもしれない。
そりゃあ、今はアマトのお陰で助かってるけど、でもいなくても何とかなるのに……。ジョンと一緒に寮にはいってもいいのよ、と何度進めても断ってきたけど、どうしてかね。それほどやりたいのに。
タネは溜息をつくと
「パシカ、さあいつまでも食べてないで。片付けるわよ」
パシカをせきたてながらテーブルを拭き始めた。

その日、学校から帰って来るなり、パシカが腕を取って来てきゅうっとつかんだりつついたりして来た。ついでに自分の腕も握って「ふーん」と言ったりするので
「おい、何考えてるんだ」
「うん、やっぱり違うわ。母さんがね、アマトはたくましくなって来ただって。腕を触れば分かるって言ったから。本当だったわ」
「そうかなー」
「わたしの触ってみて。ほら」
「どれどれ」
差し出して来た腕を握って見る。
「あれ、やわらかいな」
ふだん考えても見なかったが改めて言われて気がついた。女の子の腕ってこんなにやわらかいんだ。
「わたしは働かないからよ。アマトはよくやってくれるって母さんが褒めていたわ」
「そりゃあ、女の子にはちょっと無理な仕事だからで、パシカが働かないわけじゃないよ。ちゃんと洗濯や掃除、料理も手伝ってるじゃないか」
「でもレイナはヤシの木登れるって言ってたわ。きっとわたしの腕より硬いわよね。わたしも登ってみたいわ」
「レイナは特別だ。男みたいにたくましいよ」
パシカより一つ上だが背も高くがっちりした体格で同じ年の男のほうが見劣りしてるぐらいだ。
「そんなに木のぼりしたかったらまた教えてやるよ」
「ほんとう! わたし小さい時ちょっと登って落ちたことがあってそれから母さんから絶対だめって言われたの。でもアマトが付いていてくれるならだいじょうぶよね」
「ちょっとだけだからな。怪我したら大変だ。僕が怒られる」
「うん」
さて、と言ってアマトはカーテンで仕切られた自分の寝間に行ってボールを取ってきた。
「まだちょっと明るいから浜に行って来るよ」
「あっ、練習ね。頑張って」
ボールを見てクロが尻尾を振っている。付いて来たいのだろうがおばさんがいないようだからパシカの傍にいないとな。
「クロは留守番だ」
だめだという仕草が通じたのか「くーん」と頭を垂れた。

宇宙人が一度だけ力を貸してくれたゴールキックの感触を忘れないように、あれから何度も練習するうちになんどかゴールに成功するようになった。
うまくなりたい─もしも代替えで出るようになったら、恥ずかしくないようにしたい。
パシカやおばさんに言われたように自分でも体付きが変わってきたのが分かる。背も学校に入ったころはクラスの中でも低い方だったのが今では中より上あたりになっているし骨格が出てきて力も付いて来たのがヤシの木を登る時にも感じていた。
一度宇宙人に「君が操作してるのか?」と勘繰ったら「私はなにもしていない。遺伝子がそうさせてるし、筋肉はアマトが努力して鍛えているからだ」と言われた。
ジョン達もどんどんたくましくなっている。部活に専念してる分当然かもしれない。でもぼくも出来るところで鍛えて行くんだ。うじうじとせず、バラムにいながら出来ることを。ラグビーが好きだからだ。


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