20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第49回   悲しみの年月 B

「みんな……僕は海で遭難したのではありません。36年前何が起こったか。これから話すことにびっくりするだろうし信じられないかもしれないけど、僕がこうして帰って来たことがその証拠です」

僕はゆっくりと語りだした。
『M70』のことも隠さなかった。そのことに触れなければ僕がなぜスイスに行ったのか説明できないからだ。ジョセの話で国連がまだこの存在を公表していないことが分かった。だが宇宙ステーションや月に逃げた人たちは知っているはずだ。
そして僕の中の宇宙人のことも話した。『X』と言う秘密組織にあの日、連れ去られ基地に連れて行かれたこと。そこで宇宙人は円盤の修理にかかわったこと。修理が終わった段階で僕や宇宙人は殺されるかも知れなくなった。だからその円盤で脱出し宇宙に向かった。
その脱出時に僕は冷却銃で撃たれて意識不明の重体になったこと。
なぜ宇宙に向かったかも話した。
国連の宇宙局のガイ隊長が実は『X』のスパイだったが彼の母親は宇宙人であったためガイ隊長も地球の大気では生きられない身体になってきた。そのガイを母親の星に連れて行くためでもあった。本当ならガイを降ろしたらすぐ帰る予定が僕が意識不明の重体でそのままガイの星で養生せねばならなくなったこと。そして脱出の時の無理が宇宙人の身体をも衰退させ、宇宙人は僕をガイの星から大気が地球に似ている『コア』と言う星に移動させるとエネルギーの補充に自分の生まれた星雲に帰って行ったこと。僕は宇宙人が戻って来るまでその星で暮らしていたこと。そして宇宙人が迎えに来てくれてようやくこうやって帰ることが出来たことを。

「僕は一時でも早く帰りたかったんだ。宇宙に出ると地球と時間の差が出来てしまうことを知っていたからだ。時空移動をすると特にその差が激しくなる。コアと言う星は地球とは自転も公転も全く違っていて自分が何日そこにいたかさえ分からなかった。それが36年も経っていたとは……」

どこまで正確に伝えられたかは分からない。あれもこれも話したい。それがどんなにとんでもない事実でも。
だがみんなの顔を見ていて詳しい話はやめた。

「僕の話は取り留めもないだろうし信じられないだろうが事実なんだ」

僕は話を終えた。細かく話すにはもっとたくさんの時間が必要だ。宇宙人のことだって、コアの星のことやそこの宇宙人のことだってたくさん話したかった。でもみんなはあっけにとられたように僕を見てきている。

「聞きたいことがあったら言って」

だが返事がない。科学者ではないのだ。素朴な村人だ。あまりの話に頭がまだ付いていけないのだろう。

「みんなは国連から『M70』のことを聞いていないの」

僕から聞いた。
この質問には反応があった。お互い顔を見て首を傾げたりしていたが1人の老人が

「わしは聞いたことがある」と言った。

さっきみんなが声をかけてきてくれた時、この老人は隅で座ったままだった。

「ひょっとして……ティム?」

僕の声に老人が少し笑った。だが淋しい笑いだった。僕たちタグラグビーの監督でもあったあのたくましいティム。だが今は身体が不自由らしく立ち上がらない。その場でティムは話し始めた。

「わしは村長のダセからそっと聞いたことがある。本当かどうかわからないが地球に向かっている星雲とかがあってそいつは地球の酸素を食べてしまうらしいと。だがまだ何百年も先のことだからな。まだ内緒らしいから言いふらすなよと言われた。あれからそんなことより地球の方がこんなことになってしまって忘れていたが、アマトの話を聞いて思い出したのじゃ」

「酸素を食べるって、ほんとうか! そんなことされたら人間は全滅じゃないか」

ジョセが叫ぶと同時にみんなも騒いだ。

「そうです。あと250年で地球に来ます」

「そんな大事なことをなぜ国連は黙ってたのだ!」

「たぶんだと思うけど、国連はある程度の対策を立ててから発表しようとしてたんだと思う。だから対策委員会に僕は呼ばれて、宇宙人の存在も信じたし、宇宙人とその炭素星雲に向けて共同で対策を立てたんだ。でも僕が『X』に拉致されてからどうなったか、僕は知らない。きっともうそれどころではなくなったのだろうな」

「放射能だけでなくさらにその星雲に襲われるというのか……なんということだ」

「だから慌てて宇宙ステーションやら月に向かったのか……ひどすぎるじゃないか。俺たちは何にもしてないし何も知らされてないのに見捨てられたのだ」

ジョセもハントもみんなもいきり立った。部屋は怒りとともに重い空気が張りつめてしまった。どんなに怒ってもぶつけるところがもうないのだ。外は放射能だ。なすすべがない。
僕もうなだれていた。今から何が出来るのか……

「アマト」

ジョセが僕を見た。

「お前は宇宙人が自分の身体にいると言ったな。それ本当か。今でもいるのか」

僕は頷いてジョセをしっかり見た。

最後は宇宙人の存在を信じさせるしかないと思っていた。

「これから宇宙人のことを話すよ」

僕は宇宙人との出会いから話した。

「僕が海で遭難して両親が死んだことはみんなの知ってることだけどなぜ僕だけ洞窟の小川にいたかずっと疑問だった。そのわけを知ったのは僕がミセの祭りで誘拐されて崖から谷底に落ちてからだった。遭難したときの記憶が戻って、僕は海岸で倒れていた時、宇宙人に呼び掛けられたことを思い出したんだ。宇宙人は僕の身体を借りると言った。その時の僕は死にそうだったが宇宙人が僕の身体を回復させてくれた。その後の記憶は閉ざされていたが宇宙人は僕を洞窟の中のワームホールと言う宇宙基地になっているところへ運びずっと手当をしていた。そこへ誘拐されたパシカがそのホールに入って来たんだ。パシカはそこで眠ってしまった。僕はもう回復していたのでパシカを運んで小川に出ると、宇宙人はぼくの意識を戻したんだ」

「洞窟の中に宇宙基地があったのか」

「そうだ。磁場道といってそこから宇宙に出れるんだ」

シーンとしていた。頷く顔もあった。あの不思議な出来事はこういうことだったのかと納得した顔だ。

「宇宙人宇宙人と言葉だけで話しても信じられないだろう。だから今からみんなに紹介するよ」

「えっ」と言う声が耳に入ってきた。さすがに僕の言ったことに驚いたようだ。

「みんな、静かにしていて。宇宙人は気体だから姿は見せないけどみんなの頭にテレパシーで話しかけるから」
──いいね、挨拶してくれ
<分かっている。では>
それから宇宙人はみんなに伝わるように呼びかけた。
<バラムのみなさん。私がいまアマトに紹介された宇宙人です。とっても遠い星雲で生まれた気体星人です>
その時の反応をアマトは見まわしていた。
「な、なに、これ。ねえ、あんた聞こえた」
隣の人と確かめ合う声が行き交った。
「わおーなんだ! ほんとか!」
ジョセが素っ頓狂な声を上げた。
「すごいな!」
「手品でもないし、アマトがしゃべっているようでもないな」
<本当です。ジョセ、ハント、サキおばさん、ディオ、ティム、ミオン>
これはもう決定的だった。呼ばれたジョセたちは目を見開き驚きに堪えないふうだった。
「どう? 信じてくれたかい」
「信じるさ。でもすごいな。おまえの中にいるんだよな」
「そんなにじろじろ僕を見ても宇宙人は見えないよ」
僕は可笑しくなって言った。少し部屋の空気が和らいだようだ。ついでにジョセやハントに打ち明けたくなった。いまならもう恥も面子もない。
「僕がタグラグビーで速く走ったり強いパスが出来たのも実はこの宇宙人が力を貸してくれていたんだ。といっても僕はまだ宇宙人に気が付いていなかったから自分の力だと思っていたんだ。信じられなかったな。だって僕はマタイではずっと補欠だったんだから」
「なんだ、そうだったのか」
「だから宇宙人のことを知ってショックだった。自分の力でなかったんだからな。それからはもう助けを拒んだんだ。だから中学に上がってからの僕の下手さは見ただろう。あれが実力だったんだ」
「まあ、うまくはなかったが実力はあると思っていた……おいおい、じゃああの名場面のキックは宇宙人の力だったのか」
「いや、違うあれは僕だけだ。浜でさんざん練習していたから。偶然だけど決まって本当に嬉しかったな」
あの時の興奮が思い出された。懐かしかった。
ジョセたちにはもう36年以上も前のことだが僕の方はまだ記憶が新しい。でもこの一瞬は3人とも昔に帰った気分になった。
「俺たちにずっと隠していたのか。大変だったな。話してくれたらよかったのに」
「話したら信じたか?」
「そうだな……あの頃か……びっくりはするだろうな」
「ケーシー博士と話したんだ。今は誰にも言わないでおこうと。気が違ったかと思われるだろうから」
「博士は信じたのか」
「博士は、谷底に落ち僕の意識がない時、怪我の手当を宇宙人から直接呼びかけられて指示されたんだ。だから信じるしかなかった」
「そうか、博士だけは知っていてくれたんだな」
「ああ、それだけでも僕には心強かったよ」
博士はあれからどうしただろう。僕の遭難を知ってバラムに来たはずだ。
その時、1人の男が息を切らせて入ってきた。
「ジョセはいるか」
「ああ、ここだ。どうした」
「今、国連から通信が入った。アマトと言う人が円盤でマライに向かったかどうかと聞いてきた。さっきの円盤のことだろ。だから円盤はやって来た。中の人はバラムの地下住居に向かったと言ったら、違う人が出て、ケーシーと言うものだがその人と話したいということだ。すぐ来てくれ」
アマトはガバッと立ち上がった。
「ケーシー博士だ!」
「よし、アマト、行こう」


機械から聞こえるケーシー博士の声は昔ほど張りがなかった。無理もない。マライの港で博士を見送ったのが36年前だ。ディオのように年を取ってお爺さんとなっていることだろう。
宇宙ーステーションから国連に連絡が入った時、博士はアフリカの地下居住にいて、すぐには連絡が取れなかったそうだ。
「私は、君が必ずどこかで生きていて帰ってくると信じていた。だがあまりに長い年月にもうあきらめていた……よく帰ってきてくれた」
僕の声を聞いた途端、博士の声が震えていた。泣いているのだろう。
僕の苦しみ、辛さを理解していてくれた唯一の、父の友人。
僕はあれからのことをバラムのみんなに話したように博士にもゆっくりと説明していった。
「そうか……ガイは母親と会えたのか。良かった」
博士はそう言うとしばらく黙った。近くに誰かがいるようで、その人が博士になにか言っていて博士が返事をしているのが聞こえる。
「アマト、もっと詳しいことが聞きたいが、こっちに来れないか。もうすでにそこの人たちから地球の状況を聞いて知ってると思うがあれからひどいことになった。私も年寄りになってしまったがいまだに世界を走り回っている。『M70』のこともある。来てほしい」
博士が生きていて地球にいて今でも保健局の仕事で世界を廻っていることが分かって、
僕の心が動いた。暗闇に光がさしたように再び希望が灯った。あまりの悲惨さになすすべもないのかと悔やんで落ち込んだしなによりもパシカの死は予想外に僕にはショックだった。悲しみが徐々に広がっていたのだ。
でも博士はこんな状況でも宇宙ステーションや月に行かずに地球で戦っているのだ。
どんな状況でもあきらめるな。なにか出来ることがあるはずだ。
<アマト、君と私がすべきことが待っている。ケーシー博士のところに行こう>
そうだ。博士のところに行かなければ。
コアから戻ってくる時の決意。地球人は変わらなければ、それを僕は伝え地球を守るのだ。きっと道はあるはずだ。どんなに暗く塞がれたように見えても。
僕は再会したばかりのバラムの人たちと別れた。パシカの娘、アシネに希望をなくさないようにお母さんの分も強く生きるように言い残して。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 9832