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作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第42回   見知らぬ星へ


言葉なのか音なのか分からない声がする。

「なんだろう……」

がっくりと床に座り込んで、両膝に抱えてしまった頭をゆっくりとそちらに向けた。
扉が開いてそこに誰かがいる。だが外が明るくて逆光ではっきりしない。その誰かは
中に入ると僕の前までやってきた。
姿形は地球人に似ているが身長は僕の倍ぐらいあり、頭の髪は銀色で目は地球人より大きくて丸い。その下はすぐ鼻であることは同じだが鼻梁は低い。口は僕と同じくらいだ。首から下はすっぽりとゆったりとした白い服に包まれている。ガイの星でいろんな体型の宇宙人に見慣れたせいだかろうか、たいして驚きもしなかった。
地球の表現で人と呼ぼう。この人が僕より細くて長い手を銀色の頭に置き

「ラー」と言う音を口から発した。少し息が漏れてるような発声だ。

「……」僕は黙ったまま首を傾げた。何のことだろう。

「ラー」またそう言った。それから僕の方に指を向けてきた。ああ、名前だな。僕の名前も言えということだ。

「アマト」そう言って指で自分の顔を示した。

「ラー」とその人はまた頭に手を乗せ次に「アマト」と言って僕を指差してきた。
今度は僕が「ラー」とその人を指差し、その指を自分に向け「アマト」と言った。
その人が頷いた。これは同じ表現らしい。これでこの人の名前が分かった。
「アマト」とラーが呼んだ。それから手招きした。どうやら部屋の外へ行こうということらしい。
僕が外と思ったのは勘違いでとても広いロビーだった。天井が高くて半透明の素材でできていたからやたらと明るい。僕と入れ違いに今出てきたワームホールに入っていく人がいた。足が僕の半分くらいしかないのに身長は同じくらいの茶色の肌の人だった。
ラーがその人にどうぞとばかりにワームホールを指差した。僕が出てくるのを待ってたんだ。
いつまでも僕が出てこないので次の人のためにラーが僕を呼びに来たんだな。
ロビーはガイの星と同じくいろんな体型の宇宙人が、というか人々が行き交っていた。
ラーは僕をすぐ隣の部屋に案内した。
壁に取り付けられたたくさんの引き出しの1つを引っ張り出すと中から手のひらに乗るぐらいの丸い金属を取り出した。鎖がそれについている。それを僕に渡すと、頭に通せというような身振りで示した。
地球で言えばネックレスみたいな物だ。
言われた通り頭から鎖を通すと丸い金属がちょうど胸のあたりにぶら下がった。
ラーは満足そうにその大きな丸い目を少し細めた。そして口から声を出し始めた。

「アマト、私の言葉が分かりますか」

えっ? 私の言葉って聞こえたけど……不思議なのは声が胸の金属から聞こえたからだ。
「驚いているようですね。その金属は言語変換機です。お互いの意思を言語で表してくれます」

ラーの説明にさらに驚き、まじまじと金属板を眺めた。

「すごい装置ですね。これがあればどんな星の人とも通じ合えるのですか」

「そうです」ラーはそう言うと「アマトはこの星になぜ来たのですか」と聞かれた。

僕は地球からガイの星へ行ったことや僕の身体に入っていた宇宙人が、エネルギーが切れて僕をこの星に残して気体星雲に戻って行ったことなどを話した。

「では気体星人はまたここに戻ってくるのですね」

「そうです。僕は一時も早く地球に帰りたいのですが、宇宙人はこの星を知った方が良いと言い残しました。僕にはこの星の何を知ったらよいかなど分からないのです」

「そうですか。それにしても気体星人がエネルギー切れとは珍しいですね。彼らは半永久的な生命体なのです。よほどのことがあったのですね」

ラーの言葉で宇宙人のことを初めて知った。そんなにすごい生命体なんだ! それなのに僕は宇宙人が払った犠牲など考えもしなかった。ここで待っていて、と言った時のあの力ない声に僕は地球に帰りたいと頼んだのだ。何てことだ……考えてみれば地球で『x』にとらわれた時から宇宙人は身体の1部や半分と分離を繰り返していたし、円盤を地球から脱出させるために宇宙人は自分の磁気エネルギーを動力の1部に投入させたんだ。
僕は自分の身体に住み付いた宇宙人の生命ということに初めて思いがいった。これまでまったくそのことを考えなかった自分を責めた。
僕のために彼は自分の生命を削っていたのだ。それなのに自分のことだけ考えていた。

「気体星人は帰ってきますよ。それまでこの星にいましょう」

ラーは僕の様子を見て慰めるように言ってきた。

「私はここのワームホールの管理人ですから帰ってきたら真っ先に知らせます」

ラーはそう言ってまた壁の方を向くと今度はパネルの形をした壁面の下のたくさんのスイッチの1つを触った。
パネルに移ったのは立体的に並んだ建築物のようであった。次のスイッチでその建築物の1つが大写しされた。区分けされた部屋らしいのが並んでいる。それには色がついているのと何もついていないのとがあった。ラーは「これにしよう」と呟くと、その大写しされている建築物の右端にあるボタンに触った。ボタンは触られたとたん赤色に変わった。

「少し待ってください」

ラーが僕の方を向いて言ってきた。
僕は頷き、目をランプに向けていた。何が起きるのか興味もあった。
しばらくするとランプの色が青に変わった。

「連絡が取れたようです。今からあなたを案内する人が来ますのでここで待っていてください」

ラーはまた少し目を細めた。よく見ると細めた時にわずかに口も地球人の微笑む形になっていた。笑うという動作は万国、いや全宇宙共通なのかとふと思った。
僕の相手をしていた間、待っている人がいたようで、ラーはその人と話し始め、ワームホールに向かった。
僕は仕切られた向こうの広いロビーを眺めていた。時々、人型とはかけ離れた体型の宇宙人が通る。見慣れた光景といえどやはり目が行く。地球だったらあれはペットに見えるななどと観察していた。
ラーはワームホールから出てきた人を迎えるとここに来て、またパネルのさっきと違うスイッチを触った。
パネルに星が写った。その下に顔が写っている。やって来た人の顔だった。顔の横には
僕には読めないが文字らしいのが書かれている。
これは地球で言うとパスポートみたいな証明かもしれないな。ここで出入国のチェックをしているのだ。その顔の人はラーから僕がもらったと同じ金属板を受け取るとロビーに入り、人々にまぎれてやがて見えなくなった。
その人の姿を追っていて気が付かなかったが2人の人が僕のすぐ近くまでやってきていた。
ラーはその2人に僕にはわからない言葉で何かを話し、僕を引き合わせた。

「アマト、君の世話をしてくれる人達です」

ラーに紹介された2人はラーの同族と思われる容姿だが身長はラーほど高くはない。
ラーの服装と違って2人は薄水色のゆったりとした上着に下は足に合わせて別れているズボン式だった。
ただぴんと張った皮膚や姿勢からしてラーより若いようだ。

「フィーです」1人が言った。目を少し細め、口が緩んでいる。微笑んでいるのだ。
金属板からの声がラーよりはっきりとしていた。

「スンです」

もう1人が言った。その声におやっ、と思った。さっきの人より高めで柔らかい感じの声だ。僕は失礼かなと思うほどその人を見てしまった。手指の長さや顔の輪郭が丸い感じがする。
僕のこの視線を受けたスンと言った人はやはり微笑んでいる。

「この人たちは同性体ではないのだよ」

ラーが僕に説明してくれた。つまり地球人と同じで性が別れている異性体、男と女なのだ。

「君の星と近い環境の生活居住区だからすぐなじみますよ。気体星人が来るまでこの人達と生活しながら待っていればよいでしょう」

ラーは僕と2人がロビーから消えるまで見送ってくれた。

ワームホールから離れてしまうことに不安があったがいつ来るかわからない宇宙人を待ってここにいるわけにもいかなかった。

地球時間のことがどんなに気になってもどうすることもできないのだ……とんでもなく遠い宇宙に僕は出てしまったんだ。そして僕は生きてここにいる……宇宙は広い……地球だけがすべてではない……地球人が知らないだけで、様々な星の様々な宇宙人がこうして生活をしているのだ。
宇宙人は来てくれる。僕のためにすり減った命を充電してまた僕のもとに来てくれる。それは当たり前のことではなかった。
そこまでして地球人の僕のために尽くしてくれることを思ったら、今はここで生きて待っていよう。いつかきっとみんなと再会できることだけは信じて。
前を歩く2人の後をアマトはしっかりついて行った。


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