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作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第37回   円盤の復活

会議のメンバーはこれまでに宇宙人と接触してきた警備員5名とユスタン、そしてゲオルクの7名で構成されている。
ベンのように組織の運営に携わらない純粋に科学者として研究や開発を専門とする者にはなにも知らされない。だからベンに移った宇宙人はこの組織の中枢を知ることも出来なかっただろう。

「円盤の試乗が成功したらアマトは島に帰るつもりでいる。アマトの生死は宇宙人がアマトから離れるという条件をのむかどうかだ。我々は少年を殺す意図はないが記憶は消してから帰す。おそらく宇宙人はアマトを生かす方を選ぶだろう。アマトの部屋ですべて行なう。宇宙人がアマトから離れたらフィルムで遮断しアマトを部屋から連れ出す。防護服を着用の事。宇宙人はわずかな隙間も通ることが出来るからな。その後は宇宙人を冷却保存すること。計画通りに寸分の狂いもなく実行するのだ」

それを行うのは5名の警備員だ。ユスタンはアマトのその後に責任を任されていた。深い催眠療法をかけさせてから飛行艇で島に向かい眠ったままのアマトを海岸に置いてくるという役だ。だが実際は飛行艇から海に突き落とすことになっている。それはユスタンだけが知っている密命だ。

「もし宇宙人がアマトから離れなかった場合はそのまま一緒に冷却することになっていますが変更は無いですね」

警備員の1人が確認して来た。

「ああ、そのままだ」

アマトの部屋は一瞬にして冷凍できる仕組みになっている。宇宙人ならそれでも動けないだけで冷凍が解ければ復活するだろう。だがアマトはそうはいかない。生身の細胞は生き返ることはない……いや待てよ……まさか……宇宙人がアマトの細胞を復活させることなどあり得るだろうか……もし宇宙人がアマトと分離するのを断ったとしたら、そのことを見越しているということか……それならそれですばらしい発見ではないか。その仕組みを解明しさえすれば未来まで生きながら得ることが可能となる。それは宇宙開発にも大いに役立ちそうだ。
どっちに転んでも組織にとっては損にならないわけだ。
ゲオルクまでそこまで考えが及ぶと微笑を浮かべた。

「ユスタン、アマトは今日なにか変ったことがあったのか。脳波がいつもより元気がいいぞ」

「今日ですか……」

変わったことといえばあれか

「昼に腹痛を起こし医務室で薬を飲んで休んでいましたが夕方には治りました。後は変わりありません」

「医務室……あそこにはガイが寝ているがまさか接触していないだろうな」

「それはありません。看護師もアマトは寝ていたと言ってましたから」

「そうか……まあ、ガイは自分達を売ったスパイだから敵だと思っているだろう」

ガイが宇宙人の子であることはアマト達は知らないはずだ。このことを知っているのはまだほんの1部の者だけだ。
最後の対策会議が終わるとゲオルクはベンを呼んだ。明日の完成に向けて宇宙人がどう動くか。ベンに明日の作業を確認するためだ。
これまでもベンには何度も自分の意識におかしなところがないかどうか注意させている。
宇宙人の手を借りなければ円盤を操れないようでは困るのだ。ベンがすべてを網羅し自分で円盤の仕組みから操作まで出来なくてはいけない。そのベンのもとで技術者、科学者を育成していけば円盤の生産が可能になる。
その一っ歩となるのがこの二日間にかかっている。

「ユスタン、君もここにいてくれ。ベンを観察しているように」

「はっ、なにか不審でも……」

「いや、なにもない。だが相手は目に見えぬ気体星人だ。なにを仕掛けてくるか不気味だ。どんなに用心しても足りないぐらいだ」

ゲオルクの言葉に緊張するユスタンを見て

「君も大丈夫だろうな。まさかとは思うが宇宙人がわずかでも隠れていないだろうな」

「それは大丈夫です。そんな隙を与えてはいませんし自分の中に不審な思考も感じていません」

「そうだとは思うがまったく厄介なものだな」

組織の首脳陣のいうとおりだ。とても我々が扱える宇宙人ではない。三〇〇年後の地球を救う方法はなにも宇宙人に頼らなくても見つかるだろう。この危険な宇宙人はやはり今、冷却管理せねばならないな。

翌朝はいつもと変わりなくベンがやって来た。ゲオルクも酸素分子遮断服を着て後ろに立っている。

〈アマト、それでは行って来る〉

──ああ、分かってる。

それしか言葉を交わさなかった。不用意に長引かせては不審がられる。
ふとゲオルクの視線を感じて目を合わせた。その目に不審の色を見て何気なく目をそらしたが、ゲオルクは何かを感じ取ったのだろうか。
ベン達の去って行く姿を見送るといつものようにユスタンと部屋を出た。いよいよ今日だと思うと緊張が立ってしまう。アマトは息を大きく吸い込みながらユスタンの後ろからゆっくり付いて行った。

ベンは自分の事を冷静沈着な人間に属すると自負している。だが今日を迎えるのに寝てなどいられなかった。早くから目が覚めている。身体が興奮しているのだ。
いつものようにアマトの部屋の前に来て、ゲオルクが念を押して来た。

「ベン、今日は特に気を付けてくれ。思考の異変や分からない個所があったらすぐ知らせてくれたまえ」

まるでベンの興奮をみすかして言って来ているようだ。
そんなことは言われなくても分かっている。だが物理学者にとってこれは衝撃的な事実なのだ。円盤の故障個所を発見して修理していく作業を宇宙人の指示のもとで進めて行くうちに、だんだんこの円盤の全容が見えて来て震えが来た。
『X』に来てまず円盤を見せられた時、その形に圧倒された。横に広がった円盤状で飛ぶというのか。地球のロケットからしたら信じられない。重力の抵抗を最小限にするために細長い円錐形にし、出来るだけ軽く造られているというのにこの円盤の形では平面に重力を受けてしまう。だが異星人はこの乗り物で地球にやって来たのだ。
中に入ってその構造にまたまた驚かされた。円盤状の中央部が3層になっていた。1番下が計測器らしい機械や何に使われているのか分からない太いパイプが何本も内壁にびっしり並んでいる。このパイプの役割は何かも分からない。燃料を通すのとは違うようだった。その1部が破損していて中を見たらただの空洞だった。2階部分は制御室らしかった。
おそらく円盤の操作をここでしていたのだろうぐらいは想像つくのだがコンピューター
制御されていたのかも分からない。3階部分は居住区のようだ。カプセルの容器や地球で言う食物の貯蔵庫らしいのが並んでいる。天井は円いドームだ。壁側に取り付けられたパネルに印があるのをみるとただの壁としての天井だけではなさそうだった。
壊れて静まり返った円盤の中でベンはこれが正常に作動していたらどんな光景だろうかと想像し、見てみたい衝動にかられた。手当たりしだいスイッチらしき物に触れてみたが変化なしでとても自分の手に負える代物ではなかった。他の学者や技術者と何度も仕組みを解析してみたがどうして動いていたのかが分からなかった。ただ確信できるのは、異星人は重力を理解し操る方法を知っていたということだ。空間の力、重力の正確な理論はまだ地球の物理学者の間では解明されていない。悔しく無力感にも襲われながらあきらめずに解析に取り組んでいた時にアマトの宇宙人が現れたのだ。
それからはまるで霧が晴れて行くかのような発見に驚きの連続だった。動力がなにか、重力を操作するエネルギーの発生装置の仕組みなどが宇宙人によって説明されていく。脳が爆発しそうなほどの情報に理解が伴わない時もあったが、とうとうここまで来たのだ。今日で修理が完了するのだ。

〈ベン、いよいよ最後の仕上げです。何をすべきか分かってますね〉

「分かっています。電磁気力の発生装置の電気回路をすべてつなげるのです」

〈そうです。そんなに複雑ではありませんから完了したら動力元の鉱物に電磁気を照射します。放射性物質を光速で取り出し電荷を持った強い力を発生させます。今日は接続が完了したらその装置が正常に働くかどうか試します〉

「あの1階に張り巡らされたパイプが光速装置ですね」

〈そうです。円盤のリングで進行方向を決めます〉

「地球上でこの構造を真似て作ったとしたら同じように動くのでしょうか」

〈それは無理です。この円盤その物が大きな電磁気力を作り出す動力体として機能出来る物質で造られています〉

やはりそうか……この円盤の金属が地球に無い元素を含んだ化合物で出来ているのだ。
それに動力源の鉱物もだ。かなり重い質量を持っている。地球上で発見されてない元素も含みそれがどんな働きをするのかも分からない。
地球の重力を伝えていると言われる空間物質は(重子力)と呼ばれている。地上に行くほどその力は寄り集まって強くなる。普通、力を加えればその作用は反作用も起こす。反発する力だ。だがこの(重子力)は引く力だけと言われている。だから反発力を使うことも出来ない。その反発する力を円盤は起こす。それにはイオン電子を光速で走らせ電磁気力を起こさせるのだ。
理論上ではそこまでは解明されている。だがあくまで理論であって応用して作られた物は存在していない。まさに円盤はその物なのだ。

朝から神経の張り詰める作業が続いた。1つの作業工程のたびに宇宙人がベンの手を通して間違っていないか確認をしなければならなかったからだ。
午後も後半になってようやくすべての回路がつながった。
円盤の外にいる者は全員修理室から退避した。
ゲオルクと科学者達は修理室を一望できる監視塔から実験を見守った。
鉱物に電磁気を照射し正常にイオン電子が発生するかどうかの実験だ。今日はそこまでだがそれでも円盤の周囲の重力圧の変化が起きるから退避した。
円盤内の2階の管制室に技術者、関わった科学者、ベンが集まっていた。いよいよ試運転になった。全員、緊張と興奮の眼差しでベンの手元を見守る。

〈ベン、それでは発生装置のメインスイッチを押してください〉

宇宙人のゴ―サインでベンは円いパネルを押した。
静かな時が流れた。変化は……耳を澄ます。目は、壁に取り付けられている鉱物からのイオン電子発生量表示ランプを見据えている。
30分ほど過ぎたころ

「おおっー!」

管制室に声が沸いた。最少量の位置に赤いランプが点灯したのだ。
監視塔のゲオルク達も修理室の空気に微量な振動が計測されたのを見て動力の発生に成功したのを確認した。
 
「点いたぞ! やったぞ!」

ベンが叫んだ。叫ばざるを得ないほどの興奮に包まれた。科学者として地球人として物理学の最高の理論を機能させている円盤の点火をこの手でしたのだ。

〈ベン、やりましたね。成功です〉

実際ベンは有能な科学者だと宇宙人は認めた。よくここまで理解して接続できたものだ。
ただ私の指示通りにやっていたのではない。理解しながら覚え込み忍耐強く取り組んできたからだ。ベンの興奮が伝わって来る。ベンは『X』にこだわらないひたすら科学の世界に生きる人間のようだ。地球の発展にとっては必要な存在ではあるだろうがその関わり方一つで破滅をも招いてしまう危険も潜んでいる。科学の力をどう生かすかという価値観がベンには欠けていた。彼の中にいてその思考の希薄さに気付いた。だが、今はそれがアマトやガイの逃亡には幸いして、彼は何も疑うことなく修理に没頭してくれていた。

〈ベン、それでは他の方に各配置について点検を指示して下さい〉

「そうでしたね」

ベンは頷くと

「それではみなさん、それぞれの持ち場に付き点検を開始します」
動力が作動すれば通信、電気系統が正常に働く。今からの作業はそれら機器類を作動させていくことだった。
宇宙人は関係者がそれぞれに散って行くのを見ながら、脱出方法を再確認していった。


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