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作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第35回   35

翌朝、漁に出たバラムの衆が海岸に寄せてあるアマトのボートを見つけた。ジョセの父親のディオは不審に思って海岸に降り立ち、あたりを見渡したが、なにしろすぐ切り立った絶壁になっていてすぐ海なので行き場など無い。
遭難とは考えにくかった。ボートはきちんと岩にひもでつながれていたからだ。それでも男衆は海や周りの海岸を捜索してみた。ひょっとしてボートを置いて家に帰っているんじゃないかと村に戻りタネに聞いたら、昨日、ケーシー博士を町に送って行き、そのままジョセの所で泊まるかもしれないと言っていたからなんも心配していなかったということだった。
ディオは念のため町に行き、仕事中のジョセを呼びだし、アマトが来ているかどうか聞いた。

「ゆうべ? いや来なかったよ。どうして。アマトがどうかしたのか……」

ディオの胸に不安が広がった。以前、マタイの首長だったクラノスに狙われていて村の衆で絶えず気を付けていた気持ちが蘇って来た。だがもうクラノスはいない。アマトに危険は去ったのだ。あれから今日まで不安もなく過ぎて来たのだ。一体どうしたのだろう……パシカもタネも気が動転しておろおろし出した。

「あと1日待ってみよう。それでも現れなかったら……」

「現れなかったらなんていやだ! きっと帰って来るわ!」パシカは頭を激しく振って
そんなことは考えたくないと泣きじゃくった。
「ケーシー博士に聞いてみたら。ひょっとして一緒について行ったかもしれないじゃないか」ありえないと分かっていてもタネは言わずにはおれなかった。

眠れない1夜を過ごした翌朝、ディオは町に向かった。アマトは帰って来なかったのだ。町役場からスイスのケーシー博士宛に緊急通信をしてもらったが博士は仕事で海外に行っているのでこれから連絡を取ってくれるということになった。
アマトが行方不明になったことはすぐ村中に知れ渡った。だが今度はどうしてそんなことになったのか見当がつかない。
ケーシー博士は仕事先で連絡を受け、後の事を部下に任せて急いでバラムにやって来た。
あの日、自分を送ってからアマトは海岸方面から洞窟に入ることになっていた。ワームホールに球体を嵌めに行ったはずだ。だがボートがなぜその海岸にあったかを村人に説明は出来なかった。アマトと自分しか知らないことなのだ。まさか、ガイに見つかったとか……
博士は洞窟を警備している宇宙局隊員に聞きに村の集会所まで行った。ガイに聞きたださなくてはとガイを探した。ところが集会所の様子がざわざわしている。隊員達が不安そうに出たり入ったりと落ち着かないのだ。ケーシー博士がガイ隊長に会いたいと伝えたらジョン副隊長が出てきた。実はガイ隊長が行方不明になり現在、国連と連絡を取っているところだと言う。
これは偶然の一致なのか……関連しているのか……たとえばワームホールでガイと出くわしたとか……まさかとは思うが……ガイを母親の星に連れて行かねばならないような事態になったとか……
そこまで考えて、もう1つ気になることが浮かんだ。ヘンリー博士が気を付けるようにと言っていた闇の組織……ひょっとして、すでに動きを読まれていたかもしれない。
博士は急いでスイスに帰り、ヘンリー博士に会った。ヘンリー博士には球体の事を知らせてない。ただワームホールがあることは知っている。
アマトとガイが洞窟で行方不明になったことを知らせると眉を寄せて考えていて

「ちょっと気になることがあるから待っていてくれたまえ」

そう言ってどこかに出かけて行った。
しばらくしてケーシー博士の所に戻ってきた。

「今、宇宙局通信部に問い合わせして見たら、やはりマライ島あたりから怪しい飛行艇をキャッチしていたよ。以前も科学者が同じように行方不明なった時に現れた飛行艇だ。おそらくこれは秘密組織のものだろう」

「じゃあ、アマトとガイはその飛行艇で拉致されたということですか」

「だろうな……」

「それなら行き先も分かっていますね」

「それが飛行艇はものすごいスピーと、なんとか軌跡を追っても北大西洋上で消えているのだ。はっきりとは掴めないでいる。おそらくあの近くの島々のどこかではと調べたことはあるのだがほとんど木が生い茂り渡り鳥の生息地ばかりだ。海底まで調べたがなにも見つかっていないのだ。もっと違うところかもしれない」

「こんなに早くアマトの事を知られるなんておかしいですね。対策会議のメンバーの中にスパイがいるのではないですか」

「うーむ。こうなると考えなくてはいけないな……それにしても、ガイ隊長まで摑まるとは」
ガイは宇宙人だからですよ、と思わず言いそうになってしまった。秘密組織がガイの事を嗅ぎつけたのかもしれない……だが、そのことはアマトと私しか知らないことだ。対策会議のメンバーも知らない。誰がスパイなのか。
ヘンリー博士はすぐに対策会議を招集すると言って去って行った。私には打つ手立てもない。
アマト、無事なのか。どこにいるのだ……


──きょうでもう1週間は過ぎている。きっとバラムは大騒動だろうし、パシカは泣いているだろうな……博士にも伝わってるに違いない、心配しているだろう

毎朝、ベンと一緒にやって来るゲオルクに帰りたいと言っても、円盤が完全に直るまではと取り合わないのだ。ガイの事も気になっている。ガイはまだ医務室に行ったきりだ。できれば一緒に帰り、早く母親の所に行かせなくては。

──なんで直すのにこんなに時間がかかるのだよ

宇宙人に不平を言ったら部品の製造に手間取っているからということだ。

〈それに奴らはおもしろいことを言ってきた〉

──なんだよ

〈君だけを帰して私はベンとずっとおれないかと〉

──何だって! そんなのは罠だ! やつらは君を利用するために保管したいんだ!

〈分かっている。だから断った。もし無理にそうしたら協力はしないと言ってある。だからもう少し我慢をして欲しい。ところでガイはだいじょうぶか〉

──何とか息をしてはいるよ。僕が見に行っても顔をそむけたまま口も聞かないがね

〈ガイは母親の所に行く気になったかな〉

──そんなの聞けないよ。ユスタンがいつも一緒だし看護師がいるんだ

〈いま、ベンに頑張ってもらっている。円盤が直ったら彼を使って脱出方法を考えているのだがガイを連れ出すには君から説得してもらわないと〉

──円盤で逃げるのか。そりゃあおもしろい、奴らは慌てるだろうな。でも出口はあるのか

〈時々、ベンの思考を止めて探ってはいるがベンに気づかれないようにしなくてはいけないからまだ突き止められない。出口が分かったらすぐ実行する。だからガイの方を急いで〉

──そうだな……でもこれは君のが得意だろう。夜、こっそり僕から抜けて医務室へ行きガイに話すんだよ

〈アマト、ここはそんなに甘い建物ではないんだ。この部屋だって君と交信しているのが分かるように電磁波は仕掛けられている。ベン以外の人間に乗り移ればすぐばれてしまうようになっている。それに抜けて通路に出たら私の居所はすぐモニターに映し出されるようになっている。要所要所にレーザー銃が隠されている。実に恐ろしい要塞だよ〉

──ええーっ!……そんな!

ユスタンと何度も歩いている通路もそうだったのか!

──そんならなおさらガイを連れ出すなんて出来ないじゃないか!

〈それらから抜け出す方法は私に任せて、ガイの事を頼む〉

──君は今ぺらぺら話しているけれど、これって聞かれているのか

僕は声にしていないから盗聴など出来るのだろうか。

〈いや、中身までは分からない。ただ君の脳波の出す微弱電流をキャッチしているだけだ。君だけの思考と私と話すときの脳波に違いがあるからわかるのだよ〉

──ふーん。すごい頭脳集団だな。こんな科学技術があるならもっと地球を救う方法に使ってくれればいいのに

〈彼らは自分達の得になることしか投資しない。そういう組織なんだここは〉

──そんこと言ったって地球が危なくなって、人もいなくなったら得もなにもないじゃないか。国連と協力してこの危機を救うべきだよ。

〈だから、円盤を欲しがってるのだ。円盤の技術を独占すれば人類を救うという名目で莫大な富を得ることができるから〉

──……どうして……僕には分からないな。そういう神経が。同じ地球人なのに

〈いろんな立場のいろんな考えの人間が出来る。地球人の段階の1つだが……間違って破滅の方向に行くかもしれない……私の判断も難しくなりそうだ〉

僕はこの時、宇宙人のこの呟きを軽く聞きながしていた。たいして意味も無く言ったぐらいにしかとらえてなかった。判断、の意味を知るのはもっとずっと先の地球がかなり危なくなってからだった。



ゲオルクは常にアマトの部屋を監視していた。ベンに乗り移ってからはベンを、部屋に帰ってからはアマトの脳波をキャッチする電磁分析機を睨んでいた。神経を張り詰める任務だ。
今のところは気体星人がベンとアマト以外に乗り移るデータ―は出ていない。
円盤が完成し、ベンが操作できるようになれば、この任務から解放される。組織の首脳陣から気体星人の扱いを任されている。
「円盤が完成して、気体星人が我々と今後も協力するというのならば生かしておいてよいが、気体という特殊な生命は厄介だな。扱いが難しいだろう。事が終わったら冷却管理とした方が良さそうだ」
方針は決まっていた。だが、これは極秘だ。少しでも洩れればあの気体星人の事だ。きっと勘づくだろう。
自分も守らなくてはいけない。ゲオルクはアマトに近づく時は必ず酸素分子の遮断服を白衣の下にまとっていた。

「ユスタン。アマトの様子はどうだ」

「はい。退屈そうです。どうして窓が無いのかとかここはどこなのかとか聞いてきますが私が一切答えないと分かったようで今は聞かなくなりました。ガイのいる医務室か許されている範囲で施設内の通路を歩きまわっています」

「ガイの所でなにを話しているのだ」

「身体の具合はと聞いていますがガイは口を利かず、目も合わせません」

「そうか……ガイはどうだ」

「今のところ変化なく息が少し苦しいようです」

「ガイの事は君も知ってるな。助けてやりたいが今は円盤の完成が先だ。彼が本当に宇宙人の血が入っていて地球で生きられないようならエアーズロックまで連れて行く。死なれては困るのだ。宇宙人と交信するための大事な存在だからな。しっかり見ていてくれたまえ。万が一の時はすぐ知らせるのだ」

すべては円盤の完成にかかっている。ガイの事もアマトの事も宇宙人の始末も、動きだすのはそれからだ。それまでは気が抜けない。万全の態勢で臨まねば。

目を赤くして不眠で計器に張り付いている部員に施設の装備、緊急時の装置の確認などを再度指示しながらゲオルクの目はアマトの部屋の画面を凝視した。薄暗い部屋の様子が円赤外線カメラで映し出されている。少年はベットから動かない。脳波も今は乱れもなく落ち着いている。寝入ってしまったのだろう。だがその少年の脳の中で宇宙人は今、何を考えているのか……脳波の静けさが返って不気味だ。
あいつはどんな力を秘めているのか……不安はそれだ。これだけしっかり見張っていても気体星人の持つ能力は計り知れない……


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