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作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第33回   秘密基地『X』


〈アマト、アマト……〉

簡素なベッドに横たわったままアマトはビクともしない。
だめだ。意識がしっかり閉じられている。あの臭気ガスはかなり強かったのだろう。それにしてもこの金属の塊の部屋は出られそうもない。
洞窟から飛行艇に運ばれここに至るまで透明なフィルムに被われて出られなかった。そのままここに運ばれアマトはベットに置かれ、上から四角い物が降りて来てすっぽりと囲われた。その時にフィルムは天井から伸びて来た機械に引き上げられていた。ようやくアマトの身体から出られてこの壁に触れた時、酸素を通さない特殊な加工が施されているのを知った。ということは私の存在を知っていてやられたことだ。何者だろうが……
音がする。壁の向こうからだ。ガシャン、ドンという物を置く音に混じって機械を操作する音もしていた。
やがて音が消えた。
静まり返っている。
その静けさが合図だったかのように金属の壁だけが上がり始めた。
宇宙人は急いで壁から離れアマトの身体に戻った。
壁が完全に取り払われてアマトの横たわるベッドが広い部屋にさらされた。

「アマト君とその身体にいる気体星人に呼びかけます」

低く威厳に満ちた男の声が部屋に響いた。

「アマト君起きて下さい。もう麻酔は切れます」

その声にこたえるようにアマトの意識が動き始めた。

〈アマト、気がついたかい。起きて〉
──うーん……誰だ? なにかしゃべっているような……
〈アマト、私だよ〉
──私?……ああ、君か。でも……僕はベットに横たわっているみたいだが、どうして?
〈ほら、洞窟のワームホールを出たとたん君は麻酔をかけられたんだ。シュウーという音がしたのを覚えているだろう〉

宇宙人の説明でようやく記憶が戻り始めた。
そうだ……あの時、スーッと意識が遠のくのを覚えたが。

──思い出した! 麻酔だったのか。でも誰もいな……
とまで言ってハッと思いだした。

──そう言えばあの時誰かの声を聞いた気がするのだが……

〈いたんだ。そいつらにここまで連れてこられたが君は麻酔で今まで眠っていたんだよ。もう目があけられるだろ。周りを見てごらん〉

連れて来られたって? いったい誰に。
アマトは自分の意思で目を開けた。
白い天井が見えた。高い天井だった。頭を動かし、ぐるっと周囲を見渡しビクッとした。
人がいる! それも何人かだ。みんな白衣を着て、こちらを見ている。ただ、その人達との間に透明な膜が張られているのも分かった。その背後には機械類がびしっと壁にくっついている。
アマトはベットから上半身を起こした。身体がだるい。麻酔の影響だろう。べットに座ったまま白衣の人達を見つめた。

「アマト君、気がつきましたか。君をここに連れて来るのに麻酔を使った事をお詫びします。この施設の場所を知られたくないのと君の中にいる気体星人が友好かどうかも我々には見当がつかなかったため、このような非道な手段を取らせていただきました。どうか理解をいただきたい」

話しかけているのは白衣の中央にいる人だ。黒ぶちの眼鏡をかけ、えらの張った輪郭と厚い唇をしている。アマトは他の人にも目を向けていった。白衣を着た人達はみんな同じような雰囲気を感じた。もちろんその中には知った顔はいなかった。後ろに白衣以外の人が2人いた。警備員のような制服に見覚えがある。そのうちの1人を見て、えっ! と声が出そうになった。まさか……どうして!
僕の驚いた目線を受けて目をそらした人物は間違いなくガイだ! でもガイは洞窟の警備に当たっていたはずだ。どうしてこんなところにいるのだろう。

「あなたたちは誰ですか? 国連の人達ですか?」

僕は黒ぶち眼鏡の人に視線を戻して聞いた。

「ガイ隊長を見てそう思われたようですが、我々とこの施設は国連とは無関係です。はっきり言えば秘密に存在する組織です」

秘密に存在するって……まさか、あのヘンリー博士から聞いた組織なのか。

「我々の組織は1部の人には怖い存在と思われているようですが、それは誤解です。ただ、主旨がまだ世界の人々に理解されない段階なので表立って名乗らないだけです」

男は隠すことなく確信に満ちた声で説明していく。

「我々は宇宙に出るための準備をしています。地球に来た宇宙人達とも接触しています。ただ残念なことに彼らは地球では生きられず死んでしまっています。彼らの残した円盤も故障しており我々の技術では治すことができないものです。この円盤の仕組みが分かれば宇宙飛行も大きく広がるでしょう。太陽系だけでなく隣の銀河にも行けます。素晴らしいことです。そのためにも我々は宇宙人を探していました。そしてアマト君のことをこのガイ隊長から知ったのです。そして驚きました。気体の宇宙人とはまったく考えもしてませんでした。しかもその飛来はワームホールという磁場道を使ってのこと。宇宙の世界をまたまた思い知らされました」

男が熱っぽく語るのを聞きながら、アマトは世界の中に宇宙人と接触し、その存在を当たり前のように言う人達がいたことの方に驚いていた。

「アマト君の中にいる気体星人と我々は直接話すことを望んでいます。ただ、この仕切ってあるフィルムは気体が通れないよう特殊加工してあります。気体星人には我々の話しが聞こえていてもそちらからのテレパシーは通じないでしょう。なぜこんなフィルムをしなければならないかを説明しましょう」

僕はまだベットに座ったままだ。病院の無菌室に入れられた気分だった。

〈アマト、ガイが気になる。顔色が悪い〉

宇宙人に言われてまたガイを見た。本当だ! 肩まで上下させて──と、その時、ガイが屈みこんだ。

「おい、どうした?」

隣にいたガイと同じ制服姿の男がガイを覗きこんだようだ。
話しかけていた黒ぶち眼鏡の男が後ろのガイの様子に気がついたようで、後ろを振り向き

「ユスタン、ガイ隊長を医務室に連れて行きたまえ」
と指示した。
ガイはユスタンの同行を拒み、ふら付きながらも1人でドアから出ていった。

──あれは変調じゃないか

〈そうだろうな〉

──だいじょうぶかな? お母さんのところへ行ったほうがよさそうだよ。

僕がガイの様子に目を奪われているのが分かったようで

「話しが途切れてしまいましたね。ガイ隊長は医務室で手当てを受けますので心配はありません。それでは続けます」

「以前、円盤がある地域に落ちたという知らせを受け、我々はいち早く駈けつけ、周りの人々を遠ざけて、深くえぐられた穴に近づきました。空から探査してその穴の中に円盤があることが分かりました。まず数名が穴に下りて行きました。もちろん空気が正常かどうか成分測定しながらです。一応防毒マスクも装着して。ところが穴の底に近づいた時、その者達は動けなくなってしまい、空からの指示で命綱を引き上げたところ心臓が止まって絶命していました。我々は一定の距離まで急いで退去し、空からの映像を分析しました。拡大して見て分かったのは円盤のすぐ近くに地球人ではない姿の者が我々の仲間に向けて手を向けている様子でした。それが原因かどうか分かりませんが、我々は宇宙人だと解釈し、スピーカーで我々はなにもしないから安心するようにと呼びかけました。返事はありませんでした。1日待ちました。厳戒態勢を敷いて翌日、空から様子を偵察しました。昨日と同じ所に宇宙人が映っていました。ただ倒れているようで動きがありません。生体反応を調べる電磁波をあてたところすでに死んでいることが分かりました。安易に近づいてしまったことを非常に後悔しました。このことから我々はその後、警戒過ぎるほどの対応を取ることにしました。だからこのような対応をせざるを得なかったことをご理解下さい。アマト君の気体星人は地球人に危害を加えないことはこの間のアマト君やケーシー博士の行動をみて分かっています。ただ、マライ島のクラノス首長に取りついた気体星人が今、地球にこのような危機を招いたことも事実です。良い悪いの判断は地球人にとってどうなのかで判断をせざるを得ません」
 
男がいったんここで言葉を切り僕をみつめている。反応でも確かめているのだろうか。男の言い分はもっともだと思えるが……それでもこんな形で連れてこられたことは納得できない気持ちがまだある。

「アマト君」と男が呼んで来た。

「我々はこのフィルムを取り外し気体星人と直接、会話したいと思っています。しかしいくら信用しているとはいえ先ほどのような経験から躊躇しています。私の話しは聞いていると思いますのでその返事をアマト君の口から聞かせていただきたいと思います」

ようやくこちらが答える番になった。

──聞いたかい。フィルムを外して君と直接話がしたいと言ってるけれど君が彼らに危害を加えないと信用して良いかどうかって返事を僕からして欲しいって言っている。

〈分かっています。私こそ信用できる地球人かどうか知りたいぐらいだ。そちらが危害を加えないなら私は応じると答えて欲しい〉

そうだよな。僕はクスッと笑った。

「えーと、宇宙人はあなた方に危害を加えようとはまったく思っていません。逆に危害を加えられることを心配しています。安全の保証が得られるなら会話に応じるそうです」

僕の返事にちょっとした苦笑が白衣の人達に起きた。どっちかというと恥じる気持ちもあったのだろう。自分達の安全ばかりを考えていたわけだから。

「そうですね。そちらの安全は保証します」

──聞いただろう。保証するって

〈そうだな……このやりかたにちょっと引っかかりもあるが彼らの言葉をここは信用しよう〉
僕は男に伝えた。

「宇宙人はそれを聞いて安心しています」

「ありがとう。それではフィルムを撤去します」

男の合図で、後ろのユスタンと呼ばれた男が壁に設置されている機械に向かい、ボタンを押した。
フィルムが天井に巻き上げられていった。
男は背筋を伸ばしアマトに向き直った。

「それではあらためて挨拶いたします。私はこの施設の長官でゲオルクと言います。もしあなたにも名前がありましたら教えて下さい」

それを聞いてアマトは、あれっ、そうだよな、と思った。僕はただ宇宙人、宇宙人と呼んでいたけど名前があるかどうか聞いてなかった。

〈私は気体星雲第40惑星から生まれた、地球の科学の名では電子、レプトンに属します。地球のような個人名は無く惑星では認知番号がありますが私は知りません〉

宇宙人のテレパシーによる返事が部屋の全員の脳に伝わった。白衣の人達は、知ってはいたがさすがに初めての経験で、神妙な顔をしている。

宇宙人が初めて出生を明かした。ケーシー博士や僕にはいつか教えてくれるとか言ってたが。
ふーん、名無しか、変だな。地球ではありえない。だいたい呼び合えないじゃないか。名前で本人と確認されるのだから。

「レプトンとは!──」

男や他の白衣の人達が一様に驚いた表情を見せた。僕は科学者ではないから、そうか電子かあーと思っただけだ。だがこの驚きようを見て宇宙人が実は科学では考えられないほど不思議な存在なんだと言うことだけは分かった。

「驚いて失礼しました。レプトンで生物が存在出来るとは信じられないことなので。いやこれもわれわれ地球人の知っている限りにおいてという意味ですが……まことに驚きです。宇宙の神秘をまたまた知らされた思いです」

男の興奮が声で分かった。テレパシーとレプトンだけで十分すぎるほどの衝撃をくらったようだ。

「そのあなたの生れた気体星雲第40惑星という場所は地球では聞かない名前ですが、地球から見たらどちらの銀河方向ですか」

〈私は地球で付けた星の名前を知りませんがこの質問の答えはあなた方には分かりにくいものです。光が曲がったり歪んだりする現象は分かっておられるように距離もまた直線とは限りません。方向もあるようでないとでもいいましょう〉

白衣の科学者たちはその返事にもまた目を丸くした。お互いが信じられますかとでも言いたげに顔を寄せ合っている。
ゲオルクと名乗った長官は腕を組み、考えをまとめようとして他の白衣の人と小声で相談し始めた。

──君の事、面くらってるみたいだよ

〈規格に合わないと不思議がらずに、自然に受け入れれば驚くことでもないのにな〉
ゲオルクが僕に向き直って来た。

「あなたの出生や生体についての質問はここではやめます。今の我々ではとうてい理解できないと思われるからです。そこで次にお聞きします。あなたが地球にやってきた理由は何ですか」

〈国連の対策委員会で話した炭素人の事は知っていますか〉

「知っています。そのために今地球は危機に陥っているということも」

ええっ! もうすでに知ってるのか! 筒抜けだ。でもそうだよな。ガイがスパイだったんだから。ヘンリー博士が言ってた通り、秘密は守られないということはこのことだな。

〈炭素人はワームホールを通って来ました。私はワームホールの磁場道を塞いでいた球体がないことに気がつき、塞ぐために来ました。だがすでに炭素人が来ていました。後はあなたがたも知っての通りです。ここに来る直前に球体で塞ぐ事が出来ましたが、今は炭素星雲から地球を救うためにいます〉

「その救う道も聞いています。アンドロメダ銀河に向かわせ、途中のブラックホールに吸収させるということを。そんなことが出来るというあなたの力に驚いています。それほどの知性と科学力を我々に教えていただけることを希望します。地球人の未来のためにも、我々は自由に宇宙に飛び立てるようにならなければいけないからです」

〈その思いは大事です。星は永久に生物を保護する物ではありません。星もまた生物と同じように再生と消滅を繰り返します。ただ、今の地球はまだまだ人類にとっては何億年という長い間生存できる存在です。この星を知って調和して生きていくことが出来れば宇宙に飛び立っても生きていけるでしょう。今、起きているというより自分達が起こしてしまったことを収められないようではまだまだ宇宙は無理です。地球人は同じ星の大地に住み、同じ空気を吸っていることに目を向けてどうあるべきかを真剣に考えていかないと近いうちに悲劇が起きるでしょう〉

宇宙人の言い聞かすような説法は始めて聞いた。ここまで地球と住む人を分析してたんだ! なんだかちょっと恥ずかしい。国と国やあらゆる理由で人間通しが殺し合ったり、制御出来ないような兵器を作ったり、有害物質の影響も考えずに空気中にまき散らしたり、核実験とか原発事故とかで目に見えない放射能が地上に増え続けていたりしている。遠い国の事だけではもうすまないのに僕の島はのんびりしているし僕も真剣に考えたことがなかった。
誠実な人ならこの説法は心に響き多少反省を込めてうなだれると思う。僕ですら目線が床に垂れたぐらいだ。なのに白衣の人やゲオルクは頷きながらも平然とした様子に見えた。

「いやー、貴重な意見を聞かせていただきありがとうございます。あなたが地球の事をそこまで心配して下さっていることに感謝いたします」

これは本当に有難たがっている声音では無いな。儀礼的な感じだ。

「我々も手をこまねいているわけではありません。地球の自然を汚さない方法でなんとか発展させたいと日々研究しています。その1つが移動手段の乗り物です。2酸化炭素を出さないクリーンなエネルギーの開発も可能なまでになりました。ただ飛行面では遅れております。地球の重力に逆らって浮き上がるのに、空中に撒き散らす燃料にとって代わるクリ―ンなエネルギーがみつからないのです。我々は長い年月、この研究をしています。そして有力なヒントを得ています。反重力の力です。それを見せつけられたのはあなた方地球外生物の乗り物、円盤です。先ほど話しました宇宙人が乗って来たものです。落下した原因は分かりませんが、我々はその円盤を回収してここに運びまました。科学者、技術者がその構造を調べました。内部の動力源らしい装置を見てこれが円盤を自由に浮遊させているのではと見当は付いているのですが仕組みが分からないのです。きっとあなたならこの仕組みを理解できるし、動かすことも出来るのではと我々は非常に期待しているのです。今からその円盤をお見せしたいのですがよろしいですか」
空気を汚さないクリーンな飛行機としていきなり円盤が登場してきた。その仕組みを何としても知りたいという熱意はじゅうぶんに伝わってきたが本当に地球のことを思ってなのか……悪く言えば科学者の欲のほうが先行しているような……

〈分かりました。見ます〉

「おお、ありがとうございます。それでは案内しますがアマト君も行きますか」

行きますかって、どういうこと? 僕と宇宙人は一体だ。あたりまえなのにこの質問はなんだ。
僕の訝しげな顔にゲオルクは慌てて

「いや、説明不足でした。実は我々の希望としては宇宙人に我々の中で最も物理工学に優れた科学者に乗り移っていただき、じかに円盤の構造の説明をしてもらえれば分かりやすいと思ったからです」

えっ、つまり科学に無知な僕なんかより科学者に移ってくれということか。そりゃあ僕では役に立たないだろうが僕が答えを出すんじゃないからこのままでいいのに。僕じゃ不満ってことだな。なんだかバカにされたようで気分が悪い。

〈アマト、カッカするな〉

宇宙人が僕にだけ言ってきた。

〈あっちがなにを考えているか知るのにはちょうど良いじゃないか。君さえよければ私はゲオルクの言うようにしたいが〉

──えっ! 応じるのか。あいつらのことだ。なにされるか分からないぞ。

〈私は大丈夫だ。それよりアマトにちょっと頼みがある〉

僕は宇宙人の言葉に頷いた。

「無理にとは言いません。アマト君と来てもらってもけっこうです」

ゲオルクが慌てるように言ってきた。わずかな無言の間に僕らが会話をしていることを察知したのだろう。

〈いえ、分かりました。あなたの言う通りにしましょう。いまアマトも了解してくれましたから〉

「それはありがとう。では科学者のベンです。この人に移って下さい」

ベンと呼ばれた男が前に出てきた。頭髪が薄くて馬のように長い顔立ちの中に目だけが飛び出たような痩せた男だった。

〈その前にお願いがあります〉

「なんでしょうか……」

ゲオルクは一瞬身構えたようだ。

〈アマトはお腹を空かしております。夕食も食べずにこちらに連れて来られたままですから。なにか食べさせてあげて下さい。それとこれは杞憂かもしれないがアマトに気害はいっさい加えないでください〉

「おお、これは気がつかないことでした。もちろん食事の手配をします。それに危害なんてとんでもない。勘違いしないでください。我々の組織はそんなのではありません。アマト君の安全は保証します」

〈それを聞いて安心しました〉
「ユスタン」

警備服姿の男がゲオルクを見た。

「アマト君に付き添って食堂に案内してくれたまえ。それと部屋も用意しておくように」

「はい」

ユスタンはいかにも忠実そうな声で返事をしている。。

「では移動をお願いします」

〈分かりました。それではベン、アマトの手に触れて下さい〉

ベンは言われた通りアマトの前に立つと手を出した。アマトはその手に自分の手を重ねた。ガイの官舎で宇宙人が抜けたのと同じような軽い脱力を感じた。これが抜ける感触なんだ。じゃあ、ベンはなにか感じたかな? と顔を見上げたが、ベンの顔には変化がない。
ただちょっと、うん? とばかりに首を傾げたぐらいだった。

〈移動は済みました〉

じっと2人の重なった手を見つめていた人垣が解かれた。きっとなにかもっと見て分かるような現象を期待していたのだろう。

「いや、見ていてもさっぱり分かりませんでした。ベンはどうですか」

ベンはまた細い首を傾げて考え

「よく分からないのですが、かすかに電気的な流れがあったような……」

「そうか……こんなに簡単に移動できるということですね。それでは円盤のところに案内します」

僕たちは連れだって部屋を出た。外の通路は幅広く、高い天井から照明が明るく隅々まで照らしだしている。

〈じゃあ、アマト行ってくる〉

──ああ、後から話しを楽しみに待ってるよ

ゲオルクとベン、他の白衣の人達は通路を右に曲がって行った。

「それではアマト君、食堂に案内します」

ユスタンがそう言って別の通路に向かった。僕はその後ろから付いて行った。


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