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作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第32回   アマト『X』の基地へ

洞窟の近くの河原にテントが張ってあったが、人は誰もいない。やはり集会所にいた者達がこれからやってくるのだろうと思った。

僕と博士は河原に出て、洞窟の入口に向かった。その時に、洞窟の中から制服の隊員2名とガイがまるで待っていたかのように現れたのだ。

「おや、お早いですね」

ガイの口がせせら笑っている。あきらかに今日、ここに来ることを予知していたに違い
ない

「占い玉は見つかりましたかな」

そう言ってじろっと僕のリュックに粘りつくような視線を寄こして来た。おそらく2名の隊員は事情を知らないだろう。だがガイは僕達がやってくる目的を知っている。

「まさか、あなたが知らないと言いましたから」博士がひるまず平然と言った「それにしても、あなた方も早くから警備して見えるのですね」

「ここは重要な場所として我々は24時間体制で守っています。あなた方が何の目的で洞窟に見えたのかは知りませんが今は誰も入れません」

ガイのみえすいた嫌味にアマトは頭がカッとなった。

「が、ですね。他ならぬ国連の保健局の方ですから、特別な計らいでお通ししてもよいでしょう。どうぞ、お入りください。ただ我々もご一緒させていただきますがよろしいですか」

僕と博士は返事に迷った。ガイ1人ならワームホールの事は知っている。通路まで一緒でも構わないが……

〈1度中に入って変わりないかだけ見た方が良いでしょう〉

宇宙人が言ったので博士はガイに

「構わないですよ」言った。

それからは先頭は僕、後は、博士、ガイ、隊員2名の順に中に入って行った。変わったところといえば洞窟内の天井にところどころ照明が取り付けられていたぐらいだ。ワームホールの通路は瓦礫がそのままだった。

「この瓦礫にはてこずっています。撤去する良い方法はないものですか、博士」

後方でガイが言ってきた。わざと困らせて楽しんでいるのだ。

「私は建設省ではありませんからわかりませんよ」

博士は取り合わないようにした。
けっきょく、洞窟の1番奥の海側まで行って引き返して来ただけだった。
博士は帰らなくてはならない。

「球体が無事嵌ることを祈っている。だがアマト、じゅうぶん気を付けるのだよ。無茶はしないでくれ」

「博士、心配しないで。宇宙人がついているんだから」

「だが、夜も警備されていたら洞窟内に入るのは難しいだろう」

〈博士、だいじょうぶです。私は海側から入ります〉

「海側だって! 絶壁なんだよ」

〈きょう見て、海側の穴が無事なことが分かったから入れる〉

「そんなの無理だよ。僕は飛べないよ」

〈アマト、君が遭難して浜辺に倒れていた時、どうやってワームホールまで運んだと思う〉

「あっ……まさか、君、飛べるの?」

僕もそのことは考えたことがあるが、たぶん意識を止められ、宇宙人の力で絶壁をよじ登ったか、どこかほかに行く道でもあったのだろうと思っていた。ただ僕は今にも死にそうな状態だったとかでそんなに動いて大丈夫だったのかと不思議には思ったが宇宙人の力で何とかなったのだろうとも思った。飛ぶという考えは思いもよらなかった。

「私がここに来れるのは1週間後だ。ガイよりも秘密組織とやらの方が気になるから、ヘンリー博士にもっと詳しく聞いてこよう」

僕は博士をボートでパモナの港まで送って行った。

「私がここに来れるのは1週間後だ。ガイよりも秘密組織とやらの方が気になるから、ヘンリー博士にもっと詳しく聞いてこよう」

博士は僕の肩に手を置き

「本当に気を付けるのだよ」と言って船に乗り込んでいった。

まさかこの別れが長い別れになるとは思ってもみなかった。

夕方が近づいていた。僕はボートを絶壁側の海岸に付けた。
タネおばさんには博士を送ったついでにジョセに会って来るから帰らないかもしれないと言っておいたから心配はしていないだろう。
この海岸には僕は近付かなかった。僕達の遭難した場所だから、ここに立つと苦しくなるのだ。辛い思い出がよみがえっていたたまれなくなる。
僕は海岸に腰を降ろすと、夕闇に包まれる海を眺めた。

──あれから5年も経ったのか……いろんなことがあったな……

両親の死に、泣き叫んでいた自分。タグラグビーの試合で勝ったこと、ミセの祭りで誘拐され、逃げて谷底に転落したこと、クラノスが倒れ、炭素人をやっつけたこと……そして宇宙人を憎み、卑屈になって苦しんだ時期。そのほかガイの事やらが前後入り混じって頭の中に次々と浮かんだ。
陽が完全に落ちたようで、あたりはもうすっかり暗闇だ。
空にたくさんの星が現れ始めた。

〈アマト、行くよ〉

「うん」

信じられないことが起った。僕の身体がフワッっと浮き始めたのだ。

「君ってこんなこともできるの!」

〈そんな難しいことではないよ。引力に反する電子の流れを起こすだけだ〉

「また簡単にそんなことを言う。この力があったら飛行機だってあんなに燃料を喰わずに空気を汚すこともないだろうな。君の事を知ったら科学者は喜ぶぞ」

〈科学者から発見する喜びを奪うつもりないよ〉

闇にまぎれているから見つかることもなく洞窟の海側の穴にたどり着いた。
慎重に中を確かめながら入って行った。
照明は切ってあるのか真っ暗だ。僕は見えてなくても宇宙人が指示してくれるから迷わずワームホールの通路まで来た。
宇宙人は瓦礫を壁の中に移動させてホールの扉を開けた。

〈アマト、球体を出して〉

ホールの中央に立つと宇宙人が言った。
僕はリュックを降ろし中から球体を出した。
掌に置かれた球体が浮き始め、天蓋に向かった。空洞の穴にピタッと張り付くと
動かなくなった。

〈これで安心だ〉

大きな役目を終えた気分で僕もホッとした。

「また外れることあるの?」

〈地球が暴れない限りは大丈夫だ。さあ、見つかるといけないからここを急いで出よう〉

宇宙人が扉の岩を開けた。ホールから通路へと足を踏み出した時、「ピーピーピー」というブザーの音が通路に響いた。その中でかすかにシューというような音を聞いたと思った。とたんに僕の意識が急に遠のき始めた「なに……」声にならない呟きを言いかけて通路に僕は倒れてしまった。
すぐ音を聞きつけた警備員が1人やって来て「どうしました? 大丈夫ですか?」と声をかけたようだが全く記憶がない。そこへガイも駆けこんで来たのだ。

「うまくいったな」

アマトに呼びかけた警備員が操縦席後方のガイに言った。

「ユスタン、下手なことは言わない方が良い。アマトの意識は無くても宇宙人は聞いてるかも知れないからな」

ガイは宇宙人が、乗り移っている人間を無意識化でも動かすことができることをクラノス首長の例で聞き知っていたし、腹立たしいが自分もその手で球体を奪われたのだ。

「だいじょうぶさ。アマトはぐっすり眠ってるし、気体星人に対応した特別なコンテナの中だ。出れないさ」

「それでも不安なのは私が官舎で球体を盗まれたことからだ。気がつかぬうちに人の身体に移動できるからな」
 
「それを聞いてたから、アマトが倒れてすぐに特殊フィルムで覆うことが出来たのだ。
話しを聞いておいて良かったよ」
 
昼間、アマトとケーシー博士は我々の邪魔でワームホールに入れなかった。あきらめて
ケーシー博士が1人で帰って行くのを確認して、これはアマトが1人で来るなと予想はついていた。
 赤外線カメラを分からないように取りつけた。ただ反対側からやってきたために気がつくのは遅かったが。それでもカメラの映像からアマトが通路に入り瓦礫が撤去される様子や、ワームホールの扉が開き、閉じるまでの一瞬の中の床が映っていた。球体を嵌め終えて出て来るのを待ち、アマトが出て来たのでブザーのスイッチを押した。臭気麻酔がブザーとともに出るように仕掛けてあった。
 ガイは、手抜かりはなかったかもう1度映像を確かめた。気体が発散した様子もない。
 大丈夫だ。
その後は、特殊フィルムに包まれたまま外に運び出し、用意したヘリで吊り下げ、待機していたこの飛行艇のコンテナに移した。
麻酔が切れるまで後1時間。その時はもう基地内の特殊室だ。
すでに飛行艇は基地のある北大西洋上にいてまもなく到着だ

「基地の受け入れ態勢は出来ているそうだ。それでは着水、潜行開始する」

ユスタンともう1人が操縦席で潜行準備を開始するのをガイは後ろから見ていた。
基地の入口は海底からしか入れない。空から見たら無人の渡り鳥の巣だらけのこの島が実は『X』の基地だった。

『X』の1員として初めてこの島に迎え入れられた時、なんと興奮した事か。基地内に入った時はその高度な設備に驚きの連続だった。あらゆる専門分野の技師や科学者がそこで働いていた。空、陸、水自在のこの飛行艇もここで造られたものだ。
特別専門知識や技術の無い私が選ばれたのは『Xの』目的にかなっていたからだ。
『X』の目的──宇宙に自由に航行でき、宇宙人と接触すること。それは豊かな物資と資源を手に入れることにつながる。『X』では地球外生命の存在はあたりまえになっている。その姿を現実に見ているからだ。ただ、生きている者はいない。発見され、極秘裏に基地に連れて来ても生きられなかったのだ。
国連の正式機関の隊長であるガイには宇宙人や円盤とか宇宙現象といった情報がいち早く届く。
『X』にとってこれほど便利な存在を放っては置かなかった。ガイの生い立ちも興味あるものだった。おそらく彼の母親は異星人だと思われる。その息子だ。組織の1員に迎え入れるのにうってつけの人物とみなされたからだ。
ガイは誘いに応じた。
自分は宇宙人を信用していない。ただその存在は小さい時から信じていた……変人扱いを受けても考えはずっと揺らがなかった。憎んだ。母親を拉致した宇宙人を……なのに、なんてことだろう。まさか母さんが宇宙人だなんて。信じるものかと『X』の任務をやり遂げた。アマトと宇宙人を基地に今まさに連れ込もうとしている。だが……なぜか言いようのない不安を覚えるのだ。それは飛行艇が潜水を開始し基地の入口に浮上した時にさらに強まった。その正体にガイはもう気づいていた。、認めたくないと殺す感情を押しのけて湧きあがって来る感情の正体……自分も宇宙人なのでは。
不安は気持だけではない。身体に現れているからだ。先ほどから息苦しさを覚えていた。
また始まった……まさか、変調では──


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