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作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第31回   31


いよいよマライ島だ。

「ジョン、手はずは整っているな」

「はい、隊長。首長を通してバラムの村長にも連絡が言ってます。宿泊はバラムの集会所を借りますが警護用のテントが洞窟の小川に配置されます」

「よし」

ガイはそう言うと近づく島を睨んだ。

宇宙人にしてやられたという怒りがおさまらない。
あの晩、官舎に帰りシャワーを浴び、机の引き出しから球体を取り出したまでは記憶にある。なのに夜中に目覚めた時はベッドの中だ。酒のせいでベッドに向かったのを覚えてなかったのかとまた眠りにつこうとしてリビングの明りに気がつき起き上がった。その時はもうおかしいと思い始めていた。私は明りを必ず消す。だれかいるのか……足音を立てないように耳を澄ました。だが人の気配がない。用心しながらリビングに足を入れた。ぐるっと部屋を見回す。引き出しが開けっぱなされているのが目に飛び込んだ。
無い!……
唖然とした。落ち着いて考えた。球体の事を知っているのは……
ユスタンとは3日後に会って渡すことになっている。わざわざ私の部屋に忍び込む必要はない。考えられるのはケーシー博士たちだ。だが私は知らないと通したし官舎にあることももちろん知られていないはずだ……だが、彼らしか思い当らないのだ。考えて見れば私が持っていると確信して宇宙局にまでやって来たのだ。私の嘘など信用しなかったのだ。
それにしても、なぜ、局長室ではなく官舎だと分かったのだろうか……
ハッとした。宇宙人だ! あいつは球体を感知できるのだ。局長室ではないことを知って官舎に目星を付けて来た……だが……鍵のかかった私の部屋からどうやって持ち出したのだ。
待てよ、確か対策委員会の席で炭素人がクラノスに乗り移って思考を静止させたとか言ってたな。まさか……そうだ! そうしか考えられない。アマトに乗り移ったようにあいつは私の身体に入ったに違いない。気体なら鍵穴からでも入れる。そして私の思考を制御して鍵を外し外の人間に渡した……それだ! そして外に待機していた人間とはアマトとケーシー博士だ。私をベッドに入れて宇宙人はまた鍵穴から出てアマトに移ったのだ。
宇宙人にまんまといいなりになったのかと思うと屈辱で怒りに震えた。
緊急暗号をユスタンに入れた。球体を取られたのだ。そしてその手口は脅威だ。宇宙人を見くびってはいけない。その能力はまだ未知数なのだ。
その未知数の宇宙人と対抗できるのか……
『X』が動き出す。
私はあくまで国連の宇宙局の仕事として異常磁気の発生地の原因究明と洞窟の警護という立場で動くのだ。
マライの港が見えてきた。アマトはまだスイスにいることを確認してある。帰れば必ず球体を持って洞窟にやって来るだろう。警護された洞窟からどうやってワームホールに入るのか。じっくりと見させてもらうとしよう。

スイスのお土産を渡すのが楽しみだな。特にパシカだ。音楽が好きでハーモニカは得意だ。きっと喜ぶぞ。バスに揺られながら自然と顔が緩んだ。なじみの空気、なじみの景色が身体に溶け込む。

「もうじきだな」

ケーシー博士が言ってきた。「パシカは迎えに来ているのだろう」

僕は頷いた。「僕がいい物があるって言ったらなになにとしつこく聞いて来たからね。きっと僕よりそれ目当てで今か今かと待ってるよ」

集会所のバス停が見えてきた。そこで大きく手を振っているのはパシカだ。バスの音をいち早く聞きつけたのだろう。タネおばさんもクロもいた。
こんな長い間旅をしたのは初めてで懐かしさに胸が膨らんだ。

「お帰りなさい!」

パシカが飛びついて来た。クロが足元にすり寄る。

「お土産はどこ」案の定、再会の喜びなどどこ吹く風だ。

「家に帰ってからのお楽しみだよ」

「いやだ! じゅうぶん待ったわ。教えてよ。どこ」

手探りでカバンをつかんできた。

「せっかちだな。ほらこれだよ」

両手に乗るぐらいの長方形の包みを持たせてやる。

「なにかな?」

パシカの見えない目が好奇心で輝いているようだ。

「ほら、集会所で開けてごらん」

タネおばさんがパシカを連れて行った。
その時まで気にもかけなかった集会所を目にして

「あれ、テントが張ってあるけど……」

「ああ、あれね」とタネおばさんがが僕を振り返って「ほら、以前、異常磁気の調査だとか言ってやって来た国連の宇宙局とやらの人達がね、ドゥルパの洞窟の調査にやって来てるのだよ」

「洞窟の調査だって!」

ケーシー博士と思わず顔を見合わせた。

「なんだか知らないけど、発生源らしいとかでしばらくいると言ってたがね。もう誰も入れなくなってるよ。といってもとっくに観光客など来なくなってるからいいんだけど」

「ふーん」

誰かいるのか……ひょっとしてガイが、とちらちら見たが無人のようだ。

「母さん!母さん!これなに?」

集会所の床でパシカがさっそく包みをほどき声を張り上げた。

「あれまぁ、これは……」

タネおばさんには分かったようだ。

「パシカ、これオルゴールだよ。それも立派な造りで」

「わあーオルゴールなの! ネジは……」箱の裏側のネジを探り当て回した。

「ほら、これが蓋だよ。開けてごらん」

彫刻が施された木製の蓋が開けられた。そこから流れ出た旋律に

「あっ、これ『エリーゼのために』だわ!」

パシカの好きな曲だ。手のひらサイズのオルゴールよりもシリンダーの突起も多く、弾くピンも多い分、より細やかな旋律が流れ、木製の箱が共鳴して余韻ある響きを醸し出している。スイスの時計屋さんが作っている、博士お勧めのオルゴールだった。
感動しきっているパシカを見てこっちも嬉しいのだが洞窟のことで半分気もそぞろになってしまった。

「さっ、家でゆっくりまた聞こうね」

タネおばさんにうながされてパシカは満足げに頷いている。
僕と博士はテントを気にしながら集会所を後にした。

ジョセの両親と弟達もやって来てスイスのお土産を開けて大賑わいの夕食になった。
みんなはまさか僕が国連の対策委員会に『M70』について招集され、宇宙人の存在を証しに行ったなどとは全く知らない。ケーシー博士に呼ばれてスイス旅行に行ったとばかりに思っている。
お菓子を食べタネおばさんが用意してくれた御馳走を食べ、スイスの観光地の話しで賑やかな夕食が済み、やがてみんなが帰りパシカやタネおばさんも寝床に去ると静かな夕闇に包まれた。

「ガイに先を越されたな」

僕の寝床の横にタネおばさんが作ってくれた寝台で横になりながら無念そうに博士が小声で言った。

「ガイは球体を僕達が持って行ったと気がついたのかな」

「そうだろうな。文句を言いに来たいだろうが球体など知らないと言った手前できないから先手を打って洞窟で待ち構えてるってわけだ」

「困ったね。洞窟に入らなければ球体を嵌めれないよ」

「私も困る。明日、洞窟に入って夕方には帰る予定だからな。次の仕事は延ばせれないのだよ。アマトも私と一緒にいたほうがよいし……」

「明日、洞窟に行ってみてだめなら僕1人で夜にでも潜りこむよ」

「それだと帰るのには間に合わないな」

「だいじょうぶだよ。僕1人でも。もうバラムにいるのだし僕達の事は秘密になっているからその秘密の組織とか何とかもまだ知らないだろうし、知ったとしてもここまでは来ないよ」

「しかし、ヘンリー博士は気を付けるように言ってきたからな」

「なにか危ないような事が起きたら僕には宇宙人がついているから簡単にはつかまらない自信はあるから」

「うむ……まあ、とにかく明日になってから考えることにしよう」

あまり長くひそひそ話していてはタネおばさんが目を覚ましかねない。とりあえずは明日の様子待ちとなった。

翌朝、学校に行くパシカをバス停まで送りがてら洞窟に行くことにした。
パシカが学校に行くのも今年だけだ。15歳になる。学校を卒業したらパシカは自分でも生計を立てられるマッサージ師になりたいと最近言うようになった。タネおばさんは目の見えないパシカが働くことに不安もあるがかといって一生自分が面倒を見る事が出来るかどうかも不安なのだ。まだ迷っているらしい。母さんは古い、とパシカは言った。町に出ればマッサージの仕事で生活できるんだからと説得している。僕には平気で飛びついてくる甘えん坊とばかり思っていたがいつのまにか先も考えるしっかりした娘へとパシカは歩み始めているのだ。
バス停まで来て、テントに人がいるのが見えた。宇宙局の隊員たちだ。その中にはガイがいなかった。隊員達はまだ身軽な私服だがこれから制服に着替えて洞窟に行くのだろう。

「博士、今なら早く行けば誰もいないかもしれないね」

「そうだな。出るときは見つかるだろうが、なに見学に来たとでも言えばいいさ。急ごう」
レイナにパシカを頼むとバスを待たずに洞窟に向かった。



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