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作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第30回   球体の奪還
「そんな重大な球体の事を君は隠していたのか」

サングラスを外したユスタンの目がガイを睨みつけた。

「隠していたわけではない。ただの占い玉かどうかもっと調べてからと思っていたのだ」

「基地で調べればよい。いまその玉はどこにあるのだ」

「官舎だ」

ユスタンは腕時計に目をやった。

「だめだ、時間が無い。3日後にここに来るから用意しておいてくれ」

慌ただしく去っていくユスタンを見送るとガイはジョン副隊長を呼んだ。

「ジョン、今日の会議でドゥルパの洞窟の調査と警護に当たることになった。マライ島への手続きをしてくれ」

「警護ですか」

「そうだ。異常磁気の発生が洞窟であると判明したのだ。観光客が入れないよう申し入れもしてくれたまえ」

詳しい中身は部下には言えない。ガイは対策委員会終了後、ユスタンに盗聴器を渡すため急いで帰ってしまったがこの局長室からヘンリー博士に電話連絡をとり、宇宙局としては重要な洞窟の警護をと申し入れた。ハイツ博士とも相談して了解したと返事をもらった。
国連として堂々と洞窟を見張ることがこれで出来る。ワームホールである事は外部には秘密だ。

外で夕食を済まし官舎に戻って1番に机の引き出しを開けた。占い玉、いやワームホールの磁場を塞ぐという球体を掌に乗せた。
調査では地球上の鉱物に当てはまらないと出た。やはり特別な物だったのだ。宇宙人の基地がここにもあった……母さんの連れ去られたオーストラリアのエアーズロック、あれも基地だ。母さん……今日見た映像の母さんは本物なのか。
ガイの心が乱れた。認めたくない。認めてしまったら自分も宇宙人の血が混じっていることになる。だがもしそうだとしたら……
ガイは頭から画像を振り払いシャワールームに向かった。

「さて、腹は満たされて闘志満々だが、ここからどうする」

ケーシー博士は目の前の官舎を眺めて言った。

玄関のロビーは共有でエレベーターがある。ガイは何階なのか。

〈エレベーター前に行って下さい〉

宇宙人の指示に従ってエレベーター前に立った。

下りのエレベーターがやって来て扉が開くと1人の男が出て来た。ポロシャツにジーンズというラフな格好だ。今から出かけるのだろう。

〈アマト、男に近づいて〉

えっと思ったが言われるとおり男にぶつかりそうになるまで近寄った。男が一瞬、避けようとした。そこで男の歩みが止まった。アマトは突然力が抜けてケーシー博士の腕にしがみついた。

〈アマト、大丈夫か。いっきに乗り移ったからね。この人はガイの部屋を知っている。これから一緒に案内してもらうからついて来て〉

僕には宇宙人の気体が移動する瞬間がまったく分からなかった。

「けっこう素早いんだな」

〈少しぐらいはこの大気でも出てはいられるが他の人に見つかると騒がれるから目にもとまらぬ速さにしたんだ〉

3人でエレベーターに乗った。男はまるでロボットのようなぎこちなさで3階の表示にタッチした。顔は無表情で我々を見向きもしない。

「これが意識を止められた顔か……」

アマトはじっくり眺めた。僕も意識を止められるとこんな顔になるのか……

〈今は顔の表情まで操作する余裕がないからだ〉

「なんだか気の毒だな」

ケーシー博士が申し訳なさそうに言った。

3階に着いた。あたりはもう暗い。国連関連の建物から窓の明りが洩れている。
男の後をついて行く。途中、他の人と通路ですれ違った。男の知り合いなのかその人が
やあ、という顔をしたが男はまるで無反応だ。後ろについている僕達の方が変わりに目で挨拶をした。
不思議そうに顔を傾げて離れて行った。
男が止まった。その前にドアがある。表札にガイの名があった。

〈ここだ。ではアマトと博士は非常口の踊り場で待機して下さい。今から、この男から抜けて鍵穴からガイの部屋に入ります〉

僕達は急いで踊り場まで行ってそっと男を盗み見た。
その時、夜目にも霧みたいなかすかな白い気体が鍵穴に吸い込まれるように入って行くのが見えた。
ああ、あれが宇宙人の姿か。

「博士、見えました?」

「ああ、本当に気体だな」

男がよろめいた。壁に手を当てて身体を支えた。
それからあたりをキョロキョロ眺めて、ぽかーんと口を開けたまま突っ立っていた。やがて首を何度も傾げながらエレベーターに向かって行った。

「首尾よくいくといいね」

「そうだな」

後はガイがドアに現れるまでここで待機しているだけだ。

ガイのリビングの天井が少し白っぽい。
宇宙人は鍵穴から天井を伝ったのだ。
ガイはリビングにはいなかった。シャワーの音がしている。
宇宙人はすでに球体を感知していた。机の引き出しだ。
天井からその机の下の奥に移動をした。母親の血を受け継ぐガイの能力は天井の淡い霧を見つけるかもしれないからだ。
ガイがナイトガウンをはおってシャワールームから出てきた。
冷蔵庫から氷を取り出し、グラスとボトルをテーブルに置くとソファに腰掛けた。
飲み始めてしばらくして机にやって来た。引き出しを開けるとまた球体を手に取った。

〈いまだ!〉

ガイの身体に素早く入り込んで思考を止めた。
ガイは球体を持ったまま向きを変えるとドアに向かった。ロックを外すとドアを開けて通路に出た。

「博士、ガイだ」

「出てきたな。さすが手はず通りだ」

ガイは球体を持っていた。顔は先ほどの男と同じでまったく無表情で僕や博士を見ても来ない。

〈球体を取って〉

傍から見たらガイと面識があるような光景に映るだろう。
球体を受け取りカバンに隠した。ガイは部屋に入りドアを閉めた。僕達はドアの前で宇宙人が帰って来るのを待った。

〈アマト〉

鍵穴から薄い霧が見えだした。僕は急いでドアに手を当てた。

〈よし引きあげよう〉

宇宙人の声で僕達は足早にエレベーターに向かった。
入れ違いに2人連れの男女がエレベーターから降りてきた。良かった! 後もう少し遅かったらドアにいる姿を見られていた。
エレベーターに乗り1階で降りると外灯の点いた道路に出た。官舎を振り向く。ガイが追っかけてこないか気になった。

〈大丈夫だ。ちゃんとベッドに休ませてきたからとうぶん目は覚めませんよ〉

「やれやれ無事済んでほっとしたよ」博士にようやく笑顔が戻った。

「スリル満点だったね」

〈安心はしておれませんよ。ガイは球体の無い事にすぐ気がつくはずです〉

「でも誰が持って行ったかなんて分からないさ」

〈球体の事を知っているのは我々だけですから疑われるでしょう〉

「疑っても聞いては来れないだろう。ガイは占い玉など持っていないと公言したからな」

博士の言葉に

「そうだよ、それにもし聞かれても知らないと言えばいいんだ。証拠がないからね」
僕も陽気に言った。

〈球体を取り戻せれて私も安心しました。もうここに長くいる必要はなくなりましたね。マライ島に帰り洞窟に行きましょう〉

「その件だがね、仕事があってすぐ帰るのは、私は無理だ。かといってアマト1人では危ないだろう。ヘンリー博士の言ってた例の秘密組織とやらが心配だ。1週間後なら行けるだろうから待てないか」

「僕は待てるよ。スイスの町や雪山も見てみたいし、いいだろう?」

〈そうですね……〉

宇宙人がめずらしく躊躇している。

〈アマトも協力してくれているし、たまには自由になりたいだろうから1週間後にしましょう〉

この1週間が後で洞窟に戻ることが困難を極めることになるとは思いもよらなかった。



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