20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第29回   秘密組織 『X』


ガイは男に黙って盗聴器を渡した。普段はこの隊長室で会うはずの無い男だった。

「ユスタン、ずいぶん急いでいるのだな」

ユスタンと呼ばれた男はそれには答えず無表情で薄い超小型の盗聴器を背広の内ポケットにしまい込んだ。

「会話が途切れているところがある。宇宙人はテレパシーで伝えて来たからだ。だが前後の話しから推察はできるだろう」

「分からない事があったらまた来る」

ユスタンはポケットからサングラスを取り出し嵌めると出て行った。

目を付けていたアマトを対策委員会に召集出来た。委員会の席で宇宙人の存在を暴くのが目的だった。自分の誘導で認めさせ、委員会のメンバーが問い始めるという筋書きだった。『M70』に関することだけでなく宇宙人についての質問も出るだろう。宇宙人はドゥルパの洞窟に潜んでいるにちがいないと自分は確信していた。ということは洞窟は宇宙人の基地でもあるのだと。
とんでもなかった。アマトの身体の中にいるとは……
ヘンリー博士は『M70』に関する質問のみと限定し、宇宙人自身の情報には触れさせなかった。なにか感ずいているのだろうか。
休憩後は話しどころではなかった……平静を装うのに精一杯だった。
宇宙人に見せられた母親の像が頭から消えないのだ。
地球外宇宙人の血が流れている……嘘だ! 母さん、嘘だろう。もしあの映像通り母さんが生きていたとしても母さんはきっと脅されているんだ。母さん、そうだろう? 私は認めないぞ。あのアマトの宇宙人はだまそうとしているのだろう。なにか隠して地球に来ているに違いない。

あっと思った。
が、そうだ盗聴器は休憩中は切ってあった。大丈夫だ。仮に切って無くても中味は映像だけだ。ただあの時「でたらめな事を言うな」と叫んだ自分の声がもし切って無ければ入っていただろう。あの叫びは何だと。
ユスタンがが出て行った後、ガイはデスクの椅子に座って背を椅子に深く預けてこの考えにとらわれていた。
そんな状態の時にアマトとケーシー博士の来訪を受けた。会いたくなかった。だが占い玉の件でと聞いた時動揺してしまった。
なぜ? という疑問がもたげた。誰も私が持っている事を知らないはずだ。ユスタンにもまだ報告していない。異常磁気と占い玉の関係をもっと掴んでからするはずだったが……異常磁気が宇宙人の飛来と関係することが今日はっきりしたからにはあの玉も関係あるはずだ。ここで会えばどういう役割を持った玉なのかが明かされるかもしれない。その後で『X』に報告しよう。
ユスタンはエレベーターに乗り、1階で扉が空いた時、ハッと息をのんだ。目の前にケーシー博士とアマトが立っていたからだ。ガイからの情報で見知っていた。すぐ表情を消し何事もないようにすれ違って玄関に向かった。が、エレベーターが閉まって上昇し始めると急いで戻り、どの階に止まるかを確認すると玄関横のラウンジに入って行った。

「博士、さっき降りた人、知り合い?」エレベーターが動き始めてからアマトは聞いた。

「えっ、いや知らないな。サングラスをしていたし……そう言えば顔がちょっと後ろに引いたようだが、たぶん、乗る人がいると思わなかったからギクッとなったんだろう」

アマトは特に気に留めたわけではないが正面の博士と違って男の目の端が見えた。僕の方に瞳が動いたのが分かった。それと避けようとした時に右手人差し指の関節から先が無かったのが目に残ったから聞いたまでだった。

「つまり、私が占い婆から借りた玉を持っていて返したのは偽物だというのかね」

ガイは椅子に座って目をデスクの上に落としたままアマトを見ようとはしなかった。

〈そうです。私には球体の存在が感知されます。占い婆に返されたという玉は反応がありませんでした。あなたはまだ持っているはずです〉

「そんな大事な玉がなぜ占い婆のところにあったのだ」

ガイの態度は冷ややかだった。対策会議の時と一変している。

〈あなただから教えます。あの球体はもともとドゥルパの洞窟にあるワームホールの磁場道を塞いでいたものです。それが地殻変動で島が割れる時に外れたようです〉

「私だから教えるというのは受け入れられないな。私は地球人だ。そう思って話して欲しい」

〈あなたが思うのは自由です。だが事実は変えられません〉

ガイの顔が怒りに歪んだ。

「その議論はおしまいだ」吐き出すように言った。

苛立つのをなんとか抑えているのが分かった。

「つまり洞窟はワームホールという君達の飛行基地みたいなものだというわけか」

〈簡単に言えばそうです。だが地球に入れないよう球体で塞いでいました。それが外れていたために炭素人が来てしまったのです。『M70』をまた呼び込むような炭素人が来ないようにしなければいけません。球体を返して下さい〉

「残念だが球体の事はほんとうに知らないね。なんなら部屋の中を調べればよい。あれば感知するのだろう」

〈ここに無いのは入ってすぐ分かりました。だが他の場所に隠してありますね〉

「知らないと言っているだろう。話しは終わりだ」

「ガイ隊長」ケーシー博士が慌てて言った。

「今、我々地球人は個人的感情は抜きにして一丸となって『M70』に立ち向かわねばなりません。ワームホールを塞ぐのもその1つです。もしあなたが返したと言われるのなら偽物とすり替えたのはどこで誰がを突きとめて下さい。それぐらいの責任はあると思います」

「責任だと」

ケーシー博士を睨んで来た。

「とんだ濡れ衣だが、私も宇宙局の隊長だ。疑惑のままでは気分が悪い。部下に調査はさせよう。それでいいかね」

「いいでしょう。今日は突然で失礼しました。調査の結果をまたあらためて伺うことにしましょう」

これ以上話しても進展はないと博士は打ち切った。
建物の外に出てから博士はにやっとした。

「ガイは持っているな」

「そうだよ、あんなにむきになって否定するのがおかしいよ」

ガイの様子を思い出して僕も可笑しくなった。

〈ガイが他に隠すとしたらどこがありますか〉

「個人的に保管してるのならおそらく官舎だろう。球体にそんな重大な秘密があるなど知らなかったわけだから銀行の隠し金庫なんてことはないだろう」

〈官舎は誰でも自由に入れるのですか〉

「私も以前は住んでいたから知っているが許可はいらない。だがガイが何階の何号室かが分からない。うろうろしてたら怪しまれるだろう」

〈今夜にでも行けませんか〉

「今夜! もうくたくただよ。明日にしようよ」

〈いや、ガイは球体をどこかに移動させるかもしれないし、今日ならいるから。アマトが疲れているなら力を貸そうか〉

「いや、断るよ。自分で動く。でも今夜会いに行くの。ガイは怒っているから無理だよ」

〈私に考えがある。きっとうまくいく〉

何をたくらんでいるのだろう。嫌に自信ありげだな。もし顔というものを持っていたらほくそ笑んでるだろうな。そう言えば1度も姿を見たことが無い。気体というから霧の塊を想像してしまうが実際どうなんだろうか。

「夜までにまだ間がある。今はホテルに戻って腹ごしらえだ」

ポンと腹に手を当てて博士が言った。

「そうだ。おいしいものを食べて戦にそなえよう!」

それにしても生物は食べなくては生きていけないのに宇宙人は何を食べているのだろう。
僕の身体の中にいて食べれる物って……これは、また聞かねば。

去って行く2人をラウンジから出て来た男、ユスタンが見ていた。そしてエレベーターに戻るとガイのいる階を押した。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 9827