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作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第28回   宇宙人からの呼びかけC

「炭素星雲に対して我々国連が取っている対応を説明いたします。我々はこの星雲をM70という名称を付けましたのでこれからこの名で呼んでいきます」

ハイツ博士が会のスタートを切った。メンバーが一斉に姿勢を僕に向ける。だがガイはうつむいたまま目を合わせようともしない。

「我々のデータでもM70がこの太陽系に向かっている事、このままの進路だと300年後に地球に到達することを突きとめています。今、そのM70に向けて探査機を飛ばしています。そのデータ―を分析し対応策を見つけるためです。ただそれには長い年月がかかります。M70が方向を変えていくことも期待しましたが、あなたの話しで確実に地球に向っていることが分かり、本気になって取り組まなければと痛感しております。ただ我々の科学力で立ち向かう事が出来るのかどうかは自信ありません。いろんな方法を試しますがもし有効な方法があるようでしたら是非あなたの力を貸していただきたいと願っております」

僕の目を見ながら言って来るので困った。
他のメンバーも僕を凝視している。僕はなにも返事が出来ないので頷くこともしない。ただ立っている通信基地みたいなものだ。

〈今考えておられる方法とはなんですか〉

「M70のその成分や知能を調べる探査機待ちではありますが世界の国々はそれぞれ地下フィルター施設とか宇宙に移住するための衛星にも着手しています。300年といえば地球の環境もかなり変化します。今、地球は温暖化という問題も抱えておりM70が来る前に我々人類は地球に住めなくなるかもしれません。地球内部で抱える問題と宇宙からやって来る災難の両方を抱えとても難しい状況に立たされています。それでも進まねばなりません。温暖化は人間が作り出した責任があります。人間の手で解決することは可能です。だがM70はまったく未知の怪物とでもいいますか解決策が見つからないのです。なにか破壊する方法があるのでしょうか」

ハイツ博士の後、他に誰か言うのかなとアマトはメンバーを見回したが黙ったままだ。

〈お答えします。M70に知能はありません。ただ地球上の生物と同様、生きるため本能はあります。食料を求めて移動します。先ほど炭素人が呼び寄せたと言いました。どうやって呼び寄せたかを考えれば対応が分かります。酸素を好むM70に対して酸素の波長を送り続けたのですから逆に炭素の波長を太陽系から当てられたら嫌がって向きを変えるでしょう〉

そうか! とアマトの顔がほころんだ。僕にもその道理が分かる。科学者ならなおさらだ。だが待てよ……太陽系から当てるだって……
しばらく沈黙があった。メンバーは宇宙人の話しを聞いて首で大きく頷いてはいたがすぐ難しい顔になっていった。
キムラ博士が手を挙げた。

「今、お聞きした方法はなるほどと思いましたが、太陽系から炭素の波長を送るとなると膨大な計画になり簡単には行きません。地球からだけではだめですか」

〈全部の惑星で無くてもよいです。着陸しないで地球はもちろん木星や土星の周りも人工衛星で回りながら波長を出し続けて下さい〉

「それでどのぐらいの期間やればよいのですか」

〈M70が進路を変更するまでですが。10年やればおそらく効果が現れると思います〉
「10年も! 」

ええっ! という声が他からも聞こえてきた。

「10年も波長を出し続けるのは無理では……」

キムラ博士はハイツ博士とヘンリー博士を交互に見た。

「まあ、交替させれば出来ない事は無いだろうが……」

答えたのはヘンリー博士だ。だが何か言いたげで立ち上がった。

「仮にその時は進路を変更したとしても2度と来ないという保証はないのではないですか。巨大な星雲です。進路変更しても消えたわけではないからまたやって来るということもありえるのですか」

〈それは次に向かう先が無ければありえます。私がすることはその先を用意することです〉

「先とは……どこかの星に向かわせることですか」

〈この太陽系の属する銀河の隣、アンドロメダ星雲です〉

アンドロメダって聞いたことがあるな。あのきれいな渦巻き銀河だな。隣って言ったってかなり遠いのでは……

「アンドロメダだって! 230万光年も離れているのですよ、そんな離れた所から波長が届くのですか」ヘンリー博士が思わず叫ぶように言った。

〈光よりも早い方法があります。私達の移動方法ですがそれについては地球人の科学の理解を超えていますのでここではふれませんがM70を10年後には引きつけるでしょう。その後ですが、このアンドロメダに到達する前にブラックホールに吸収させますので地球に向かうことはもう2度と無いでしょう〉

アンドロメダだのブラックホールだのこともなげに言ってのける宇宙人だ。メンバーの驚きの表情も当たり前だ。

「分かりました」

そういうヘンリー博士の口元が軽く苦笑いしている。とても太刀打ちできる水準ではないと悟ったかのようだ。

「我々地球人には想像も及ばぬ遠大な対策で驚かされます。そこまで地球人を救うために力を貸して下さることに感謝いたします。我々の出来ることといえば炭素の波長を送ることぐらいでしょう。それさえも非常に難しいのです」

ヘンリー博士がおもむろに腰を落とした。

「どうしますか……」

隣のハイツ博士が困惑気にヘンリー博士に言ってきた。
ヘンリー博士は他のメンバーも手招きして集めた。ガイは遅れて後ろに立ったままだ。
席に取り残された僕とケーシー博士はひそひそ話す様子を見守っていた。
話しはまとまったようでそれぞれが席に戻ったのを確かめるとハイツ博士がたちあがった。

「我々がM70に対してなすべき対策がはっきりした事と強力な力添えをしていただけることに心から感謝いたします。もちろん我々にとっては簡単なことではありません。困難が予想されますがこれは地球人が努力して立ち向かうべき事です。今日の会はこれで閉めますが、これからも我々と協力してあなたが力をお貸しして下さる事を切に希望いたします」

僕に向かって頭を下げて来た。いくら僕にではなくとも無視も出来ず、ついひょこっと僕も頭を下げてしまった。

「それと、私達対策委員会はアマト君と宇宙人の存在については絶対他言しないことを決めました。今の段階では宇宙人の存在が分かったら世界が混乱することとアマト君の身の安全が保証できないからです。ケーシー博士もアマト君も他言されないようお願い致します。それでは解散いたします。ケーシー博士とアマト君はお残り下さい」

ガイが1番に部屋を飛び出て行った。誰とも話したく無いかのようだ。
続いてキムラ博士とエミリー博士がそろって出て行った。

「ガイ隊長はどうしたんでしょうね。あんなに張り切って宇宙人説をまくしたてていたのに……」

ハイツ博士は訝しげにヘンリー博士に言っている。

「自分の考えていた宇宙人とは程遠いので面くらってるのじゃないかな」

ヘンリー博士はガイには関心無さそうな口ぶりで応えるとケーシー博士のところに来た。

「やあ、疲れただろう。ちょっとロビーで話しがあるから付き合って欲しい」と自分から出て行き始めた。ハイツ博士も一緒だ。

ロビーの誰もいないところを選び椅子をすすめて来た。

「これからの事だが、我々としては宇宙人に身近にいて欲しいのだがアマト君は島に戻らなくてはいけないのか」

言われて僕は、えっ、と声が出た。当然帰るつもりでいたからだ。

「ケーシー博士のところで滞在しているか国連関連のホテルもあるからそこでもいいのだが、ぜひいて欲しい」

困ったな……。
ケーシー博士を見た。
博士も決めかねているようだ。

〈ガイから球体を取り戻すまではいることにして球体が戻ったら急いでドゥルパの洞窟に行って欲しい〉

──分かった

「僕、スイスは初めてだから色々見て回りたいと思ってるからしばらくはいてもいいけど、ずっとというわけにはいきません。島ではおばさんやパシカが待っていて僕は働かなくてはいけないから」

「無理にとは言いませんが島の家族の生活の援助ぐらいはしますから」

ハイツ博士が言ってきた。
理由は生活の事よりも洞窟にあるのだが、球体の事は秘密で言えない。

「今すぐ返事しなくてはいけませんか」

「いや、こちらにいる間によく考えていただけば結構ですので」

ハイツ博士はヘンリー博士に伺うように「よろしいですか」と聞いた。

ヘンリー博士は頷くと立ち上がり

「ケーシー博士ちょっと……」と言って少し離れたところまで行くとケーシー博士を待つように止まった。

ハイツ博士は去っていき僕1人になった。

2人で何を話しているのだろう。時々僕を見てはまた話している。立ったまま見ていてもしかたがないので椅子に座った。張り詰めていた気持ちから解放されたせいか急に眠気に襲われた。昨夜は今日の事を思うとなかなか寝付けなかったからだ。

「アマト」

と肩に手を置かれて目が覚めた。博士が立っていた。

「あれ、ヘンリー博士は? 」

「もう帰ったよ。ぐっすり寝ていたね」

「寝不足だったから」

「私もだ。疲れたな」

〈疲れているとは思いますが、このままガイのところへ行くことを忘れないで下さい〉
宇宙人がすかさず言ってきた。

宇宙人は疲れるということを知らないのか、と疑問が沸いたが、そうだよな、動き回るのは僕で乗ってるだけだからな。

「そうだったな。まだ大きな問題が待っているぞ。あのガイの様子では合えるかどうかも分からないが今なら宇宙局にいるだろう。押し掛けるか」

「宇宙局って遠いの? 」

「この辺一帯は国連の関連施設だ。宇宙局は外れの方だから歩いて20分ぐらいだろう」
外に出て博士は歩きながら目に留まる施設の説明をしてくれたがヘンリー博士と話した事には触れてこない。隠すようなことだろうか。

「博士、聞いてもいいですか」

「うん、何を」

さっきヘンリ博士と何を話していたの? 僕の方をときどき見てたみたいだけど」

「うーん……」

博士は歩を進めながら思案顔で顎を手でつまんでいる。

「話してもよいが……」

「僕の事? 宇宙人の事? 」

「いや、両方だな。君たちは一体だから」

「話すと困るような事なの」

「……」

「話してよ。僕はもう覚悟は出来てるから」

そういう僕の覚悟なんてその時は軽かった。特別視されるぐらいだろうとしか思い浮かばなかったのだ。

「アマト」

博士が足を止めて僕の顔を見た。

「こんな事を話すとアマトは神経が参ってしまうのではと心配なんだ。だが、やはり教えておいた方がこれからの自分を守るためにも必要だろう」

そう言って

「先ほどの対策委員会で宇宙人の事は秘密になったがヘンリー博士は守られないだろうと言った。嗅ぎつける手段を持っている闇の組織が存在しているというのだよ。だからもう島には帰らない方がよい。国連の警備下に守られていて欲しいと言っていたのだよ」

「ええっ、何、その闇の組織って……」

「私も噂で聞いたことがあるが……まさか事実だとは思わなかった。いいかいアマト。世界でたまに行方不明になる科学者がいるのだが、彼らは拉致されどこか秘密の施設で研究を続けさせられているのではと国連では考えている。だがどこに属する組織かも知られていない。特に未確認飛行物体や地球外生命体の存在の情報はいち早く察知し、隠ぺいしてしまうらしい」

「まるで映画の世界みたいだ! 」

「そうだな……映画で終わってくれればよいが、私もまさかと思ったが、ヘンリー博士はこんな場合冗談を言う人ではないからね……」

「じゃあ、ひょっとして僕はその闇の組織に狙われるってこと」

「そういうことだ」

「だって、もし僕達がいなくなったら地球が危ないよ。その組織だって地球人だからそんことはしないのじゃないの」

「それは私にも分からないが、その組織は宇宙の科学技術をいち早く取り入れ宇宙産業の先端で巨大な富を狙っているらしい。宇宙人と聞けば目の色変えて手に入れたがるだろう。特にアマトの宇宙人は考えも及ばなかった気体星人だ。地球のためという倫理観など持ち合わせていないと見た方が良いだろう」

「ひどい! 」

「アマト、君はもう子どもではないね。もうすぐ17歳だ。理想や道理が通らない事もこれから経験していくだろう。金銭欲、権力欲などから醜い争いも目にするだろう。だが人間は過去から失敗を学びこれから生かす希望も捨てていない。古代からは想像もできなほど人々は平和で自由になっている。投げ出したくなる時もあるだろう。でも立ち向かうものがあるから成長できるんだ。どんなことが待っていても自分を見失わず未来を信じてこれからも生きて欲しい」

博士の眼差しは厳しさと優しさに満ちたものだった。

「分かりました。闇の組織にもし拉致されても僕はそんなのに協力などしないし、宇宙人を守るから」

〈私も守ってあげるよ〉

「えっ……」

「ははは、頼もしい味方がいて良かったな」

「博士、どっちの事」

「両者だよ。2人というかとにかく2人3脚だ。もしもの場合助け合えるだろう」

宇宙局の建物が見えてきた。

「博士、ガイはお母さんの映像を見てショックを受けただろうね」

「そうだろうな。自分も宇宙人であった事は受け入れがたいだろう……」

「会ってくれるかな」

「押し掛けるしかないな。ガイも偽物の占い玉を返したという弱みを持ってるから騒ぎたてられても困るだろう」

「そうか」

宇宙局の受付でガイが隊長室に戻っている事を確認すると面会を申し入れた。
案の定、ガイは断って来た。

「占い玉の事でと伝えて下さい」

受付の人が博士の言った事を伝えるとガイは許可して来た。予想通りだ。これで球体に1歩近づいたわけだ。


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