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作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第26回   宇宙人からの呼びかけ A

「話しは6年ほど前のことです。マタイ島の事はみなさんもご存じかと思いますがここはクラノスという人物が首長を長く勤めていました。そのクラノスが独裁的になり違法な銃を持った警備員を置くようになりました。それまでの善良な島の長老を監禁して島は近隣の島々と隔絶状態になりました。この島の科学者ラファンは私の古くからの友人でこのアマトの父親です」

博士が僕を見て来た。
「そのラファンが監禁状態で町の地下工場でクラノスの指示する実験をやらされていました。若い助手も1人います。クラノスは最初、ラファンの質問にこれは地球温暖化を防ぐため2酸化炭素を吸収して酸素を生み出す為の実験だとはぐらかしたそうです。私達は化学兵器でも作らされるのではと心配して、ラファンの逃亡の手助けをしました。その後の不幸な遭難の事はここでもう話されたので省略します。だからクラノスはアマトが生きている事を知って地下工場の事を父親から知らされているのではないかと思いアマトの拉致をはかったのです。ここからが本題です」

博士は1呼吸置いてまた話し始めた。
「私はその頃連邦にひんぱんに発生した身体異常児出産の調査を行っていました。その原因がマタイの経営する工場の廃液であることをつかみ、国連の発動でマタイへの立ち入り調査をすることになりました。クラノスはこれを受け入れました。そこで調査団にアマトも同行させました。地下工場を見つけ、何をさせていたかを確かめるためです。警備員の監視下の元でしたが、偶然ある工場の裏手に銃を手にした警備員がいるのを見つけその夜、ホテルのレストランの食材を仕入れている青年の好意で地下工場に車で行きました。ところがそこでクラノスがすでに地下にいることが分かり、私とアマトは茂みで隠れていました。そのうち、地下の入口が騒がしくなり銃声まで聞こえて来ました。警備員が数人地下に入って行き、じきに人を運び出して来ました。それはクラノスだったのです。やがて救急車がやって来てクラノスを乗せると、見張りに3人の警備員を残して後はみな救急車と一緒に去って行きました。そして停電になりあたりは真っ暗になりました。警備員が救急車を見送っている間に私達は地下にさっと滑り込みました。そして1番奥の部屋で私達は異様な光景を目にしたのです」

一気にここまで説明した博士はアマトと同じように喉を潤す為に話しを中断した。これからまた宇宙人が出て来る。メンバーの反応はいかにと気になる。誇張も無く起ったことを正確に伝えなければと博士は1度深呼吸をした。

「ガラス越しに見えたのは部屋を縦横に走る電気光と青白い光の点滅でした。私が中に入ろうとドアに手をかけた時、危ないから止めて下さい、という声が頭に入りました。そうです。アマトの中にいる宇宙人からでした。宇宙人が、私が入ると言いました。それはアマトが入ることになります。私は窓から見ていました。部屋の中にもやもやとした黒いものが浮いており、青光りはその中で起きていました。アマトが入るとその黒いものが触手のようなものでアマトに向って行くのが見えました。宇宙人はアマトの腕をその靄の中に入れさせました。すると白い光と青い光が中でぶつかり合うように激しく輝きはじめました。やがて青光りがだんだん消えてなくなり白煙がくすぶっていました。また暗闇に戻りました。その時、部屋の隅に人が倒れているのを見つけました。電気ショックで気を失っていたそうです。白衣を着ていて、自分はラファン博士の助手で、博士が失踪してからずっと実験を続けさせられていたと言いました。彼から何が起ったかを聞きました。クラノスの指示する通りガラスケースの中で放電を繰り返しているうちに黒い靄みたいなものが中で発生し、放電ごとに少しづつ成長しているようで不気味に思いながらもなにをさせられていたかは聞けなかったそうです。そして今夜、いきなりクラノス首長が現れ、その黒靄をじっと見つめていたそうです。クラノスは、あと1週間あれば安心だが仕方がない、俺が移ってから育てようと言ったそうです。助手は何の事か分からず実験室を移すのですかと聞いたら、下らん奴らだと吐き捨てるように言ってきて、放電を始めよ、それから通路の警備員ともども全員外に出よと指示されたそうです。言われた通り彼はいったん出ましたが放電のタイマーセットを忘れたのであわてて戻ったそうです。その時、バーンとガラスの割れる音が聞こえ急いで部屋に入ったらクラノスが割られたガラスの中に腕を伸ばし黒い靄の中に手を入れていました。放電中だったので火花が部屋の中を飛び散っている中、黒靄はくねくねとうごめき表面に青白い電気の線が走っていました。彼がクラノスを救おうとした時クラノスは倒れ込み動かなかったそうです。音を聞きつけた警備員が数人駆け付け、クラノスを部屋から引きずり出してから火花を消すように彼に言ったそうです。彼が火花に気をつけながら放電のスイッチを切ろうとした時、黒靄が彼に向かってきて包み込まれ、電気ショックで気を失ってしまいました。次に黒靄は警備員に向かいました。驚いた警備員が発砲しましたが弾は黒靄を抜けて壁に当たるだけでした。警備員は助手をそのままにドアを閉めて全員を避難させました。以上が助手をしていた人の証言です」

メンバーの顔を博士はあらためて見回し
「これは調査していただければ事実であることが分かります。私の推理ではありません。地下工場はおそらくそのままか閉鎖されていると思います。クラノスは意識も戻らずその後亡くなったそうです」

大きな溜息がメンバーから漏れ始めた。
ガタッっと椅子の動く音がしてガイが立ちあがった。

「今のケーシー博士の話しは大変重要です。博士は私にマタイの洞窟について情報を教えていただきましたが、その時なぜその話を私にして下さらなかったのですか」
「その時はまだアマトのことを話せませんでした。ここでさえ信じられないと思われるのですからとても公表などできません。気が狂ったかと思われるだけです。炭素星雲が公になりここに呼ばれてようやく話す機会が訪れたのです」
「分かりました。では、まるで生き物のようにうごめき攻撃をしてきたその黒靄をクラノスが育成させたということですがそれが宇宙人ということですか」
「いいえそれはただの器です」
「器? 何に使うための器なのですか」
「それは……」
博士がためらった様子でアマトを見て来た。
〈博士、話していいですよ〉
博士は軽く頷き
「実は、クラノスの身体にいた宇宙人が地球の大気でも自由に動きまわれるためのものでした」
「クラノスにもアマト君と同じような宇宙人がいたということですか」ガイがさらに聞いた。
「そうです。ただ同じではありません。クラノスにいた宇宙人は炭素を主とする気体星人で、アマトの方は酸素が主だそうです」
突然エミリー博士が叫んだ。
「気体星人と先ほどから簡単に言いますが考えられません!  生物学的に無理です! 」
彼女の専門は生物化学だからだろう。
「そうです。私も信じられませんでした。でもこの広い宇宙では地球人の科学だけでは説明できないことがまだまだたくさんあります。地球の中でさえ不思議な生物がいるぐらいですから」
「まあまあ、とにかく話を進めて行こう。びっくりすることもまた発展の一つだと考えればこれからの話しも非常に興味があるね」
ヘンリー博士は、さあ続きを、と手で促して来た。
「ケーシー博士が今話された宇宙人は2種類の違った宇宙人ということですね」
ガイが確認して来た。ガイの顔は興奮で紅潮して来たようだ。
「そうです」
「では、クラノスはその炭素星人に動かされていたということですか。それとも自分の意思ですか」
「クラノスの意識はほとんど閉ざされ宇宙人の意思で動いていました」
「彼は首長です。その業務中もですか」
「初めの頃はまだクラノス自身の意思でやってましたがクラノスの思考や役割を覚えた炭素星人はやがて彼を支配しました。クラノスが独裁的になっていったのもその頃からでしょう」
「では、今アマト君にいるという宇宙人もアマト君を支配するようになるのですか」
「いいえ。アマトの酸素星人と呼ぶことにしますが、彼は極力アマトの思考を止めないようにしています。長く思考を停止させると、本人の思考回路が働くなくなり下手をすると身体の機能すら動かなくなるそうです」
「ではクラノスがその黒靄に腕を突っ込み倒れたのは」
「炭素星人が器に移動したからです」
「身体というか気体の移動ですか」
「そうです」
「では、その器の事ですが、先ほどの助手の話しでは突然やって来たクラノスはガラス内の靄を見て、あと1週間あれば安心だが、自分が入って育てるしかないと言ったそうですね」
「はい」
「どうして彼はその1週間が待てなかったのですか」
「クラノスは調査隊を迎え入れた会場で挨拶を終え、出て行こうとした時父親の事を聞こうとしたアマトに腕を掴まれています。その時にアマトの中の宇宙人を感じ取ったようです。それはクラノスの宇宙人の存在もアマトに伝わったことを意味しますから事を急いだのです」
「つまり炭素星人はアマト君にいる宇宙人を恐れたわけですね」
「そうです。それで未熟な器でも早く移ってしまい逃げようとしたわけです。工場にまさかやって来るとは予想してなかったでしょう。未熟だったおかげでアマトの宇宙人は器の中に入ることができ炭素星人を消滅させることができたそうです」
「消滅したのですか」
「そうです。助手は気絶していて消滅するところは見ていません。彼は停電で放電しなくなったので無くなったと思っています」
ガイが次の言葉を考える間を突いて
「ところでその炭素星人をなぜ消滅しなくてはならなかったのかね。悪者かね。アマト君の方が正義なのか」
ヘンリー博士が言ってきた。
「この炭素星人の正悪の判断は関係する者にとってという見地からすれば地球にとっては危険な存在でした。ようやく本題になりますが、炭素星雲を地球に向かわせたのはこの宇宙人です」
博士の今の言葉でメンバーの顔付がギョッとなったようだ。
「さっきからいろいろ驚かされているがこれはまたすごい話だな」
ヘンリー博士も椅子にのけぞって苦笑いした。
「わかります。これだけの事を1度にお話ししたわけですから無理もありません。私が今、みなさんの席で聞く側だったらとても信じられません。私は経過を説明してみなさんの理解の手助けになればという気持ちです。それではなぜ呼び寄せたかをお話しいたします」
「ちょっと待ちたまえ」
ヘンリー博士が止めて来た。
「さきほどからケーシー博士が話す内容は推理ではなく事実だと言っている。証拠となる地下実験場もある。だが炭素星雲を呼び寄せたことまで君が話すのかね。アマト君には宇宙人がいるのだろう。頭に話しかけてくるという宇宙人が。我々に直接姿、いや気体では無理か。姿で無くとも声ぐらいは聞かせて信じさせることができるのではないのかね」
ヘンリー博士の言うことにメンバーが大きく頷いた。誰もが先ほどから半信半疑で聞いているのは実在するかどうかがあやふやだからだろう。アマトとケーシー博士だけで話しが延々と続いていることに疑問が沸いて来ていた。キムラ博士やハイツ博士は宇宙人という言葉がでてくると眉をしかめるようになってきた。
ケーシー博士はもっともだと思った。自分が話すのも限界だなという思いもあったが宇宙人がなにも言ってこないので知っている限りの事を話し続けていたのだが。
ケーシー博士は黙るとアマトを見つめた。
全員が2人の反応を確かめるように見て来ている。
〈博士。よく説明してくれました。これで私も話しやすくなりました。いきなり私が語りかけたら動揺と混乱が起きたことでしょう。宇宙人という言葉にも慣れて来たというかうんざりされたかでしょうが〉
アマトと博士が2人で苦笑いしたのを見て
「どうした。宇宙人は挨拶は嫌なのかね」
ヘンリー博士が言った。
その時、アマトと博士には聞きなれた宇宙人の声がメンバーに向かって発せられるのを聞いた。
〈みなさん、私がアマトの中にいる気体星人です。気体の成分からすると酸素星人となるでしょう〉
驚いたメンバーがキョロキョロあたりを見回し、どこにも声の主らしき姿が見えないと分かると訝しげな視線をアマトに向けて来た。
〈今までアマトやケーシー博士にこれまで起きた事を話していただきました。みなさんが疑わしい話しだと思われるのも無理がありませんが、私が初めから出現したら混乱や動揺を招き気持ちが落ち着くまで説明どころではなかったでしょう。すでに話しを聞いて経過が分かっていただけたと思いますので信じてもらうにはこれからは私が答えていきます〉
メンバーが寄り集まりだした。お互いに聞こえましたかと確認をしているようだ。アマトや博士を見て来てはひそひそ話している。だがガイはその会話に加わること無く視線をアマトに向けたままだ。
アマトは自分に向けられるみんなの視線に冷ややかなものを感じた。考え過ぎかもしれないが人間を見る目じゃないと思った。まるで僕自身が宇宙人として見られているようだ。とうとう公表した。これから僕に待っているのはこうした視線なのか……
複雑な僕の思いが伝わったかのようにケーシー博士が僕の手を握り締めて来た。



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