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作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第25回   宇宙人からの呼びかけ @

 
「博士、僕、緊張して来た」

国連本部の大きな建物が近づくにつれアマトは引き返したくなった。これから起きることを考えると恐ろしさで身体が固くなっている。
「私も同じだよ。建物には慣れているがね。だが心配しても始まらない。やるしかないと言い聞かせている。さあ、息を大きく吸って、まずは玄関を突破しよう」

自動ドアが開いた。博士はアマトの背を優しく押して促した。

ガイの訪問から2カ月過ぎていた。
宇宙人は思った通り対策委員会に出席すると言った。それは自分の正体を公にすることになる。動揺したのは私とアマトだ。どんな波紋が起きるか想像できない。嵐の中に飛びこむようなものだ。いろんな質問を予測して考えてみた。だが宇宙人は動揺することもなく、その場で出される質問に答えればいいと冷静だった。

「ようこそ博士にアマト君」
ロビーから呼ぶ声に振り向くと、
「ヘンリー博士! 」
ケーシー博士が思わず声を上げた。
「アマト、ヘンリー博士は対策委員会のメンバーの1人で私の大学の恩師でもあるんだよ」
こういう場合少しでも知り合いがいると気持ちが和らぐ。ケーシー博士の声は思わず弾んだ。
「やあ、今回は大変なところへお呼びがかかってしまってびっくりしただろう」
ヘンリー博士はにやにやしながらケーシー博士に言うと傍らのアマトを見た。
「君がアマト君かね。遠くからよく来てくれたね」
白髪は混じっているがアマトを見る目は奥に鋭さがあった。がっちりした大柄な体形で、威圧感のようなものを漂わせている。なるほど偏屈そうな人だとアマトはケーシー博士から聞いていたことを思い出した。
「アマト君、がちがちになってるね。そんなに硬くならないで軽い気持ちでいいのだよ。だれも責めるために呼んだのでなく、参考に聞くだけだからね」
とヘンリー博士は僕の気持をほぐそうと言ってきたのだろうが、気軽なんてとんでもない。僕と宇宙人は切り離せないのだ。僕は質問の矢面に立ってなくっちゃならないんだぞ。
「さあ、会場まで案内しよう。すでにみんな集まって君たちを待ってお見えだ」
ヘンリー博士の後に付いて会場となっている部屋の扉の前までやって来た。
ケーシー博士がそっと僕の肩に手を添えて言った。
「落ち着いて、任せるんだ」
「うん……」

「お待たせしました。こちらがケーシー博士とアマト君です」
ヘンリー博士の紹介を受けてテーブルの奥の席の人が立ちあがった。
「ようこそ、はるばる遠くまでありがとうございます。私は司会役のハイツと言います。どうぞ、そちらの席にお着き下さい」
視線がケーシー博士よりも僕に集中しているのが分かった。僕は下を向いたまま席に着いた。
「御存じのようにこの対策委員会は『M70』に対する国連の特別部会です。300年先にやって来ると言われるこの『M70』は炭素ガスが成分で規模はこの太陽系が半分ほどはいってしまうほどです。アマト君はこのことは知っていますね」
ハイツ博士が確認するように僕を見て来たので頷いた。

「世界の科学の粋を集めた探査機がこの星雲に向かってから2年以上経ちました。10年はかかる大プロジェクトです。世界各国ももしものことを考えて生き延びられるよう対応を立てていますがこの星雲のことをもっと知らなくては手の打ちどころがありません。今は探査機が戻って来るのを待っている状態です」
ハイツ博士は簡単な説明を一応終えると咳払いを1つして、さて、と切り出した。
「今回貴方がたをお呼びしたのは私の隣にみえる宇宙局特捜隊のガイ隊長の要望に基づくものです。もちろんそれなりの理由があってのことです。我々もどうして銀河系外の星雲がこの小さな太陽系に向かってきているのかが謎でした。ガイ隊長はその見地に立って調べて来られた方です。詳しい質問はガイ隊長からしていただきますが、この席は裁判ではありませんから、分からないこと、言いたくないことなど、無理に答える必要はありません。ただ、地球を救うために出来るだけの協力をお願いいたします」
ハイツ博士は僕達を見て軽く頭を下げると、では、ガイ隊長、お願いしますと言って
腰を下ろした。変わりにガイが立ちあがった。

「今、ハイツ博士から紹介の会ったガイです。といっても参考人の方とはすでに面識がありますのであらためての挨拶は省き、さっそく本題に入らさせていただきます。すでにここに呼ばれた理由は前もってケーシー博士もアマト君も私から聞いて知っていることです」
1呼吸置いてガイは続けた。
「ハイツ博士の話しの通り、私は炭素星雲が地球に向かってきたのにはなにか原因があるはずだと睨んでいました。私の主な任務は地球上にある数か所の異常磁気の観察と調査です。その異常磁気が近年多発しており、しかもある1か所でかなり高い異常値が発生しています。その場所は南太平洋上の小さな島、マライ島です。特にバラムという村が抜き出て高い数値なのです」
いよいよ核心に触れて来そうだ。心臓の高鳴りを覚え、落ち着け落ち着けと自分に言い聞かす。ケーシー博士の横顔をちらっと目に入れた。落ちついた顔付をしているが膝に置かれた手に力が入っているのが見えた。
「4年前、近年に無い非常に高い異常値が観測され、我々は調査にバラムに入りました
磁鉄鉱の多い山に入って行きましたが不思議なことに磁場が正常になってしまいました。原因は分かりません。ただ、その後、日本のテレビ局がその山にある洞窟を探検する模様を映した時は磁場が異常でした。私はこの2つの違いに何かがかかわっていると見ていますが、まだつかめません」
ガイの頭には占い婆の球体が浮かんでいた。婆のところにあった時、球体は激しく光ったという。その後、ガイは婆から借りた玉は自分の手元に置き、婆には偽物を返した。婆のところに本物の玉があった時は磁場は正常で、遠くガイの官舎にあった時は異常になった……
だがその玉のことは言い出せない。ガイの部下ですら婆に返したと思っている。
「さて、この異常値の時は必ずと言っていいほど事前に嵐のような強風が吹き荒れ、稲妻のような光が発生しています。ただし、稲妻と違って音がありません。私はこの村の占い婆から聞きました。婆は村から離れ山に住んでいます。婆の証言ではこの光は目を手で覆ってもなお手の指の骨が透けて見えたというほどでした」
ガイはここで嘘をついた。この強い光は実は球体から発せられていたのだ。だがそれ以外のどこかでも光っていたことには変わりがない。
「この異常値と光の発生源ですが、これは私の推理です。このテレビ局が取材した洞窟の名はドゥルパの洞窟と呼ばれています。昔から現地の人は魔物が出ると恐れ奥に入った者はいませんでした。偶然我々が異常値の調査に入りこの魔物の唸り声が風によるものということが分かりましたが、そんことは副産物で、じつはこの洞窟はかなり昔、地殻変動で島が2つにわかれる前から存在していたことが分かりました。これは造りからして自然の産物ではないことが分かります。近くで採れる磁鉄鉱を使って整然と組み立てられた石壁や奥へ続く通路を見れば分かります。そして、なにより不思議な石が見つかりました。奥へと続く通路からそれたある通路です。それは1枚の岩で塞がれ行き止まりになっています。その岩が磨かれたように光沢がありあきらかに周りの鉱石とは異質なものでした。我々も行きあたったのですが暗かったこともあり、しっかり見ないで引き返しました。目的が異常値の発生源にあったので、洞窟に遭遇したのは偶然だったからたいして気に留めなかったのです。今思うと残念です。その後テレビ局がやはり不思議な岩の出現に大写ししたのを見てこれは何かあるとみて我々は再度調査しようと思っていたところへまた異常が起き、その後、どういうわけかこの岩の前が瓦礫で塞がれてしまっていました。この岩の調査は出来なくなったのです」
ガイは一気にここまで話し終えるとテーブルの飲み物をとり2,3口飲んでから、咳払いをしておもむろに僕達の方に身体を向けて来た。
「さて、これから貴方がたにというよりはアマト君に聞いていきたいと思います。もちろん博士はアマト君の保護者であり、きっとよくご存じだと思います。4年前の異常値が発生した時の災難に付いて触れていきたいのですがアマト君、よろしいですか」

やはりそこからか……アマトの予想が当たった。覚悟は出来ている。あれから4年経ったのだ。聞かれて動揺し涙ぐむことはもうないだろう。両親の死は偶然の出来事だったのだ。宇宙人が悪いのではないと今は冷静に受け止められるようになった。
「アマト君、君は私を避けていたようだが勘違いしないで欲しい。私は炭素星雲から地球を守るという思いから君を呼んだのです。私は炭素星雲は誰かが意図的に地球に向かわせたのでないかという考えにいたりました。異常磁気の事、そして不可思議なドゥルパの洞窟の事を調べたいのです。君が遭難した当時はとても聞ける状態ではなく村人は我々調査隊の聞き込みから君を避けさせました。あれから4年経った今、君はきっと覚悟してこの場に臨んだと思いますので、正直に知っていることに応えて下さい」
意気高く話すガイ。地球を守る使命感は母親を連れ去った宇宙人に対する憎しみからきているのだろう。それを思うとアマトはガイが哀れに思えた。もし自分が宇宙人の血を分けていると知ったらガイの苦しみはどんなだろう。近いうちに彼はそれを知ることになるのだ。
「はい、もう大丈夫です。どんな質問でも僕の知っていることは答えるつもりです」
アマトははっきりと声にした。僕の経験した苦しみとガイのこれからの苦しみに気持ちが重なって行く……ガイよ、疑問に思っていることはすべて出せばいい。じきにここにいるみんなが驚くことが起きるのだから……
これで僕は隠し通す必要が無くなる。それは僕にとって良くなるのか悪くなるのか分からない。でもどっちにしろ覚悟していることだ。ガイ、さあ、質問して。
「アマト君、君はマタイからご両親と逃亡した夜、海上で嵐に会いボートは転覆。そしてご両親はバラムの村の浜辺に遺体となって打ち上げられていたのを村人に発見されました。ところが君はそこにはいなくなぜか海岸から離れた山の河原で意識が戻ったそうですね。ここまでは対策委員会のみなさんにも知らせてありますが本人から確認したいのです」
「その通りです」
「その河原とはドゥルパの洞窟がある小川の河原ですね」
「はい」
「そしてその河原にパシカという盲目の少女もいたのですね」
「はい」
「その少女は誘拐され洞窟の中に置き去りにされて外に出ようとして反対に奥へ奥へと入って行ってしまった。そこで魔物の声を聞いて違う通路に逃げ込みそこで怖さと疲れで泣きながら眠ってしまったと少女は言ったそうですがなぜか目覚めたところは君と同じ河原だったそうですね」
「はい……パシカは河原で倒れていました。僕の呼ぶ声で目が覚めました」
「海で遭難した君と洞窟にいた少女が同じ河原にいたということですね」
「はい、そうです」
ガイは答える僕から視線を外すと委員会のメンバーをぐるっと見回し
「今、お聞きしましたように私が話したことは事実だということが分かっていただけたと思います」と言ってまた僕に顔を戻して来た。
「ではアマト君。君が遭難した時の様子ですがバラムでは強い風が吹き荒れ、稲妻といっても音の無い光が発生しています。海ではどうでしたか」
ガイの質問が4年前の逃亡を鮮明に呼び覚ましていく。マタイの警備艇からなんとか無事逃れ、闇の中、前方にマライ島の暗影が見えていた……ボートで僕たち家族をバラムまで届けてくれるはずだった漁師が、あの岬の向こうがバラムだ、と言っていた。なのになんという不運だったのだろう……
「海でも風は強かったですか」
ガイがさらに聞いて来た。
「そうです。マライの島影が見えて来てもう少しでバラムに着くと安心していたら急に風が吹き出しました。それがどんどんひどくなり漁師がこんな事は初めてだと言ってました。波がボートに当たり漁師は危ないから僕なら入れるだろうと小さな浮輪をくれました。そして大波が打ち寄せボートが転覆する間際に強い光というか光線でボートも海もそしてマライ島も照らされたのが目に残っています。そして海に放り出されました。覚えているのはそこまでです」
「漁師がこんなのは初めてだと叫んだのですね」
「そうです」
「それからの事ですが、河原で目覚めるまでの間でなにか覚えていることはありませんか」
覚えている事と言えば……あの事か……僕も長い間思いだせなかった海岸での出来事。
いよいよ話さなくてはならない時が来た。
目の前の飲み物を僕はゆっくり手に取った。喉を通る音が分かった。それからガイを見つめた。
「1つあります……僕もしばらくは思い出せなかった事が」
「それは……話してくれますか」
「僕は漁師さんや父さん母さんと同じように海岸に打ち上げられていました。意識はありませんでした。その僕に、君、君、と声をかけて来た者がいました。その声にかすかに意識が戻ったようでしたが。その僕のぼんやりした意識の中に、君は今、生死の境にある。私が細胞に力を与えようと言ってきました。僕は海での事を思い出し、話しかけてきている者に、父さん母さんはと聞きました。聞くと言っても夢の中で聞いているようでした。するとそこに倒れている者達はすでに生体反応が無いと言われ、僕が興奮し出したので、その者が、興奮すると君の脳が危ないから意識を閉じると言いました。僕は君は誰だと聞きました……」
ここまでですでに僕の話しの異様さに気が付いて来たのだろう。室内が息をつめたような静けさになったのが分かった。
「その者は、私はこの星の生物ではないと言いました……そして、僕の身体を借りると言ったので嫌だと言ったら、そうしないと僕は死んでしまうと言い、僕の意識を止めたのです。だから僕はその後の事は覚えてないのです。意識が戻ったのは河原でした」
とうとう切り出した! 言えた! 僕は大きく息を吐き出した。博士の手が、緊張から硬く握りしめられた僕の拳をそっと包んでくれた。
対策委員会のメンバーがそれぞれ顔を見合わせている。
ガイだけは立ったままだ。何を考えているのか分からない表情で次の言葉が出ないようだった。
「うっ、うん」とハイツ博士が咳払いをして「ガイ隊長」と声をかけた。
ハイツ博士は司会役に戻り、ガイを促した。
「ガイ隊長、話を進めて下さい。それとみなさんもいろいろ質問がおありだと思いますがガイ隊長のすべての質問が終えてからでよろしいですか」
メンバーが頷いた。
ハイツ博士の声でガイは我に返ったようだった。
「それでは……」と言ってまた言い淀んだ。
ガイは事実に衝撃を受けていたのだ。仮説の段階では大きく言い立てることが出来た。が、こうもあからさまにアマトから打ち明けられるとは思ってもみなかった。
「今のアマト君の話しは信じ難い気もしますが……それは、また後ほどみなさんと質問していくことにして……アマト君、それでは次にいきます」
ガイは分別が戻って来たようでまた姿勢をただすと
「その遭難後1年ほどしてまた同じようなことが起きました。知っていますか?」
「はい。知っています」
忘れもしない。昼間、洞窟に行き、宇宙人は僕の身体から抜けてガイの母親の事を調べるため夜になってからワームホールから宇宙に向けて飛び去ったのだ。その時、嵐になり、自分が遭難した時ももっとひどい嵐が起きた事をタネおばさんから聞いた……それからの苦しかった日々、宇宙人を憎み洞窟から遠のきラグビーに打ちこんだ……
「その日の昼間、君は洞窟に行っていますね。その姿を占い婆に見られ、洞窟に行ったわけを観光化される前に見たかったからと婆に答えていますがそうですか」
「はい。占い婆にはそう答えました」
「占い婆にはそう答えたということは人によっては違うことを言ったかもしれないとも受け取れますが、もしそれが、たとえば、隣にいるケーシー博士だったとしたらなんと答えますか」
「ケーシー博士ですか……」
僕は顔をケーシー博士に向けた。博士はそれとなくわかる笑みを僕に返した。事実を言えば良いのだよとその目は言っていた。
「博士にはこう答えます。宇宙人を洞窟に連れて行くためだと」
今度はえっ、という声が一斉に起きた。
ガイは眉をぴくっとさせたようだ。だが続けた。
「今、宇宙人を洞窟に連れていくためと聞きましたが確認します。そうですか」
「そうです。間違いありません」
うーん、というため息がメンバーから漏れだした。はたして信用できる話しなのかと半信半疑のようだ。ヘンリ博士は腕組みして食い入るように、真剣な目付きで僕を見て来る。1部の人は首を傾げている。
「では……次。その後不思議な岩のある通路が瓦礫で塞がれていましたが、このことについて私は海岸で君に聞いたら知らないと言いました。やはり今でもそう言いますか」
「いいえ……僕は見ていないけどあの瓦礫は、観光客や鉱物学者に見られないために宇宙人がやったそうです」
これで何回、宇宙人という言葉を出したことだろう。聞かされる方はきっとだんだんこの子は精神がおかしいのではと疑ってくるころだ。
「宇宙人がやったというのですね」
「はい」
「その岩は見られたくないということですか」
「ええ……そうだと思います」
「思いますと言う返事は君の考えですね。あの岩を隠す理由を知っていますか」
「……」
「あの通路は岩で塞がっています。どうしてか。本当に行き止まりかそれとも奥に何か隠された物があるのではないかと私は疑いたくなります。君がさっきから口にする宇宙人なら知っているはずです」
岩の奥……それはワームホール。宇宙へとつながる道。でもこれは僕が答えられる内容ではない。
「黙っていますね。アマト君。初めに説明したように炭素星雲が太陽系に向かい始めたのは原因があるはずです。私はこれまでの異常磁気の発生とこの洞窟が関係しているのではないかと睨んでいます」
黙ったままの僕からガイはようやく視線を委員会のメンバーに向けた。
「みなさん。今アマト君から聞いた内容から私の推理が必ずしも空想では無いということがお分かりだと思います。私は宇宙人説を唱えました。今ここにその宇宙人と会ったと少年が証言しました。一応私からの質問はこれで終わります。信じられないような証言ですのでこれからみなさんの質問で真偽を確かめてください」
メンバーはそれぞれ顔を見合わせ小声で話し始めた。
「それではみなさん、意見、疑問などお願いします」
ハイツ博士がまた司会に戻ってメンバーを見回す。生物学のエミリー博士が手を上げたのを見て、どうぞと促した。
「えー、率直なところ当惑しております。宇宙人がいると言う声はこれまでもたくさんあります。たいてい見間違いか妄想のたぐいで、間違いなく宇宙人、つまり地球外生物と確認された例はありません。今のアマト君の話しも本人しか見ていないですね。確かに不思議な点はありますがまだ推理の範囲です。国連として公に認めるには根拠がなさすぎます。もっと確かな証拠、たとえば宇宙人がここに姿を見せることが出来ないのですか」
すぐに次の手が上がった。
「キムラ博士、どうぞ」
「アマト君は遭難して倒れていた時、意識がほとんど無い状況でしたね。ただ小さな浮輪のおかげで本当は大した怪我は無かったのかもしれません。子どもには時にそういうことがあります。声をかけて来たのは人間だかもしれないわけです。その後、何らかの方法で河原に運ばれたということも考えられます。それでもアマト君は宇宙人に助けられたと言いきれますか」
妄想……子ども……か。そうだよな。科学者が1少年の言葉だけで信じるわけがない。
「はい。宇宙人に間違いありません」
「そうですか。それではケーシー博士にお伺いします」
ケーシー博士は質問者のキムラ博士に顔を向けた。
「博士はアマト君の保護者だそうですがこのアマト君の宇宙人を見たということを信じておられますか」
「アマトはうそをつく子ではありません。マタイの科学者で私の友人の息子です」
博士は立ち上がると顔をメンバー1人1人に向けて言った。
「私も同じ科学者として、いまみなさんが疑問に思う気持ちは充分理解出来ます。私もある出来事から宇宙人の存在を知ることになりました。その時は驚きました。しかし事実なのです」
「その、ある出来事を構わなければ話してくれないか」
突然口を挟んだのはヘンリー博士だ。相変わらず腕組みをしたまま怖いほどの顔を向けている。
「構いません。それはバラム村の『ミセの祭り』での事です。アマトはマタイのクラノスの手下に付け狙われるようになりました。仮面をかぶって踊っている最中に連れ去られ、車に乗せられる寸前にアマトは逃げて、山の中に入って行き、手下が追って来て崖に追い詰められたところで足元の岩が崩れて谷に落ちました。犯人は後から来た村人に捕まりました。暗い谷底にいるアマトを犬が見つけてくれました。大変な怪我でした。意識もありません。暗闇の中で下手にアマトを動かすのは危険だと判断し、医者やタンカーの準備に私と村長以外は戻りました。私が額の出血を止めるために布を当てようとしたら、辞めて下さい、という声が頭に響きました。アマトはとても危険な状況で、この近くに神木があるからその小枝で身体を包むようにと声が言いました。そして身体を動かすことが出来るようになったら知らせるから、それまでは触らないようにと言いました。信じられませんでした。だがそんなことは言ってられなかったのです。とにかく言われるとおりにして朝になり、もう身体を動かしても大丈夫だから病院で手当てを受けるようにと指示してきました。アマトの傷口は出血も止まり、かさぶたさえできていました。これらを目にしては信じるしかありません。だがこのことは2人だけの秘密にしました。言ったら変人扱いで信用などしてはもらえないのは目に見えてましたから。いま、あなた方も聞いてすぐ信じることなど出来ないのと同じです」
「だが村長もいたのだろう。その声を聞いたのではないのか」
「いえ、私にだけ話して来ました」
「博士にだけ聞こえるように話せるのかね」
「それは実際は耳から入って来る音ではなく頭の中に響いてくるような感じといいますか、よく空想の話しでテレパシーと言われるようなものです」
「ほうー、テレパシーね。なんだか雲をつかむような話だな。とにかくその体験で博士は宇宙人を信じたわけだ」
ヘンリー博士の口の端に薄笑いが浮かんだ。
「そうです。私は科学者の目で事実だと申したい」
メンバーがまたざわつき始めた。
何を言っても信じなければ嘘になる。目の前に証拠が無ければだめなのだ。
宇宙人がまだなにも言わないのはどうしてだろう。
「よろしいですか」
司会のハイツ博士がみんなを見た。
「私も1つ聞きます。さきほど2度目の異常磁気の時、アマト君は宇宙人を洞窟へ連れて行ったと答えましたが、洞窟の中のどこへ行ったのですか」
「それは……僕には答えられません」
「岩の奥だな」
またヘンリー博士だ。信じているというよりからかい気味な口調に聞こえる。
それが分かったようにメンバーが苦笑をこぼしている。
「もう1ついいですか」
エミリー博士だ。
「アマト君は海岸で意識が無い時にその宇宙人に身体を借りると言われたということですが、あれから何年も経った今でも貸しているのですか」
きわどい質問が出た! エミリー博士は本気で聞いてるようには思えない軽い口調だ。
「はい。そうです。でもその2回目の時から3年は僕から抜けて宇宙へ行っていました」
僕は落ち着いて答えた。
「すると今はどうですか……」
「今は僕の身体にいます」
「抜けたり入ったり自由ですね。いったい何者ですか」
「宇宙人は気体星人だと言っていました」
「えっ、気体ですか……」
メンバーの反応は様々だった。身体をのけぞって両手を呆れたとばかりに広げたり頬杖をついて溜息をこぼしたり……だがガイは違った。僕をじっと観察している目だ。
「アマト君、身体を貸したとか言ってるが、本当は宇宙人が君になり澄ましているのじゃないかね」
言って薄ら笑いをしている。ヘンリー博士はからかっているのだ。僕は返事の代わりにヘンリー博士を睨みつけた。本当に偏屈なやつだ。
「それではみなさん」
ハイツ博士が咳払いをして威厳をただした。
「いろいろアマト君やケーシー博士からお聞きしましたが、どうも炭素星雲を呼んだのではという宇宙人の存在がいま1つ決定的な要素にかけているような気がいたします。本当にアマト君に宇宙人がいるのかはっきりさせたければアマト君の身体を調べるという方法もあります。またドゥルパの洞窟も調査が必要でしょう。対策委員会として方向を出したいと思います」
えっ、僕の身体を調べるの?
そうなったら宇宙人の反応が出るのかな?
戸惑っている僕の心に声がかかった。
〈アマト、だいじょうぶだ。ここまでよく頑張って答えて来てくれたね。対策委員会のメンバーの人物や考えを知るために黙って聞いていた。反応は予想はしていたがね。今からケーシー博士にマタイの地下工場でクラノスに取りついていた炭素星人が何をしていたか話してもらうからもう少しこのままでいくから。落ち着いて〉
──分かった。でもこの人達を納得させるには君が話しかけるのが1番だよ
ケーシー博士を見ると、1点だけを見て考えているようだった。ちょっと難しい顔を見せたりしたがやがて小さく頷き僕を見てきた。
「話すよ」
僕も小さく頷いた。
「ハイツ博士、よろしいですか。まだ話すことがあります」
今後、どうするかを相談しようとハイツ博士はヘンリー博士の席に移動していた。
ケーシー博士の声に顔を向けて見て来たのを確認して
「その炭素星雲がどうして太陽系に向かったかを話したいと思います」
ざわついていた部屋がケーシー博士の一言で静まった。
「ほう……君は知っているのか」ヘンリー博士が言った。
「知っています」
「また宇宙人説かな」
ヘンリー博士がニヤッとして見て来た。
「そうです。ですが、現実にある場所で実験が行われていました。私はその場所に出くわしています。その現場を見ている人も何人かいます」
メンバーの顔付が変わった。ヘンリー博士はハイツ博士を促した。
「いま、新しい情報をケーシー博士から聞きました。実験室が存在していたとは驚きです。博士、詳しく話して下さい」
司会席に戻ったハイツ博士の言葉でケーシー博士はおもむろに立ち上がった。


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