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作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第24回   ガイの来訪

 ケーシー博士は保健局の一室で局員から封筒を受け取り『M70国連対策委員会』が差出人であることに驚いた。
保健局の活動で世界中に出かけるため、ガイと会う日がなかなか決められないことを気にしていたが、昨日、帰って来て今日でも直接、宇宙局に出向こうと思っていた矢先であった。
 炭素星雲について参考意見を伺いたいので委員会に出席願いたいという簡単なものであったがどうして私宛に来たのか……都合のつく日時を知らせて欲しいとあるが……
「局長」
机のインターホンが呼んだ。
 「はい、私だが」
「宇宙局特捜隊のガイ隊長がお見えです」
「えっ!」
偶然にしてはタイミングが良すぎるではないか。わざわざ彼の方から出向いてくるとは……
「お通ししてよろしいですか」
「もちろん」
ガイとは過去にロビーでマタイ島の洞窟の話しをしたというだけで付き合いはまったくない。それがわざわざ保健局まで会いにやって来たのはどうしてか。手間が省けたと言えばそうだが。
ガイの話しの内容次第ではうまくアマトと会う機会が作れるかもしれないな。

部屋に入って来たガイは机の上に開かれた手紙を目に留めたようで
「ちょうど間に合ったようですね」と手紙を指差した。
「この手紙の事を御存じなのですか」
「そうです。私は『M70対策委員会』のメンバーの1人です。この手紙は先の会議で博士に参考人として協力していただくことになり出された物です。そのいきさつを説明するのに私が選ばれました」
「そうですか。私も今封を開け、どう言う理由なのだろうかと不思議に思っていたところです。どうぞお座り下さい。詳しくお聞きしましょう」

ガイは腰を下ろすとすぐ切り出した。

「初めに言っておきます。博士を参考人として会議に出席を求めたのは私からの要望なのです」
その一言にケーシー博士は内心動揺したが何事もないような態度を崩さず、ガイの顔を直視続けた。
「それはどういう理由ですか」
「博士にははっきり言いましょう。私は最初、アマト君を会議に召喚することを提議したのです。しかし会議では否決されその代わり彼の保護者となっておられる貴方に参考人としてならということで了解されました」
「えっ、アマトを召還ですか。炭素星雲の対策委員会がどうしてアマトや私に関わるのですか」
「博士、貴方は少年の保護者になっておられるわけですから彼の身に起きていることも当然よくご存じのはずです」

ガイは獲物を狙う目付きで博士から視線を外さない。
どう答えたら良いか……ガイの思惑をもっと見極めないとうかつな返事は出来ない。

「アマトの身に起きた出来事ならもちろん知っています。彼の両親を死に追いやった責任は私にあると思っています。貴方はそのいきさつを御存じですか」
果たしてガイは知っているのか……
「知っています。そして彼がドゥルパの洞窟の前の河原で見つかったことも」
はっきりと答えるガイの態度にはもっと知っているぞと言いたげな様子が見て取れた。
「私はご覧の通り変人で通っている人間です。貴方に呆れられても何とも思いません。言いたいことを率直に言わしていただきます」
「どうぞ。伺いましょう」
「私が会議の席でアマトという少年を召喚したいと言った理由は、ドゥルパの洞窟が炭素星雲と関わっていると見たからです。そして彼はこの洞窟と何らかの関わりがあると見たからです。炭素星雲がどうして太陽系に向かったかという説明がこの洞窟を調査することで明らかになるとのではと思っています。私の肩書は宇宙局です。考えようによっては宇宙人が呼んだのではないかとも疑ってかかっています」

ガイの口から宇宙人という言葉が出た時私は思わず、ほうーと、苦笑してしまった。軽蔑からではない。少し違うが確かに宇宙人が呼び寄せたからだ。惜しい! がとても近い推理だ。
「やはり、軽蔑されたようですね。対策委員会の大半の方も同じ反応でした。でもヘンリー博士だけは既成の概念にとらわれない柔軟な考えの方で、そのヘンリー博士から貴方が教え子であると聞きました」
「勘違いしないで下さい。私は軽蔑したのではありません。感心と言った方がよいでしょう。ヘンリー博士は偏屈と言われてましたが私は好きでしたね」

さて、話しを聞いた限りではガイはアマトを召喚したいほどに疑っている。そのアマトに会うことを拒むことは無さそうだ。だが今それを切り出していいものかどうか……

「博士、貴方はアマト君が海岸でなく河原で見つかったことでなにか本人から聞いていませんか。また、翌年起きた異常磁気の直前に彼は1人で洞窟に行っています。そしてその後洞窟の通路の1部が瓦礫で塞がっていました。どこから来た瓦礫かも分からない不思議な現象です」
ガイが話すことはすべて知っていることだ。瓦礫の正体も……だが今、私の口から話せることではない。
「保護者であるあなたにこのことを話していませんか。彼は何かを見たか知ってるのではないかと思うのです」
ガイが黙った。ケーシー博士の反応をうかがう体制になった。

博士はしばらく沈黙し、意を決してガイの顔を正面から見て言った。

「分かりました。私は常にアマトの近くにいるわけではありませんのでそういうことは聞いていません。だが疑いを晴らすには本人から直接聞いた方がよいでしょう。対策委員会にも私が参加しても今のようなことしか答えることしかできません。本人さえ承諾できればその会議にも出席した方がよいでしょう。近いうちアマトに会ってご返事いたします」

ガイにしてみたら博士の返答は思いもよらなかったことだ。逆に憤慨されると思っていたぐらいだから、少年の召還などあきらめていた。それが博士から積極的に委員会へ参加させたいと言ってきたのだ。
ガイは不可解な面持ちで帰って行った。

ケーシー博士は感情が高ぶって来るのを抑えながらマライ島へ行く手はずをとった。
いよいよ始まる……宇宙人はガイと会ったら母親からのメッセージを伝えると言っていた。だが事態は対策委員会の方が動き出してしまった。おそらく宇宙人は会議に出席すると言うだろう。そしてその場で自分の存在を明かすだろう。アマトの姿を借りてだ。
深呼吸だ……博士は大きく息を吸った。冷静に……アマトを守り理性的に対処していかなければ……



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