20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第22回   宇宙人が
 
 翌朝、1番にすることはパシカの町行きをレイラに頼むことだった。僕が朝起きてすぐ行けなくなったと言った時、ライブを楽しみにしていたのにどうしてよ、と膨れっ面でしつこく聞いてきたからだ。
幸い、ライブと聞いてレイラはあっさり引き受けてくれた。これでパシカの不機嫌も治るだろう。

パシカとレイラが乗ったバスが出発するのを見送るとまっすぐ洞窟に向かった。

整備した道も観光客がパタッと来なくなってからは手入れもしなくなったので灌木がまた伸びて、草も茂り始めている。占い婆の茶店の看板も色あせて斜めに傾いたままだ。前みたいに婆が見ていないかどうかなんども後ろを振り返りながら洞窟に着いた。
ワームホールの狭い通路まで来て僕は後ろを振り返った。誰もいないのを確認すると通路に入った。

崩れて壁を塞いでいた瓦礫が消えている……ガイから瓦礫の事を聞いて1度見に来た時はあったのだ。
宇宙人がやったのだ。やはり帰って来ている……
目の前の磨かれたようにつるつるの壁に手を当てた。壁が薄青く光り、スーッと横に消え、ワームホールが現れた。アマトが中に入ると入口はまた岩で塞がれた。
1枚岩の床に立ってアマトは呼びかけた。

──帰っているのか
5枚の岩壁の内、1枚が青白く光った。
〈そうだよ。合図が分かったようだね〉
──ああ、嵐があったし、僕の頭に信号があった。
〈この岩に手を当てて〉
言われたとおりに手を当てるとアマトの手が同じように光りはじめた。
宇宙人が僕の身体に移行を始めている。
〈もういいよ〉
僕は手を離した。岩はもう光っていない。
3年前を思い出して僕は頭で語りかけた。口は閉じたままという久し振りの作業だ。
──ずいぶん長いお出かけだったね。もう君は来ないと思って忘れかけていたよ
〈そうか、地球人にとっては長く感じたのだろう。私はこれでも昨日出かけて今日帰って来たという感覚だよ〉
──これが授業で習った光速で宇宙に出ると地球と時間が違うということか……
〈宇宙では時間というより時空という方がふさわしいだろう〉
ケーシー博士が言っていたのはこのことか。宇宙人は時空を飛ぶ存在なんだろうと。
頭の中がざわっとした。
〈3年の間に脳の前頭葉のひだが増えている。いろんなことをまた学んだようだね〉
──僕の脳を調べていたのか
〈調べるのではない。動きの確認だよ。思考が増えると前頭葉が発達する。1万年前はもっと小さかった〉
思考か……
君がここから去ったあとの3年を知ったらどう思うのだろう。今はこうして君を許し受け入れるまでの気持になったが、僕がどんなに君を憎んだり、苦しんだりしたか。それも前頭葉の成長に1役かったわけか。
〈地球では長い時間が経っているわけだ。ではガイの持っている球体はどうなったか、炭素星雲のことも話してくれないか〉
──球体はガイが持ったままだ。それにガイは洞窟の事をなにか疑っている。洞窟も観光地になって心配していたけどもっと大変なことが起きてもう洞窟どころではなくなって来たよ
〈大変な事ってなんだ〉
──君が行ってから炭素星雲の事が公表されたんだよ。世界のあちこちで大騒ぎになり、
いろいろ揉めてね。でも今は、300年先ということでようやく落ち着いてきたかな。国連が中心になって世界の科学者や国や団体が考えているんだ。今は星雲に向けて探査機を飛ばすそうだよ
〈そうか。地球人が考え動きだしたことは良いことだ〉
──でも今の科学ではとてもたちうちできないだろうってケーシー博士が言っていたよ。君が早く帰って来ないかと待っているんだ。すぐ連絡しなくては。
〈私も報告することがある〉
──そう言えば君はガイのお母さんのことで思い当たることがあるから調べ行ったのだろう。なにか分かったのか
〈ああ、思った通りだった。今ここで話すよりもケーシー博士と一緒の時がいいだろう〉
ワームホールから出る時、僕は壁を見た。
──この前を瓦礫で塞いだのは君だろう。みんなが知ってることだからまた塞いだ方がいいよ。この壁はテレビで映されていてすごい興味を持たれたからね。ガイは君が去った時に発生した異常磁気と壁の崩れを怪しんでいたよ。
〈ガイがまた調査に来たのか〉
──分からない。でも1人で突然来たんだ。それで僕に問い詰めて来たよ。遭難して助かった僕の事も疑ってるような気がする
〈アマトが宇宙人ではと〉
──まさか! 
〈いや、彼の潜在能力が関係するかもしれない。それも博士の時に話すよ〉

夕方のバスで帰るパシカとレイラを迎えに行った。レイラからジョセもラグビーの練習後に会場に来たことを聞いた。
「ジョセが、今度の日曜には来いよと言ってたわよ」
帰り道、パシカが言った。ライブが楽しかったので上機嫌だ。パシカが歌うのを聞きながら歩いた。
〈アマト、パシカを見て地球では長い月日が経ったということが分かったよ〉
宇宙人が突然話して来た。
──なんで?
〈パシカの髪が伸びているし、身体が大きくなっている〉
──大きくなっている?
そりゃあ身長は伸びるけど、僕の方がもっと伸びているから特に思わなかったな。髪は最近気にし出して伸ばし始めた。ロングヘアーがクラスで流行してるとか言ってたからな。
〈前は手足も身体もほっそりとしていたのにちょっと膨らんだね〉
──膨らんだ? 太ったってことか
まだ歌いやまないパシカをじろじろ眺めた。いつも見ているから気が付かなかったけど宇宙人に言われてなるほどと思った。
──地球人の男と女はこの年ぐらいに身体つきが変わって来るのさ。男は硬いけど女は柔らかい細胞になるんだ
〈そうか、変化するんだ〉
──君たちは大きくならないのか?
〈我々は気体だから増えたり減ったりさせることが出来る〉
──それって自由に変えることが事が出来るってこと?
〈体幹部分は変わらないがね〉
──ふーん……まてよじゃあ初めから同じなの?
〈そうだ〉
 ──そんなの変だよ。君の両親はいないのか
〈地球で言う親にあたるのは星かな。星の中で生れる〉
──?? そんなの僕には想像つかないよ
まったく違う世界だ。親もいないなんて……まてよ、ということは、僕が両親を亡くした悲しみというのも理解出来ないということか……

「アマト! 聴いてるの? 」
パシカの声が割り込んで来た。
「えっ? あっ、ああ聴いてるさ」思考を中断して慌てて返事した。
「さっきから変よ。アマトも一緒に歌ってくれればいいのに」
なぜ聴いてないことが分かるのだろう。目は見えなくともわずかな動きで分かるのか?特殊能力だ。
〈君は聴いてなかったよ。耳から音は入ってきたが脳が意識してない〉
──僕はそんなに器用じゃないからね。
しながらできる奴もいる。僕は1つの事だけ集中してしまって他の事は頭に入って来ないタイプなのだ。
「来週は練習に行けるよね」
「ああ、たぶん」
「ジョセが今日淋しがってたわよ」
ケーシー博士が来られる日とぶつからなければ行けるだろうな。
また、さっきの事を考えた。
前の僕だったら、親が死んだ悲しみを宇宙人は理解できないと分かったら怒りをぶつけたに違いない。それも原因が君なのだとなじるだろう。だが宇宙人には分からない感情なのだ。
親というものがない宇宙人……家族愛の無い世界もあるってことか。僕達の感情がかなずしも宇宙にも通用するとは限らないのだ。自分中心の狭い世界観かもしれない。でも僕は人間は愛という感情が大切だと思う。ロボットではないのだ。
「パシカ、やっぱりジョセの言う通りきれいになったね」
「えっ、なに突然? どうしたの」
「いや、今ふと思ったんだ」
「ほんとうなら嬉しいけど……やっぱりアマト変よ。なにか隠していない」
「いや、きれいと思える気持ちっていいなと思ってさ」

宇宙人は膨らんだと表現した。外見の解釈だ。愛情という主観が無いからだろう。

気持ちを表したのがきっかけになったのか急にパシカが愛しいなと思えた。けんかした時はするっと忘れる程度かもしれないが今は素直にそう思えたのだ。
「アマト、私ね、きれいってどんなものかは分からないの。きれいって言葉はいっぱい使うわ。帽子がきれい、服がきれい、海がきれいとか部屋をきれいにってのもあるわ。私がきれいって言われるのは顔なんだって。顔がきれいだと男の子が好きになってくれるんだって。目、鼻、口の形は分かるけれど、顔がどうきれいなのかむずかしいわ。でも嬉しいことなんだなってことは分かるの。ほめられているのと同じぐらいにね。ジョセもアマトも言ってくれたからすごくうれしいな。アマトは私が好きなの」
まったく無邪気に平気で聞いてきた。
これは返事に気を付けないととんでもないことになるぞ。
「うーん……そうだな」
「あれ、さっき、きれいって言ったじゃない」
僕がすぐ返事しないのが不服そうに、考える間もなく問い詰めて来る。
きれいだから好きか……簡単な図式だなパシカは。人間はもっと複雑なのだぞと言いたいが、パシカには謎解きになりそうだ。
「パシカも僕も兄弟がいないだろう、だから僕にはパシカが妹のようで可愛いとおもっている。これも好きということになるかな」
まあ、この答えも合っていると言えるだろう。
「分かるわ! うれしい! 私もそうよ、アマトは私の大好きなお兄さんだもの」
喜びいっぱいの顔を向けて来た。それが妙に愛しく思えてふと戸惑った。これってほんとうに妹としての感情なのか……
パシカは僕のこんな感情には無頓着に僕の返事に充分満足したようだ。
僕の腕にさらに摑まって楽しそうにまた歌い出した。
14才か……レオンや他の14才の女子から比べるとパシカは幼く見えるが仕方がないだろう。目が見えないのだ。
でもいつか、大人になっていく。恋人も出来るのだろうか。パシカが他の男と恋をするってあるのかな……あるだろうな。ちょっと嫌かな。
そんな事を想像し始めた自分に気が付き、思わず苦笑いしてしまった。
この陽気なパシカにはまだまだ先の事さ。
それから家まで2人で大声で歌いまくった。


球体光る

息が詰まる……

目が覚めてベッドからガバッと半身を起こした。大きく深呼吸を何回もしてようやく息苦しさが消えていった。
どうしたのだろう、最近よく起きるが……
ガイは水を飲もうとベッドサイドのスタンドに手を伸ばした時、おやっ、と思った。
そのスタンドに薄い光が当たっている……目を周りにも向けると暗いはずの壁も天井も同じように薄い光に照らされているではないか。
なんだこれは! とその時、ハッと思い当り、机の引き出しの方を慌てて見た。
引き出しの隙間から光が洩れている! 占い玉だ! 婆の言っていたことはこのことか! 
急いでベッドから飛び起き引き出しを開けると、引き出しに塞がれていた光が勢いよく飛び出た。
その眩しさに目を腕で覆った。婆は目をつぶって両手で塞いでも手の骨が透けて見えるほどだと言っていたがそんなことはなかった。
いや、これはバラムから遠く離れたスイスの国連官舎だからかもしれない……それでもこれだけ光っている……今、バラムで何かが起きているに違いない! ガイは素早く着替え、国連の自分の部署である棟に向かって暗い道を急いだ。
今度こそ突きとめてやる! 脳裏に浮かぶのはドゥルパの洞窟のあの通路──瓦礫で塞がれてしまったあそこだ! あれは絶対怪しい…… あの奥にいったい何があるのだ。




← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 9832