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作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第19回   ガイとアマト




「ねえねえ、ゴールキック、僕達に見せてよ」
浜でタグラグビーを練習しているチビ達がアマト、ジョセ、ハントの姿を見つけて寄って来て口々にせがんできた。

「アマトの出番だな、それは」
「ジョセ、ずるいぞ。ハントだってあれぐらいは本当は二人ともできただろう」
「いいや、あの角度は無理だな。アマトがここで特訓をしてたのを俺は見たんだ」
「えっ! 見てたって……ジョセ、それいつのことだ? 」
「おまえがオーストラリアに行く前だったな。学校では真剣に練習してたとはとても言えなかったぞ。でも浜で黙々と練習する姿は違った。声などかけたら気が散ってしまうだろうなと黙っていたのさ。あの時のキックには俺もびっくりしたぞ。よく、あんな狭いヤシの間を遠くから出来るもんだ」
ジョセはそう言うと
「ハントには教えたさ。だからあの試合でもおまえに任せることにはだれも反対しなかったのさ」

それはひょっとして……宇宙人に一度だけ頼んだ時のことではないか。その感触を忘れず何度も何度も練習して出来るようになったのだ。そうか、ジョセは見たんだ……

「よし、俺からまずキックを見せてやろう」
チビ達が集まって来た。
「俺は正面からだぞ。それでもあのヤシの間は狭いからな」
ジョセは笑いながらボールを置いた。
「いいか、よく見ろよ。蹴りあげるには足のここを当てるんだ」
得意そうにジョセは説明して思いっきり蹴った。わーってチビ達が歓声を上げたのも束の間、ボールは木の外を飛んで行く。
「はい、残念でした。今みたいにいくら高く蹴ってもゴール内を通らないと点にはならないからな」ハントがおかしそうに笑って言った。
「いや、お手本を示そうと変に力が入ってしまっただけさ」ジョセが負け惜しみでチビ達に言いわけした。
「じゃあ、ハント様に見せてもらおうじゃないか」ボールを拾ってきた子からジョセが受け取るとハントに手渡す。
「よし任せとけ」
軽く受けてボールを置く。だが、ヤシの木の間をじっと見て笑いが消えた。なかなか厳しいコースだ。
真剣に狙ったハントのボールはだが木に当たってしまった。
「惜しい! そらみろ、難しいだろう」
ジョセはそう言ってアマトを突いた。
「名誉挽回だ! ほらアマト、頼むぞ」
一つ下のリヨンが期待に満ちた目でボールを渡して来た。

「さあ、チビ達、優勝を決めたアマトのゴールキックだ。良く見ておけよ」
「おい、ジョセ。おだてるなよ。たまたまゴール出来ただけだよ。ジョセやハントに比べたら僕のラグビーの腕なんてとても及ばないよ」
「そんなことはないさ。最後の一週間でかなり上達したんだからな。ラグビー部に入ってもっと本格的にやればアマトは立派なラガーマンになると俺は思うね、なあ、ハント」
「ああ、お世辞じゃないぞ。足も速いし、キックもうまい。ウィングのポジションが最適だな」
「今からでも部に入るといいんだがな……まあ、それはまた説得するさ。さあ、見せてやれよ」

ジョセの誘いに心が動く。宇宙人は今はいない。もし、帰って来ても今の自分は素直に受け入れらない。両親の死とつながって気持ちは動揺したままだ。じっくり考える気にもなれず時が過ぎている。ラグビー部に入れば寮生活になる。タネおばさんやパシカの事もある。でもそれは学校が休みの時は帰って来て漁や畑をすればなんとかなるだろう。おばさんも寮を進めてくれているから。なのに踏み切れない何か……考えたくない。宇宙人を許せないと言う気持ちの一方で三〇〇年先の地球の危機に背を向けていいのかと。
迷ってばかりの考え事を頭から振り払い、ゴールのヤシの木を見つめた。

「よし、行くぞ! 」
アマトから繰り出されたキックは大きく弧を描きヤシの間を抜けていく。
「わーすごーい! 」チビ達が歓声を上げた。
「おお、健在だな。アマトの足は」
「こればかり特訓してたからな。この場所に慣れてるのさ」
「さあ、チビ達。練習だ。大会に向けてがんばれよ」
「ねえねえ、ちょっとだけ相手をしてよ。俺達、ディフェンスに弱いんだ」
「生意気言ってら。よし、ちょっとだけだぞ」
三人がチビ達の輪に向かって行きかけた時、遠くで呼び声がした。
「あれ……ダセじゃないか」ジョセが振り向いて言った。
「手を振ってるぞ……あれ? 隣にいる外人は誰だ」
外人……あれは……ガイだ! 

ジョセやハントはガイとは面識がないだろう。だが自分は占い婆の家の茂みからはっきり顔を見ている。ガイがどうしてダセといるんだ。嫌な予感がする……
「おい、アマトって呼んでるぞ。おまえに用事みたいだ。俺とハントはチビ達の相手をしてるから行ってこいよ」

予感が当たった。ダセから紹介をされるまでもなく知った顔……

「こちらは国連の宇宙……えーと、宇宙関係の方だ」
ダセが肩書を濁したのが気に喰わなかったようでガイの眉がぴくっとつりあがった。

「国際宇宙局特捜隊のガイ隊長です」ジョン副隊長が正式に紹介してきた。
「そうそう。それでだな、今日この方達は異常磁気の再調査にみえたのじゃが、ドゥルパの洞窟に入ったら通路の一部が崩れていたと言われるのだ。それでおまえがなにか知ってるかもしれないから会いたいと言われてな」
崩れていた? どうしてだろう。でもそれをなぜ僕に聞くのだ?

「洞窟のことなど僕なにも知らないよ」

アマトの表情を凝視していたガイは、アマトが怪訝な顔をするのを見て、崩れたことを本当に知らないようだなと感じた。

「村長さん、私が説明しましょう」そう言ってガイがアマトの前に立った。
「日本のテレビ局が映した時は崩れていなかった通路が私達が行った今日、崩れていました。異常磁気の数値が急にまた高くなったのは二週間ほど前です。なぜ崩れたのか分かりませんがこのことが異常磁気と関係しているのか調べたいのです。君はそのころ洞窟に入ったそうですね。占い婆がそう言ってました。そしてその夜、嵐が起きました。君が入った時は崩れていましたか」
占い婆が言った……そうだ! あの時、婆とばったり会ってしまっていた。

「わしもそれを聞いた時はびっくりしたぞ。おまえが一人で洞窟に入るなんて思っても見なかったからな。嫌な思い出のあるところだ。よく行ったな。案外勇気があるのだな。わしだったらいくら魔物の正体が分かったからっていってもよう一人でなんか入れんぞ」
ダセの関心はアマトが一人で入ったことの驚きで、なぜってことは浮かばなかったようだ。
だがガイの目はなぜという疑いに近いものを感じる。
婆がしゃべってしまった以上、嘘はつけない。

「僕が入った時は気が付かなかったけど……それに通路よりも早く奥に進みたかったからはっきり見てません」
アマトは言い切った。ガイは信じただろうか。
「そうですか……」ガイは納得しない顔付をしているが知らないと言うのをなおも追及はできないだろう。
だがガイの次の言葉は予想してなかった。

「アマト君、君は海で遭難したそうですね。御両親は本当に気の毒でした。辛かったことでしょう。あの時は世界で高い異常な磁場が記録されました。私はその調査に村にやって来ました。本当はあの時、嵐に遭った君に詳しいことを聞きたかったのですが悲しみに暮れている君に聞きだすのは酷なことだからとあきらめました。ところがきょう、占い婆から意外な事を聞きました。君が遭難して意識を失い、気が付いたのは洞窟の河原だったそうですね。パシカという娘さんは洞窟の中で眠ったと言ってるのに起きた時は同じ河原だったとか」
「ちょっちょっとその話はこの子には無理です」
ダセが慌ててガイの話しを止めた。
「そのことはアマトはなんにも覚えてないことで、もう済んだことです。いまさら蒸し返さないでいただきたい」
「そうですね。済んだことです。だが異常値のことは解決していません。われわれはちょっとしたことでもなにか糸口がつかめないかと必死なのです。あれから時間が経って、君も落ち着いてきた頃でしょう。今、冷静に考えて思い出すことはありませんか。嵐の夜なにか特別な事とか特別なものを見たとかということはありませんか」

アマトはたじろいだ。ガイはダセが止める言葉も無視して迫って来た。その目は獲物をしとめてやるという気迫に満ちている。だが、自分は覚えが無いと言えば良いのだ。あの時はそうだったから。

「全く覚えていません。僕だって知りたいぐらいだ! 」
「ア、アマトやもういい。そんことはどうでもいいから、もう行っていいぞ」
 ダセに促されてアマトはガイを睨みつけてからくるっと背を向けジョセ達の方へと走って行った。
「困りますな。そんな話をするなら会わせなかったものを。可哀そうに、興奮させてしまったようだ」
ダセは怨みがましくガイに聞えよがしに呟いた。


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