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作品名:アマトの宇宙(そら) U  作者:サヴァイ

第14回   宇宙人去る B


「すごい混雑だな。こんなんで練習できるのか」ハントが運動場を眺めながら溜息をついた。
「しょうがないだろう。一年は午前中しか使えないんだから。やれることをしよう」
ジョセは、ラグビーボールを得意げに指先で回転させると「よし! 」気合の入った声を出した。
「みんないるな。負けずにいくぞ! 」
「おおー! 」
キャプテンのジョセを囲んでいた十二名のメンバーは拳をつきあげた。

いよいよ今週末に体育祭が迫った。
クラス対抗の競技の中でも最後の見せ場はラグビーだ。授業もほとんどない。女子達は固まって応援の準備に盛り上がっていて、選手の気分も否応なしに燃え立つのだ。

「よし、ではフォワードとバックスそれぞれ円陣パス開始! 」
円の外側を向いて隣にすばやくパスを送る。ボールは前には投げられない。絶えず後ろの仲間の位置を確認し、すばやく的確なパスを送らなければならないからだ。
ラグビー部に所属しているのはこの中の八人。パモナの部員は屈強な身体つきが多かったのでスクラムを組ませた。
ジョセは足も速いが判断力も素早いので、スクラムを組むフォワードと、足を生かしてゴールに突っ込むバックスのつなぎ役としてスクラムハーフのポジションを受け持つキャプテンに押されたのだ。
タグラグビーの時も村を率いるキャプテンだった。ジョセにははまり役なのかもしれない。町からの選手にも信頼されるほどだから。

一人がボールを受け損ねて弾いてしまった。すかさず
「ノックオン! 」とジョセが言った。
「油断するな。ボールを守るんだ。反則は相手ボールになってしまうからな」
その時、ジョセはアマトがすぐ近くまで来ていたことに気が付かなかった。

「僕も入っていいか? 」
アマトの声に「えっ? 」と、そちらを向いた。まぎれもなくアマトだ。
「どうしたんだ。きょうはやけに早いな。リレーの方はいいのか? 」
「今、少しやってきた。きょうはこっちを優先しようと思って……」
「そうか。じゃあ、バックスの円に入れよ」
「うん」
アマトが円陣に向かって行く姿を訝しげに見ていた。あいつ、なにかあったのか。自分からやってくるなんて……
ハントも目配せしてきた。

それからのアマトの練習する姿に目を見張った。これまでの態度とは打って変わって、真剣に取り組んでいる様子が見て取れた。補欠だからと引いていたところがあったのに、きょうの変化はどうしたことか……ランニングにしてもタックルにしても本気だった。
なんだ、あいつ、今になって……
一通り、練習がおわった。キックの練習だけはこの人混みでは無理だ。
「放課後にキックをやるからまた集まってくれよ」
ペットボトルの水を飲みながら教室に引き上げて行く途中、アマトがジョセの隣にやって来た。

「ジョセ、きょうから寮に泊まらせてくれよ」
「えっ、泊まるって! ……帰らなくていいのか」
「帰ってたら練習できないから。タネおばさんには言ってあるからだいじょうぶだ」
「ちょっと待てよ」
ハントが足を止めてこっちを見ている。
「ハントー」ジョセは手で来るように合図を送った。
「アマトがきょうから泊まり込みたいって言うんだ。俺はいいけどハントはどうだ? 」
「俺もかまわないよ」
「よし、じゃあそうしよう」ジョセは水を一口飲んだ。
「ところで、聞いてもいいか」
「なにを……」
「なにかあったのか。おまえ、きょうは変だぞ。なんか、がむしゃらに向ってるって感じで」
「そんなことはないさ。今までさんざんサボってしまったから、これでは万が一、交替で出されても力になれないと反省したからだよ」
「今になって反省かよ。もっと早く思って欲しかったな」
「すまない……」
「まっ、これから泊まり込みで特訓だな」
ジョセが笑顔で頭を小突いてきた。

ドゥルパの洞窟から、バラムの村から離れたかった。布団の中でなにも考えられなくなった頭で、むしょうにここを離れたいと思った。
ジョセやハント達と同じように自分も思いっきりラグビーに身体をぶつけたい。やりたいことに夢中になりたい。仲間と励まし合い、ぶつかりあい、笑い、そんな当たり前のことをするのだ。僕が近くにいないと知ったら宇宙人はどうするのか……いいじゃないか、僕じゃない人を見つければ……。両親を死なせる原因だったあいつになぜ僕が協力しなければならないんだ! 行きつく答えはこれだった……
何も考えずに没頭できるものが欲しい。それはラグビーだ。今からではみんなと差があるのは当たり前だ。でもいい。もう一度やり直していくんだ。
そんな思いがジョセにはがむしゃらと映ったんだろう。今までどうしてサボって来たかなんて言えない。でももう宇宙人は僕から抜けたんだ。これからは気にせずみんなと一緒だ。解放されたんだ──

あっという間に体育祭になった。二日間やるうちの半分がラグビーに当てられている。
初日の午後が一,二,三、年生のそれぞれ第一試合をやり翌日は午前が第二試合、午後が決勝だ

運動場の周りに各クラスのブースが割り当てられ、朝早くから応援旗やら看板やらが持ち込まれ大騒動だった。殺風景な運動場がカラフルにふちどられ体育祭の雰囲気を一層盛りたてていた
 
「俺達ラグビー選手はまとまって障害物競争に出るだけだ。大事な身体だからな。アマトも気をつけろよ。リレーなんだから他の選手に任せておまえは無理するなよ」
 ジョセの声は大きい。運悪く前の席で飾り付けをしていた女子のリレーーのメンバーにまで聞かれてしまった。
「ちょっと、手抜きはだめよ。アマトは早いんだから、期待してるんだからね」
ジョセが首をすくめて舌をぺロっとさせた。
「おい、ジョセ。うちのクラスの飾りはなんか鳥の羽が多いな」ハントが言った。
「そりゃあ、そうさ。母さんに頼んでバラムの衣装を借りてきてもらったからな」
「えーっ、わざわざかー……わかった! ミオンに頼まれたんだろう。このやろう」
ハントに冷やかされてもジョセは平気で聞き流している。
「言ってもバカらしいな、アマト。こんなだからジョセはキャプテンがやってられるんだな」
「そうだな。僕やハントとは違うからな」
他愛もない会話が楽しかった。

競技が次々と始まって、クラスの仲間は入れ替わるたびにどうだったと話しが飛び交った。
幅跳び、高跳び、短、長距離走、ハードルなど体育の授業で習う競技が終わると午前中の締めくくりとして障害物とリレーがある。応援団がひときわ盛り上がるのもこの時だ。
大笑いの渦に迎えられて帰って来たのは顔を真っ白にして帰って来たジョセだった。
「ひどいぜ、みんなが粉をぷうぷう吹き合うもんで飴が見えなくなってしまうんだ」
「ジョセ、すてきよ」ミオンがからかう。
ニッと笑う口の中まで真っ白だ。
「もう、リレーが始まってしまうな。顔を洗うのは後だ」
リレー以外のメンバーで応援合戦が始まった。
クラス対抗だから盛り上がりも半端ではない。
こんな中で適当なんて言ってられなかった。アマトは二番手だ。一番手の女子が三位のビリで入って来た。うんと力を込めて思いっきりダッシュした。なんとか一人抜かしたいと思うのだがなかなか追いつけない。三番手の女子が呼んでいる。あと少し……「アマト」の大コールが聞こえる。二位とほとんど並ぶようにしてバトンが渡せれた。歓声が沸いた。
最後の二人はトラックを二周だ。その頃には大きく距離が開き始める。一組はその後も二位をキープしていたが最後のアンカーが三位に追いつかれそうだ。もう少しだ。頑張れ。声援も悲鳴に近い。ゴール! 二位だ。持ちこたえた! またまた歓声の渦。
午前の部はこうして終了した。
残すは午後のラグビーだ。一年はトップで始まる。一組はうまい具合に第二試合からとなったのできょうは見学だ。

昼飯もそこそこに選手は集まって練習を始めた。ひと際大きな声を出しているのは三組のキャプテン、クルスだ。目が自然と寄せ付けられる。
「あいかわらず目立つ奴だな」ジョセのクルスを見る目がわざと驚いたように大きく開けられているが口元はほころんでいる。気遅れという言葉はジョセには無いようだ。
「俺達一組はきょうの勝者と明日やることになる。事前に敵陣がみられてラッキーだな
よく動きを見てだな、どこに弱みがあるかをつかんでくれよ」

運動場がラグビーのグランドになった。左右にゴールのポールが立てられ緑の芝生の上に白線が新たに引かれていた。
二組と三組の選手がコート中央のハーフウェイラインに向かい並んだ。
背丈や身体つきはどっちも似たようなものだ。だがクルスだけは抜きんでて目立つ。それだけで三組のが強そうに見えてしまう。
キックオフ! 試合開始。
二組のキックで始まった。そのボールを三組がキャッチ。二組は素早く敵陣に走り寄った。
いよいよボールの争奪戦だ。





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