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作品名:アマトの宇宙(そら) 作者:サヴァイ

第38回   よみがえる記憶 B

 「こうなってはさっき、ディオが言ったように祭り会場の外を探すしかないだろう。山にはこの辺を知っている者で手分けしてもらって……」
 ダセが言いながらみんなの顔を見た時「おおーい」と男が一人、村席に声をかけながら近づいてきた。

 「やあ、俺はフロラーの者だ。さっき鳥装束の少年を探しているって来たときは知らないって答えたけど、ちょっと気になることを思いだしたから、役に立つかどうか分からないが知らせるだけはと思ってな」

 みんな男に注目した。男の口からなにか手がかりになることが聞けるのか―

 「少し前だが、俺達は会場に荷物を運んでいたんだ。その途中の小道ですれ違った四人がいたんだが……なにしろ暗くて懐中電灯の明かりでちょっとだけ見えたんだがね。四人ともお面を付けていたよ。ただその一人は鳥衣装だったからおかしなやつだなと思ったんだ。身体も小さかったな。同じフロラーの者だと言ってたが、戻って来たかどうかはわからないが……」

 男の話を聞いてケーシー博士の胸が騒いだ。大人三人と少年らしいのが一人……
 「村長! 」
 ハッと思ったのは博士だけではなかった。ラグビーの試合の時もアマトを誘拐しようとしたのは三人だ。

 「村長! それだ! きっとアマトだ! 」ティムが叫んだ。
 「フロラーの人よ。その小道っていうのはどこだか案内してもらえないか」ダセが言った。村席がきゅうにざわめき出した。
 「ああ、分かった。フロラーの席から大通りに抜ける山道だ。なんだか大変なことが起こったらしいな」

 ティム、ダセ、ケーシー博士を含めて十人が男の案内でその小道に向かうことになった。大通りに出たとすれば車だ。ダセは知り合いに頼み車を大通りに待機させることにした。。
 頭の痛いのはそこから先のことだ。もし車ですでに出てしまっていたらどちらに向かったかだ……大通りは一本しかない。男達はきっとこの近くの海岸に船を用意しているはずだ。それがどこだかわからないのでは探しようもない。どうしたら良いのか……

 「おお、そうだ! 」ダセが突然大声を出した。
 「タネ! クロを連れて来ておったな」
 「そうか、クロならアマトの場所が分かるかもしれない」ティムがポンと手を打って言った。
 「どこだ、クロは! 」
 「奥の林の中よ。いま連れて来るけれど太鼓の音が苦手だから来るかどうか……」そう言いながらもタネは林に向かって行った。

 「待ってー母さん」パシカが呼んだ「アマトの服、どこかにない。母さんに持たせて。クロに服を嗅がせればクロには意味が分かるわ。きっと太鼓に負けずに探してくれるはずよ」

 「服なら俺のと一緒になってる。おばさん、いま持って行くよ―」

 太鼓の音に負けずクロはよく我慢をした。
 パシカの言った通り、アマトの服を嗅がせ、サキが「アマト、アマト」と言い聞かせたら通じたらしく耳をぴんと立て、サキの横にぴたっと付いた。
 しかしみんなの待つ村席まで来て太鼓や踊る群集の騒然にたじろいだのか立っていた耳が聞きたくないとばかりに垂れて、サキの持つ紐を後ろに引っ張った。

 「パシカ、どうしようかね、クロが怖がってるよ」
 「クロ、おいで」パシカが両手を広げた。クロはその腕の中にすり寄った。
 「クロ、怖いのね。よしよし」パシカはクロの背を優しく撫でながら「クロ、お願い。アマトがいなくなったの。アマトが悪い人に連れ去られたのよ。クロならアマトのいるところが分かるわよね。探すのよ。お願い……」

 「くーん」クロがちいさく鳴いた。パシカの願いに応えるようにパシカの顔をなめて来た。
 「分かったのね。ありがとう、クロ」

 クロの苦痛を少しでも軽くするためにフロラーの席までは会場の淵を大きく回った。 ひときわ大きな太鼓の音の時はビクッとひるんだりしながらも逃げることなく紐を持つティムの横に付いて来た。
 「よしよし、クロ。だいじょうぶだ……」ティムや村人がなんどもクロをなだめながら、
 いよいよフロラーの席から道路に通じる山道に入ったとたん、クロの様子が一変した。
 「おお、嗅ぎつけたようだぞ! 」
 紐をぐいぐい引っ張る。
 「よし! 案内してくれよ―」ティムは紐を首から外した。クロが一気に駆けはじめた。
 懐中電灯を手にしたケーシー博士や、村長のダセ、ティム、酔いが吹っ飛んだディオなどバラムの十人にフロラーの人まで五人が加勢に加わり、総勢十五人の捜索隊がクロの後を追った。クロは進んでは立ち止まりみんなを待ち、また進んだ。暗闇に走る黒い犬では姿が分からない。吠える声が頼りだ。

 「おお、ここだよ。四人とすれ違ったのは……」フロラーの人がそう言って教えてくれた場所からさらに下って行った。あたりは雑草や灌木の茂みだ。

 「こんなところまでアマトがおとなしく付いて行くはずはない……フロラーの人を見ても声も立てないなんて、どんな状態にさせられているのか―」博士は重苦しい気分に胸が塞がれた。どうか無事でいてくれ―。

 先の方でクロが激しく吠えている。なにかあったんだ! みんな走った。
 「あっ、車だ! ジープだ! 」先頭のティムが叫んだ。クロはジープの周りをクンクン嗅いでいてそこから先には進まない。
 「おかしいな……車がまだあるということは……」
 「でも途中では会わなかったし……」「ほかの車じゃないのか……」みんな、それぞれ不思議そうに言ってるところで車の中を照らしたダセが「おお、見ろ、面がある―」ダセが面をフロラーの人に見せた。
 「そうだそうだこんな面だった! 」
 「あっ、見ろ! ここにもあるぞ! 」道脇に捨てられてあった面が照らされた。泣き面だ。
 「やはりこの車なんだ。ここまですでに来ていたんだ! なのに車を置いてどこへ行ったんだ……」
 「まさか、もう一台車があったんじゃないだろうな……」
 「そうなら、クロが先に進むはずだ―」

 みんなクロを見た。クロはさっきから鼻を地面にくっつけてうろうろ嗅ぎまわっている。
 「クロ、どうした? アマトはここからどこへ行ったんだ……」
 ティムが声をかけた。クロがこれからどういう動きをするのか……みんながじっと見つめる中、クロが急に元来た道を戻り始めた。慎重に鼻をひくひくさせながら―。

 「どうしたんだろう……戻ってしまうぞ? 分からなくなったのか……」ダセが不安な声を出した。

 後に付いて行っていいものかどうか迷って、止まったままクロの様子を懐中電灯で照らしながら見守った。まるでみんなのその迷いを察知したかのようにクロが振り向いて来た。

 「行ってみましょう……いまはクロが頼りです」ケーシー博士はクロに望みをかけた。ここにいて手をこまねいていてもしかたがない。博士は気持が焦った。
 「そうですな……だがもし犯人達がここに戻って来るかもしれない場合も考えないと……」
 それもダセは不安だった。みんながクロに付いて行った後、ひょっこりどこからか戻って来た犯人達が逃げるかもしれない。

 「それなら俺らがここで見張ってますよ。相手は三人のようだから俺ら五人いれば戻ってきたらとっ捕まえてやりますよ」
 「おお、フロラーの人、ありがたい」ダセは申し出てくれた男の手を取って礼を言った。
 「わしらはクロの後を追って行きます。見つけられなかったら戻ってきますから、後を頼みます」
 バラムの十人はクロの後を追って行った。クロはその姿を見るとまた慎重に進み始めたようだ。

 クロの歩みが止まった。止まった場所をなんども嗅ぎまわっている。
 「どうしたんでし……」ダセが言いかけたとたん
 「見て下さい! 」博士が指差した。クロが道から外れ、脇の草むらの中に入り始めている!

 「行きましょう! 」
 先頭にティムが立った「ひどい草だ。足元に気を付けて下さい」
 身体が隠れるほど覆い茂っている雑草や灌木の中だ。クロの姿は雑草で全く見えない。ガサガサする音と吠えて知らせてくれるのを頼りに進んだ


 「車をやめてどうしてこんなところに入ったんでしょうな……」マタイ目ざすなら車で逃走するはずだ。ダセの疑問は嫌な予感をさらに強くさせる。こんなところに入り込むなんて……博士だけでなくみんなの顔も曇った。口には出せないが―アマトは無事なのか……安否を口にしたらどんどん悪い方向にいきついてしまいそうで、みんな黙ってしまった。口数少なくひたすらクロの後を追った……。



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