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作品名:アマトの宇宙(そら) 作者:サヴァイ

第36回   36
しばらく行くと道らしきところに出た。

 「この面、邪魔だな」
 笑い面の男が手を面に延ばしたとたん
 「まだ取るな! 」と怒り面が怒鳴った「前から人が来る……酔った振りしろ……」

 アマトは急いで前を見つめた。ガヤガヤとした声が近づいて来てる……助けて! 
心の中で叫んだ。

 「おい、坊主の口を縛って面をかぶせろ! 」

 だんだん近づいてきた。狭い道だ。通りすがりになんとか合図を送りたい。でも声も出せず両手は後ろで縛られおまけに背にナイフが構えられているのだ……。

 お互い懐中電灯で照らし合い「やあ、祭りはどうだ」と向こうが先に声を掛けて来た。
男が四人。衣装は着けてないが大きな荷を背負っている。

 「まだまだ景気良くやってるさ」
 「もう帰るのか」
 「いやーちょっと車に用事があるんだ」
 「どこの村の面隊だね」
 「フロラーの村だ」
 「えっ……俺達も同じ村だが知ってる人かな」
 「あっ、いやーそのー俺達知り合いに頼まれて面かぶったんだ」

 怒り面が慌てた口ぶりで答えた。さっと緊張が走ったのかアマトを抑えている男の手に緩みが起きた。アマトはその一瞬、手を振り放そうと足を踏み出したが間に合わずナイフでまた突かれた。

 「うぐっー」縛られた口から呻きがもれた。

 男達がちらっとアマトを見て来た。
 「おっととと…」笑い面の男が慌てて男達の前によろめいた。いかにも酔ってふらついた感じだ。

 「こりゃ、失礼した。飲み過ぎてしまって」そういうとふらつくしぐさで「さあさあ御先にどうぞ」と相手に道を譲るように道端によけた。
「ああ、それじゃ、またあとで。戻ってきたら声を掛けてくれよ」
 そう言うと男達は夜の闇の中に行ってしまった──ああ、待って! 僕に気がついてよ!口を縛られていて声が出せない。もう駄目だ―

 「こいつ! よくも逃げようとしたな」アマトは後ろから思いっきり蹴飛ばされ前にのめって転び、面に顔をガーンとぶつけた。

──このまま殺されるかもしれない!

 「立て! 」

 アマトは恐怖で震えた。もう逃げるチャンスはないのか……絶望的な思いで立ち上がった。父さん、母さん助けて―
 道が少し広くなった所に車らしき影が見える。あれに乗せられたらもうおしまいだ!

 「車に乗ったら坊主を縛り上げるんだ」

 懐中電灯に車が照らされた。ジープだ。怒り面の男が面を外した。電灯から漏れる明かりがその顔をぼんやりと照らした。ああ―あの男だ! エリダの彼だった男。ワゴン車を運転してた男だ。その男が先に運転席に乗り込みエンジンをかけた。

 「ふう―やっと楽になったか」

 笑い面の男も面を外すと放り投げ、後部席のドアを開け電灯で中を照らした。縄が見えた。男がかがんで縄に手を伸ばした。その時、もう一方の手に持っていた電灯が車のドアにぶつかって手から離れて下に落ちた。偶然だろう、懐中電灯は当たったはずみで車の下に入り込み、明りも消えたのだ。アマトをつかみナイフを突き付けていた男はその時、縛り上げるためにナイフを折りたたんでいた。ドアを開けた男は電灯を拾おうと腹ばいになった。明りが消え周りが一気に闇だ。

 ──今だ!

 アマトは自分をつかんでいる後ろの男に体当たりした。どうなるかも考えてなどいなかった。とにかく逃げるんだ。
 「あっ」男が小さく叫んだ。アマトに体当たりされてつかんでいた手が離れ、はずみで後ろに尻もちをついた。

 ──走るんだ!

 自分の足に命令した。顔にかぶせられた仮面のためにわずかしか視界が効かない。闇の中の道らしき影を頼りに走った。

 「バカヤロー早く追え! 」
 後ろで怒声が聞こえ、懐中電灯の明かりがアマトを照らして来た。その明かりを頼りにまわりをさっと見回した。このまま道を走ってたらじきに捕まってしまう──
後ろ手に縛られたままでおまけに見にくいという状態では逃げ伸びるのは無理かもしれない……道の左右は背丈ほどの雑草やら灌木でびっちり覆われている。その向こうは森になってるはずだ……たとえ雑草地でも夜にはどんな生き物がひそんでいるか分からない。

 どうしよう──

 男達がどんどん近づいてくる……迷ってる場合じゃない! 捕まるくらいなら危険でも山に逃げよう!
 アマトの身体が明りからふっと消えた。横の繁みに飛び込んだのだ。雑草や小枝が音をたてた。手が使えないので横向きに肩で押しのけるようにして進むしかなかった。早く早く! 自分をせきたてながら……出来るだけ居場所が分からないように―音をたてないように―

 「こっちだ! 」男が明りで照らしてくる。アマトは背をかがめて見つからないように進むしかなかった。多少の月明りも足元まで届かない。なにがあるか分からない地面に足を降ろすのも怖かった。身体のあちこちがひりひりしだした。雑草や小枝で切り傷が出来たらしい。でも逃げなければ……

 心臓がドックンドックン早打ちして男達に聞こえてしまうんではと思うほどだ。荒く吐き出てしまう息を抑え抑えアマトは迫って来る男達から逃れようと必死で進んだ。

 「くそっ! 坊主め! 」という声が聞こえた。明りで見ればアマトの通った跡がすぐ分かるはずだ。だが三人がアマトを囲い込むということが出来ないのが幸いだった。灌木の茂みと闇の中と言う条件では一人づつしか通れない。

 「うへっ! 蛇だ―」

 明りがあるから見つけたんだろう。男の声を聞いてアマトはぞっとした。見えなかったからよかったようなものだ。
 「バカヤロー そんなものにかまわず早く坊主を追いかけろ! 」
 男達がまた進み始めたようだ。三人分の通る音がアマトを追い立てる。雑草より灌木が増え枝と枝の間を這うようにしたりまたがったりしてやがて高い樹木で覆われた森に入った。両手の自由が利かないので幹に足がぶつかりなんども転んだ。

 得体のしれない動物の騒ぎたてる鳴き声が闇にこだまする。夜の闖入者に驚いているのだろう―木々の間から電灯の明かりがちらちら見え隠れする。どこまで逃げたらいいのか……太鼓の音はまったく聞こえない。自分がどこに入り込んでしまったのかも分からずただやみくもに逃げるだけ……ここまでよく逃げている自分の足に驚いてもいた。もうとっくに疲れ果て動けなくなっても不思議ではないのに。タグラグビーで見せた足の強さは変わってないようだ。

 ふと、水の音を聞いた気がした。どこかに小川があるのだろうか。耳を澄ます。助かるあてもないのになぜか水の音の方へと足が向いた。少し先に闇が切れて薄ぼんやりと月明りが見える。あのあたりまで行けば隠れそうなくぼ地が見つかるかもしれない―
近づくにつれ水音がはっきりして来た。後ろを振り向くと三個の明かりがかすかに見え隠れしている。希望が湧いた。逃げられるかもしれない。

 音を立てないようにしてその月明りの射す場所に抜け出た時、アマトは自分の甘さにがくぜんとした。
 そこは樹が生えてない岩の高台だった。水の音はその高台の下から聞こえている……ということは―

 ──滝だ! なんてことだ! この向こうは崖になってるんだ! しまったー! 

 アマトはくるっと向きを変え森の中へ引き返そうとしたが三個の懐中電灯がすぐそこにまで迫っていた。

 さっきまでの希望が砕け散った。絶望だ!



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