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作品名:アマトの宇宙(そら) 作者:サヴァイ

第33回   ミセの祭り A

  ドンドーラ ドンドーラ 樹に流れる命よ 大地のぬくもりよ
              風のささやきよ 水の喜びよ
  ドンドーラ ドンドーラ 我が魂の息づく 自然よ
              木よ 鳥よ 魚よ 
              光り輝く星になれ
              永久に流れる命の元へ
  ドンドーラ ドンドーラ その地に降り立つものの声を聞け
              歌い 踊り 喜びあおう
              すべての命を 分かち合う
              始めの彼方に 導かれ
              永久に続く 時となれ
  ドンドーラ ドンドーラ 歌おう 踊ろう 自然の喜びを
              分かち合おう 命を
              ドンドーラ ドンドーラ
              ドンドーラ ドンドーラ

 歌い終わると今度は二人の村長が出て来てご神木のトーテムの両側に据え付けられた
かがり火に松明で点火した。その松明を他の者が受け取り会場の周りのかがり火に点火を始めた。
 太鼓の音が一つ「ドーン! 」と大きく響いて突然、真っ赤な火を思わせる衣装を着けた踊り手が飛び出て来た。
 「おお、始まったぞ! 火の精だ」
 激しい太鼓のリズムに合わせて何十人もの火の精がトーテムを囲んで踊り始めた。いよいよ祭りの本番に入った。円陣の一画に七つの町村からなる太鼓衆が集まっておりその全員が打ち鳴らす音は会場ばかりでなく空まで届くぐらいのすさまじさだった。その太鼓衆の端がハーモニカ隊だ。太鼓には負けるが時々合間に聞こえる。忙しそうにハーモニカを動かしている様子が見えた。
 パシカもがんばってるかなと姿を探したが衣装のよく似た女の子達も多く見分けられなかった。

 「すごいな! 」大きな声で言ったつもりでも
 「えっ―なんて言った? 」とジョセが耳を寄せて来たぐらいだ。
 「すごいなって言ったんだ―」怒鳴ってるようだがそれでもようやく聞こえる程度で
 「まだまだこれからだ―一晩中続くんだぜ―見ろよ、あっちこちでカメラマンが写真を撮ってるぞ―」
 本当だ! 円陣の周りも外からの観客で大きな輪が出来ていてあちこちで写真をパチパチ撮ってる。身体が興奮して来た。火の精達は太鼓に合わせて飛んだり跳ねたり地に伏せたりと踊り狂ってる。それを見ているうちにかっかっと体が燃えて来るようだ。火の精は祭りの点火役だ。

 「ジョセ―、この次に出て来るのは何だ―」
 「人だ―」
 「僕達はいつなんだ―」
 「人の次だ―早く出たいだろう―うずうずするよ」
 太鼓のリズムがおとなしくなってきて火の精達もそれに合わせて動きが穏やかになった。ハーモニカと太鼓が交互にまるで行進曲のようなリズムを奏で始めた。パシカにさんざん付きあわされてそのリズムはすっかり叩きこまれている。太鼓の時なんか自分が打ってる気分だ。

 「おいおい出て来たぞ。あそこだ」ハントが林の方を指差した。
 お面を付け、手に棒を持った一団が火の精を追い払うような仕草で入って来るのが見えた。火の精達はだんだん後ずさりし始め、人面から逃げるようにしてやがて最後の火の精が林の中に消えた。
 「見ろよ。あれは怒った顔だろ。ほかにも笑い顔、泣き顔があるんだぜ」
 今、目の前を通ってるのは怒った顔だ。眼と眉をつりあがらせ、口がむすっとした木彫りの面を付けた一団が棒を地に突き刺す仕草で踊りながら通っていく。
 「あっ、今度は笑った顔だよね」また来た一団のお面を見てアマトがすばやく言った。
 目じりが垂れて、口もにこっとした表情だ。地を打つ棒も怒った顔の時と違って、ぽんぽんと弾くように打っている。こっちを向いて来た時なんか同じように笑いを誘われて三人とも思わず笑い返していた。その次の泣いた顔の面は顔がゆがみ目から流れる涙まで彫られている。
 「うまいもんだな。俺、涙なんか彫れないぜ」
 さすがにジョセだ。彫りに関心がいったようで「俺が彫るときっと吹き出物になりそうだな」
 その泣き面集団はまるで重い棒を持たされたような仕草で地を打ち、とぼとぼと歩いて行った。三っつの面が出そろって、トーテムの周りが囲われると太鼓のリズムが変わり激しかったり緩やかだったり軽い調子のときもありで踊り手達はそれに合わせて動き回った。
 やがて聞きなれた太鼓のリズムが流れ始めた。
 「おい、俺たちだ行くぞ。アマト、俺から離れるなよ。父さんや村長からもアマトといつもいるようにと言われてるからな」
 「分かってるよ。でもこんなに大勢いるんだよ。きょうはだいじょうぶだと思うな」
 あの事件からいつもみんなに気にしてもらっている。始めの頃なんかちょっと道を歩いているだけでパッと見られてしまい「おおげさすぎるよ」とタネおばさんに愚痴をこぼしたりしてたけれど最近は監視の目も緩んで来た。
 1ヶ月近くなにも起こらなかったのでちょっと安心したのかな。それと祭りに気を取られてきたのかもしれないが……

 三人は立ち上がると人面の輪に向かって飛び出た。同じように七つの村席から鳥の踊り手達が出て来て人面の周りを飛び跳ねた。両腕に付けられた羽根飾りを広げるようにして大空を舞うのは空の王者、鷲だ。太鼓が早くて低い音を打ちならす。それに合わせて自由に飛ぶのだ。ぶつかりそうにもなる。鳥の顔に化粧されてるので誰だか見分けがつかないがアマト達のように若いものか大人かぐらいは分かった。

 太鼓の調子が変わった。早くて軽い音は小鳥た。羽根を忙しくパタパタさせて細かい足取りで走りまわるのだ。ハーモニカ隊の前を通る時ようやくパシカが分かった。楽しそうな様子なので安心した。鳥の踊りが終わったら励ましにいこうかな。
 ドン、トトトトトーの繰り返しの音が始まった。飛べない鳥だ。両腕の羽根を背に引っ込め早足で細かく走るのだ。ヒクイドリの格好をまねて走った。この格好はけっこう疲れる。鷲の方が楽だ。おまけにジョセの後を離れないように付いていくので大変だ。 一度見失って、キョロキョロしてたら先に一周してしまったジョセが後ろから「おい、どこにいたんだ、ちゃんと付いて来いよ」
 「ジョセが早過ぎるんだよ。ちょっと隙間が出来ると入り込まれるんだ」息をぜいぜいさせて言ってるのを見れば少しは気の毒がってくれるかなと期待したのに「おい、ハントはどこだ? 」
 「えっ、ハント? 」そう言えばいつの間にかいなくなってたな。
 「ハントもしょうがないな。アマトから離れてたのか」
 「まあ、もう少しで人面隊だ。村席に行けば会えるだろ」

 人面隊が飛べない鳥を狙い、棒で追い立てる踊りが始まったのでようやくヒクイドリから解放された。腰を曲げて動き回ったせいで背骨がずきずきする。
 村席に戻ると年寄りや親戚の者達ですでに宴会が始まっていた。ココナッツミルクの香りやヤシ酒の匂いに包まれ、太鼓に負けないぐらい大きな声で陽気に騒いでいる。その中にハントもいたのでびっくり。

 「ハント! なんでおまえもう食べてるんだ」ジョセが怒ったような声で叫んだ。
 「やあ、お先に―」ハントは悪びれる様子もなく「俺は羽根を怪我したんで退散したのさ」
 「怪我? 」
 「ほら、取れてるだろ」ハントが腕を見せた。羽根飾りが一部取れてるだけだ。
 「なんだ自分の手が怪我したわけでもないのに……アマトから勝手に離れちゃだめじゃないか」
 「えっ、でもジョセもいなかったぞ」
 「俺か。俺は先頭だから付いて来てるもんだとばかり思ったからさ」
 「それそれそんなとこで突っ立って騒ぐでない。ほれおまえらも食べろや」

 肉を差し出してきたのはイノの爺さんだ。酒の匂いをぷんぷんさせてしわくちゃの顔が笑って言ってきたのでジョセは無視も出来ず肉を受け取り「行こう」とアマトに言ってハントの横に割り入った。
 ココナッツミルクで煮込んだタロイモ、魚、肉、エビと御馳走が大きなバナナの葉にどっさりと盛られていてアマトもジョセも急いで食べ始めた。
 「あらーもう終わったの……」うん、この声は……と後ろを振り向くとやっぱりエリダだった「ちょうど今羊羹が出来たのよ」
 そう言って両手で山盛りの羊羹を乗せたお皿を持って、アマトの横にぴたっとくっ付くようにやって来た。
 「アマト、どうぞ」あまり近くに顔を寄せて来たのでアマトはどぎまぎしてまともに目を合わせることが出来ずに「あ、ありがとう……」と急いで羊羹をつかんだ。
 「この前はごめんなさいね。怖い思いをさせてしまって。わたしもだまされてたのよ」
 ないしょ話でもするようにアマトの耳元にエリダの囁き声と生温かい息がかかった。
 くすぐったい思いでアマトは軽くうなずき返した。エリダはきれいだけどどうも苦手だ。姉、というのはこういうものなのか……
 「おい、姉さん。俺にも羊羹くれよ」ジョセが身を乗り出しエリダの持っている皿から羊羹を取り上げた「姉さんは男を見る目がないって母さんが言ってたぞ。もうちゃっかり次の人が出来て今日来てるって本当? 」
 「まあ、母さんのおしゃべり! そうよ、今度はだいじょうぶよ。島の人だもの。ほら、あそこに立ってる人よ」
 村席の端っこで立ってる男がまるでエリダの声が聞こえたみたいにこっちを向いて来た。
 片手をあげて笑って答えて来た。うん、これなら良さそうな人だ。
 「彼にあげてくるわ。また後でね。踊りがんばってね」エリダは羊羹を二,三個つかんで鳥が飛び立つように彼に向かって行った。
 「ちぇっ、いい気なもんだ」ジョセが舌打ちした。でもまんざら怒ってるようにも見えないな。
 「姉、ってのもいいな。なんか甘えられそうで……」アマトはエリダのささやきの余韻がまだ耳元にうずいていた。
 「じょうだんじゃないぜ。姉なんてうるさいだけだ。町に出て行ってくれて俺なんかせいせいしたよ」「さっ、腹ごしらえだ。夜は長いぞ」
 「腹ごしらえで思い出した。ジョセ、、パシカ達は食べてるのか? 僕、食べ物を持って行こうと思ってたんだ」
 「だいじょうぶさ。母さん達が放っておかないさ。今ごろ、がつがつ食べてるだろ」
 「そうか……でも、ちょっと顔を見に行って来るよ。少しは励ましてやらないとな」
 「優しい兄さんになったな、アマト」ハントに冷やかされて、アマトはどぎまぎして顔が少し火照った「俺が一緒に行ってやるよ」ハントが立ち上がった。
 「ハント、さっきみたいに目を離すなよ。次の踊りまではまだ時間があるから後で村巡りしょうぜ」
 「ああ、わかった。さあ、アマト行こうぜ」ハントと村席の後ろに躍り出た。中央では動物隊が次の魚隊に場を譲るところだった。そのあと各村から踊りと太鼓が始まる。



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