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作品名:アマトの宇宙(そら) 作者:サヴァイ

第25回   探検の報告

 占い婆の家に向かう前に最後に異常値を確認した場所まで来てガイは聞いた。
 「この辺で確かめた時は異常値を示していたんだな」
 「はい。ちょうどこの木の上にオウムが止まっていたのではっきり覚えています」
「だが、今はずっと正常のままだ……どういうことだろう」
 活動が止まったか、小さくなったか……いったい我々は発生源に近づいたのか遠のいてしまったのかも見当がつかなくなってしまったな……
 「いったんバラムに戻ってみよう」

 バラムでは異常磁気の数値がはっきりと出ていたのだ。もしそれに近い数値を示したとしたらバラムは発生源にかなり近いということになる。
 だが、バラムの集会所に戻って来た時も計測器は正常のままだった。かすかな期待も消えてしまった。
 「これはどういうことだ……」計測器を睨んだままガイが呻いた。
 「磁気が急に無くなるということがあり得るのでしょうか? 」副隊長の疑問は当然だ。そんなことは自然界では考えられない。
 「こんな現象が起こること事態がすでにこのあたりになにか異常があるという証拠ではないか。磁気を起こしたり消したりするなにかがな」ガイの目は怒りに近かった。
 「するとまた磁気が発生するのでしょうか」
 「たぶん……しかしいつそれが起きるかだ……その時がくればもっと発生源を突き止めることができるだろう……今は無理だ……消えたばかりだ」
 「計測器が作動しなければ探しようもないですね」
 「うむ……残念だがここはいったん引き上げて、もう一度調べ直すことにしよう」
 あきらめないぞ、きっと突き止めてやる! ガイはますます執念に燃えたつ思いを胸にしてバラムを引きあげて行った。ガイが去って行き、ディオも家へ帰るのを見届けるとアマトは浜へ駆けた。

 もう陽が傾き始めていた。息せきって浜へ着いた時は練習が終わり、みんながちょうど帰り始めていた。
 「どうしたんだ、遅いじゃないか。占い婆の家に行っただけだろう」
ジョセのいらいらする気持ちは分かる。三日後なのだ。その大事な一日をさぼったのだ。
 「すまない。道に迷ってしまったんだ……」
 嘘をつくのは後ろめたいがこれしか言い訳が浮かばなかった。
 「しょうがないな。あと二日はがんばって頼むぞ」
 「うんがんばるよ」元気良く応えてから「ジョセ、後から君の家へ行ってもいいかな」
 「ああ、いいけどなにか用でもあるのか」
 「ほら、きのうおじさんが国連の人を案内するって言ってたじゃないか。工場跡とかドゥルパの洞窟とか……」
 「えっ、君よく知ってたな。ドゥルパの洞窟も行くってこと。俺、今朝、父さんから聞いたんだぜ」
 「う、うん……ちょっとね。きのう、帰る時、外で村長さんと話してるのが聞こえたんだよ」
 「ああ、それでか。そうだぜ、すごいだろ! 魔物が出たかどうか父さんの話、楽しみだな。来いよ。でも、パシカはやめた方がいいかな。あそこで怖い目に会ってるからな」

 ジョセの心配をよそにパシカはくっ付いて来てしまった。タネまでがわくわくして一緒だ。怖いけどガイ達が洞窟の奥まで探検したか、魔物が出たか、見たか、聞きたいのだ。
 最初に占い婆のところに寄った様子を話したときなどタネやサキがなんてごうつくばり婆だ、と悪態をつきあった
「そんな石ころに百ドルだって! まったく国連さんもどうかしてるよ」「だまされたんだよ。うまく乗せられてさ」
 タネとサキは、まんまと簡単に大金を手に入れた婆がしゃくにさわった。百ドルをなんに使うんだろうね……まったく。かみさん達の剣幕にディオは苦笑いし、子どもたちは早く続きを聞きたかった。
 「おじさん、その占い玉、貸すだけなの? 婆は売らないの? 」アマトが聞いた。
 「ああ、家宝だとか言ってたな」
 「家宝! 」タネとサキがまた呆れた。
 「一カ月百ドル。延びたら一日一ドルだ」
 ディオの言葉にホッとした。売られたら取り戻すことは出来ない。一か月経って、球体が無事婆に戻ってくるんだ。
 「ねえねえ、そんなことより洞窟はどうだったの? 魔物はいたの? 」
 パシカが早く聞きたいとばかりにテーブルをパンパン鳴らした。
 ディオはただあれは風でしたーで済ますのはおもしろくないと考えた。
 「工場跡の坑道はドゥルパの洞窟への秘密の通路でもあったんだ。それもだれも踏み入れたことのない奥深いところへのな……」
 好奇心の目がディオに注がれる。
 「ガイ隊長はその時、伝説の魔物の吠え声を耳にした……逃げ帰るか……突き進むか。彼は迷った。冒険というものは危険と隣り合わせだ。だれかがこの正体を明かさなければ……」うんうんとみんなが頷く。
 「彼は決意した。進路を右へ……吠え声に向かってさらに奥へと進んだのだ」
 「わあー、すごい勇気があるわ」パシカが一番感動した。
 「吠え声はますます強くなり他の隊員達はおびえて、戻ろうとガイに言った。だが一人、彼は断固として立ち向かった。さらに奥へ奥へ……とうとう彼は洞窟の一番奥の行き止まりまでやって来た。だがそこにはなにもない。そして上の方に大きな穴が見えたのだ」
 クライマックスだ。そして何が……魔物の正体とは。
 ディオはもったいぶって咳払いを一つしておもむろに口を開いた。
 「ガイはその穴に向かって登り始めた。なんども滑り落ちそうになりながらもこらえてとうとう穴までたどり着いた……」
 ディオが脅すようにみんなの顔を見て来る。
 「彼は穴からそっと顔を出し中をのぞいたんだ。そしたら……」
 「ディオ! もう早く教えなさいよ! 」サキが亭主に苛立って叫んだ。
 「そこから見えたものは……」ディオは吹き出しそうになるのをこらえて続けた「澄み渡った青い空と、スカイブルーの我らの海だったんだ! 」
 「……」
 「それで……」ジョセが不思議に思って聞いた。
 「父さん、魔物はどこへ行ったんだ? 」
 みんなも、そうよ、どうなったの、とばかりに頷いた。アマトだけは黙っていた。魔物なんかいない。おじさんは僕らをちょっと驚かそうとからかってるんだ。
 「ガイはこう言った『魔物は風だった』と。つまり、魔物なんて始めからいなかったんだ。みんなだまされていたんだ。風が洞窟の曲がりくねった通路に当たって吠え声みたいに聞こえただけさ」
 「えー、ただの風だったの! もう」パシカがいかにも悔しそうに怒鳴った。
 「ディオ、あんた始めっからそう言えばいいのに。さんざんはらはらさせといて……あんたの悪い癖よ。そういうの。だいたいガイと言う人の思ったこともあんたが勝手に作ったんでしょ」サキが呆れた。
 「でも、おもしろかったわ」タネが言った。
 「おじさん、それでその人たちは洞窟の中も全部探検したの? 」アマトが聞きたいのはそれだ。
 「ああ、全部っていっても狭い通路が小川の入口まであるだけだ」
 「待って、私の連れて行かれたところは広かったわ。それに間違って奥に入ってしまって、別の通路もあったわ。その奥はちょっと広くって私、そこで眠ってしまったんだけど……」なのになんで小川で目が覚めたのかが不思議なんだけど……。
それ以上追及するな! アマトははらはらした。パシカの入った通路のことには触れて欲しくない。
 「ああ、パシカが入った最初の場所は入口近くの広場みたいなところだろう。おじさん達もそこからもう少し奥までは探検したことがあるからね」
 「でも、魔物の声に逃げ帰って来たんだよね」ジョセがちゃちゃを入れた。
 「まったくだ。風だなんて思いもしなかったからな。パシカのが勇気があるな。その別の通路のところまで行ったんだからな。その通路のこともガイは見つけたよ。だがすぐ行き止まりだったと言ってたな」
 「行き止まり……? 」そうかな。ちょっと広くなった感じだったけど……
 アマトにはパシカが納得してない気持ちが分かったが黙っていた。ディオおじさんの話しぶりだとガイは通路のことを深く疑わなかったようだな。ひとまず安心だが、あのガイという人物はゆだんならない……
 「ディオ、それで例の磁気……なんて言ったっけ、ほら異常だという場所は見つかったの? 」サキが言ったおかげでみんなの関心がそっちに向いた。
 「それそれ! 不思議なんだ……行きはちゃんと異常だと機械が指していたのに、占い婆のところで正常に戻ったきり、工場跡も洞窟も正常のままで村に帰って来ても変わらずだ。磁気が消えてしまったんだ。ガイ隊長は渋い顔をしてたぞ。おかしい、なにかあると言ってたが機械がそれでは突き止めようがないと言って帰って行ったがな。また来るらしい」
 「なんか物騒だね。村はなにも変わりないんだから来ることはないのに……あんた、また同行させられるの。仕事を放っといて行くんだから、今度はちゃんと手間賃もらわないとね。一日一ドル」
 「おや、サキさん、あんた,占い婆のこと悪く言えないよ」タネが言ったことでみんな大笑いになった。
 「ところでおまえたちいよいよ試合だな。どうだ調子は」
 ディオに聞かれてジョセとアマトは顔を見合わせた。
 「だいじょうぶよ。おじさん。アマトは優勝を狙うって言ってたわ」
 げっ、パシカのおしゃべり! つい得意になってほら吹いただけなのに……そりゃあ勝ちたいけど……ジョセが小突いて来た。おまえ、そんなこと宣言したのかよ、って顔つきだ。いつも負けてばかりの弱小チームだ。いくら百人力のアマトに期待したにしても全島大会村の部で優勝なんてでっかいことを吹いてしまって……
 「ハハハ。そりゃー頼もしいな。がんばれよ」ディオは真には受けなかったようだな。笑い顔で分かった。
 「あんた、島のバスはいつ来るの」
 「前の日の夕方、集会所に来て朝出るそうだ。バラムが始発で、村々に回って乗せて行くからな。町の会場まで二時間はかかるだろう」
 「ジョセ、聞いた。あんた寝坊すけだから早く起きるのよ」
 「分かってるよ! 試合の日なんだから」
 「ねえねえ、わたしも行きたい! 乗っていい? 」
 「まあ、パシカ。おまえ無理言わないの。二時間もバスに揺られて行くのよ。それに選手で席なんか余分にはないよ」
 「えー……でも応援に行きたいのよ。アマトもジョセも来年はもう出られないでしょ。最後だもん。なんとか行かせて」
 「なんとかって言っても……困ったね」パシカの気持も分かるけど……タネはサキを見た。
 「あんた、席は一杯なの? 」サキがディオに聞いた。
 「うん、付き添いの大人は村長とチームの同行者三名までなんだが……村長と相談してみるか。漁船を出すという手もあるからな」
 「ディオ、頼むわ。パシカとタネさんの二席をなんとか確保してあげてよ。それとうちは船で行きましょ」
 「えっ、父さん、母さん来るの? 」ジョセが目を大きくさせ二人を見た。
 「そうよ、最後だからね。しっかり応援するよ」
 「うーん……でもあまり大声出さないでよ」母さんのどら声は有名なんだから……とまでは言わなかったが。
 「クロは……どうしょう」
 「クロか……」ディオが腕を組んでクロを見た。パシカの傍らで耳をピーンとさせている。
 「犬を二時間もバスに揺らさせて行けるか……だな。大勢の人ごみの中でじっとしてなきゃならないし……」
 「ディオ、いいのよ。二人が行けるだけでも」タネが言った「パシカ、母さんがずっと一緒だからクロは家に置いて行こうね」
 パシカはコクンと頷いた。クロの頭を撫でながら「クロ、ごめんね……連れて行けないの。留守番しててね」
 賢いクロは悟ったのか「クーン」と鳴き、目までしょぼんと垂れ下げた。

 その夜、布団に入ったとたんアマトはどっと疲れを覚え、すぐに寝入ってしまった。
 試合の夢を見た。優勝カップを手に、みんなで大喜びしている……パシカが喜んでアマトの手を握って来た……パシカの手を取ってアマトも喜んでいたら周りのみんなが消え去り、パシカと二人、河原に立っていた。パシカが転ばないようアマトは用心深く石ころをよけて行く……その先で占い婆がじっと見ている。占い婆の手には球体が握られていた。待って、待って……球体を取ろうとアマトは駆けだす。パシカが引っ張られて激しく転んだ。あまりの痛さに泣き叫ぶパシカ……婆は行ってしまう。そのとたん婆の姿はガイに変わっていた。待てー、アマトは叫んだ。球体が持ち去られてしまう……とたんに場面が変わり、こんどは薄暗い石のドームの中でアマトは天井を見ていた。中心部分にはまっているべき球体がない。そこはぽっかり暗い穴になっている。「きっと戻す」とその穴を見つめていた……



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