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作品名:アマトの宇宙(そら) 作者:サヴァイ

第24回   魔物の正体

 工場跡に着いたガイは草で覆い隠されて見えない地中の鉱石や、周りの樹木の成分などを調べた。
 「磁鉄鉱が含まれているということはこの辺はむかし火山だったのか」ガイが計測器の技師隊員に聞いた。
 「そのようです。磁鉄鉱の産地としては知られてない場所ですね。マタイはなぜ途中で工場を撤去したのでしょうか。こんなに豊富な磁鉄鉱を残したまま」
 「ミスターディオ、どうしてか理由を知ってますか」
 ガイに聞かれてディオは首を横に振った。この『ミスター』呼びにようやく慣れてきた。最初は誰に話しかけているのやらとキョロキョロしたもんだが。
 「急でしたから……うわさではなにか有毒な物を川に流していて騒がれたからだとか」
 そのことなら保健局の報告書で知っている。
 「他の島々でも騒がれたが調査に入っても平気で操業している。ここだけ突然閉鎖したのにはなにか訳があるのか……」
 計測器はあいかわらず通常の磁石の数値を示したままだ。
 「鉄鉱石を掘っていたのならどこかに坑道があるはずだ。ミスターディオ、知りませんか」
 「いや、知りません。工場には村の者はいませんでした。みんなマタイから来た者でやってたようで」
 「そうですか。ではみんなで手分けして探すんだ」
 
 ガイの命令で隊員は跡地の地下、近くの崖と散って行った。
 特別な磁鉄鉱の存在があるのか……世界的規模で異常値を捉えたのだ。ここにその原因があるに違いない。ガイは確信していた。地軸さえ狂わすなにかが……
 「隊長! ありました。坑道の入り口のようです」
 跡地の横手の崖端で雑草を払いのけていた隊員が叫んだ。その声に全員が向かった。
入り口は長年の間に草地にすっかり隠れてしまっていた。隊員の手で草地を取り除かれて大人数人が通れる大きさのトンネルが現れた。
 「鉄骨の柱で支えられまだしっかりしているな。どうだ奥に入っても大丈夫か。坑道内の気体成分を調べてくれ」
 大気測定機を持った隊員が走った。
 「大丈夫です。通常の空気成分と変わりありません」
 「よし、ではミスターディオとテレビカメラのモニターを残してあとはこの坑道の調査に入る。照明と酸素吸入器の用意をしてくれ。いいか、計測器を常に見張ってるように。我々の動きをモニターは映像でしっかり見張っていてくれ。無線で絶えず連絡を取り合うように」
 ディオは残されたモニターと一緒に、テレビカメラから送って来る映像を見ていた。 すごいものだ! バラムで自然と暮らし合う我々には目にしたことがない。坑道に入った特捜隊や坑道内の様子が同時に外で映像として見られるのだ。
坑道は曲がりくねりながら先へと続く。
 「段々狭くなってきてるようだが鉄柱はしっかりしてるか? 」
 ガイが無線で聞いて来た。
 「大丈夫です。先の方まで骨組みが見えています。鉄鉱石もまだまだ残っています。左に大きく曲がり始めています」
 「よし、このまま進む……まて……なにか聞こえる」
 無線が途絶えた。カメラはそのまま回っている。
 「道が二手に分かれた。分かるか」
 「はい、映っています」
 「まず左に行ってみる。なにやら音がそちらからしている。坑道の距離と地形図を見張っていてくれ」

 ガイ達は左の坑道に入って行った。
 「少し、ひんやり湿った感じがするが……うん……モニター、映ってるか、少し明るいというか白っぽいが」
 大気測定機が湿度の上昇を知らせた。
 「これは!……」ガイの驚きの声。
 ザーザーと白い筋のようなものが画面いっぱいに映っている。
 「モニター分かるか。これは滝だ……滝の内側に出たんだ。この辺に滝があるのか……ミスターディオはいるか」
 「はい、見てます。滝といえば工場跡の近くに流れている小川に落ちている滝があります。たぶんそれです」
 「ということはもう一方の道は小川を挟んで反対側に向かっているということか……よしわれわれはここを戻ってその道に進むことにする」
 ガイは分かれ道に戻って、もう一方の道に入って行った。
 黙々と進んで行く……。坑道は磁鉄鉱がライトに照らされ黒光りしている。
 「だんだん狭くなって来たようだ。通れそうか」
 「天井も低くなってきています。でも大人一人分は十分通れそうです」
 画面とにらめっこのモニターが慎重に答えていく。
 「ここからは私が先頭で行こう」ガイが進み出た。
 またしばらく沈黙が続く。大人1人分の道幅をガイを先頭に進んで行く。
 「うん?……分かるか。風だ。前から風が流れ込んでいるようだ」
 ガイが後ろに続く隊員に話しかけている。
 「はい、感じました。外が近いのでしょうか」
 「そのようだ……モニター」
 「はい」
 「今、どの地点にいるか分かるか。風が吹いて来た。外が近いようだが地図で外というとどのあたりに出そうか分かるか」
 
 モニターが慌てて所在を知らせる点滅ランプを追った「ディオ、このあたりで一番近い外というとどこになるか分かりますか」
 ディオは地図の見方に慣れずさっきの滝を目安に指で点滅ランプまでをなぞっていった。
 「このまま向かって行くとたぶん……海に出ます。それも切り立った岸壁にです」
 「隊長、聞こえましたか。海のようです。それも岸壁です。気を付けて下さい」
 「なに、海だと……おい、計測器は変化したか」
 「いえ、いぜんなにも変わらず正常です」
 変わりなしか……このまま行っても絶壁の海か……立ち止ったままガイは迷った。ここまで変化なしということは勘が外れたかな……発生源は他か……
 「もう少し行っても変わらないようなら引き返す」

 期待外れに進む足も重く、それでもガイは進んだ。最後に見つかる可能性もあるのだ。かすかに感じた風が今ははっきりと顔に当たるのが分かるまでになってきた。まだ暗い。だが外は近いのだろう……
 おや? ガイはライトに照らされた前方がふさがっているのに気がついた。いや、ふさがってるように見えたが違った。
 「おい! 別の通路にぶつかったぞ」
 右側から強い風が左に流れているようだ。その風の一部がこの通路に入り込んでいたんだ。ガイは新しい通路に出た。すごい風だ! しかも風の音がまるで生き物のように唸っている。
 「ミスターディオいますか。新しい通路にぶつかりましたが、唸ってるような吠えてるような強い風が入り込んでいます。この通路のこと知ってますか」
 風に消されるのかガイの声は切れ切れだ。
 ガイに問われてディオはまさか……と思い当たった。一行の位置を示すランプの行方を見ているうちにすでにその不安が胸に湧き起こっていた。このまま行くとドゥルパの洞窟とぶつかるのではと……自分も奥までは入ったことがない。青年の時から度胸試しにと数人で行ったものの魔物の声に脅されて逃げ帰ってしまった。
ガイ達の居場所はその奥の奥になる。唸ってるような吠えてるような音とはまさしくドゥルパの魔物だ。

 「ガイ隊長! 大変です。いまみなさんのいる位置はドゥルパの洞窟の奥深い所に入ってしまったようです。その音は風ではありません。魔物です。魔物の吠え声です。早く逃げて下さい。戻ってきてください! 」
 「魔物の吠え声?……」ガイは注意深く耳を澄ました。ふむ……そう言われれば吠え声のように聞こえるが……違うな。これは風だ。
 「ミスターディオ御忠告はありがたいがこれは風の音です。たぶん通路のどこかに狭いところがあって笛のような役割をしているのです。風の吹き方が変化するので吠え声のように聞こえるのです」
 偶然にもドゥルパの洞窟探検の役割を担ってしまったわけだ。なにが魔物だ。
 「どうしますか」後ろの副隊長が聞いて来た。
 「そうだな……ここまで来たついでだ。魔物騒動に終止符を打ってやるか」ガイは右に進路を取ると風に向かって行った。
 通路はますます狭まり天井も頭が当たって来て、ガイは背をかがめた。右に折れ左に折れして進むうち吠え声に聞こえていた風の音がひゅうーというはっきりとした風の音に変わって来た。やがて前方が岩壁になって通路が途絶えた。その上の方にぽっかり穴が開いていてそこから外の陽が見える。強い風もそこから勢いよく吹きこんでいる。

 「登れそうだな」ガイは背負っていた荷を副隊長に持たせ、岩壁に手を掛けて登り始めた。
 穴はけっこう大きく、そこから大量の風が入り込んでいるが通路に阻まれてぶつかり、くねくね抜けて通りぬけるのでそれが洞窟内に行くほど吠え声になっていくのだろう。
 ガイは手を穴にかけると顔を外に出した。真っ青な空の下にスカイブルーの海が広がっている。少し遠くに見える島は……あれがマタイか……マタイとマライは昔、一つの島だったとか……海で隔たってしまっているがこの洞窟の続きはマタイにもあるのだろうか。もしそうだとしたら、この異常磁気の発生源がマタイにも存在しているのか…… 穴の下の方では、岸壁にぶつかる波が白く打ち砕けていた。

 ドゥルパの洞窟にまつわる魔物の伝説はこうしてガイによって崩された。
 「ミスターディオ、この洞窟を通って戻ることは出来ますか」
 「はい。私ら村の者はそんな奥まで行ったことはありませんが、その出口は工場跡とは川を挟んだ向かいの土手に出ます」
 「それでは洞窟から戻ります」
 ガイは坑道とぶつかった洞窟の通路を今度は風に押されるように左方向に入って行った。
 相変わらず狭いが坑道とはまるで違っっているのに気がついた。坑道のように人の手で掘られたのでもなく、かといって自然に出来たにしては、整然とし過ぎている。
 「これは磁鉄鉱の宝庫ですね」ライトに照らされた石壁が全面と言っていいほど輝いている。
 「計測器はまだ反応しないのか? 」
 「はい。変わりありません」
 「洞窟にしては不自然だな……うん? 」ライトに照らされている前方の右側の石壁が切れている。別の通路があるんだ。風はまっすぐ流れて行き、その通路には入っていない。
 「副隊長、この右に行く通路は出口ではなさそうだな」
 ガイがその通路奥にライトを向けた。さらに狭く低い天井になっている。
 「狭いですね……奥になにかあるのでしょうか。私が見て来ます」
 副隊長は背をかがめ這うようにして、ライトを照らしながら進んだ。だがそんなにいかないうちに石壁にぶちあたった。
 「隊長、行き止まりです。なにもありません」
 「行き止まり……? 通路は細くなって無くなってるのか」
 「いえ……通路が突然石壁でふさがれてしまっているようです。まるでふたをされたような感じです」
 「隙間はないのか? 」
 「まったく……ぴたっとしています」
 「そうか……よし、もう戻れ」

 気になる通路だな……だが、計測器は異常なしだ。もうこれ以上洞窟にかかわってはいられないな。早く戻って計測器が正常になった地点を探らなければ……

 ガイがここで切り上げたことはドゥルパの洞窟にとっては幸いだった。副隊長の進んだ通路がパシカが魔物から逃れるための通路だったことやふさがっていた岩壁が開いたことそれにもましてアマトがその奥の秘密の空間で靄によってアマトの身体を回復させていた場所でもあると知ったら……本来の使命、宇宙局特捜隊の面子にかけてガイの徹底した捜索の手が入ったことだろう。
 そんなことなどしるよしもなくガイ一行は洞窟を抜けだし、小川の土手の入口に出て来た。
 「御無事でよかったですね」ディオとモニターはすでに小川のところで待っていた。
 「魔物の正体が風とは拍子抜けでしたよ」怖がって逃げていた自分のことが恥ずかしい思いだ。こんな子供だましみたいなことを見抜けず、だれも正体を確かめもせず長い間、ただ騒いできただけだった。さすが国連のお偉いさまだ……。
 「村に帰ったら早速知らせますよ。びっくりするだろうなー」
 ガイはディオの興奮をよそに早く発生源をつきとめたいとあせっていた。腕時計を見て顔を曇らせた。
 「思わぬ時間を取られ、昼食が遅れたな。この河原で食事を済ませたら山を下りるとしよう」

 この間、アマトは灌木の茂みからずっとこの様子を見ていた。ディオおじさんとモニターが工場跡から小川に移動して行く。どうしたんだ? 左の土手にはドゥルパの洞窟の入り口がある……二人がその入口に向かって行くのを見て、えっ? と不安になって来た。まさかガイは洞窟の中に入ったのか……その不安が的中した。ドゥルパの洞窟の入り口からガイ一行が出て来たのだ。
 坑道と洞窟がつながっていた……いつそんな道が出来たのか知らないが……ガイは洞窟を見てなにを思ったか。奥のホールは塞がってるから見つかることはないだろうが… 彼らの会話は灌木のところまでは聞こえない……ディオおじさんからガイの探検の様子を聞かなくては。

 もう何時だろう……陽の当たり具合からすると昼はとっくに過ぎてるみたいだな。もう帰らないと練習に間に合わないだろうな……
 そう思いながらもガイ一行から目が離せない。アマトも持って来たバナナで腹ごしらえをしてガイ達が動き出すのを待った。練習に行かなくては、というあせりとガイを見張るんだという意識が頭の中で渦巻いている。
 どうしたんだろう?……。ドゥルパの洞窟のこともなぜ僕は知ってるのか、次々と思考が浮かぶのも不思議だ。夢に操られているような気がする。でも僕はこれをしなくてはいけないのだ……


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