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作品名:アマトの宇宙(そら) 作者:サヴァイ

第20回   『宇宙局特捜隊』マライ島へ


 ガイが甲板の上で双眼鏡を覗き込んでいるところへ、副隊長が上陸の船の準備が出来てきたことを知らせに来た。
 前方にはサンゴによって出来た大きな環礁が二つの島をすっぽり取り囲んでいる。

 「隊長、やはりここの地域の磁気が他の所より大きいですね」
 「ああ……解明のカギはここにあるだろう」
 「マライとマタイ、双子島とも呼ばれてますが、今は自由に行き来出来ないそうですね」
 「クラノスというマタイの首長が独善的なのだ。国連でも要注意人物の一人に入っている。今回の調査の申し入れも拒絶して来た。なめられたものだ」
いまいましい気分がまた戻って来た。
 ──申し入れにあるような現象は当島にはありませんので上陸はお断りします──
だと。れっきとした国際宇宙局特捜隊をなんと思ってるんだ!
 「よし、では、マライに上陸だ」
 外洋までは国連巡視艇で来たが、これ以上は座礁の恐れがあり小型船で環礁の隙からマライに渡らなければならない。
 ガイと五名の隊員は機材を積み込みマライに向かった。

 一方、マライの首長、タラスはまもなくやって来る調査団を首長室で待っていた。 『国際宇宙局特捜隊』などがあるとは知らなかったのだ。また、これはなんの調査かな? 磁場に関する地域調査とかあったが、宇宙局特捜隊と関係あるものなのか? なんにしても国連の機関からの正式な申し入れだからな、失礼のないようにしなくては……と必要書類も部下に揃えさせていた。

 科学者らしき面相を想像していたが玄関に到着したガイを見て、タライ首長は唖然とした。こりゃー防衛隊長の肩書のがお似合いだな。目付きが鋭いうえに身体も軍人のようにがっちりといかついのだ。
 応接室で応対する言葉つきまでその風貌にふさわしい堅苦しいものだったので、タライ首長の苦手なタイプだ。張り詰めた空気が応接室にみなぎった。

 「調査の申し入れ書にありますように、先日、世界中の計器がこの南洋地域に大きな磁気が発生したことを示しました。タライ首長もご存じの通り、この地域は昔から飛行機など通信が乱れることがあり、航路から外されています。船舶も環礁に阻まれ、なかなか原因の究明がなされませんでした。しかし、今回の磁気の数値は今までになく大きく、なにかが起きたことが考えられます……」
 ガイはテーブル一杯に地図を広げ、指で示しながら説明を始めた。職員が飲み物を持って来ても、後で、とばかりに手で制した。話を途中で止めなくてはならないのは気に入らないのだ。なごやかにといきたいタラス首長も我慢するしかなく、小声で「後で」とささやき職員を帰らせた。
 「周辺の島々はすでに調べて残るはこの一帯となりましたが、マタイは協力を断ってきました。我々としては双方を調べたいので非常に憤慨しておりますが仕方ありません」
 ガイが一瞬言葉を止めたので、タラス首長はその表情を盗み見た。
 どうやらクラノスはこの男を怒らせたようだな。お察しするわい。わしらマライは、いつもそうじゃ。内海の境界やら島民の生活の行き来など問題があると、マタイの損得しか頭になくて、おまけに威張りくさった態度で応対してくるのだ。クラノスと会うことが起きると、わしゃー腹が痛くなるわ。

 タラスが、ガイの心中をお察ししてくれてることなど頓着なく、ガイは用件のみに徹して話していた。
 「歴史的にみて、マタイ、マライは元は一つの島だったとか。なら、マライを調べればだいたい解明されると思います。この地域で発生する磁場の影響はこの島の発展にも影響を与えています。飛行機のルートを引けないこと、衛星の通信妨害などはこの美しい島を観光地に発展出来ることを困難にしています」

 ガイは発展をほのめかすことで調査をしやすくしたかった。本来はそんなのは『国際宇宙局特捜隊』の出る幕ではない。観光会社にお任せすればよい。本当の目的はこの人の良さそうな、のんびりした南国の島の長に言ったら腰を抜かすだろう。本心は見せない。ガイはどんな時もそれに徹していた。特捜隊隊長の肩書はまさにふさわしい。
 「そうなんですよ」
 ガイの言葉にくすぐられてタラス首長は思わず身を乗り出し、身振り手振り付きで 「マライは一年中、気候が暖かく、果物、野菜は豊かで、海岸は白い砂浜、きれいな青い海、一日をのんびりゆったり過ごすには最高の景色ですよ。サンゴの間を泳ぐ熱帯魚も見られ、釣り好きな方にはそそられるような岩場もあり……また果物ときたら、甘いトロピカルフルーツ……特にその中でも私はね……」

 この男をしゃべらせていたら、日が暮れるとガイは思った。うんざりだな……
 「そうですか。世界の観光地として発展出来ることまちがいなしですね。そのためにもぜひ、我々の調査を協力いただき、障害になっている原因を明らかにし、取り除いていきましょう」
 「……そ、そうですな」ガイに先を打たれ、タライ首長はしゃべりかけた言葉を飲み込んだ。乗り出した身をソファーに再び引っ込めざるを得なかった。
 「さて、本題です。当日、この島でなにか異変がありませんでしたか、時間的には夜中の現象です」
 「えー」と一つ咳払いして、首長らしく「君、調べた報告書を出してくれたまえ」

 待機していた部下が出番の速さに驚いたように「あっ、はいはい」と慌てた様子で、手に持っていた書類を首長に渡して来た。タライはそれをテーブルに広げた。
 
「これは、マライ島の地図です。元は円い島だったのが半分に分かれて半円の形です。真ん中が内海となり湾曲した形になってるわけですが、この中心部分は険しい山々の密林地帯です。ぐるりとこの密林地帯を囲むように、海岸側に七個の町村が点在しておりまして、当日、なにか変ったことがあったということは……」
 七か所の村の調査書に順番に指で追っていった。申し入れがあってから慌てて部下が走って聞き取ってきたものだ。
 「少し風が吹いた──風が吹いた──という村が三か所で……強い風が一か所……ですな。特になにか異変というものはなかったようですな……」
 「あのー首長……」部下が近寄って耳元で囁いた「磁場の調査とは関係ないでしょうが、異変なら、その日はバラムの事件がありましたが……」
 「バラム? ああ、そうだったな! 」首長は膝をポンと打つと「この、強い風が吹いたとあるバラムの村で明け方、海岸に三人の遺体が打ち上げられまして、それが、なんとマタイからの逃亡者と漁師だったんですが……どうも海上で嵐にあったようで、ボートが転覆したんですな」

 「ほう……その海上はたびたび荒れるんですか? 」
 「いやいや、滅多にないことなので驚いているんですが、もっと驚くべきことは、その逃亡者は、マタイの科学者と細君だったんですよ。そうそうあなたと同じ国連保健局のケーシー博士という方が、バラムに調査に入るからと、二人はそこで落ち合うことになってたそうですが……お気の毒な事でした」

 ガイの眉がビクッと動いた。興味ある話だ。そのケーシー博士なる人物とは面識はないが、マタイの公害問題は国連活動報告書で知っている。そのことより、ふだん荒れることのない海が突然どのように荒れたのか、なにかほかに現象が起きなかったかをもっと知りたい。
 「ほかに、海に出ていて巻き込まれた漁船はないのですか? 」
 「いやー、夜中やそんな早い時間にせかせか漁に出るなんてありませんですな。それにこの辺の海は環礁に守られて穏やかなものです。遠洋漁となればボートなんでは出かけないですからな」
 「そうですか……となると、穏やかなはずの海で転覆するような嵐、それも限られた地域のみで起きたということですか……どんな嵐だったのか……風以外になにか現象がなかったか……バラムからの報告はそれだけですか……」
 「さあー。これらの調査は村長に聞いたものですから、村長の知らないところでなにかあったかもしれませんな」

 「あのー」と部下が言った。二人のやりとりを聞いているうちに彼は、ハッと思うことがあったのだ。
 「実は、バラムの調査は私が行ったのですが、天候についてはその報告通りの返事でした。一番遠い村で、夕方近くに着いたものですから、村人まで聴くことはできませんでしたが……」
 そう言ったものの、実は、その時は、もう早く帰りたかった。村長のダセがお茶を飲みながら、あの晩吹いた強風のために農作物がどれだけ被害があったかを、とうとうとしゃべるので、つまり大変強風が吹いたと書いておきますね、と話を終わらせたのだ。
 「ただ……帰りがけに村長が村の住民に少年が一人増えたことを記載しておいてくれと言われまして、それが、遭難した夫婦の息子だったんです」

 「えっ、息子がいたのか! 」首長は初耳だったので、驚いて聞き直した。
 「遺体が上がったという報告にはそのことが載ってなかったじゃないか」
 「その時は、息子がいたということは知らなかったそうで、とにかく大事件だからと急いで町に知らせたんだそうです。後から、息子が生き残っていたことが分かって、その子はとりあえず、村人に引き取られているということです」
 
 「その嵐の生き証人がいるってことですね……」おもむろにガイが呟いた。
 「バラムの村に調査に入ったおりにはぜひ、その少年に聞いてみたいですね。」
 「そうですな、なにかがつかめるとよいが……おい、君」傍の部下に「この方々が滞在中、誰か一人案内係を付けてあげなさい。それから車もな」
 「ご協力、感謝いたします」
 「島の交通は島をぐるりと一周する道が一本あるだけでそれも舗装してあるのは途中までです。多少時間もかかりますので、まあ、途中の村々で休憩されながら行くとよいですな。天然の果物も道々食べれますし」首長がくだけた調子を取り戻し、ガイに進めるのを「いや、お気を使わないように。調査が目的ですので」とガイは話を合わすふうでもなく「係の方が決まり次第、さっそく打ち合わせをしたいので、よろしくお願いします」

 ようやくお茶を出せる雰囲気になってきたと判断したタラス首長は立って「失礼」と言って、隣室で今か今かと様子をうかがっている部下の所に行った。
「おい、お茶だ。持って行ってくれ。俺はここで飲む。やれやれだ」そう言って「フ―」と溜息を吐きだし、勢いよくお茶を飲み干した。


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