純血教の歴史は大陸がかつて一つの帝国によって統一されていたという、フィルゴ国の伝説に描かれている。ちなみにその伝説とは、帝国の創始者はフィルゴ国の王の先祖であり、この伝説はフィルゴ国の権威が大陸全土にまで及ぶという事を語るものなのだそうだ。 純血教が生まれたのは、帝国末期、領土と国民が国を分裂させる程、力を増大させ、帝国がその飽和状態により、瓦解する事をだれもが予想できる様になった時代であるという。 その時代、帝国崩壊が、戦争や内乱によってのものでは無い以上、帝国の文化や技術、知識と言った物は、崩壊後もそれらを維持していく必要があると考える集団が居た。その集団は帝国文化を記した文書をまとめ、さらにそれが時代遅れにならぬよう、常に研究、発展、広報を行える組織を作る事になる。 「それが純血教の始まり?」 「ええ、ですので純血教には他の宗教のように、特定の神を信奉しているという訳では無く、便宜上、帝国創始者である、初代皇帝大フィルゴを帝国文化の象徴として奉っているのです。」 純血教本部に向かう道のりで、アイムの純血教を知らないという言葉から始まったセイリスの純血教講座は、本部に着いてからも続いている。さすがにアイムも疲れてきたが、相棒のリュンが、これから純血教に関する知識が必要になるかもしれないから、しっかりと聞いておく様にという、言葉を残して、フラウとどこかへ行ってしまったので、聞き流す事も出来ずにいる。 「でもさ、じゃあなんで純血教なんて名前なのさ。フィルゴ教とか帝国教とかでも良いんじゃないかな。」 講座は純血教本部内の、まさしく講義室と言った様な場所で続いている。なんでも、一般国民のために純血教の教えを、ここでいつも公開しているらしく、今日は特に講義室を使う予定が無いそうなので、個人講座という名目で貸してもらっている。 ただ、聞いている側にとって、この講義室という部屋の構造というものが、何故か眠気を増大させる物でしか無いというのは皮肉な話である。結果、アイムは眠気と飽きに襲われながら、セイリスの話を聞くのに必死になっている。 「帝国を象徴する法律の一つに純血法という物がありますの。そこから名前を貰っているという訳ですわ。」 一方、セイリスはと言うと、こちらの気持ちを知らずに嬉々として純血教についての知識をこちらに教えてくる。薄々、思っていた事だが、もしかしたら彼女はこういった事が好きなのかもしれない。 さて、セイリスが説明する純血法についてだが、異種族間でその婚姻と子供の混血を禁止するという法律であるらしい。基本的に現在も異種族で恋人になったり夫婦になったりというのは、異端とされる雰囲気があるのだが、帝国では2,3年程、牢屋に入れられる様な違反行為でもあったそうだ。 「純血法は種族間での不平等や差別を極力無くすために、初代皇帝か帝国を支える柱として作った法律ですの。そのような皇帝の考えを継ぐという形で名前を頂いているのです。」 「混血を許さないってのは、むしろ差別的な視線があるようにも思えるんだけど、そこの所はどうなの?」 アイム自身、何故か分からないが、さっきから質問ばかりしている。なんというか、この部屋の雰囲気がそうさせるのか、セイリスが教師で自分が生徒という図式にどんどん嵌っていっているのである。 「一見するとそうですが、実際、国の行政と擦りあわせてみると、むしろ混血を進める方が種族間の対立を深める傾向にありますの。例えば、国内で混血が進んだ場合、結果的に人口が多い方の種族が有利に働きます。今も昔もそういった事で得をする種族と言えばわかりますかしら。」 「混血が進めばエルフが得をする様になるって事か。」 この大陸でもっとも繁栄している種族と言えば、それはエルフである。それもそのはずで、エルフは特定の土地に何代も棲む事で、その土地に適応した体になるという、特殊体質を持っているからだ。前に居たヒゼル国にしても、海に適応したシーエルフの国であるし、山へ行けばマウンタエルフに森へ行けばウッドエルフにと、その体を適応させて行く。大陸でもっとも繁栄するのも頷ける能力なのである。 ちなみに、2番目に繁栄しているのは、大陸全土に商売権を持つツリストで、3番目に人間、ランドファーマーはその次くらいで、ドワーフも同じ程度だろうから、実質最下位といった位置づけだ。 「その通りですわ。帝国創始者の種族もエルフでしたから、混血を進めたら、他種族からの批判が大きくなるのは確実でしょうし。」 「へえ、その大フィルゴさんって言うのもエルフだったんだ。だからかな、セイリスもフラウもエルフなのは。」 そう、セイリスとフラウはエルフ種族である。尖った長い耳がその証拠だ。ちなみに、彼女等はこちらに種族名を一度も名乗っていない。エルフはいちいち名乗らなくてもその長く尖った耳を見れば、すぐに見分けが付くからだ。 「一応、純血教にはエルフ以外の種族も居ますのよ?ただ、フィルゴ国は創始者の関係から、エルフ人口が多くなってしまっただけで。勘違いなさらないで頂きたいのは、フィルゴ国自体は多種族混合の国家ですの。」 確かに、この国に来てからはエルフを見るのが多いが、他の種族も居ない訳では無かった。 「話が逸れてしまいましたわね。混血の弊害の話ですが、それだけでは無いのですわ。混血が進めば、当然の事ですが、種族間を別ける特徴や能力がどんどん無くなっていきますの。混血一代目までは、その後、両親どちらかの種族との子を作れば、再びその種族としての特徴を取り戻しますが、代が進む事でそれも難しくなり、遂には完全な混血種である人間へとなってしまいます。」 人間とは先ほど、大陸で3番目に繁栄していると言った種族であり、自分の出身国であるシライを作った種族だ。人間とはその名の通り、人と人、種族と種族の間と呼ばれ、種族としての特徴を無くした種族とされている。つまり、他種族は皆、混血を進ませれば人間になる可能性があるのである。 「人間化が進めば進むほど人間が有利な国家になるものね。」 「ええ、その通りですわ。人間種族を貶めるつもりは御座いませんが、やはりそれも国家としては不健全。だからこそ、多種族入り混じる国家は、純血法が必要になるのです。」 つまりは、そういった思慮を持った初代皇帝を自分たちの信仰対象とする事で、自分達も同様に思慮深い組織である事を内外に示しているのだろうか。 「なんとなく理解できたよ。随分と変わった組織なんだとも思ったけど。」 「確かに変わっている所もございますけど、それも理由があって・・・。」 まだ話が続くのか。アイムは心が挫けそうになっているのを感じる。 「それだけ理解できれば十分よ。どうせ詳しく知ったって、個人個人で受ける印象は違うんだから。」 突然、講義室の扉が開き、フラウが入ってくる。恰好は旅行中の姿とは違い、修道服を着ている。その恰幅の良さは、まさしくグランドマザーといった風格で、実に様になっていた。 「あれ?リュンさんは?」 入ってきたのはフラウ一人であり、同行していたリュンが居ない。 「あの子なら、今は私たちの上司と話をしているわよ。それにしても、あの子はかなり強かな奴だわね。」 「なんの事ですか?」 恐らく、また相棒が何かやらかしたのだろうが、一体何をするのか分からないので不安になってくる。 「当初は、言っていた通り、こちらへの感謝の言葉を話していたけど、合間にあなたたちの仕事内容を織り交ぜて伝えていたわ。そしたら、上司が興味を持ったらしくて、内で一度雇ってみたいって話に発展したのよ。」 ああ、じゃあ、リュンの予想通りの展開になったのか。彼が嫌らしく笑っている顔が頭に浮かぶ。 「それならアイムさん達とはもうしばらく、一緒に居る事になるのかしら。」 セイリスは手を合わせて喜んでいる様に見えた。彼女の場合、純血教について教える機会が増えたという事からの喜びだろうが。 「詳しい事はあの子が帰ってきてからってことね。暫く滞在するにしても、私たちと常に一緒にいるなんて事はないだろうし。」
「ところがだ、俺達がどんな風に仕事を進めるのか知りたいらしいので、君らには暫く、俺達の仕事を手伝って貰う事になった。」 リュンは話し合いから戻ってくるなり、そう言い放った。 「ちょ、ちょっと待ちなさいな。なんで、あたし達があなたの手伝いをしなくちゃならないのよ。」 フラウはリュンの言葉に大層驚いたらしく、ドモりながら声を上げる。 「だから、俺達の仕事について知りたいらしいんだよ。結構、面白おかしく仕事内容を話したのが効いたのかもな。」 面白おかしくという言葉の裏について聞いてみたい気がする。 「いったい、どの様な事を話したのかしら。」 セイリスもこの展開には疑問を覚えているようだ。こちらとしても、どの様に話を展開して行ったのかはわからないが、この様な結果になるのはなんとなくわかっていた。 「肝心の仕事内容については、どうなってるんです?農作業に関する事なんだから、多分、僕の仕事になるんでしょうけど。」 「まあな、なんでも純血教内部の土地で作物を育てようって事になっているんだが、どうにも土が悪いらしく発育が良くないらしい。そこの改善を頼みたいんだとさ。成功すれば、ある程度の報酬を払ってくれるらしいぞ。」 それなら、なんとかなるかもしれない。これでも農民歴は長いのだ。土や気候なんかの状況を見れば、打開策を見つけられる可能性がある。失敗したら、失敗したで、こちらにも向こうにも被害が出るという事も無さそうだ。 「そりゃあ、難しいんじゃないのかい?確かに教団内部で食料の自給を行えないかって話は随分と前に出てたはずだけど、中々進展せずに終わったはずよ。」 「そりゃまたどうして?」 これからの仕事に関する事なら、詳しい話を聞いておきたい。 「土が悪くて発育が良く無いって話だけど、教団だけの話じゃ無くて、このあたりの土地全体に関する話だからよ。昔からここは、ちょっと理由があって作物が育ちにくい土地柄なのよ。」 とは言われても、状況を見てみない限り、判断の付けようが無い。 「そういえばそうでしたわね。リュンさんが話した司祭様はなんとおっしゃったんですの?」 司祭とは彼女等の上司の事だろう。だいたい教団内で上の立場なら司祭の呼ぶと相場は決まっている。 「明日の朝、詳しい状況とこれまでその土地の農作業に関してどんな事をしてきたのか、資料にまとめて、こちらに伝えてくれるらしい。仕事をどう進めていくかはそれからだな。」 「夜になってあたりも暗くなって来ましたし、これから土地を見るって言うのも難しいですから、その方が丁度いいですね。」 そもそも農作業とは朝と昼に終わらせる物であり、夜にするのは作業ベタな証拠だ。 「そういう事ならこっちは止めないけどね。でも後悔するんじゃないよ。何人か農業従事者も呼んで相談した事もあるけど、その結果が今の状態なんだから。」 仕事の前に不吉な事を言わないで欲しいが、フラウにとっては親切心からなのだろう。 「でもフラウ、リュンさんやアイムさんだってそれが仕事なんだから、仕方無いじゃありませんの。それに、案外、どうにかなってしまうかもしれませんし。」 「あはは、そう考えてくれた方が、こっちも気が楽だね。まあ、それもこれも、明日の朝、仕事場を見てからだけど。」 どんなに話をした所で現場を見てみなければ始まらない。 「なら、教団の部屋が幾つか空いていますから、そちらで休んで頂ければ宜しいですわ。朝からここで仕事をされるんですもの。」 「そりゃあ、嬉しい話だな。これから宿を探さなくちゃいけないと気が重かったんだ。」 リュンの顔には純粋な喜びの顔が浮かんでおり、怪しげな笑みは浮かべていない。良かった、宿を用意してくれる所まで計算に入れていたんじゃないかと、一瞬、ヒヤリとしたのだ。 「そういえば、ちゃんとした部屋で休むのは久しぶりだな、最近は船や馬車の上で寝てばかりだったから。」 「あら?あんまり期待されても困りますわよ。それほど上等な部屋と言う訳でもございませんから。」 セイリスはそう言ったが、部屋はそれ程悪い物では無かった。少々手狭だが、清潔でしっかりとしたベットが二つあり、何より地面が動かないのだから。
教団本部周辺の土地が農業に向かない理由は、フィルゴ国から北東部に位置する火山が原因である。イタ山と呼ばれるその山は、定期的にその火口から噴煙を出す。噴煙から出る灰は、想像以上の広範囲に降り注ぐらしく、教団周辺の土地も気流の関係からちょうど、灰が降りる場所なのだそうだ。 「つまり、その灰のせいで土地環境が悪化して作物が良く育たないと。」 「はい、灰の影響は教団本部設営の際から問題視されていたのですが、当時は資金面が厳しい状況だったらしく、むしろ灰が降るから土地も安く購入できるという事で、無視される形になったそうなのです。」 セイリスの説明を前回の教団についての講義とは打って変って、アイムは真剣に聞く。仕事であるという理由もあるが、根が農家なのである。 「灰については良くも悪くも無いんだけどなあ。水捌けが良すぎて、麦や稲なんかはあんまり育たないけど、地中に埋める様な作物ならむしろ良く育つし。」 地面に触れ、薄っすらと地面に積もっている灰に触れる。現在、アイム達は教団が指定した農作地に居るのだ。 教団内で一泊し、朝になって教団から土地に関する資料が届き次第、ここへ向かったのである。 「でも稲と麦が育たないってのは致命的じゃないのかい?私たちは教団内の食料自給を目指しているんだからさ。」 同行しているフラウも話しだす。確かにフラウの言う通り、主食関係の作物を育てるには、水もちの良い土地の方が優れており、この土地がそれに向かないというのは、かなりやっかいだ。 「芋関係ならどうです?あれならこの土地に向いてるし、主食にもなる。」 なにより腹持ちが良く、大量に生産できる。 「それも考えたんだけどねえ、何故かそっちも上手く育たないんだよ。」 「芋が育たないんですか?なんでだろ。」 芋は特に耕してもいない土地に埋めたとしても、成長する植物であり。他の植物が育たない様な状況でもスクスクと育つ作物なのだ。本来の農作地以外の場所にとりあえず埋めておいて、いざと言う時には非常食として取り出すといった使い方もされるくらいである。 つまり、その芋が育たない場所と言うのは、普通とは違う、なんらかの理由があるはずなのだ。 「うーん、土が悪いのも、灰じゃなくて別の理由があるのかも。」 アイムはランドファーマーの目線で土を見る。その目にはランドファーマーだけが見れる地霊が映るが、どこか普通の土地より数が少ない。 「別の理由ですか?前に土地を見てもらった農家の方は灰のせいだろうと申していましたが。」 「別に灰自体はそんなに問題じゃあ無いんだよ。育てる作物を選ぶってだけで、むしろ肥料になる物だし。農家ならそれくらいわかってるはずだから、多分、舐められたんじゃあ無いかな?」 初めて農業を始めようとする人に農家達は少し冷たいのだ。地道な作業を繰り返す農家は、つい内に籠りがちになり、新しい変化を嫌う様になる。 「でも、土地の悪さについては多分、本当にわからなかったんだと思うよ。調べようと思えば、結構、労力がいるし、相談を受けた程度の話じゃあ、そこまでやる義理も無いって考えたんだろうさ。」 「私、農家の方々はもっと優しい人たちだと思っていましたわ。」 セイリスは少し頬を膨らませる。彼女なりに怒っているのだろうが、そんなに怖くない。 「教団内で自給用の作物を育てようって言うんだから、商売敵にもなるだろうからね、あんまり、手伝うのは向こうも良い気はしないさ。」 農家だって商売なのだ。親切心だけで、自分達の商売圏を狭めようとは思わない。 「まあ、それも農家側の問題だからね、僕らは教団から報酬を貰う予定なんだから、出来る事はするつもりだよ。」 それでも、現状をどうにかできるかは実際問題わからない。 「こういった状態で一番、疑わしいのは日照関係なんだけど、ここの天気って他よりおかしいとか違っていたりしないのかな?」 「天気かい?時々、灰が降る以外は特に変わらないと思うけどねえ。」 フラウの答えは、ある程度予想していたとは言え、ありがたい物だった。さすがに天気に関しては、こちらでどうしようも無いからだ。 「となると土の問題かな。でも情報が足りないかも。」 「教団からの資料では駄目なのですか?」 「土に関しては、できるだけ広範囲で一定の距離ずつの情報が役に立つからね。教団内部だけじゃ無く。周辺の土地に関して、どうなってるのかも知っておかないと。」 周辺の土地を調べる事で、土壌の問題がどこまで広がっているかがわかる。そして、その範囲から何が原因で土が悪くなっているのかを調べ易くなるのである。 「そういった事なら俺がやろうか。農業関係については口を出せないが、調査や聞き込みくらいなら出来るだろう。」 今まで黙っていたリュンが喋り出す。確かに、農業関係には口を出さないつもりだったのだろう。 「なら頼みます。農作業用の土地についてもですが、一般家庭の菜園なんかについても調べてくれると嬉しいです。情報が広範囲かつ細かなほど、問題点がわかり易くなりますから。」 リュンなら足も強いし、口も上手い。効率よく情報を集めてくれるだろう。 「了解した。一日あれば、なんとか集められると思う。それまで、お前はどうする?」 「そうですね、もう少しこの場所で調べてみる事にします。セイリスとフラウさんは、とりあえず、休んでくれて良いですよ。暫くの間は、見ていても特に進展とかありませんし。」 二人にはやってもらう事もあまり無く、居ると気まずくなるだけなので、むしろ率先して休んでもらいたい気分である。 「そうかい?だったら、そうさせて貰おうかしら。」 「アイムさんもリュンさんも、一区切りしたら休んで頂いても良いのですよ?何も2,3日で、すべてを解決しろなどと言った依頼でも無いのですから。あと、相談する事があれば、私たちの作業場を教えておきますので、そちらに来て下されば、いつでも相手をさせて頂きますわ。」 そうは言っても、仕事は早めに終わらせる方が良いし、彼女達に負担を掛けるのも気が引ける。 「それじゃあ、何かあったら相談させてもらうよ。」 その言葉とは裏腹に、できる限り独力で解決しようと心に決める。どうにもセイリスの言葉には、こちらに対する信頼があるからだ。 これまで同行した期間が短いはずなのに、その様に信用されている以上、なんとか答えたいという気持ちが沸いたのである。
意気込みに対して、いつも結果が付いてくるかと言うと、そんな訳が無く。アイムは夜になるまで、農作地を調べるも、原因をなかなか掴めずにいた。 教団が農作地として選んだだけあって、日差しも悪くなく、降る灰も土に害を与えるほどの物では無い。では、他に土地環境を悪化させる原因があるのかと、調べてもこれと言って、問題がある様には見えないのである。 頼みの綱は、もうリュンが集めてくるはずの情報だったのであるが、 「作物が成長し難い土地は、灰が降る場所に限定されている様だ。他の場所はむしろ発育が良い土地だから、原因はやはり灰なんじゃ無いか?」 出た結果は、前進するどころか、振り出しに戻る様な物であった。 アイムとリュンが話す場所は、先日セイリスが教団についての説明を行った講義室であり、講義室内の机にはフィルゴ国の地図とリュンが集めた情報のメモ書きが、地図に合わせて置かれている。 状況を整理して、何か有益な発想が出ない物かと考えての事だが、どう見ても、灰が降る地域にのみ、土地環境の悪化が広がっている。 「でも灰が原因だとすると、灰が降るのを止める訳にも行かないし、屋根を付ければ日が当たらなくなる。どうしようも無くなりますよ。」 「素人だから良くわからんが、灰で土が駄目になるのは灰の中の毒みたいなのが、植物に悪影響を与えてるって事なんだよな?だったら、解毒みたいなのはできないのか?」 かなりニュアンスが違うが、リュンの言っている事は的を射ている部分がある。 「土中に植物が嫌うような物がある場合、農作地を水田化させる方法というのがありますけど。」 「水で土を洗うって事か。しかし、この土地は水捌けが良すぎるとか言っていなかったか?」 確かに、降る灰のせいか、それとも土地特有の物か、土にあまり水が溜まらないのである。 「あとは、まあその毒に対して解毒作用とある物を撒くって事ですが、灰ってむしろその解毒用に使われる物なんですよね。」 植物を同じ土地で育て続けると、何故か植物が育ちにくくなる。土中の栄養が悪いのかと、肥料を撒いても環境は変わらない。そこで、様々な物を撒いた所、何故か灰を撒いたら環境が良くなるという事があり、灰とは土地にとって良い物と見られる部分がある。 「それでも、集めた情報の結果は、灰が降る場所に被害が出ているんだぞ。灰が毒になるって事は無いのか?」 「なんでも大量に撒けば、それが何であろうと毒になり得ますけど、あの程度の降灰量じゃあ、毒には・・・。」 ちょっと待て、なら目で見る以上に灰が土中に含まれていたらどうだろう。 「どうかしたのか?」 「リュンさん、明日、またちょっと情報を集めてくれませんか?今度は土地に関してじゃなくて、この国の文化について。」 もし、想像した事が的中しているのであれば、それで原因が判明するはずだ。 「文化って、いくらなんでも範囲が広すぎ無いか?」 「だったら、とりあえず国の建築物に関する物とか、本当はいろんな方面から調べたいんですけど、多分、原因はそこにあると思います。」 「建築物について?まあ、良いけど、それって農業に関係する物なのか?」 この国に限っての事なら、大いに関係する物だと考えられる。 「まあ、それも、実際に調べてみればわかると思います。こっちはこっちで調べてみないといけない事があるので、そうですねもう一日あれば、こっちの準備が出来ると思いますよ。」 本当は、もう2,3日欲しい所であるが、まあ労力を掛ければなんとかなるだろう。 「なら俺も一日でなんとか調べてみるか、しかし文化となると、聞き込みだけで調べるのはちょっとなあ。」 「セイリスやフラウはこの国出身者だから、何か知っているかもしれませんよ。もう一度、会ってみましょう。僕もちょっと貸して貰らいたい物がありますから。」 「貸して貰いたい物?」 「ええ、コップが二つ。あとは、備蓄している植物の種なんかがあれば良いんだけど。」
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