大陸東部の中程、南部の森林地帯を抜けたその先にある広大な平野に、その国は存在する。 ヒューガ国と呼ばれるその国は、商人の国である事で有名であった。だがその国自体に商業が盛んである訳では無い。何故ならその国の商人達は、国内での商業よりも、他国へ赴き、旅を続ける中で商売を続ける事に価値を見出す者達だからだ。 その者達の名前をツリストと言う。その名は商人としての名前であると共に、種族としての名でもある。 ツリストはこの大陸の生命線だ。大陸の国同士の繋がりには、ツリストが旅を続ける事によって維持されている。その様に過大な表現を使ったとしても違和感の無い程である。 国内に定住する者にとって、外来人と言えば、だいたいがツリストをイメージしてしまう。それ程に旅を続ける者としてのツリストが建国した国、ヒューガ。そしてそれは、アイムの相棒であるリュンの故郷だ。 「ヒューガ国の印象として、行商人のツリスト達が建てた国なのだから、そりゃあ商人達が所狭しと商売をしているなんて思われているが、どうだ? 実際は大きく違うだろ。」 行商人の国だけあって、入国審査も手軽な物で、荷物検査などは殆どせず、アイム達はヒューガ国へすぐに入国できた。 今はヒューガ国内で、リュンにガイドをされながら、観光をしていると言ったところだ。 「どちらかと言えば、資産家達が礼儀正しく住んでいるって印象ですね、実際は。」 ヒューガ国内の建築物は、どれも豪邸と呼んで良い程の大きさがある家々が立ち並ぶ。 「いや、立ち並んでるって言うのも可笑しいですね。家以上にそれを囲む庭が広いんですもん。」 その広さたるや、一つの家の範囲に、町の区画一つが入りそうな勢いである。それも、平均的な広さの家がそれであり、範囲が広い物になれば、周囲を歩くだけで1日は掛かりそうな物まであった。 「これでも国内の中心都市だから、控えめな方なんだぞ? 郊外に行けば、町一つがすっぽりと入りそうなくらいに大きな土地と、それに引けを取らないくらいにデカい屋敷が建ってたりする。」 もうそこまで行くと、その執念はどこから来るのか疑問に思ってしまう。 「広い平野に出来た国ですもの。そう言った文化なのかもしれませんわね。」 セイリスはキョロキョロと町中を見渡しながら話す。小さなセイリスが、この国の中に居ると、より小さく見えてしまう。家の方はより大きくだ。 「文化かあ。まあそう言えるかもな。とにかくこの国では、大きな家に住む事が理想なんだ。だれもかれもが、デカい土地と屋敷を買って、そこで余生を暮したいと考えている。」 ブルジョアな話もあった物だ。これぞ商人魂とも言えるかもしれない。 「でも家で暮らしたいと思っていながら、行商人している人が多いんですよね。ちょっと変じゃないです? 」 旅に出れば危険は付き物で、安穏とした余生を暮すためとは言え、少々、リスクの多い職業だ。 「ただの家じゃなく、“デカイ”家に住みたいんだよ。そのためには、土地を買う金がいるし、どいつもこいつもその土地を欲しがっているから、生半可な金儲けじゃあ足りない。一代で一攫千金となれば、それこそ国を出て、金を稼いでくるしかないのさ。まさに故郷に錦を飾るためって事だな。」 そこまでして大きな家に住みたい物だろうか。アイムなどは、ちょっとした畑と小屋があれば、そこで老後を暮したいと思う物だが。 「何はともあれ、変わった種族って事ですね。」 「人の事を言える筋合いは無いと思いますわよ・・・。」 ジト目でこちらを見てくるセイリス。ランドファーマーのどこが変だと言うのか。ただひたすらに土地と農業を愛しているだけだと言うのに。 「余所から見れば、誰だって奇人で変人だ。一応、こんな文化になったのにも、事情があるしな・・・。」 リュンは羨まし気に、立ち並ぶ豪邸を見ている。 「事情って、なんですか? 」 「狭い場所が嫌いなのさ。ツリストって人種はな。」 複雑な表情で、視線を下に向けるリュン。もしかしたら、自分自身を見ようとしているのかもしれない。 「ああ、ですから宿に泊まるとなった時は、落ち着かない様子でしたのね。」 そう言えば、リュンが宿の部屋で寝ているのを見た事が無い。いつも、部屋の椅子に座っているか、部屋を出ているかのどちらかだった。 「まあな、だからツリストは、外に出かける体力も無くった頃には、広い土地と大きな家で余生を暮したい。」 それはリュンとて同様の考えなのだろう。彼が少々、金銭関係に厳しいのはそれが理由か。 「でも、それにはもっとお金を稼げる様にならないと。何はともあれ仕事探しですよ。リュンさんはこの国出身なんだから、コネくらいあるんでしょう? 」 リュンの事情を知ったせいか、仕事に対して、なんだかやる気が出てきた。これから、じゃんじゃんお金を稼ごう。 「コネかあ、あると言えばあるが・・・。まあ、顔を出すくらいはしとくべきかな。」 何やら深く考え込むリュン。コネとやらに関して、思う物でもあるのだろうか。 「とりあえず、心当たりがあるのであれば、向かうべきでは? わたくし達は、リュンさん以外、この国に関してあまりしりませんもの。」 結局、セイリスの発言が決め手となり、リュンの知るコネの場所まで向かう事となった。
町を北側に少し出ると、そこは自然と人工物との境目となっていた。町を出るのだから当たりまえの風景なのだが、リュンに言わせると少し違うらしい。 「実際に見る町の範囲より、町として定義されている範囲は少し広い。何故そうなっているかと言えば、そこは広い土地を買える場所だからだ。今は町の外側だが、将来は家が建てられる。ツリストが家を建てるとなれば、当然、範囲も広くなるからな。自然が広がる場所であろうとも、町の近くなら、それは町の範囲として含めちまうのさ。」 つまり、将来には間違いなく、町と呼べる場所となっているのだから、今から町に含めてしまっても問題無いと言う事か。 「でも、なんでそんな場所に向かってるんですか。結局は、町の外に変わり無いんですから、仕事が無いと思うんですけど。」 人が多い場所にこそ、仕事があるはずだろうに。郊外に向かえば、それに比例して、仕事の需要も無くなってしまう。 「町の外に何も無いって訳でも無いんだ。新興住宅地みたいなもんだからな、一攫千金を成功させて、新しく家を建てた連中がそこに住んでいるのさ。そうして、そんな人種は、だいたい金遣いが荒い。こちらとしては、払いっ振りが良いって言った方が適切か? 」 ようするに報酬の多い仕事にありつける可能性が高いのか。 「ですけれど、人気の無い場所に向かえば仕事自体が少なくなるのは、変わりませんわ。そちらの方はどうしますの? 」 「だからこそのコネだ。一攫千金で家を建てる様な連中に知り合いが居る。まあ、一応、信頼度に関しちゃあしっかりしている人でな。本人に仕事を依頼される事は無いだろうが、なんらかの伝手くらいは紹介してくれると思うぞ。」 何かにつけて物事を捻くれて考えるリュンにしては、信頼などと言う似つかわしくない言葉が出てきた。 そのコネに関しては、結構信用しても良さそうである。 「それで、やっぱりその人も一山当てて、郊外に新築の家を建ててるんですか? 」 「新築ってほどでも無いけどな。家を建てて15年くらいか、それくらいは経ってるはずだ。それでも、一代で一財産を稼いだ事には変わりないか・・・。」 また物思いに耽るリュンであるが、足を止めず、ただ一つの方向を目指して歩いている様だった。
郊外に家を建てるのは不便では無いかと思うのだが、大きな家を建てるとなれば、むしろ向いている場所だとアイムは知った。 その家と言うより土地は、疎らな塀に囲まれた場所である。塀がすべての場所を囲めないのは、その土地の広さからだろう。あくまで、土地と土地を区別するために置かれたその塀を、土地の端から端まで観察しようとすれば、反対側が霞んで見えそうな距離である。 一方で、その土地の丁度真ん中に建っているのが、土地の持ち主が住む家だろう。 さぞや豪奢な作りなのかと思いきや、外見はシンプルかつ単純な物で、二階建ての白無地の外壁に、バランスを崩さない程度に窓や扉が配置され、屋根なども凝った作りでは無い三角屋根であった。 ただそれは、あくまで一般の家屋としての大きさであればだ。土地の広さと競い合う様に家は大きかった。 普通の家がそのまま引き伸ばされた様な印象を受けるその屋敷は、すべての物が大きく見える。屋根も外壁も、玄関であろう扉も、サイズが狂っていると感じてしまう。もし、外見通り二階建てなのだとしたら、いったい一階分の高さはどれ程に高いのだろうか。唯一、大きさが普通である窓であるが、その数は、家に合わせて多数配置されており、より一層、外見の不可思議さを際立たせている。 「なんでしょうねこれ。悪趣味と言えば良いのか・・・。」 感想に困る家だ。一つ一つのデザインは普通なのだ。それを無理矢理大きくしたから可笑しな事になっている。 「とりあえず家を大きくしようとしたらこうなったらしい。別にそれ程豪華な外装も内装もいらないと注文したのが拙かったそうな。」 それはまたご愁傷様である。外見はともかく、金も資材も掛かっているだろうに。 「だが、それでも当人は満足している。単純な作りのおかげで、当初の予定より屋敷を大きく建築できたからな。」 いったいツリストのどこから、その様な大きい家に対する執念が湧いてくると言うのか。 相棒も、同じ価値観を持っているかもしれないのなら、少し距離を置くことを考えなければならない。 「それにしても、随分とあちらのお屋敷について詳しいのですね。ご友人なのでしょうか。」 小首を傾げ、セイリスはリュンを見る。確かに、リュンはこの屋敷について、何故か詳しい。理由でもあるのだろうか。 「そりゃあ詳しくもなる。」 そう返して、リュンは屋敷へと早足で向かう。喋りながらも歩き続けて来たので、屋敷の玄関からは、もうすぐそこだ。 本来、門や塀によって遮られているはずの屋敷の庭へは、すべてを覆えず、疎らに存在する塀の間から入る事が出来ている。 リュンの後を追う形での侵入であるが、随分と失礼かつ迂闊な事をしているのでは無いだろうか。 「あの、それってどういう・・・。」 聞き返すアイムを無視してか、歩みを続けるリュンは、ついに屋敷の扉に手を掛ける。 扉に力を込め、軋みの音を立てながら開いていくそれを見ながら、リュンはようやく答えを返してくれた。 「自分の家に詳しくない奴なんて、そうは居ないだろ。」
扉が開くと共に、備え付けられたベルが鳴る。これでリュン本人の家で無ければ、完全に不法侵入であるが、リュンは気にもしていない様子だ。 扉から入った先には広間があり、一階から二階までの吹き抜けが存在する。両端に二階への階段が設置され、正面に扉が3つ、左側に1つ、右側に2つある。これほど扉のある家を見た事は無いが、恐らくそれらの扉の先には、さらに多くの部屋が連なっているのだろう。 「おーい、誰か居ないのかー。」 リュンは辺りを見回しながら大声を出す。来客があったのは先ほどのベルで気付いているはずだ。誰も居ないのに、扉の鍵を開けたままにする程不用心と言う訳でもあるまい。 「あらあら、その声はリュン坊ちゃんかしら。」 階段の上から声が聞こえて来た。ドテドテと音を立てながら、太った老婆が階段を降りて来る。 「やあ、シィル。相変わらず元気そうでなによりだ。」 「いやですよ、リュン坊ちゃんの方がもうっと元気じゃありませんか。行商人として一旗揚げると家出てからは、それはもうさらに生き生きとして。」 最初はリュンの母親かとも思ったが、リュンを坊ちゃんと言う以上、もしかして・・・。 「あの、その人はいったい。」 「ああ、この家で雇ってるお手伝いさんだよ。この広い屋敷の掃除から料理まで、一通りやってくれている。」 やはりお手伝い。あの大きな屋敷にかならず存在すると言う幻の。 「何を考えてるのかは知らないが、それ程凄い事じゃないぞ。この国じゃあ、家を持てば家政婦を一人以上雇うのが義務なんだ。」 「そうですよお。家の事だって、本当に何から何までやってる訳でもありませんもの。」 腰が曲がっているからか、それとも太っているからか、その丸い体でシィルと言う家政婦は笑う。不思議と愛嬌のある姿だ。 「それは変わった義務ですのね。国内で雇用を作るためでしょうか。」 「まあ、それもあるよ。この国では重要な法律の一つでな。」 そのまま話を続けようとするリュンであるが、それを遮って、家政婦のシィルがこちらに話をする。 「リュン坊ちゃん。この方々の紹介がまだですよ。いくら家政婦と言っても、坊ちゃんの知り合いを紹介してくれたって良さそうなもんじゃないですか。」 そう言えば自己紹介がまだだった。 「あ、すみません。リュンさんの仕事仲間、で良いのかな、ランドファーマーのリュンです。」 「わたくしはエルフのセイリス。アイムさんと同じく、リュンさんの仕事仲間ですわ。」 自己紹介を終わると、シィルは丸い体をさらに丸くして、ペコリの頭を下げる。 「これはこれはご丁寧に、この家で家政婦をしているシィルです。坊ちゃんの仕事仲間だなんて、外では立派にやってらっしゃるんですねえ坊ちゃん。」 実際はそれ程立派と言う訳でも無いが、ここはリュンの名誉のために黙って置く。 「まあ、それなりだ。それよりその仕事に関して、兄貴か親父に会いたいんだが。居るか? 」 「レェン坊ちゃんなら、仕事に出ていますよ。本格的に旦那様の商業を継ぐそうで、大忙しみたいです。旦那様ならお部屋に。」 話の内容からして、そのレェン坊ちゃんと言うのが、リュンの兄で、旦那様が父親なのだろう。しかし、坊ちゃんだの旦那様だの、リュンは随分と金持ちの家に生まれた様子だ。 「それじゃあ一度親父に会ってみる。仕事以外にも、色々と積もる話もあるし。」 彼は旅を続けているのだから、久しぶりに親子の対面だ。そりゃあ話す事はいくらでもあるだろう。 「はいはい、仕事仲間さん達もご一緒かしら。」 「一応、連れて行くつもりだが、お前らはどうする? 」 リュンはこちらに振り向き、聞いてくる。 「当然、会いますよ。仕事にも関係して来るんでしょう? 」 セイリスもうなずく。それにリュンの父親と言うのがどういう人物かも見てみたい。この底意地の悪そうなツリストをどの様に育てたのかも聞ければ聞きたい。
広い屋敷を二階に登り、奥にある少し大きな扉をリュンは開ける。そこは寝室の様で、大きく複雑な彫り物が刻まれ、柔らかく寝心地の良さそうなベッドが窓際に配置されている。 部屋の絨毯には、リュンの服にも刺繍されている、ネコ科らしき動物の模様が描かれていた。 「おお、リュンか。久しぶりだな。なんだ、仕事が大変で出戻って来たか。」 ベッドから声が聞こえて来る。壮年で、寝ながらでもわかる高身長、どこかリュンと似通った雰囲気を持つ男性が、ベッドから上半身を起こし、こちらを見ていた。 「仕事は大変だが、それが理由で戻った訳じゃないさ。どちらかと言えば、漸く軌道に乗り始めたから、その報告とツテを頼りに、かな。」 随分と親しそうな間柄だ。親子なのだから当たり前であるが、なんとなく、頑固な親と生意気な子供と言う関係を想像していただけに拍子抜けだった。 「一端に親を頼る様になったか。もう子供としては見れんな。うん? 」 笑いながら、リュンの父親がリュンを見る。そこから視線を横へと向けて行く。こちらの存在に気付いてくれたみたいだ。このまま親子の語らいが続いて居ては、この場に居辛くなってしまう所だったので、安心するアイム。 「ああ、紹介がまた遅れた、こいつらは仕事を手伝ってくれている、アイムとセイリス。まあ、仲間だよ。」 頬を掻き、どこか恥ずかしそうにしているリュン。仲間という言葉を使うのに慣れていないからだろうか。 「ほう、今度は仕事仲間と来たか。軌道に乗り始めたと言うのも嘘では無いみたいだ。ツテを頼りたいと言ったな、どうだ、話してみろ。お前が一人前にやっていると言うなら、こちらにも損は無いのだろう。」 親子の仲が良いと言ったが、どこかビジネスライクな付き合い方でもある。こういうのがツリストの一般的な関係と言えるのか。 「その前に、今どんな仕事をしているか説明しないとな。アイム、話してくれ。」 「ええ!? 僕がですか? いきなりこっちに話を振らないでくださいよ。」 どう考えても、リュンとその父親が話す場面だろうに。 「おお、君がアイム君か。と言う事は、隣の小さな淑女が、セイリス君だね。私はこの生意気な男の父でウォルドと言う。君は恐らく、この男がやっている仕事の中心人物なのだろう? だったら君が直接話してくれた方が理解しやすい。そう考える男だよ、私の息子はな。」 快活な笑い顔をして話すウォルド。親子では笑い方も違うらしい。少なくともこちらは、好感が持てる類の笑い方だ。 「はあ、まあ、良いですけれど。上手く説明できるかわかりませんよ? 」 そうして、自分達がしている仕事内容を話す。要するに、国や地域毎で断絶しがちな、農業知識を売り歩くと言う内容だ。その強みとして、自分のランドファーマーとしての能力があるのだが、他種族には秘密にしているので、単に自分が農業の専門家であるからと誤魔化して置いた。 「ふむ。面白い点に気付いた物だ。確かに農業関係の仕事は、旅を頻繁にする我々には縁無い物と、ツリストは見過ごしがちだからな。私もそんな普通では考えない商業圏を開拓して、一財産を築いたつもりだよ。」 お世辞では無く、純粋に感心している様子だ。商人の目とでも呼べば良いのか。 「あの、失礼でなければ、ウォルドさんが開拓した商業圏と言う物を、教えていただきたいのですが・・・。わたくし、そういった事に少々興味がありますの。」 セイリスはウォルドの話を詳しく聞きたい様子だ。彼女の興味と言えば、彼女が信者をしている純血教関係だろう。ウォルドの開拓精神は、純血教の教えにも繋がるとでも考えているのだろうか。 「私の商売かね? まあそんなに面白い話では無いよ。この国から他国へ伸びる道に目を付けてね。使われていない流通路を見つけては、そこを開拓して行ったのだよ。」 「さらりと仰っていますが、流通路の開拓と言うのは、大事業じゃございません? 」 まあそれはそうだ、どんな小さな道であろうとも、目的地までの距離があれば、それを開拓する際に、資源も資金も必要になる。 「ああ、だから直接は関与していないよ。ただ、自分で積極的にその道を使い、その流通路で少しでも儲けを出すんだ。そして、その儲けを殊更アピールする。あの道のおかげだとね。そうすれば真似をするやからが増えてくる。」 なるほど、そうして流通路を利用する人が増えれば、どこかの誰かが、流通路をより利用し易い状況に変えて行く事になる。つまり、自分はそれほどの労力を掛けずに、新しい交易方法を見つけられると言う訳だ。 「でも、それで一財産って言うのは言い過ぎじゃありませんか? だってそれじゃあ、流通路を新しく見つけただけだ。」 商売はし易くなるだろうが、それだけで多くの金銭が生まれる訳では無い。結局は、物を売らなければ儲けは出ないのだから。 「だがそれでも小金は手に入るだろう? なら次は同じ様に使われていない道を見つけて、噂を広げ、さあ開拓しようとなった時、自分もその開拓を支援するスポンサーになるのさ。そうすれば、道が完成した時、その道が出来た事に対する利益が、私にも少しばかり入ってくる。道の宿に荷馬車、流通が盛んになった所には、道を整備と保安のためと言って、使用料を取る場所もあったなあ。まあ格安でだがね。そうやって、道毎に少しずつ利益を出せば、寝ていても、利益を得る様になるのさ。」 なんともまあ、計画的な儲け話だ。なにより凄いのが、この計画に、損をする者が殆どいないと言う事だ。唯一損をしそうなのは、道の使用料を取られる旅人なのだろうが、それも、既存の道で取られるのでは無く、新たに開拓された道で取られるのだから、仕方ないと考えるだろう。 「さて、私の商売については話したかが、君たちはどうなのかね? 私をコネに、何かしら仕事をしたいのだろう? 」 そう言いだしたのはリュンなのだから、彼自身に話して貰いたい。アイムにはいったい、ウォルドが持つツテの、何を利用したいのか詳しくは知らない。 「ああ、その件だが。実は親父の商売に直接関わる事じゃないんだ。そっちは兄貴の領分だしな・・・。」 何故か複雑な表情をするリュン。親子間の仲は良いが、兄弟間は微妙なのだろうか。 「そう言われては、尚更聞いてみたくなる。いったい何が目当てなんだ? 」 ウォルドの目は、完全に商売人のそれとなっている。雰囲気的に、もう隠居しているのかとも思えたのだが、案外、現役なのかもしれない。 「親父みたいな成金を紹介して欲しい。特に新しく家を建てて、土地を持て余してる奴。こう言っちゃあなんだが、そんな知り合い、結構多いだろ? 」 実の親に向かって成金とは良く言えた物だが、その親も別に気にしていないのでお互い様か。 「ふうむ。そりゃあ何人か心当たりは居るが、何をするつもりだ? 」 息子とは言え、知人に紹介する以上は信用が必要なのだろう。 「さっきも説明した通り、農業に関する知識を提供するのさ。必要なら道具を提供しても良い。」 思ったより特別な仕事では無さそうだ。しかし特別で無い以上、儲けが出るのかは怪しい。 「いくら金を持っているからと言って、それで食いついてくるか?」 「そこは売り込み次第だろ。親父みたいに半ば引退した後も収入がある奴ならともかく、大半が若い頃に稼いで、老後にそれを食い潰すつもりの奴が多いんじゃないか? じゃあ余ってる土地で農業でも始めてみないかって紹介してくれるだけで良いんだよ。」 ああ、確かに現在は裕福でも将来が分からない以上、少しでも安定した収入欲しいと思う物だろう。 農家のアイムにとっては、農業が安定した収入を生み出すと言うのは些か疑問だが、まあ、そこは商売なので黙って置く。 「ああ、なるほど、新興の金持ちってのは次に安定を求める物だからな。商売相手が金を持っている以上、上手くやればそれなりに実入りがある。しかし、そういう考えが思い浮かぶって言うのは血なのかねえ。」 感慨深そうに顎に手を上げ、何かを思うウォルド。疑問に思ったのか、セイリスが何を考えているのかを聞き出す。 「どういう事ですの? 」 「ああ、こいつの兄貴の事だよ。」 ウォルドは顎をしゃくり、リュンを指す。一方で、兄と言う言葉が瞬間、リュンはあからさまに動揺した表情をした。 「兄貴が、何かしてるのか? 」 「ああ、お前と一緒さ。新興の家を狙って、一商売する気らしいんだよ。」 思わぬ所でライバル登場であった。
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