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作品名:ランドファーマー旅行記 作者:きーち

第19回   六つ目は星空の下で(3)
 星々の輝きが山頂を照らす。その光は木々や雲に遮られる事無く、アイムにまで届き、彼の心を躍らせていた。
 月はいつもより心なしか大きく見え、美しさもそれに比例する様に増している。月には人を魅了する力がると言ったのはだれだろうか。アイムも同じく、月の光に魅せられ、目線を外そうとしない。
 山頂にある高台に全員で登り、アイム達は空を見続けていた。流星はまだ流れず、空は変わらず星と月を浮かばせているが、不思議と飽きない。ふと月とは別の光がアイムの目に映る。星の光だと思ったが、その光が月を横切るのを見て、そうでは無いと知る。流星である。
「おお、とうとう流れ出したぞ。さっそく観察だ。」
 アイムと同様に空を見ていたドロクモが、望遠鏡を持ち、空を覗く。流星は少しずつであるが、空に増えており、それが明らかにただの流星では無い事がわかった。
「想像以上の近い距離に、流星がある様に感じますの。」
 セイリスは、空に溢れようとする流星を見て、そんな感想を漏らした。アイムも同意見である。今、空に流れている物は、普通の流星よりも近い距離、それも、雲のこちら側に星がある様にすら感じる。
「いや、確かにこれは流星が空の下にある。あれは間違いなく、星以外の何かだな。」
 リュンは目を細めて空を見る。彼の目は遠くの物が良く見えるらしく、アイムには見え難い物が見えるのだろう。
「へえ、ドロクモさんは何かわかりましたか。」
 目が良い程度のリュンでそうなのだから、望遠鏡で夜空を見続けているドロクモには、あの流星が何なのかがわかるかもしれない。
「うむ、わからん。」
 自信満々でドロクモが頷く。
「ちょっと、なんのためにその筒を覗いてるんですか。」
 それにその満足気な表情はなんだと言うのだ。
「いや、見える事には見えたのだがね、光輝いて居るからか、正確な輪郭が、良くわからんのだよ。」
 目を何度も瞬きさせながら、ドロクモは言い訳をする。まあ、光る物を見続ければ、良く見えないし、目も疲れるだろうが。
「じゃあ、僕にも見せて下さいよ。もしかしたら、何か見えるかもしれませんし。」
 アイムの要望に、ドロクモはあっさりと、手に持つ望遠鏡を渡す。高価な物かもしれないが、使わなければ損だと考えたのだろう。
「う、うーん。」
 望遠鏡を覗き、天を見るも、その円状の視界の中に、流星を捉えるのにまず苦労し、捉えたとしても、その光によって、流星が良く見えないまま、視界の外へと逃げて行く。
「なんですかね。本当に良くわからないや。」
 これではドロクモの事を悪く言えないでは無いか。
「とりあえず、空のドラゴンは、光輝いていると言う事はわかったんじゃないか? 」
 茶化す様にリュンが笑いながら、アイムを見る。そんな暇があれば、空を観察したらどうなのだ。
「ほう、それは興味深い。体に発光器官でも備えているのか・・・。」
 リュンの言葉を聞いて、何か思う事でもあったのか、急に考え込みだすドロクモ。
「ちょ、ちょっと、今はせっかく空にドラゴンが居るんですから、そっちを見ましょうよ。」
 アイムはなんとしても、ドラゴンが放つ光の向こうを見たかった。なんとしても、ドラゴンの真の姿をこの目に収めたいのである。
 もしこの気持ちを探求心と呼ぶのならば、アイムの心は今、それに溢れていた。
「そんなに慌てる必要は無いと思いますわ。だって・・・。」
 セイリスが空を指さすと、その先には多数の大きな流星が流れている。
「あれ、大きい? 」
 どんな世界であろうとも、流星とは細く小さく見える物だろう。だが今、空を流れるそれは、太く大きく見える。というよりも、徐々に大きくなって居る様な・・・。
「おい、どういう事だ。あの流星、こっちに近づいて来ているぞ! 」
 頬に汗を流し、リュンが叫ぶ。叫ぶ相手はドロクモだ。
「ふむ、一つ仮説があるが、聞いてみるかね。」
 悠長にそんな事を話すドロクモであるが、他の3人はただ、近づいて来る流星を見ている。
「とりあえず、この山は神が降りる場所として知られているが、それは何故だろうか。昔話や民話には何か、ルーツとなるものが存在しているはずだ。」
 ドロクモは返事を返さないアイム達を肯定の意味であると勘違いしたのか、話を続ける。
 一方、アイム達は空から目が離せない。近づいてくる流星が、一つでは無いと気付いたのだ。
「そして、この地方では流星が良く見えると言う話も伝わっている。この二つの語り継がれてきた話は、無関係では無いのかもしれない。つまり、山に降りた神と、流星がだな。」
 流星は既に、その大きさを月と同じほどに広げながら、なおこちらに近づく。まるで、山に向かって落ちて来ている様だ。
「ちなみに、この地方の流星は、どの方角から見ても、山に向かって流れる様に見えるらしいね。これは聞いた話だが。」
 それはつまり、流星は山に落ちると言う事だろうか。
「今日、この日に、山に登っているのが僕達だけな理由が、なんとなく理解できた気がします。」
 ただ、もう少し、その理解が早ければ良かったとアイムは考えていた。
 落ちる流星は、もう既に月よりも大きくなり、山頂を照らしている。まるで昼の様に輝くその場所で、アイムは立ち尽くすしか出来なかった。
 光は山を包み込む。アイムはもう光で前も見えず、よく光と闇が対比される事が多いのは、光が集まれば、何も見えなくなるからなんだろうな、などと考えていた。

 世界が夜の黒から光の白へと移り変わる。闇夜の方が、物が良く見えるというのは、なかなか可笑しい話であった。アイムはその白の世界が、もしかしたら死後の世界なのかもしれないと考えていた。それ程までに、この光の輝きは、激しかったのだ。
 しかし、体の感覚が、まだ自身は山頂に居る事を教えてくれる。どうやら、山頂へと落ちてきたドラゴンに、押し潰されたと言う訳でも無い様だ。
「い、いったい何が。」
 どうやら、言葉も発する事が出来るらしい。と言う事は、自分は山頂に立ったままで居るのだろう。光の原因は、山に落ちてきた流星である事はわかっている。
 そこまで考えて、今、自分達は落ちてきた流星である、ドラゴンに囲まれているのでは無いかという事が思い浮かび、アイムは身震いをした。
「もしかしてじゃなく、この光はそう言う事だよね。」
 妙な怖さをアイムが感じている内に、視界を覆う光が徐々に晴れて行く。目の慣れもあるのだろうが、それより、光自体が弱くなっているのだ。
「なんだろう、嫌な予感しかしないや。」
 光から解放された視界に映る影は、アイムに恐れしか感じさせない物である様だ。
 最初に映るのは、アイムの仲間達の影。それは、アイムと同様に茫然とした者の影でもあった。
 そして次に映るのは、山頂の影である。山頂はそこに変わらず存在するのだが、どうにも様子が変である。流星が落ちる前と風景が違っている様な。
 その原因は三つ目に映った影である。その影は一つでは無く、複数存在した。影達は蛇の様に細長く、とぐろを巻きながら、山頂でうねうねと動いている。
 蛇と違う点と言えば、その大きさで、小さい物でも、アイム5倍以上の身長はあるし、それもとぐろを巻いている状態での高さである。この影の大きさによって、山頂の様子がおかしく見えたのだろう。
 この蛇の様な巨大物からは、まだ薄らと光が出ており、未だその輪郭を知る事は出来ない。
「な、なんなんですかね。あれ。」
 アイムと同じく、山頂に存在する大きな蛇らしき物に、意識を向けている、リュンやセイリス。
 彼らの意見を聞きたくて、アイムは話しかける。
「なんなのかって、俺にわかる訳無いだろう・・・。」
 真っ先に返してきたのはリュンであるが、あまり役に立たない返事であった。しかし、この状況では仕方の無い事であろう
「間違いなく、空から落ちてきた流星だろうねえ。まあ、ドラゴンでもあると思うが。」
 答えたのはドロクモである。他の三人とは違い、どこか冷静な表情で、大きな影を見つめている。
「でしたら、あの、わたくし、この状況は、とても危険なのでは無いかと思いますの。」
 混乱と緊張が入り混じった様子でセイリスは話す。確かに、今、自分達はあの大きなドラゴンの群れのど真ん中に居ると言う事だ。もしドラゴンが凶暴な生物であれば、自分達の命はここで終わる可能性が高い。
「恐らくは大丈夫だとは思うが、まあ、今は襲われていない訳だからね。」
 その答えはちっとも安心出来る物では無かった。今、襲われていないと言うだけで、次に襲われる可能性は有るからだ。
「余計な行動は、危険かもしれないな。下手に刺激したら、どうなるか分かったもんじゃない。」
 リュンの言う通りである。例え、この生物にこちらに対する敵意が無いとしても、この大きさと数である。ドラゴンの何気ない行動一つ一つが、こちらにとっては危険である事を、アイムは承知していた。
「・・・。」
 誰と無く、言葉を発する事を辞める。今はただ、目の前のドラゴン達が危険なのかどうかを観察する時である。
 光が弱くなって行くのを感じる。影としか見れなかったドラゴン達が、再び山頂に星々の光が届く事で、その姿を現す。
 胴体を見た瞬間は、それが巨大な蛇の印象を受けた。鱗と蛇腹を、そのまま巨大化させた様なそれは、確かに蛇であった。
 しかしその顔は蛇と言うよりワニに近い形相だ。だが、まるっきり同じと言う訳では無く、どこか獣を思わせる印象も混ざる。頭部から生えるたてがみと、森のドラゴンとはまた違う、木の枝に近い形の角が、そう感じさせるのだろうか。
 一方で尾は細かい毛が縦に生えそろっている。農家のアイムには、それが鋤の様にも見える。
 しかしそれでも、手足の無い外観は、全体の印象として、蛇を巨大化させた物なのだろう。
 何故、この様な生物が、体を光らせ、空を飛び、なおかつこの山頂に降り立ったのか。アイムの思考では、その答えを見出す事が出来ない。
 どれだけの時間が経っただろうか。少しか、それとも多くなのか、感覚が麻痺しているせいか、わからないが、夜が明けるまでの時間では無く、まだ、山頂が星空の下にある頃、アイム達を無視する様に、ドラゴン達は山頂の中心へと動きだした。
 その動きはさっきまで空を飛んでいたとは考えられないくらい、地べたを這いずり回る動きであった。
「どうにも、敵じゃあ無いとは思ってくれたみたいだな。」
 暫くの静寂の後、最初に言葉を発したのはリュンである。
「あれ、それほど凶暴じゃあ無いって言うのは観察できたな。」
 彼はドラゴンを指差しながら、そんな軽口をたたけるくらいには余裕が出てきたらしい。
「もしかしたら、今はお腹がいっぱいで、食べる気にならないだけかもしれませんよ。」
 ドラゴンのいかつい顔は、肉食獣のそれに見えてしまうアイム。
「今まで空を飛んでいたのですから、食欲が無いと言う訳でもないと思いますの。」
 怖い事を言わないで欲しい。ただでさえ麻痺していた感覚が戻ってきて、恐怖を感じだしたと言うのに。
「私の予想では、あれは人を襲うと言う事は無いはずだよ。空のドラゴンに襲われたと言う話も聞かないしね。」
 今まで、うむうむとドラゴンを見ながら頷いていたドロクモが、会話に入ってくる。
「それって、襲われた人が生き残っていないって可能性もある訳ですよね。」
 死人に口無しと言う奴である。
「確かにな。だが、彼らの生態を考えれば、そうでは無いとわかるはずだ。」
 そう言われても、その生態とやらがわからないから、こうやって調べている訳で。
「彼らのあの巨体を見給え。あの巨体と体格、どう見ても空を飛びそうに無い体で、空を飛んでいるのだよ。そのためのエネルギーは莫大かつ特殊な物となるはずだ。それを補うための食事が、ただ我々を襲うだけのはずは無いだろう。」
 もしかしたら、燃費の良い体をしているだけかもしれないでは無いか。
「まあ、いくら心配したって仕方の無い事ではあるんですけどね。ドラゴンがこっちを襲うつもりなら、もう逃げ場なんて無いんだし。」
 それよりも、ドロクモの様にドラゴン観察と考察をした方が賢明なのかもしれない。
「なら、仕事だなあ。でも見た目はあんな通りだと分かったなら、今回は大収穫なんじゃ無いか? 空に棲むドラゴンをこれだけ身近に観察したのは俺達くらいだ。」
 それも、この地方に流星が降る時期に見れる物だとわかった訳で。定期的に観察出来る場所も見つけた事になる。
「あら、でしたら、隙を見つけて山を降りるだけで、今回の仕事はお終いですわね。」
 まあ、その隙を見つけると言うのが大変な事かもしれない。うかつに動けば、あのドラゴンはどの様に反応するやら。
「ちょっと待ちたまえ君たち、観察対象が目の前に居るのに、ここで山を降りるなどと、正気なのかね? 」
 学者先生の意見はそれで正しいかもしれないが、これまでに起こった件でいろいろと混乱しているので、そろそろ勘弁して欲しいのが本音である。
「だいたい、これ以上素人が見たって、得る物がありますかね。」
 あのドラゴンの見た目の印象が怖いという観察結果以外を、アイム達が知る事は困難に思えた。
「私は素人では無く学者だ。それもドラゴン専門のな。」
 自慢げに言うが、空に棲むドラゴンについては、それほど詳しく知らなかったでは無いか。
「もしそうだとしても、観察するのは先生だけで良い事になるな。俺達は先に下山してるから、じっくりドラゴン調査を続けてくれ。」
 無情にもそう返すのは、もちろんリュンだ。彼にしてみれば、少ない報酬で危険な事をしたくはないのだろう。
「いやいや、君たちにもすべき事は沢山あるぞ? 例えば、あのドラゴン。降りてくる時は、発光していたが、今はしていない。どうして光っているのか、何故、今は光っていないのか。そんな事を考えるくらいは、君たちにもできるだろう。な、な? 」
 ドロクモはどうにもアイム達をこの場に引き留めたいらしく、リュンの服の袖を掴みながら力説する。
「その様な事を仰られましても、わたくし、生き物が光る理由なんて思いつきませんわ。」
 まあそうだろう。セイリスは博識であるが、それは生き物にまでは及ばない。当然、セイリス程の知識も無いアイムにとっては尚更だ。
「ふむ。ある種の魚は雷にも似た光を発する事がある。それも、あのドラゴンの様に細長い体の構造をしているのだよ。ドラゴンの光は、雷の様に周囲へ衝撃が走る物では無かったが、あのドラゴンが光を発する能力を、身体の内に秘めていたとしても、おかしくは無いだろうね。」
 なるほど、生命の神秘と言う奴か。ドロクモはドラゴンだけで無く、他の生物に対しても詳しいのかもしれない。
「なるほど、なら、なんでそもそも光っているんですかね。」
 わざわざ遠くからも見えるくらいに光を放つ以上、何か理由があるだろう。
「それについても、様々な理由があると思うよ。仲間の識別、空を飛ぶ際の目印。威嚇の意味合いだってあるかもしれない。実際、強い光に対して恐怖を覚える生物は多い。」
 やはり、ドロクモはドラゴン以外の生物に対する知識も、一応は備えているらしい。まあ、そうでなければドラゴンを調べてみようと考える事も無いか。
「よし、これで謎に対する考察は出来た訳だな。さっそく下山しよう。」
 ドロクモ一人で、ある程度の調査が出来る事が確認できたので、尚更、ここに居る理由が無くなった。
「ま、待ってくれ。そんないけずな事をするな。こんな所で、こんな状況の中、一人で置かれたら・・・。」
「あ。」
 ドロクモはアイム達に向かって懇願するが、その悲鳴は、かなり大きく、ドラゴンの耳にも聞こえたらしい。
 一匹のドラゴンがこちらのじっと睨み付けてくる。
「・・・。」
 再び沈黙してしまうアイム達。その姿を見て、興味を無くしたのか、なんとかドラゴンはこちらから目線を外してくれた。
「ほ、ほら、凄く怖いじゃないか・・・。」
 そのドロクモが発した言葉は、まだ観察内容が残っているという理由よりも、アイム達を引き留める理由としては、よっぽど説得力がある物だった。

 いざ山頂でドラゴンの調査をするとなった時、初めに考えたのはどの場所で調査をするかであった。
 これだけ物々しい雰囲気の中、開けた場所でドラゴンを観察するのは抵抗感がある。かと言ってドラゴンから離れすぎては元も子も無いので、ドラゴンが集まっている周辺の木陰に隠れながらの調査となった。
 傍から見れば、随分と間抜けな様子だろうが、アイム達にとっては生死に関わり兼ねない事柄なのだ。
 そんな中、ドロクモは怯えた小さな声でアイム達に話掛けてくる。
「先程はあの様に言ったが、こうやって観察を続ける事にはしっかりとした意味があるのだよ。」
 そうは言われても、ドラゴンに興味を持たれない様なヒソヒソとした声で話すドロクモを見ると、先程の件はどうしようもない本音である事は誰にでもわかる。
「まあ、ちゃんとした意味も無く、こんなところでドラゴンを見てるなんて、認めたくも無いですけど。」
 体を引きずりながら山頂を動き回る蛇のごときドラゴンは、それ以外に変わった動きをみせずに居る。
「だろう? だが、実際にこのまま観察を続ければ、かなりの可能性で、疑問が一つ解決する事になるのだ。」
 なんだろうか。ただ見ているだけでドラゴンの生態が分かれば、苦労は無いと思うのだが。
「要はどうしてこの山に降りてきたかって事だろう? 」
 意外にも、アイムの考えを聞いて答えるかの様に話を続けるのは、リュンであった。
「その通りだ。この山に集団になって降りてきた以上、それには意味があるはずだが、まだ我々はそれを知らない。しかし、ここで見張りを続け、ドラゴンの行動を具に観察をすれば、自ずと答えは出てくるはず。」
 それはまあ、そうだろう。これからドラゴンが何をするかを見れば、それが答えになるのだから。
「ある意味、第一発見者の特権とも言えますわね。他の生態に関しては色々と念入りな調査や研究が必要ですけれど、今回はただ見ているだけで宜しい様ですし。」
 それならば、今回の仕事を請け負った甲斐がある。少なくとも、自分達の存在が役に立ったと言う結果は残せそうであるし。
「ぶっちゃけ、なんであのドラゴン達は山に降りてきたんだと思います? 」
 これから分かる事だと言っても、やはり気になる。暇つぶし程度の話題にもなるだろうと考え、アイムは他の3人に聞く。
「さあなあ、あのドラゴンを見てみろよ、普通の動物とは全然違う風体だろ? 予想も出来ない事をしでかしても、意外でもなんでも無いね。」
 リュンの答えは、要するに見て見なければ分からないと言うものである。まあ、確かにそうなのであるが、それで終わっては面白くない。
「食事のためでは? 先程の話では、ドラゴンの生態には食事が大きく関わっているかもと言う事でしたし、こうやって空を飛ぶのを辞めて、山頂に降りてくるのもそのためだと思いますわ。」
 そうであれば、彼らの生態の内、食事についての謎が解けるかもしれない訳か。
「面白い意見だが、この山に、ドラゴンが餌にする特殊な物があると言う話は聞かないね。観察対象の餌が見つかれば、それは助かる事だが、今回は恐らく別の目的で山へと降りたのだろう。」
 こういった発言を聞くと、ドロクモが学者である事をなんとなく受け入れてしまう。出会った時や、山を登る時は、可笑しなオジサンにしか見えなかったのだが。
「でしたらドロクモさんは、いったいどの様な目的でドラゴンが山に降りたのだと考えていますの? 」
 自分の意見を否定する以上、ドロクモが別の考えを持っているのだろうと聞き返すセイリス。
 セイリスの言葉を聞くと、ドロクモは、比較的近くに居るドラゴンを指さしながら答える。
「例えば、あのドラゴン。かなりの巨体だが、どう思う。」
「どう思うと言われても、非常に凶悪そうな体と顔だとしか。」
 それと、図体に似合わず集団行動をしていると言ったところか。
「つまりは体が皆大きいと言う点が重要なのだ。」
 ドラゴンが巨体で何が悪いのだろうか。小さいドラゴンを見たかったとでも言うのか。
「個体差は多少あれでも、極端に大きさの違う個体はいない。と言う事は、あれらは大人か子供、どちらかの集団である訳だな。」
 確かに、木陰から見えるドラゴン達の影は、それほど大きさにバラつきが無い。
「大人の集団って事なら、ここへ来た理由はだいたいわかるんじゃないか? 」
 リュンはそれほど生物に詳しい訳でも無いだろうに、何がわかったと言うのだろう。
「集団が大人か子供だとして、いったい何がわかるんですか? 」
「獣の大人が集まれば、やる事と言えば一つだろ。子作りだ。」
「まあ! 」
 セイリスが頬を赤くする。まあ、子作りと聞いて想像してしまうのは、だいたい恥ずかしい事ばかりなのだから仕方無い。
「うむ。あれが大人の集団であればそうだろうな。それは、私の予想の一つでもある。」
 ううん、そう言われれば、確かにそうかもしれない。空を飛ぶ生き物が、産卵のため、定期的に山へと降りてくる。
「らしいと言えば、らしい姿ですね。」
 ドラゴンと言えども、生き物と言う事が良く分かる話である。
「そうだろう。恐らく私も、こちらの予想が正しいと考えている。もう一つの仮説、つまりは、あれらが子供の集団である場合だが、そちらの方は恐らく違うだろう。」
 その様に言われると、むしろもう一つの仮説とやらが気になってくる。いったいなんなのか。
「一応、予想している展開の一つではあるんでしょ、話してくださいよ。」
 つまりは、山に降りたドラゴン達が子供である場合だ。
「子供が集団で、特定の場所に集まるという行動は、自然界ではあまり無いのだ。普通、産まれた子供は散り散りになって、生存権を広げて行く訳だからね。」
 親元を離れた子供同士が、共同で生活して行くと言うのは、人同士でもあまり無いから、そうなのだろう。
「それでも子供が集まっていると言うのなら、彼らはまだ親離れ出来ていない程度に子供なのだ。つまり彼らの行動は、集団で家に帰ってきた程度の行動であると考えられる。」
 あの厳つい顔でまだまだ子供だとしたら、なかなか面白い話である。確かにそちらの可能性は否定したくもなる。
「あの巨体を見てみろ、どう考えても子供の体では無い。」
 顔も体も子供らしく無い姿である。あれで子供だとしたら、親の顔を見てみたいと言う物だ。
「・・・そういえば、海のドラゴンは、子供でも小島程度の大きさをしていましたわね。」
 突然、セイリスがその様な事を言う。山に居るドラゴンが、子供でも可笑しくは無いと言いたいのだろか。
「不吉な事を言うなよ・・・。」
 何故、セイリスの言葉が不吉なのか。その真意がわからず、その台詞を発したリュンを見る。
「わからないか? あれらが子供だとして、親元に帰ってきたとしたら、ここにその親が居る事になる。」
 それはそうだろう。親が居ないのに、親元に帰る訳が無い。
「そして、あの巨体で子供だとするなら、親はもっとデカいと予想できる。」
 ああ、そうであるなら不吉な事だ。なにせこの山には降りてきたドラゴンよりも危険な存在が居るかもしれないのだから。
「でも、まさか、そんな事はありませんよね。」
 ドロクモの言う通り、それは有り得ない事だとアイムは思いたかった。
 実際、そんな大きさのドラゴンが、この山に存在する場所があるとは思えないし、なにより山に降りたドラゴンの外見が、とてもでは無いが子供に見えないのだ。
「ああ、そうだな。そうだと良いな。」
 だが、リュンもアイムも、勿論他の2人でさえ、不吉な予感を拭えずに居た。いや、不吉な予感と言うよりも、直感と言った方が正しいだろう。
 そして、その直感がどこから来る物かと言えば、それは、先程より揺れ始めた地面からの物に他ならない。


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