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作品名:ランドファーマー旅行記 作者:きーち

第17回   六つ目は星空の下で(1)
 旅に慣れれば余裕が出来る。余裕が出来れば考え事が増える。
 揺れる馬車から、空を見ていたランドファーマーの少年、アイムはまさにその様な心持ちであった。
 アイムが乗っているのは乗り合い馬車であり、馬車には他にも何人か、客らしき人々も乗っていた。アイムもその客の一人である。
 先に立ち寄っていた、オークマ国での仕事を終えたアイムは、今、次の国への道を進んでいるのだ。
 大陸南側で良く見る森林地帯から、荒野に近い平野へと徐々に変わる風景を見て、確かに自分達は旅をしているという実感を覚えながら、アイムは何とは無しに様々な事を考えていた。
 最初は、良くここまで来たものだという考えから始まり、自分も随分この仕事に慣れてきたという感慨に耽る。
 考えてみれば、アイムの出身国であるシラヒ国は大陸の北側であり、今居る場所は南側。つまり大陸を縦断した形になるのである。それはもう慣れると言う物だ。
 アイムの次に考える事は、今までしてきた旅がどの様な物であったかについてだった。
 平凡では無かったはずだ。特にドラゴンに会うというのは、決して一般的な旅人が経験する事では無い。
「そういえば。」
 天上を見るのを辞め、正面を向き、突然言葉を発するアイムを見て、同行している旅仲間達がこちらを向く。
「うん? どうした、間抜けな恰好で考え事をしているな思えば突然。」
 話しかけてくるのは、アイムを旅に誘った張本人である、ツリストのリュンであった。
 それにしても、間抜けな恰好とは失礼な。あれこれ考えるのは、地面を見るより空を見た方がランドファーマーには都合が良いのである。地面を見ていると、彼ら種族だけが見えると言う、地霊があちこちに映り、正直、目障りなのだ。
「いえ、森に棲むドラゴンに貰った角は、どうしたのかなと。」
 今までの旅で、リュンは4種類居る内、2種類のドラゴンに出会っている。しかも、二度目の出会いでは、仕事を依頼され、その報酬としてドラゴンの角を貰ったのであった。
「あー、確か金目の物には成るだろうと渡されたんだっけか。」
 リュンも、その存在を忘れているらしい。まあ、その後に寄った国で、別の仕事をすぐ見つけたせいで、思い出す機会が無かったのだから仕方ない。
「お二人とも、せっかく頂いた物を、忘れるなんて失礼な事ですわよ。」
 旅のもう一人の仲間である小さなエルフのセイリスは、他の二人にそう言いながら、旅行鞄の荷物を漁っている。
「ほら、まだ、荷物の中にしっかりとありますの。」
 鞄の中にある他の荷物を押しのけ、それなりに大きさがある曲線状の尖った骨が出てくる。
「ぶっちゃけ凄く邪魔になっている様に見えるんだけど。」
 旅をしていて役に立つ物でも無いし、さっさと売り払った方が良かったのでは無いだろうか。
「まあ、そうだな。次の国に着いたら、さっさと処分するか。二束三文でも値段が付いたら良い方だろ。」
 ドラゴンからは、きっと高く売れるだろうと言われて渡されたが、見た目がそれほど良くも無いので、そうは思えない。
「二人とも本当に失礼な方ですわね。人との出会いは、価値ある物で、これはその証明ですのよ。」
 人では無くドラゴンだし、別に証明とやらも欲しい訳では無いのだが。
「まあ、ドラゴンの角に関してはとりあえず置いておこう。次に気付いた時に対処したら良い。」
 それは、次の国に着く頃には忘れてそうな話である。
「しかし、なんでまたドラゴンの角なんかを思い出したんだ? 」
 そりゃあ、気になったからである。では、何故気になったかと言うと・・・。
「ちょっと、旅の途中で出会ったドラゴンについて考えてたんですよ。僕らって、これまでの旅で2種類のドラゴンに出会った訳ですよね。」
 それは珍しい事では無いかと思うのだ。
「最初に出会ったドラゴンに関しては、わたくしとアイムさん達との出会いでもありましたわね。」
 なにやら、運命めいた言葉を使っているが、あの時、船の舳先に上らされた事は絶対に忘れる事は無いだろう。
「4種類居る内の2種類に出会っちゃったんですから、もう2種類も会う機会はあるかなと。」
 出会えば危険な場合もあるが、他のドラゴンへの興味という物も、また膨らんで来ているのだ。
「うーん、残り2種類ね。まあ、内1種類はそんなに危険でも無いし、出会う可能性はどこにでもあるが・・・。」
 なんだろう、興味深い話である。
「空に棲むドラゴンの事ですわね。基本的に見たという方々から、危険な事になったなどと言う話は聞いた事がありませんの。」
 ふむ、だった一度会って見たくはあるドラゴンだ。
「でも、空に棲むってどういう事なんですか? ずっと鳥みたいに羽ばたいているとか。」
 ならば、空のドラゴンは大きな鳥の様な姿なのだろうか。
「俺も詳しくは知らないが、アイム、流星は見たことがあるか? 」
「流れ星ですか? そりゃあ何度か。願い事が叶った事は無いですけど。」
 それにしても、流れ星に三度願い事をすれば叶うなどと言い出した奴は、どんなに嫌らしい奴なのだろう。
「その流れ星の内、幾つかは空のドラゴンらしいって話だ。遠くから見ると、ほとんど流星と見分けが付かないんだと。」
 ほう、という事になると、実は空のドラゴンとは既に出会っている可能性もある訳だ。
「君たちはドラゴンに興味がお有りかね? 」
「うわ! 」
 アイム達の会話に、突然、ずいっと顔を出しながら小太りの男が入って来た。恐らく、乗り合い馬車に乗っていた他の客だろうが、心臓に悪い事はやめて欲しい。
「おおっと、驚かせてしまったかな? 私は人間種族のドロクモと言う者でね。」
 小太りの男は礼儀正しく、腰を曲げて挨拶をするが、その丸めの体が原因でコミカルに映るのは何故だろうか。
「ドロクモさんですか? ええっと・・・。いったい何の御用で? 」
 違う旅人の話に、突然入ってくるなど、普通はしない事である。どの様な目的で話し掛けて来たのだろう。
「ええ、私は生物の調査をしながら旅をしていてね。特にドラゴンについての調査が主体だから、君たちの会話に興味を持った訳だよ。」
 ズボンから突き出た腹をどうだと言わんばかりに揺らしながら、ドロクモが自分について話して来るが、何が凄いのか分からない。
「人間種族ってのは、そんな事を趣味にして居るのか? 」
 リュンが飽きれた顔でドロクモを見る。即物的な彼にしてみれば、危険が有りそうなドラゴンの調査を行うというのは、価値の無い物に映るのだろう。
「趣味ではあるが、職業でもある。調査をする上で金銭を得ている身でね。所謂、学者と言う奴だ。であるから、多少危険な調査であろうとも、やる意欲は十分あるのだ。」
 まあ、趣味と実益を兼ねていると言うなら、納得も出来る話だ。アイム自身だって、似た様な立場ではある。
「でも、ドラゴン調査で金銭を得る事が出来るというのは、どういう事ですの? 」
 セイリスも、ドロクモに興味を持った様だ。だが、食いつく部分が実利的な方面であるのは何故だろう。
「そういった事に対して興味を持っている連中と言うのを考えてみたまえ。大概が金持ちだ。そんな者達をスポンサーにしている学者と言うのは多いよ。かく言う私も、とある貴族の後ろ盾があって、この仕事が出来ている。」
 確かに純粋な調査や、生物に関する興味などから学者を雇う者と言うのは居るかもしれない。
 しかも、その様な人種は金銭的に余裕のある事が常であるし。
「でしたら、ドラゴンの角にも興味があるのかしら。他の二人は、さっさと売ってしまおうと連れない事を言いますの。」
 脇に置いていたドラゴンの角を、再び持ち上げるセイリス。そんな姿を見て、ドロクモは目を輝かせ始めた。
「ほう、これは・・・。本物なのですかな? 角のあるドラゴンと言えば、森に棲むドラゴンが思い当りますが。」
 ドロクモはセイリスの手にある角を、凝視し続けながら聞いてくる。
「え、ええ。証明しろと言われれば難しいですけれど、間違い無く、森に棲むドラゴンですのよ。」
 ドロクモの様子に、若干怯えながらも、セイリスは話を続けている。まあ、その上半身を、ドロクモから離そうとしているのは仕方の無い事である。
「ほほう。なるほど、なるほど。森に棲むドラゴンの調査には、ドワーフの協力が必要不可欠なのだが、彼らは他種族に排他的であるから、実際、難しいらしいのだよ。だから、これが、森のドラゴンの角だとすると、大変珍しい。宜しければ、譲る気という物はありますかな? 」
 そこまで、大切な物という訳でも無いので、譲ってくれと言われれば、交渉次第で譲っても良いのだが、なんとなく、この学者の雰囲気に押され気味になってしまう。
「無償でってのは無理だが、まあ、対価を払う気があるのなら譲っても良いぞ。」
 ドロクモの勢いを止めたのは、リュンであった。
「対価か・・・。まあ、これくらいならすぐにだせるが。駄目かね? 」
 ズボンのポケットに手をやり、金銭を幾ばくか取り出すドロクモ。出した額は子供の駄賃程度の物であった。確かにこれならすぐだせるだろうが。
「あんまりと言えば、あんまりな対価じゃありません? いくらなんでも、その額で取引って有り得ませんよ。」
 一応、この角だって自分達の仕事の報酬なのだから。
「よし、売った! 」
「はい!? 」
 そのあんまりな値段に応じてしまうリュン。いったい、何を考えているのか。
「実際、見た目はそこらの石ころと違いが無いんだ。それくらいでも売れた方がマシだろうに。何より荷物になる。」
 まあ、それもそうだが、こうもあっさり扱われるのは少し抵抗がある。
「私としては嬉しい限りだがね。貴重な標本があっさりと手に入るのだから。」
 うーん。あの角が学者に扱われるというのは、まあ良い使われ方なのかもしれないが・・・。
「まあ、貴重とは言っても、現地に行けばあっさり手に入りかねない物ですけれども。」
 あのドラゴンなら、親しくなった相手がくれと言えば、差し出す事になるだろうし。
「ふむ? 君たちはこの角をドラゴンの居る土地で、直接手に入れたのかね。」
 しまった。実は森に棲むドラゴンが存外にフレンドリーで、直接会えば、角どころか、自身の調査さえ、快く許してくれるなどと知れれば、角の価値が、子供の駄賃以下にまでなってしまう。
「いや、ドワーフが排他的って言うのは、実は噂程度で、調査するなら、丁度良い宿がドワーフの森にあるんですよ。だから、ドラゴン調査も、し易い状況なんじゃないかなって。」
 とりあえず、ドワーフについての話で場を濁して置く事にする。ドワーフ自身から宣伝して欲しいというお願いもされて居るので、こういう話に使っても別に構わないだろう。
「ほう、そうなのかね? ならば、言って見る価値はあるかな。だが、今は別の調査をしているからね。また別の機会になりそうだが・・・。」
 ふむふむと考え込むドロクモを見て、金を返せと言われない事を祈るアイム。横見ると、リュンが、セイリスから角を受け取り、ドロクモから代価を受け取ろうとしていた。
 なんとも、商売熱心な事だ。
「そういえば、調査と言われましたけど、やはりドラゴンの調査をするつもりなんですの? 」
 その事に関しては、少し興味がある。なんだかんだ言っても、ドラゴンに憧れを持っているアイムであった。
「ああ、その通りだよ。実を言うと、君たちに話しかけたのもそのためでね。」
 うん? どういう事だろうか。
「君たち、ドラゴンに興味があるのなら、私の仕事を手伝ってみないか。」
 ドロクモはウインクをしながら話すが、見るからに年配で、尚且つ男にその様な事をされても、心はときめかない。
「仕事の依頼って事か? それなら、角と違って、それ相応の報酬を要求するぞ。まさか、さっきの駄賃程度の報酬じゃあ無いだろうな。」
 さすがは仕事の交渉役である。依頼に関しては厳しい態度だ。金銭に関する欲が深いとも言う。
「学術的興味を満たせると言うのは、十分な報酬とは思えないのかね? まあ、アルバイト代くらいなら出せる余裕はあるが。」
「なら、無理だな。これでも旅をしながらの商売で食ってるんでね。しっかりとした物を貰えないなら、こっちが困る。」
 リュンの言うこともわからなくは無い。
「でも、ちょっと、仕事内容だけでも聞いてみません? ほら、なんてったってドラゴン関係の仕事ですし。」
 理由になっていない事を言うアイムであるが、実は凄く興味があり、もう少し話を聞きたいのであった。
「アイムさんは、ドラゴンにそんなに関心がありましたの? 」
 仲間の様子に小首を傾げるセイリス
「いやあ、旅で出会う内にちょっと興味が湧いちゃってさ。」
 自分達はドラゴンに出会った事があるが、詳しい事はあまり知らないのだ。それを知る事が出来る機会があるのなら、関わってみたいというのが本音である。
「もし、仕事内容に不安があるのなら、心配はいらんぞ。やって貰う事は雑用仕事に近い。」
 だとするなら、アルバイト代程度の報酬でも元は取れるのでは無いだろうか。アイムは、事の方針を決めるであろう、リュンを見た。
「あー、セイリス、君はどう思う? 今のところ、仕事を受けるか受けないかで半々なんだが。」
 結局は、多数決で決めてしまった方が、手っ取り早いと判断したらしい。まあ、アイム自身も、そこまで積極的に仕事を受けたいと言われれば、そうでも無いので、これで決着するならそれでも良かった。
「金銭面に関しては、前の仕事の報酬で余裕がありますわ。だから、今回の仕事で報酬を気にし過ぎる必要は、そこまで有りませんの。でしたら、興味を満たす程度の報酬でも構わないと考えます。」
 と言う事は、彼女は今回の仕事を受ける事に賛成と言う事か。
「それに、わたくし自身、ドラゴンについて知る機会があれば、知りたいですし。」
「それって、セイリス自身として? 純潔教として? 」
 彼女の場合、裏に宗教団体が着いており、その組織の意向によって、方針を決める事がある。
「どちらもですわ。わたくしとしては、面白そうな仕事だと思いますし、純潔教としては、様々な物事に大きな影響を与えるドラゴンを知るというのは良い事だと思いますの。」
 仕事と趣味が両立出来る仕事だから、受けたいと言う事か。
「という事は、賛成2と反対1で私の仕事を手伝ってくれるのだね。いや、これは助かった。」
 膨れた腹を揺らして笑うドロクモ。まあ、部下やら配下やらが居る雰囲気の人物では無いので、大よその仕事は一人でやってきたのだろう。誰かが手伝ってくれるというのは嬉しいらしい。
「ま、そういう訳だ。個人的には、まだ反対だが、俺一人で仕事をしている訳じゃ無いしな。だが、一応、詳しい仕事内容くらい確認させてくれよ。」
 それは、アイムも知りたかった。ドラゴンについて知る事が出来ると言っても、それがどの様な物かによって、意気込みも変わってくるだろう。
「ふむ。その通りだが・・・。まあ、この乗り合い馬車の中では何だ。次の町で一旦止まる予定だから、そこでしよう。そもそも、その町を拠点に調査をする予定でもあったのでね。」
 ドロクモは馬車から、身を乗り出し、馬車の進行方向を見る。そこには、どこまでも続きそうな道だけが続あったが、彼は次の目的地を見ているのだろう。

 馬車が止まった場所は、ウエストモルタルと呼ばれる町だ。一応、オークマ国に属しているが、国境付近の町として、旅の拠点の様な位置づけであった。
 宿場町としてはそこそこ栄えている様で、これから旅に出る者と国へと帰る者とが共に行き交い、賑わっている。
「まあ、ドラゴン調査の拠点にするには丁度良い場所なんだろうよ。近くにドラゴンが居ればの話だがな。」
 そんな物が近くに居ては、宿場として発達するはずも無いだろうに。
 宿場町を歩きながら、リュンは不信感を隠そうともせず、ドロクモと会話をしている。
「おやおや、これだから素人は困る。しっかりと、この町の近くではドラゴンが発見されているのだよ。」
 だとするなら、それは危険な事では無いだろうか。ドラゴンとは人の手に余る物の象徴みたいな存在なのである。
「まあ、一部は実際に会えば、そんな事も無いんだけどさ。」
 森に棲むドラゴンは、見た目こそ恐ろしいが、別に脅威になる存在などでは無かった。
「うむ、その通り。いかにドラゴンと言えども、生物は生物。しっかりとこの地に生きている存在なのだ。良くわかっているじゃないかアイム君。」
 随分と親しげに話して来る様になったものだ。つい最近会ったばかりだと言うのに。
「だとするなら、これから調べるドラゴンも、それほど危険では無いと言う事ですの? 」
 セイリスの意見は、アイムも聞きたかった事だ。つい最近、ちょっと命に係わりそうな仕事をしてきたばかりなので、今回は平穏に行きたい。
「うむ。まったくわからん。まあ、多分、危険が無いと言えば無いのだが、もしかしたら、万が一の危険があると予想出来なくも無い。」
「どっちだよ。」
 ジト目になってドロクモを見るのは、リュンだけで無く、他の二人も同様である。
「それが分かれば、調査するなどと言えんだろう。相手がどの様な存在か、知るために調査と言う物は行われるのだよ。」
 さっき、ドラゴンはこの地に生きる存在だとか、良く知っている風な事を言ったばかりなのに、どういう事だ。
「いい加減、仕事内容を教えてくださいよ。こっちだって、それを聞いてないから不安になるんですから。」
 町に着いてからも、ドロクモは仕事内容に関して、はぐらかすのみであった。
「うーむ。私自身、そこまで詳しく話せる立場で無いと言うか。この町で、それを調べる事から、調査は始まると言えば良いのか。」
 まったくもって理解できない内容だ。本当に自分達を雇う気があるのだろうか。
「つまり、あんたも良く分かってないって事じゃないか。」
 リュンはドロクモの態度に、心底飽きれた様子であった。
「そう言われれば、そうとしか言えんが・・・。おお、あそこが丁度良い。どうか、最初から説明させてくれんかね。それが一番手っ取り早いのだ。」
 ドロクモは、歩く先で見つけた町の広場を指さす。ある程度開けた場所であるが、説明するのに丁度良いとはどういう事だろう。
「だから最初から説明して欲しいんだが・・・。」
 とにかく、仕事内容を聞きたいこちらとしては、何も話さず、仕事を請け負うより、どの様な形であれ、説明を要求したい。
「ふむふむ。ならばじっくり話そうでは無いか。ふう。」
 ドロクモは広場に設置されている石のベンチに座り、一息吐く。もしかして、これが丁度良い場所と言った理由なのか。
「君たちは流星群というのは知っているかね。」
 人差し指をピンと立て、空を指さすドロクモ。
「確か、空に流れ星が多く見られる現象ですわね。」
 それくらいなら、アイムも知っている。実際に何度か見たこともあるのだ。
「その通り。これは知り合いの天文学者に聞いた話だが、流星群とは、星々の動きを見れば、ある程度、起こる時期と場所を予測出来る現象らしい。」
 それは初耳である。星の動きを予測できるとは学者と言うのも侮れない。
「という事は、その流星群の中から、ドラゴンを探すって事ですか? 流星と言えば、空に棲むドラゴンだ。」
 だとすれば、今度は三種類目のドラゴンと出会う事になるかもしれない。
「しかし、いくら流星が多く見られる現象と言っても、実際にこの目で見る事が出来るとは限らないだろう? 」
 確かに。空のドラゴンが流星に見えると言っても、流星がすべてドラゴンな訳では無いのだから。
「ふふふ。だが今回は違うのだよ。流星群の中からドラゴンを探す事には違い無いがね。」
「言っている事がさっぱり分からないんですが。」
 まあ、それも今に始まった事では無い。
「つまりだね、先程、流星群が起こる時期と場所は、天文学に精通していれば予測出来ると言ったが、今回、ドラゴンを探す流星群は、その例外で、天文学上起こり得ない流星群だと言う事だ。」
 そのつまりを理解出来ないのは、アイムの頭が悪いからだろうか。それとも、ドロクモの説明が原因か。
「普通の流星群が天文学に関係して起こる物なのでしたら、そうでは無い流星源は、普通の流星では無いという事かしら。」
 一方でセイリスは理解している様子である。もしかしたら、自分の頭の方が悪いのかもしれないと、焦るアイム。
「悪いがもうちょっとばかり、分かりやすく話してくれないか? 」
 良かった。話を理解出来ていないのはリュンも同様であった。
「予測出来ない流星群は、ドラゴンが原因で起こっているという事ですの。」
 ああ、要するに今回調べる流星群は普通じゃ無いから、ドラゴンを発見出来る可能性が高いと言う事か。
「このウエストモルタルは、多くの流星が、定期的に降る場所としても知られていてね。それ目当ての観光客も少なくは無い。だが、知り合いの天文学者曰く、その流星群を見る事が出来る頻度は、普通では無いくらい明らかに多いと言う事らしい。」
 つまり、この町で見られる流星群の正体はドラゴンであるかもしれない訳だ。
「だったら、別に僕たちに手伝いをして貰う必要は無いんじゃないですか? ただの観光客でも見れる現象なんでしょ? 」
 むしろ手伝いに駄賃が必要な以上、出費が増える。
「だれが、この町で見ると言ったかね。見る場所はここでは無い。もっと近くから見るのだよ。そうすれば、さらに詳しくドラゴンを観察出来る。」
 ドロクモは、まるで出来の悪い教え子に授業をする様に話し続ける。もっとも、アイム自身は頭の固い教師に説教をされている気分なのだが。
「近くって、ドラゴンは空に棲んでるんですよ。そりゃあ、空に浮かぶ月を見てれば手の届く距離に有りそうだなって思う時はありますけど、地べたを這いずり回ったって、お月様には近づけ無いでしょう? ドラゴンだって一緒ですよ。」
 まさか長い梯子で、星を手に取ろうなどと考えている訳でもあるまい。
「ふう、やれやれ、月とドラゴンを混同しないで貰いたいものだ。月はそれこそ、空の彼方に有るが、ドラゴンは確かに、我々と同じ世界で生きているのだよ。それに我々だって地面を歩きながら、空に近づく方法が存在する。」
 自信満々に胸を張るドロクモであるが、その自信がアイム達に感染するのかと言えば、そうでも無い。
「で、その方法って? 」
 結局は、その方法が自分達の仕事にも関係して来るのだろう。
「“山”を登るのだ。町の近くには、登山のし甲斐のある高い山があってね、例え歩いて空に向かえ無いとしても、山に登れば空に近づけるだろう。」
 その意見は、長い梯子で星を取る事の延長線上にある考えでは無いかと考えるアイムであった。


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