大陸の南端、そこは大陸から西側と東側それぞれに半島状の形になっている。まるで二本の牙の様に大陸から伸びるその土地は、それぞれ別の国によって治められ、西側の国はサールマ国と呼ばれていた。 今回、そのサールマ国を目的地とするアイム達は、旅の難所であるドワーフの森を抜け、サールマ国まであと一歩という場所まで来ていた。 「サールマ国って、土地の形状を聞くに、ヒゼル国みたいな海洋国家なんですかね。」 ランドファーマーの少年、アイムはこれから向かう国に思いを馳せる。これから向かう国について想像するのは、楽しみを増やす事に繋がるのだ。 「海洋国家なのは隣のオークマ国だな。サールマはウッドエルフの国家だから、海洋業はそんなに発展しなかったらしい。」 旅に優れた能力を持つツリストのリュンは、この旅においてガイド役にもなっていた。 「ふーん。じゃあ、ドワーフの森みたいな森林地帯が多い国なんですかね。」 エルフはその土地に驚異的な速度で対応できる種族であり、エルフの種族によって、その土地がどの様な場所なのかが分かるのである。そして、ウッドエルフの国という事は木々が多いはずであった。 「昔はそうだったらしいですわ。でも開拓が進む中で、多くの森林が無くなってしまいましたの。今では半島近くにある大きな島の上にしか残っていないそうです。」 そうやって解説する彼女、セイリスもエルフであるが、特に種族が決まっていない平均的なエルフである。アースエルフとでも呼べば良いのだろうが、彼女等は別段自分達を他と区分けしていないので、ただ自分達の事をエルフと名乗っていた。 「そうなんだ。それじゃあ、ウッドエルフって言うのも形無しだね。まあ僕としては、また森の中を歩く必要も無さそうで良かったけど。」 森林風景はこれまで歩いてきたドワーフの森だけで十分に満足している。旅をする以上、もっと様々な風景を見たいと言うのは贅沢な事だろうか。 「それよりも仕事の心配をするべきだろう。今回は仕事がすんなりと見つかる保障は無いんだぞ。」 そう言えば、事前の準備も国内へのコネも無い状態で、他国に向かうのはこれが初めてである。 「わたくしとしては、純血教の教えを広める事が出来れば、それで宜しいのですけど。」 セイリスの場合は、宗教的後ろ盾があるのだからそれで良いのだろうが。 「俺達は雇われ者だ、なんとしても結果を出さなければならない。」 結果の出せない商人なんて、遊び人と何が違うと言うのだろう。 「まあ、それも、サールマ国がどうなってるかによりますけどね。」 何をするのにも、自分で観察する事から始めるのであり、この目で国内の状況を見てからでないと、どんな考えも予想に過ぎないのだった。
サールマ国に着くと、さっそく、入国の際にありがちな荷物検査が待っていた。検査をする係員はエルフとしての特徴である尖った耳と、少し長い印象のある腕が目に付いた。 「あの人達が、ウッドエルフなんですか?」 腕の長さは、ウッドエルフとして、森林の中で暮らすのに役立つのかもしれない。 「多分な。俺もエルフの種族差に関しては、そんなに詳しくないんだが・・・。」 自信なさげに頷くリュンを見て、そういった知識に関しては自分と大差無いのだと感じる。 「間違い無くウッドエルフとしての特徴ですわ。髪もどこか緑がかった色をしていますでしょ。あれも保護色としての色ですわね。」 同種のエルフである、セイリスが言うのであれば間違い無いだろう。やはり、ここはウッドエルフの国なのだ。 「それでも・・・。少し、特徴が薄いというか、別の場所で見たウッドエルフの方が、もっと見ただけで分かり易い色合いしていたと思うのですが。」 この国のウッドエルフは、他のウッドエルフよりらしくないと言う事か。 「開拓で、森林も無くなってるんでしょ?その影響じゃない?」 今の所、影響がそれしか考えられない訳である。 「そうですわね。でも、それにしては急な様な・・・。」 セイリスは悩んだ表情をしたと思うと、考え込み始めた。彼女なりに、何か思うところがあるのかもしれない。 「それにしても、入国審査って相変わらず時間が掛かる物なんですね。」 サールマ国に来てから、随分と待たされている様な気がする。 「また、荷物に鍬なんて入れてるんじゃないだろうな。」 こちらを睨んでくるリュンであるが、彼も変わらず、こちらの事を理解していないと思われる。 鍬を怪しまれる時間を考慮しても、時間が掛かっているから、聞いているのだ。 「もしかしたら、国内で何かあったのかもしれませんわね。」 セイリスが突然、物騒な事を言い出した。 「何でそう思うんだ?」 「いえ、ただの予感ですわ・・・。そうでなければ良いのですが。」 不吉な事を言うセイリスを見て、なんだかこちらも不安になってくる。そういう事は思っても言わないでくれると助かるのだが。 「どっちにした所で、このまま帰る訳も無いのだから、心配したって仕方の無い事だろう。まあ、一応、注意して置くが、本当に、君の考えは根拠の無い予感なんだな?」 根拠なんて物があれば、それは予感では無く、予想である。当然、後者の方が当たる確率が高い。 「ええ、もちろんですわ。きっとわたくしの思い過ごしだと思われますの。」 健気にそう話すセイリスであるが、その後、サールマ国の入国審査官が来て、国内では怪しい事を一切しない様にと、必要以上に注意してくる姿を見ると、なんだかセイリスの予感が当たっていそうに感じてしまった。
サールマ国内の様子と言えば、どこか活気が無くなっている様に見えた。道を歩くウッドエルフ達は、多くが肩を落とし、こちらを見ると、一瞬、怯えた表情をするのだ。 「なんなんでしょうね、これ。歓迎されて無いというより、警戒されてるというか。それ以前に町全体に元気が無いというか。」 これまで旅してきた国が、皆、活気に溢れているか、何がした前向きだったのに対して、こういう雰囲気は初めてである。 「国風と言えばそうなんだろうが。いや、でも、どうも違う気がするな。」 国民が暗い国風なんて、どんな状況だろうか。 「きっと、何か理由があるはずですわ。これから、この国で仕事をする予定なんですもの、知って置く必要がありますわね。」 確かにその通りだが、展開が強引な気がする。彼女は何か焦っているのだろうか。それとも、同種のエルフに対して、何か思う所があるのか。 「まあ、情報収集も大事だが、それ以上に宿を探すべきだ。拠点が無ければ、仕事を探すのも、国について知るのも出来やしないだろう。」 リュンは、セイリスの焦りを感じ取ってか、それを抑える様に、まずすべき事を提案する。 「宿ですか。そうですね、実は、入国審査に時間が掛かったから、ちょっと疲れてるんですよね。一度、どこか探して休みましょう。」 リュンの提案に乗る形で話を進める。セイリスの件は気になるが、それも、一度、落ち着いてからの方が良いだろう。 「ああ、でも、そうですわね。わたくしがどうしようと、仕方の無い事かもしれませんし。」 やはり、何かを悩んでいる様子のセイリスに理由を聞きたくなるが、それに関しても、宿を見つけてからでも遅くは無い。 「なら、決まりだな。二部屋は取るんだし、安上がりな宿があれば良いんだが。」 男女の混じった旅人は、そういった事に気を使う必要がある。野宿であれば、むしろ、あまり気を使う必要が無いのに、宿となれば、別々になるのはどうしてだろうかと思う部分もあるが、まあ、仕様が無い事であった。
結局、町に入ってすぐ近くにあった宿に泊まる事になる。探すといっても、宿程度でそこまで時間を掛けるのも何だし、町の入口の方が、旅人向けの宿が多くあるからだ。 一応、リュンの期待していた通り、安値の部屋を借りる事が出来たが、その内装も、値段相応である。 「結構、掃除して無い部分も多いみたいですね。まあ、ベッドや机なんかは、まだマシだから良いのかな。」 借りた部屋に行き、内装を見渡す。宿自体は木材を主な素材として作られたロッジ風である。森が少ないとは言え、ウッドエルフの国らしい宿と言えるだろう。 だが、あまり手入れはされていない様で、目の届かない場所に埃が溜まっていたり、歩くたびに床がギシギシと鳴る。 「というか、教団から旅費は貰ってるはずですよね。なんで、わざわざ安い宿なんか。」 「借りを作りたく無いんだ。旅費は経費であって報酬じゃあ無いからな。使えば使う程、教団に金を使わせる事になる。」 恩は時に行動を縛る物になる。それが組織からの物であれば尚更だ。だから、教団からの金銭に関しては、あまり使いたく無いのだろうが。 「だったらセイリスは、もうちょっと良い宿で休ませてあげれば良いじゃないですか。」 彼女は組織に雇われているのでは無く、組織の人間であり、恩を受けたところで現状は変わらないだろう。 「まあ、そうなんだが、理由を話して、自分だけ上等な宿を借りる様な娘に見えるか?」 「見えませんね。」 絶対に、自分も安宿の方に泊まると言うに決まってる。 「セイリスと言えば、彼女に関してですけど、なんだか様子がおかしく無かったですか?」 この国に来てから、何かに悩んでいる様にも見える。 「うーん、そうだな。同じエルフの国だし、思うところがあるんじゃないか?」 「そんな事言ったら、大陸中のだいたいの国で、彼女はあんな調子だって事ですか? 有り得ないですよ。」 大陸で一番繁栄しているのがエルフなのだから、殆どの国がエルフの国と言う事になってしまう。 「しかし、悩みなんてのは本人にしかわからん物だしなあ。打ち明けてくれるんなら兎も角、本人が自分で抱えている内は聞いても意味が無い。」 「そんな事わかってますよ。けど、あからさまに、考え事をしていますって態度は、こっちの調子までおかしくなりそうというか。」 悩んでいる本人より、その周りの方が気を揉むというのはよくある話なのだ。 「だな。それじゃあ、仕事を探すついでに、そこらへんを探って見るか。国内の情勢がわかれば、彼女が何に気を取られているのか、わかるかもしれんぞ。」 つまり、やることと言ったら、いつもの様に情報収集と言う事か。 「結局、出来る事なんてそうそう無いって事なんですかね。」 「当たり前だ。」 何を今更と言った目で、こちらを見てくるリュンであった。
情報を集めていれば、自然とこの国の事が知れてくる。別に誰もが、国の事を話すのでは無く、その仕草や雰囲気だけ見ても、国独自の物があるのだ。つまり、ただ会話しているだけでも、国の情報と言うのは自然と集まってくるのである。 基本的に、話を聞くのは商店の店員だ。こちらも仕事を探しているのだから、そういった商売と関係がありそうな人物から話を聞いていく。 特に利用するのは、食料品店だ。こちらが、農業に関係する仕事を探しているのに対して、向こうもそれに縁深い。そして、情報の聞き易さも重要だ。こちらが、旅用の食料を買うだけで、聞き込みのし易さが大きく違ってくる。店員と言うのは、客に対する態度を軟化させる物だ。 「そこで分かったのは、この国の人たちは、森林地帯の増加を目指しているって事なんですよね。」 宿で一夜を過ごし、その後の朝から始めた情報収集で集めた情報を、リュンと街路を歩きながら話し合う。ちなみにセイリスは、別口で国内の状況を知りたいと、一旦、完全に離れて行動している。 「こっちでは、国内産業をもっと発展させるべきだという声が、国内で大きくなっているらしい話を良く聞いたな。実際、もっと国に対して誇りを持つべきだとか、自分達の立場をもっと明確にとか、独立という観点の話を聞きもしないのに、話す奴が多かった。」 「これって何か関係があるんですかね。」 手当たり次第、聞いてみたが、関係の無い話であるならば、かなりの無駄骨になる。 「国内の情勢に限って言えば、関係の無い話なんて無いだろうさ。まとめれば、この国は独自産業を発展させたいという考えの元、森林地帯の増加、いや、元々はここだって森林地帯だったんだから、復興か。その復興を目指しているって事になる。」 森の復興。一度、開拓した土地を、もう一度、森に再生させようと言うのは、なんだか、綺麗な言葉に聞こえるが、便利な土地を不便な土地にしようとしているのだから、何某かの思惑を感じずには居られない。 「木材の輸出を計っているとか。」 「うーん。確かにサールマ国産の木材は、品質が良いとは聞いたことがあるが。結局は、森林地帯のを開拓する上で出る、木材を商売に使っていただけらしいからなあ。木材を売るために、土地をまた、森林地帯に戻すのなんて、本末転倒じゃないか?」 「だから、その本末転倒が起ったんじゃないですか?この国では、森林地帯の開拓が、かなり進んでいるんですよね。進み過ぎて、商売用の木材が産出できなくなったとか。」 だとすれば、これは自分達の仕事に関わってくる事かもしれない。林業と農業の違いはあれど、植物を育てる事には違いが無い。もしかしたら、こちらの技能が役に立つ仕事というものも、見つかる可能性が高いだろう。 「まあ何にしても、今、この国では森林に関する事柄が、かなり重要な物らしいな。」 「でも、それがセイリスの悩みと、どう関係してくるんでしょうね。」 情報を集めれば、分かってくるかもと思えたが、どうにも関係性が思いつかない。 「あ?あー、そうか、そういった事も考慮して情報を集めてたんだっけか。」 「もしかして忘れていたんですか?」 国内情報を収集していれば、彼女の悩みが判明するかもしれないと言ったのは、そっちだろうに。 「いやあ、ちょっと頭の中から抜けていたと言うか。そうだ、実は彼女は、森林を守る会という組織に入会していて、森林開拓が進む、この国内情勢に危機感を覚えている。とかはどうだ?」 「どうだと言われても。」 その想像に何の意味があるのか。 「まあ、実際、これだけ調べてみて分からないなら、もう気にしない方が良いんじゃないかね。そもそもの本分は仕事探しなんだから、そちらに集中すべきだと俺は思うぞ。」 そう言われれば、肯定するしか無い。 「でも、仕事って言ったって、当ては無いじゃないですか。」 森林業に関する物があるかもしれないと言ったが、それもまた想像でしかない。また、例え仕事があったとしても、一介の旅人に任してくれる仕事かどうか。 「それこそ、森林を守る会なんてのがあるんじゃないか。」 「都合良く? 本当にそう思ってます?」 「あまり自信は無い。」 リュンは頭を掻きながら、困り顔で答えた。
さて、当てが無くとも、探さなければならないのが仕事と言う物である。しかし、やる事は変わらず情報集めなのだから、進展という物はなかなか無い。であれば、冗談めかして言った森林を守る会といった物が、本当に無いのかについて聞いて回るというのも仕方の無い事である。 ただ一つ誤算があるとすれば、それが本当にあったという事だろう。 「探せばあるもんなんですね・・・。」 アイムは目の前にでかでかと看板に書かれた「森林を守り増やそう!国のため。」という文字を見る。看板は建物の入り口の右横に立て掛けられており、左側には「森林を守る会」会館と書かれた表札がある。 「名前まで一緒なんだものなあ。人が考える事なんて、結局変わらないのかもしれない。」 うんうんと肯くリュンであるが、自分の想像が当たって嬉しいのか、どこか満足気である。 「まあ、それはそれとして、どうやって僕達を売り込むんですか? ヒゼル国みたいに旅人用の仕事紹介がある訳でも無いんですよね? 」 「ああ、それほど大きな組織でもなさそうだしなあ。でも、入ってみなけりゃあ、何も始まらないだろ。」 そう言ってリュンは会館の扉を開く。 「あら? どうしてリュンさん達がここへ? 」 確かに入ってみなければ何も始まらない。扉の先に、何故かセイリスが居る事なんて、思いもよらない事だからだ。
森林を守る会にセイリスが居る。それはリュンの予想を裏付ける結果であり、セイリスがこの国の森林開拓に心を痛めているという証明でもあった。 「ちょっと待って下さいまし。わたくし、その様な事は一切ありませんわよ。」 セイリスが弁解する様に慌てて言い返してくる。 「だったら、なんでこんな場所に居るのさ。森林を守る以外に、森林を守る会に居る意味なんて無いでしょ。」 きっと彼女は、この国に来てから、今に至るまで、この国の現状を憂いていたに違い無い。 「だから、違うと言っています。私、ここに来たのは今日が初めてですのよ。」 「そうですね。彼女は森林の心配と言うよりは、私たちウッドエルフの心配をなさってここまで来たのですから。」 反論を続けるセイリスの横に、突然、男が現れる。男は、整えられた髪形と唇の上にしっかりと切り揃えている髭、服も新品同様の皺の無い服装で、見るからに紳士風の出で立ちであった。 「えっと、あなたは?」 突然現れた男に一瞬、戸惑う。その特徴は今まで見てきたウッドエルフの特徴を、さらに強くした様な風貌だったからだ。 髪は深い濃緑色で、腕は体に対して、不自然な程長く感じる。 「申し送れました、私、森林を守る会の会長をしております、ウッドエルフのフェリウスと申します。」 どうしよう、いきなり大物に出会ってしまった。いや、まあ、森林を守る会とやらが、権力を持っていれば、そうなのだが。 「そんな人がいきなり出てくるなんて、もしかしてセイリスのフィアンセとか。」 「わたくし、この方に会ったのも、今日が初めてなのですが。」 「じゃあ、今日から恋が始まったって事!? 」 「どうしてそうなりますの! 」 どうにも、合いの手が漫才みたいになってきた。なんだか、先ほど自己紹介を果たしたフェリウス氏が、生暖かい目線で、こちらを見ている様な気がする。 「この二人については置いておくとして、フェリウスさんと言ったか、さっきの話の続きをして欲しいんだが。確か、セイリスがウッドエルフの心配をしてどうだとか。」 今まで黙っていたリュンが口を出してくる。まあ、不毛な言い争いが止まったのだから良いのかもしれないが。 「その事でしたら、彼女はこの国のウッドエルフが抱えている問題を、同じエルフとして相談に乗りたいと申し出て来られたのです。」 フェリウスというウッドエルフは嬉しそうに、その事を話す。 「それと言うのは、もしかして純潔教として相談に乗ったと言う事なのか?」 リュンはセイリスに向かって聞く。純潔教に関しては敏感になっている彼である。 「はい、私個人で解決出来る物では無いと思いますので、そういう事になると思いますわ。」 つまり、セイリスはさっそくこの国で仕事を見つけたらしい。 「出来れば詳しい話を聞かせて貰えないだろうか。我々も、そこに居るセイリスと同様、純潔教と無関係では無いし、仕事の内容上、役立てる知識があるかもしれない。」 せっかくの商売の機会を逃す訳には行かぬと、どうやらリュンは自分達も売り込むつもりらしい。 「仕事の内容上ですか・・・。セイリスさんには話をするつもりでしたが、あなた方に関しては、その商売の内容というのを教えて頂かなければ、容易に教える事が出来ないのですが。何分、デリケートな問題でして。」 こちらの提案に関して、すぐに同意を貰えなかったが、それでも話を聞いて貰える状況になった。あと、リュンの交渉次第である。 「当然、私たちの仕事については話します。その仕事の内容を聞いてから、話をするかどうか決めてくださっても結構ですよ。」 だがまあ、話の上手いリュンの事であるから、成功する可能性は高いと思われる。
結局、予想通り、セイリス以外の自分達にも、この国の問題とやらを話してくれる事になった。 リュンが、この会の性質上、問題とは森林に関する事だろうという予想し、こちらの仕事内容を、植物に関して有用な物であると、少々、捻じ曲げて伝えたのが効いたらしい。 「純潔教の方と、植物に関する仕事をなさる方。その様な方々が、この時期に来てくださったのは、大変嬉しい事です。運命めいた物すら感じます。」 フェリウスの話は想像した以上に深刻な物で、まさにウッドエルフ全体に関わる問題であった。 エルフ種族は土地に適応して、その体質を変えていくのは周知の事実であるが、それはつまり、再び環境が戻れば、体質変化も元の状態に戻ってしまうという事である。 他種族から見れば、便利な体質だと考えるかもしれないが、エルフ達にとって、変異した体とは一種の誇りに近い物なのである。その変異が、森林の減少によって元に戻ってしまうのは、この国のウッドエルフ達から見ると、拠り所を失ってしまう事になりかねないのだ。 「そうか、だから、この国のウッドエルフの人達は、見た目が、他のエルフと見分けが付き難いんですね。」 セイリスも、確かこの国のウッドエルフは特徴が薄いと言っていた気がする。 「ええ、私などはまだ、その変化が弱い身ですが、だからこそ、危機感を覚え、この会を作ったのです。」 そう言えば、フェリウスはウッドエルフとしての特徴がしっかりと有る。 「あれ? でも、ちょっとまって下さいよ。サールマ国で森林の開拓が始まったのは結構前の事なんでしょ?なんで、それに対する体質の変化が、今になって問題になるんです?」 それなら、そもそも森の開拓などしなければ良いのだ。 「森林開拓によって、体質が変化して行く事への懸念は当時から既に存在していました。だから、ある場所を除いて森林開拓を進め、定期的に、その場所へと滞在する事で体質を維持し続けるという事を、文化として受け入れていたのですよ。」 「ある場所、もしかしてサールマ国で唯一、森林地帯が残っているという島の事か。」 合点がいった様に、リュンは手を叩いた。 「その通り、シクラ島という名の島で、我々にとっては聖地とすら呼んで良い程、重要な島です。」 自分達種族を確立するための場所であるのだから、そうもなるだろう。 「つまり、その島に問題が発生してしまったということですの。」 セイリスが深刻な顔をしながら続ける。彼女は、同じ体質と似た考えを持つ同種として、ウッドエルフがどの様な状況になっているのかを、薄々感づいていたのだろう。 「島に問題? 森か無くなって行ってるとか。」 それならば、自分達の技能が役に立つかもしれない。 「いえ、事態はもっと俗な状況で・・・。」 頭を抱えるフェリウスを見ると、それが、一朝一夕に解決できる物では無いと感じる。 「実は、隣国オークマが、シクラ島の領有を主張し出したのです。」
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