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作品名:月の花は桜の花よりも素敵だ 作者:月花

第1回   高畑さんのはなし
「いいか、はじめ坊。この町にはな、月のしずく、っつう幻の花が咲いてるんだぞ」
 僕の家の台所でりんごに噛り付きながら、高畑さんは物知り顔でそんな話をした。
「どこに、咲いているの?」
 僕はいつものように問いかけた。
「場所は知らないんだよなぁ」
 しゃり、っとりんごを齧りながら、適当に答えを返した。
(だったら、初めからこんな話切り出すなよ)
 心の中で自分が思いつく限りの悪口をはいたけど、実際に言葉に出しはしない。いちいちそんなことをしていたら、高畑さんと会話することなんて出来ないからだ。
「誰からその話を聞いたの?」
「んぅ〜? 昔うちの婆さんから聞いたんだよ」
「昔ってどれくらい?」
「確か俺が子供のころだったから、40年も前だったな」
 齧り終えたりんごの芯を水切りネットの中に投げ入れて言った。
 そんな昔だったら、なおさら高畑さんの話がもっと信用できなくなった。40年前と言えば、迷信がまだまだ残っていたころだし、しかも迷信ではなくても、40年も前のことであれば、記憶があやふやになってしまっている可能性だってある。
「じゃあ、今あるかわからないじゃん」
「そうだな」
 そう言った高畑さんは何かを考えるように、後ろの窓ガラスの先の針葉樹林が生い茂る山を見ていた。
 いつもだったら、こんな会話はすぐに忘れていたと思う。高畑さんの話はいつも現実味がなくて、適当で、どうでもよさそうに話していたから。
 でも、この時の会話だけは、5年経った今でも鮮明に覚えている。
 この会話をした次の日、高畑さんは消息不明になってしまったからだ。


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