母親ってこういうものなんだな。 父さんには悪いけど、やっぱり違うな。なんか違う。 母さんがあの時、僕を生むと決断しなければ、僕はいなかった。 そしたら、母さんは今も元気で生きているかもしれなかったんだ。 僕は生きている。これからも生きなきゃいけない。 「母さん」 「なぁに?」 「僕を生んでくれてありがとね」 「いいえ、どういたしまして」 そう答えると同時に、母さんは勢いよく立ちあがった、 そして、スーパーの袋を取ると、右手を上げて、 「肉が傷むから帰るわ」 と、あっさり言った。 僕は拍子抜けして、口を開けたまま、母さんを見上げた。 涙がぴたっと止まった。 「じゃあ、がんばんなよっ!」 バシッと僕の肩を叩いた。 痛い・・・。 ガタン。 ものすごい揺れで僕は目を覚ました。 「?」 眠っていたのか。 もしかして、今までの出来事は、全部夢だったのだろうか。 僕は周囲を見た。いつもの電車内の風景だ。 うん、間違いなく夢だろう。 普通に考えてありえない体験だ。 だけど、夢だろうが何だろうが、そんなことはどうでもいい。 僕は母さんに会った。 それだけで十分だ。 アナウンスが流れ、僕がいつも会社へ行く時に降りる駅の名前が告げられた。 さてと、仕事に行くか。
電車が駅で停まる。 僕は立ち上がると、電車を降りて、いつもの会社へ向かった。 気楽に生きていくかな。
完
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