「ほいほい」 山田が窓を閉めて、小走りに電話へ向かう。何故、電話を取るのに窓を閉める必要がある? 私は再び壁に耳を押し当てた。 「はい、山田です」 「はい、その節はどうも」 「ええ、昨日無事に届きました」 「今日には渡せると思います」 山田が電話を切った。 私の背中を一筋の汗が走った。 なんだ、今の会話は。 山田はどこかの研究所と共同でこの壮大なプロジェクトを進めているというのか。 しまった。ならば、ここで山田に張り付いていても何の意味もないのではないだろうか。 山田とどこかの研究所が手を組み、水面下で密かに動いていたとは。一体、アイツのどこにそんなツテがあったんだ。なんという男だ。山田という人間は。どこまで私を突き放そうとするのか。 一度、振り出しに戻って作戦を練りなおさなければいけない。このままでは、山田の報告を元に研究所が検証し、実験を重ね、世に発表してしまう。それだけは、なんとしてでも食い止めなければならない。 しかし、今の時点では研究所がどこにあるのかも分からないし、山田がどこまで試し、報告しているのかも分からない。 一体、どうすればいいのか。 もう、ほんの少しの油断も許されない。 「?」 何やら隣が慌ただしくなってきた。 山田が機敏に動いているようだ。どこかに出掛けるのか。 もしかすると研究所かもしれない。 私は急いでスウェットを脱ぎ捨て、そこら辺にあった服に着替えると、再び息をひそめ、山田の動きを待った。 間もなくして、山田が玄関の扉を開けて外に出る音がした。私も玄関へ行き、覗き窓に張り付き、覗き窓から私の目の前を、山田が通過するのを確認すると、少し間を置いて普通を装い外へ出た。絶対に気付かれてはならない。もし気づかれてしまうと、命を落としかねない。どこから研究所の人間が見ているかも分からない状況だ。私は全人類を敵に回した覚悟で歩きだした。
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