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作品名:パラダイス銀河 作者:えみ

第5回   5
うぐいすの鳴き声が聞こえる。もうそんな季節か。この音色にいつまでも酔いしれていたいが、すまない。私にはやるべきことがある。また来春会おう、うぐいす。私は静かに目を閉じ、甘くささやかな音色を断ち切った。

 昼近くになったが、本日も相変わらず山田の動きはない。
 たまにのそのそと歩き、トイレに行っているようだが、それ以外は際立った動きは感じられず、隣の部屋はしんと静まり返っていた。不気味な奴だ。一体、毎日何をしているんだ。まさか、忍び足で冷蔵庫へ向かい漬物を取り出すと、物音を立てないよう、慎重にコーヒーを淹れて実験を繰り返しているのではないだろうか。もしかしてアイツは私が聞き耳を立てていることに気付いているというのか。まさか、私は何もとちってないはずだ。千里眼でもない限り、私の行動を察することは不可能なはずだ。
 「!?」
 もしかして、向こうも怪しいと思っているのか。物音を全く立てず、動かない私を。確かに私は部屋にいるはずなのに、全く物音がしないと感じているのか。アイツも私がこっそり実験をしていと思い、壁に聞き耳を立てて、私の行動を探っているのではないか。それはまずい。なんとかして、ヤツの気を晴らさないと。私は何も怪しいことはやっていない、いたって普通の生活をしているんだ。
 「ラ〜ラ〜」
 聞こえるか、山田よ。この私の陽気な鼻歌が。そして軽いスキップ、下の住人にも私の幸福度がまる分かりだ。薄い壁だが、私の姿までは透けない。だが、この私の状態が手に取るように分かるだろう。そうだ山田、私はいたって普通だ。怪しくないぞ。安心して、いつもの行動を取るんだ。お前の真の姿を私に見せてみろ。
 しかし、山田の動きは変わらない。相変わらず、物音一つない生活をしてやがる。
 私は三十分置きに歌を歌ったりダンスを踊った。時にはバラード、ロック、最終的には演劇の練習をしたり、ミュージカルにも挑戦してみた。しかし、山田は変わらない。アイツは一体何者なんだ。怪しすぎる。息ぐらいはしてるんだよな。
 
 翌日の朝になって事態は急転した。山田に微かな動きがあったのだ。


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