迷いは全て消えた。足枷は外れた。さぁ、ここからが耐え忍ぶ戦いだ。少しの変化も見逃すな。私は耳を澄ませ、どんなあらゆる物音にも、敏感になろうと細心の注意を払った。アイツのきゅうりを噛む音だって聞こえてきそうだ。もう、優雅にコーヒーだって飲ませないさ。山田と私の長く辛い戦いが幕を上げた。ここからが本当の戦いだ。 私は山田の部屋側の壁に寄り添うようにして、時を刻み始めた。今の私の心はFBIと共にある。この機密裏に行われている戦いは必ずや成功させ、この世の食の幸せを守ってみせる。 食事はしばらく取れないだろう。私は瞬間移動の如く、一瞬で冷蔵庫に飛び、そして中から素早く1.5リットルのミネラルウォーターを取り出すと、瞬時に元の位置へ戻った。 当分はこの水だけで過ごすことになるだろう。持休戦だな。だが持久戦なら自信があった。山田はガリガリのひょろひょろだ。私も肉付きがいい方ではないが、山田に比べると健康体だ。風が吹けば飛んで行きそうな山田に負けるわけがない。栄養補助食品の漬物をハンデとしてくれてやってもいい。でも、今はこんな世の中だ。十万円積んでも漬物はやらんがな。 時計の針が深夜0時を過ぎる頃に、山田の部屋の電気が消えたのを私は窓越しに確認した。だが、油断してはならなかった。灯りが消えたからといってアイツが寝たとは限らない。私は壁に耳を押し当てたまま、夜を明かした。今宵は山田にスペシャルな動きは見られなかった。
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