20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:パラダイス銀河 作者:えみ

第12回   12
十五分ほど歩いたところで住宅街に入り、しばらくして、ある一件の家の前で二人の足取りが
止まった。私も近くの電柱に身を潜める。研究所の人間もどこかしらに身を潜めただろう。
 二人は見つめ合い、別れを惜しみ合っている。うーん、いい感じだ。つい口元に笑みがこぼれてしまう。しばらく沈黙が続いた後、先生がリュックから小さな細長い箱のような物を取り出すと、彼女に差し出した。先生は頭を掻きながら、照れくさそうにしている。彼女は驚き、そっと箱を受け取ると、先生の顔を見上げた。きっと「開けてもいい?」と尋ねたのだろう。先生は頷く。彼女は受け取った箱の包み紙をていねいに外すと、ゆっくり箱を開けて中の物をていねいに取り出した。ネックレスだ。二人の真上にある街灯がネックレスを照らし、キラキラしている。先生、頑張ったじゃないか! 彼女がぴょんと跳ねて後ろを向いた。きっと「つけて」と言ったのだろう。先生は彼女からネックレスを受け取り、留め金を外そうとしているが、なかなかどうして外れない。そこで二人はまた笑い合う。今は何でも楽しい時期なのだな。今なら隕石が降って来ても二人は大爆笑するだろう。彼女が振り返り、先生の手を包むように自分の手を重ね、留め金を外した。それからまた後ろを向くと、先生が彼女の首に優しくネックレスを付けてあげる。嬉しそうにはしゃぐ彼女。二人は本当に幸せそうだ。街灯の明かりは二人にスポットライトを当てている。先生が嬉しいと私も嬉しい。研究所の人間も嬉しい。ここら一帯は今、幸せなオーラに包まれている。私はふいに流れ出た涙を、服の袖で乱暴に拭った。バカヤロー、こんなみっともない顔、先生に見られたら笑われちまうぞ。ハハ。
 二人はしばらく見つめ合い、短い言葉を二、三交わすと別れた。先生は彼女が家に入るまでじっと見守る。しばらくして、二階の部屋に明かりが付いた。窓が開くと誰かが先生に手を振っている。彼女だ。先生も両手を大きく振ってそれに応える。まるで映画のワンシーンのようだ。おいおい、ここはハリウッドか。

しばらく彼女は笑顔で手を振っていたようだが、突然、首を傾げるような仕草を見せ、携帯電話を手に取ると、先生に向けてシャッターを押した。一瞬、クラッシュで目がくらむ。その後、彼女は何事もなかったように、大きく手を振ってみせた。
 先生、幸せになって下さい。私はどこまでも、どこまでも先生について行き、二人をお守りいたします。
 


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 2316