「こんな時に向けだしてきたけど大丈夫だったかな」 「なぁに、もう大体の準備は出来てるし、後俺らがするのったら片づけくらいだろ。3人くらい、いなくても問題ないさ」 心配性のボクに対して、雄也は全く気にすることもなく言葉を返した。 「そんなことより、そろそろ土産屋のかき氷の時期終わっちゃうぜ。これ逃したら来年の秋まで待たなきゃいけないもんな」 神社の片隅でひっそりと営業する土産屋では秋になると夏に残った氷を使い、1か月程限定で200円でかき氷の食べ放題の行っていた。中学生の少ないお小遣いで買える、秋のかき氷は彼ら3人にとって毎年文化祭と同じくらい楽しみなイベントの一つであった。この時期になると学校帰りにほぼ毎日のように立ち寄っていた。 「隆は今日は何杯挑戦するんだ?さすがに明日は文化祭なんだから、昨日みたいに食べ過ぎて腹壊すなよ」 「さすがの俺にだって理性くらいはあるんだぜ。腹が痛くなる前にやめるさ」 「そういって、12杯のブルーハワイを食べてたのは誰かな。あのシロップと同じくらい顔が青くなってたよ」 「おいおい、それはもう終わったことだろ。今日の俺は違うよ」 「ははっ、今度はいちごシロップの顔だな」 引退するまで柔道部に入っていた隆は、その体で試合中では相手を圧倒する存在感と力を持ち合わせ敵無しだった。しかし、普通の生活に戻ればその大きな体格は、彼のおおらかさ・優しさをあらわすかのような柔らかさを醸し出していた。
土産屋に着くと、いつものおばちゃんがせかせかと氷の準備をする姿が目に飛び込んできた。 「おばちゃん、今日もかき氷お願い。子供だからサービスしてよ」 雄也は年上など年齢に関係なくおどけてみせる。 「この値段で、さらにサービスしてたら完全に赤字だよ。それはそうと今日は3人で何杯くらい食うんだい。 「うーん、明日に文化祭があるから2、3杯くらいで大丈夫だよ」 「そうかぁ。まぁ、仕方ない、お前たち毎年来てくれるし今日が今年最後のかき氷だからはサービスして シロップかけ放題にしてあげるさ。好きなだけ食べていきな」 「えっ、今日で最後なの........」 おばちゃんの高らかな声とは裏腹に隆を始め、ボクたち3人は皆素直に彼女の言葉を喜べなかった。
その日、3人は店の前のベンチに座ってひたすらにかき氷をほおばった。いちご、メロン、ブルーハワイ........皆、全ての味を食べつくそうと必死だった。 「ねぇ、なんで俺らって今、こんなに一生懸命かき氷をたべてるのかなぁ」 ふと自分達の状況に気付いたボクは誰に尋ねるともなしにつぶやいた。 「そんなの決まってるじゃん、今年最後のかき氷だぜ。全部の味楽しまなきゃ来年までまた待つんだからに決まってるだろ。..................『来年』か。来年のこの時期って俺らの関係ってどうなってるんだろうな。皆違う高校に行って、新しい友達つくって.......」 いつもはお調子者の雄也が静かに言葉を返した。いや、半分は自分に向けて話していたのかもしれない。 「ねぇ、あんまり話してると氷とけちゃうぜ」 4杯目をおかわりしようと立ち上がった隆が、のんきな声で呼びかけた。おかわりしようとおばちゃんのところに 向かっていく隆の背中はいつも見る大きな背中に変わりなかった。
遠くの空からは、風に乗って学校の賑わいが聞こえていた。
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